想い想われ?



15・梨佳視点




週末に、ウチの会社の創立70周年のパーティがあった。
私は社員としてじゃなく、会社経営の一族として参加するようにパパから言われてて
ちょっとテンション下がり気味。
でも、遅れてフミくんも来てくれるって言ってたからそれまでの我慢かな。

先に会場に向かったパパから仕事で少し遅れて会場に着くと、受付に立つ女性2人が目に入った。

「勝浦さ〜〜ん♪ 久遠さ〜〜ん♪」

働く部署は違うけど、親しくしてる人達だった。
私を社長の娘と知っても変な態度をとらずに、普通の同僚として接してくれる2人。
手を振りながら受付に歩いていく。

「え?」
「ああ!」

ひとりは勝浦さんで、私が会社に入社した時からのお付き合い。
けっこうズバズバモノを言う面白い人で、もうひとりは最近入社した久遠さん。
この人も私を社長の娘としてではなく、ごく普通のOLとして接してくれる。
それになんというか、一緒にいるとなぜか頼ってしまいたくなるというか安心するというか……
ちょっと不思議な感覚にさせてくれる人。
最近特に親しくなって、久遠さんの歓迎会を3人でやったばかりだ。

「お疲れ〜」

いつもと変わらない勝浦さんの声だった。

「ホント、お疲れですぅ……社員として参加したかった」

ソレは本音で、絶対社員で参加した方が疲れないと思う。

「こういう時だけ父ってば、経営一族なんだからって私のこと引っ張り出すんですよね」

流石に人前では “パパ” とは言わない。
だいたい “パパ” も本人のリクエストで “お父さん” とは呼ばせてくれない。

どういう願望なんだか……自分の親ながら歪んだ溺愛されてるのは知ってる。

「梨佳ちゃん可愛いから、社長も自分の娘を自慢したいんじゃない?」
「もう勝手なんだから」

本当に冗談じゃんないです。

「きっといい婿さんでも見つけたいんじゃないの?どんな出会いがあるかわかんないんだし」
「……出会いなんて必要ないですよ……」
「ん?」
「?」

出会いはもうとっくに経験してる。
ただ長い間進展がないだけで……逆に今のほうが、なにか2人の間に壁を作られてる気がしてならない。
ウチの会社に裕平ちゃんが勤め始めてからそんな気がする。
ふみクンは、裕平ちゃんはケジメをつけてるんだって言うけど。

「あ!そろそろ中に入らないと父が煩いんで行きますね。また会社でゆっくりと話しましょうね」
「会社の為にお愛想笑い振り撒いておいで。なにか契約に結びつくかもよ」
「えーー!営業しろってことですか?」
「それもあるけどさ、玉の輿相手見つけるの!それでその友人を紹介して!」

相変わらずノリのいい勝浦さん。
恋人を求めてるんじゃなくて “男の飲み友達” がほしいらしい。

「もーーそういう相手なら、そんなことしなくても私のお友達関係から紹介しますよ」

ちゃんと紳士な相手を厳選させていただきますから。

「え?そう?じゃあ食事だけ楽しんでおいでよ」
「は〜い ♪」

2人にニッコリと笑って、私は会場の中にへと入った。
中ではすでに祝辞もパパの挨拶も終わってて、和やかなムードが漂ってる。
パパを見つけて声をかけると、今までダンディで渋めな社長のイメージがガタ崩れの顔で私を迎える。
そのまま私の自慢話に突入し、そんな展開が何度も繰り返されてやっと解放された。

もうグッタリ。
だからパーティって好きになれないのよね……早くフミくん来ないかしら。
なんて思って会場の入り口に視線を向けると、ある人物が視界に入って動きが止まる。

ちゃんと調べて、顔も確かめた人がそこにいた。
S・Sエンタープライズの社長令嬢の “佐渡カスミ” さんだ。

スラリとした身体に真っ赤なイブニングドレスが似合ってた。
ちょっと派手にも思えるけど、ハッキリとした顔には合ってる気がする。

彼女も控え目に周りを気にしてるようだった。
もしかしてふみクンを捜してるんだろうか。
都合のいいことに、ふみクンはまだ来ていない。
ここはさっそく疑惑の真意を本人に確かめさせてもらおう。

私はクスリと笑って、彼女に向かって歩き出した。


「こんばんは」
「え?」
「お忙しい中お越しくださいましてありがとうございます。
お初にお目にかかります。私、帆稀 啓二の娘の梨佳と申します。以後お見知りおきを」

ニッコリとパパ曰く、天使の微笑みを彼女に向ける。

「こんばんは。お招き頂きありがとうございます。本日はおめでとうございます」

ニッコリと微笑んだ彼女は確かに美人だ。
でも気の強い美人。
だから微笑まれてもなんとなく彼女から発せられる威圧感があって、ちょっと恐いと感じる人もいるかも。

「実は私、以前から佐渡さんとお話してみたいと思ってたんですの」

ああ…お嬢様言葉ってけっこう疲れるのよね。
でも今は、そのほうがいい気がして続けることにする。

「私と……ですか?」
「はい。ただちょっと込み入ったお話になるので、あちらまで宜しいかしら」

そう言って会場の入り口の扉に視線を向ける。

「え?……込み入った話ですの?」

ちょっと警戒されたみたいだけど、話し続ける。

「はい。それにとっても大事なお話なんですのよ。佐渡さんにとっても」
「私に……も?」
「はい。ですから、お時間少し宜しいでしょうか」
「仕方ありませんわね……」
「じゃあ、出ましょうか」
「…………」

私が歩き始めると、そのあとを佐渡さんが無言でついてきた。
気の強いことはわかってるから、ちょっとドキドキとしてきちゃった。
でもフミくんのためにも頑張る!

