想い想われ?



19 梨佳視点




「じゃあ、あとは宜しく頼むな」
「え?ちょっと裕平ちゃん?」

珍しく夜遅くに呼び出されたと思ったら、子安さんのお店のカウンターで酔い潰れてるフミくんがいた。
裕平ちゃんはちょっと疲れてる顔で、席には座ってなくてふみクンのすぐ傍に立っていた。
そして私の姿を確認すると、宜しくと言って帰ろうとする。

「ちょっと、コレってどういうこと?ふみクンどうしたの?」
「さあ」
「さあって……裕平ちゃんが酔わせたんじゃないの?」
「違う。史明が自分で勝手に飲んで、勝手に潰れた」
「どうしてとめないのよ?ふみクンそんなに飲めないのに」
「だから史明が勝手に飲んだんだって。それに今まで大変な目に遭ったのは俺のほうだ」
「え?」
「とにかくあとは宜しくな。自宅に送り届けてやってくれ」
「ええ?裕平ちゃんは?」
「もう一秒たりとも史明の面倒はみたくない」
「はあ?」

もう、言ってる意味がわかんない?

「じゃあな」
「ちょっと、裕平ちゃん?」

呼び止めたのにあっさりと私に背中を向けて、片手をあげてお店を出て行ってしまった。


「もう……本当にどういうこと?」

こんなこと初めてで、首を傾げるしかない。
肝心のふみクンは相変わらずカウンターにうっつ伏したまま。

「ふみクン?ねえ、大丈夫?起きて」

仕方なくふみクンを起こそうと肩を揺すってみた。

「……うぅ……」

ムワッとアルコールの匂いが立ちこめる。
どれだけ飲んだのかしら?
ふみクンがこんなに飲むのも、飲んで潰れるのも初めて見たかもしれない。

「……梨佳……しゃん?……」

────  梨佳しゃん?

「ふみクン?大丈夫?」

ふみクンの隣の席に座って、俯いてる顔を覗き込む。

「もう、どうしたの?こんなになるまでお酒なんて飲んで……なにかあったの?」

何かあるとしたら仕事のことだろうか?最近海外に出張してたし、確か大きな契約が何件か重なってたはず。
でも、ふみクンが仕事のことでここまで落ち込むかしら?
もしそうならこんなところでお酒なんて飲んでないで、契約を成立させるために動いてるんじゃないかしら?

ということは、仕事絡みじゃないの?もしかして…………テルさんのこと?
未だに辛い日々を過ごしてるのは知ってたから……。

「ふみクン……帰ろう。今日はウチに泊まろうね」
「…………帰……る?」
「そう」
「帰って……」
「ん?なに、ふみクン?」
「帰ってなんてこないんですぅーーー!!どんなに待っても、あの部屋にはもう帰ってこないんですよぉーーー!!」
「きゃっ!!」

いきなりガバッと起き上がったと思ったら、そんな意味不明なことを叫んだふみクン。

「な……なに?どうしたの、ふみクン?」
「着信拒否って……されたことありますかぁ……梨佳しゃん……」
「え?着信拒否?なに?なんのこと?」
「辛いですよねぇ……自分を全否定されたみたいでぇ……ううっ〜〜」
「ふみクン?」
「僕はなにをしてしまったんですかね……」
「ふみクン……」
「それとも、僕の存在自体がイヤだったんでしょうか……でもね……そんなに嫌がってる
感じはなかったんですよ……ああ、もしかして仕事を持ち込んだからでしょうか……それとも……」

ふみクンが、ずっとなにかブツブツといい続けてる。
なんのことか訪ねても、それにはなにもふみクンは答えなかった。

「ふぅ……もういっぱい……」
「もう無理だってば、ふみクン帰ろう」
「いえ……まだ飲みます……飲みたいんですぅ……」
「だったらウチで飲めばいいでしょ。今日は私の家に帰るから」

帰っても飲ますつもりなんてなかったけれど、ふみクンを立たせるにはそう言うしかなかった。

「いえ…ここで……」

なのになんでゴネるのかしら?

「ダメだってばっ!ふみクン!!」


そのあとはさらにゴネるふみクンを、子安さんともう1人お店の人が引きずるように連れ出して、
私が乗ってきた家の車の後部座席に無造作に放り込まれた。

なんだか容赦のない押し込め方で、ふみクンが “ぐえっ” って変な声出してた。
裕平ちゃんの様子から、子安さんにも迷惑かけたのかと察して何度も謝った。

“お2人の知り合いでなかったら、出入り禁止にするところですよ”

なんてニッコリ笑って言っていたけど……。
なのでさらに頭を下げて、後日ふみクンにも謝らせると約束した。
それでも、子安さんのなんとも言えない微妙な顔は直ることはなかったけど。
とにかくよくわからないけど、ごめんなさい……。

車に乗ったふみクンは、すぐに眠ってしまった。

「私の膝枕で眠れるなんて超レアなんだからね、ふみクン!」

真っ赤な顔して……一体何があったんだろうと思いながら、ふみクンの髪の毛を撫でた。
明日、話してくれるかな?……ううん、絶対聞き出す!


そう決意したんだけど次の日の朝、昨夜の酔い潰れて目も当てられない姿のふみクンを見たママが、
出社する前のふみクンを捕まえて小言のオンパレードになってしまったので、
私は口を出すことができなくなってしまった。








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