廊下に出ると誰もいなくて、それでも入り口からは少し離れて向かい合った。


「どんなお話かしら」

最初に口を開いたのは彼女のほうだった。

「遠まわしに言っても仕方のないことですので、単刀直入に申しますけれど……」
「?」
「“潮 建設” ご存知ですよね?」
「潮 建設?」

思い当たるのか、彼女の眉がちょっとだけピクリと動いた。

「そこの “潮 福美” さんて私の友人なんですけれど先日、貴女彼女に大変失礼な暴言を
言われたそうじゃないですか」
「なんのことだか、さっぱりわかりませんわ」

クスリとハナで笑われた。
ムッ!!

「惚けるのもいい加減になさったら」

私も負けじとハナでクスッっと笑ってから、高飛車な態度で言い返した。

「色々耳に入ってるんですよ。佐渡さん」
「色々とは?」
「貴女、ふ……コホン!”NIREGISHI CORPORATION” の楡岸副社長と婚約間近だって
ふれ回ってるそうですね」
「はぁ?……そ……そんなの根も葉もない、唯の噂じゃないかしら?」

あら、意外とアッサリと態度に表れちゃってる。

「いいえ。実際、貴方に嫌がらせされたって方のお話も窺ってるんですよ」
「あら……そんなはずないと思うんですけど?」

オホホ、という感じで口元に手を当てる。
でも視線はアッチコッチ泳いでて、動揺してるのがわかる。

「楡岸さんの前では猫被ってるみたいですけど……もう、バレバレですよ」
「な……なんのことだかさっぱり?」
「楡岸さんと噂のある方のあら探しなさって、それを彼に告げ口したり、こういったパーティで
相手に嫌味言ったり嫌がらせなさるみたいですけど、でもそれってとっても醜いですわ。
ただ、肝心の楡岸さんにはまったく通じてなかったみたいですけど?ふふふ」

ふみクンがもともと彼女になんの興味もないせいなのか、いつものことなのか彼女のアプローチや
競争相手を蹴落とすための、あることないこの陰口もフミくんにはなにも届いてない。
その辺りは、鈍感で疎いふみクンに感謝だと思った。

思わず含み笑いで笑ってしまう。
どうやらそれが、彼女は気に入らなかったらしい。
それとも自分のしたことが、全部無意味だったと自覚してたからかしら?
ふみクンの反応がイマイチだったんでしょうから。
でもそれは当然の結果なんだけど。

「なっ!貴女、本当に失礼ね!私はそんなことしてないって言ってるでしょう!」
「まあお認めにならないのも無理ないですけど。人として、とっても恥ずかしいことですものね?
それを気づかずにいるなんて、どれだけ面の皮が厚いのかしら?」
「……っ」

自分でも、失礼なこと言ってる自覚はある。
でもそれ以上に、彼女はふみクンにも文句を言った相手にも失礼なことをしてる。

「でも、そういうの全部無駄ですのよ」
「ど……どういう意味ですの?」

さあ、覚悟して聞きなさいよ。

「楡岸副社長と婚約の話が出てるのは、私のほうですから。近いうちに発表があるかもしれませんわ」

「!!」

今度は私が、口に手を当てオホホと笑ってやった。

「なにをいい加減なこと……」
「いい加減なことじゃありませんわ」

このときのために撮っておいたのよ。
私は自分のバックから携帯を取り出した。
そしてカチカチと操作すると、ふみクンとベッタリとくっついて撮った写真を表示させる。
それを彼女に向けた。

「つい先日撮ったんですのよ。貴方とこんな親密な写真なんてありませんでしょ?」

上から目線の、優越感漂わせた言い方で言ってやる。

「それにコレ、貰ったんですの」

パパにね!

私は自分の右手の薬指に嵌めてあった指輪をバン!っと彼女の目の前に突き出した。
シンプルだけど洒落た形の指輪。
ハタチの誕生日にニコニコ顔の父親から指輪を貰うなんてドン引きだったけれど、今はちょっと感謝。

指輪の真ん中には、かなり大粒の石が埋め込まれてる。
一目見て、かなりの高額な指輪だとわかるはず。
差し出さした携帯の画面を見ていた彼女がその指輪を見て、さらに顔を引き攣らせた。

「素敵でしょう?」
「…………」

ふふん♪ という顔で笑えば、彼女はぐっと息を詰まらせて眉間にシワを寄せた。
対抗できるもんなら、やり返してごらんなさい。

「どうかしら?これで私と楡岸さんとが、どんな関係かわかってくださったかしら?」

「…………」

もう二度とこの人がふみクンの結婚相手だなんて言わせたくない。
ふみクンにはもっとお似合いの人を見つけてもらって、幸せになってもらうんだから。
でも、その相手はこの人じゃない。
それは断言できる。


「梨佳ちゃん」

このタイミングで私を呼んだのは、遅れてやってきたふみクン。
小走りで、こっちに向かって廊下を走って来る。

「あ!」
「!!」

彼女がさらに驚いて、近づいてくるふみクンを見てる。

こなったらフミくんにも協力してもらいましょうか。



私は何も知らずに、ニコニコと微笑んで近づいてきたふみクンにニッコリと微笑んだ。








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