想い想われ?



21 裕平・梨佳視点




「じゃあ、気をつけて」
「久遠さん、また明日〜〜」
「はい、また明日」

すっかり酔いの回ってる梨佳と一緒に、電車で帰るという久遠さんを店の前で見送った。

俺と梨佳はタクシーで帰るつもりで、足もとの覚束ない梨佳の肩を抱きかかえたまま歩き出した。
程なくしてタクシーをつかまえて乗り込むと、行き先を伝えてシートに深く座って溜息をついた。
梨佳は俺に肩を抱かれながら、俺の肩に頭を乗せて目を瞑っていた。

「調子に乗って飲みすぎだ」
「……んーー誰のせいだと……思ってるのよ〜」
「史明のせい」
「もーー今……ふみクンはいないでしょ」
「それでも史明のせいだ」
「ふぅ〜〜」

梨佳が溜息をつくと、瞑ってた目をあけて肩に乗せてた頭を上げた。

「ふみクン、どうしたんだと思う?」
「昨夜のか」
「うん……あんなふみクン初めて見た」
「俺もだ」

2人で昨夜の史明を思い出す。

「どうしてだか理由聞いた?」
「いや……聞いてもなにも答えなかった」
「私も同じよ……ふみクン、なにも言ってくれなかった」
「テルさんが亡くなってまだ日も浅いし、ここんとこ仕事も忙しかったから色々限界だったんじゃないか」
「うーん……テルさんのこともあるかもしれないけど……なんか女の人のことみたいだと思うんだけど?」
「女?」

確かにソレっぽい雰囲気は感じたけど、確信まではいかなかった。

「なんか着信拒否がどうのとか、ブツブツ言ってたし」
「ああ、そんなことも言ってたかな?」
「ふみクンが着信拒否されるなんて想像つく?」
「んー信じられない気持ちの方が強いかな?」
「でしょ?もしかしてふみクン、失恋でもしたのかしら」
「史明が?誰に?」
「それはわからないけど……でもね、ふみクンにもそろそろ誰かいい人できないかな〜って思うの」
「まあ、あいつもいい年だし……ただ、女の扱いに慣れてんのか疑問だけどな」
「ふみクン優しいから大丈夫でしょ」
「まあ……いい加減な付き合いはしなさそうだけど」
「ねえ裕平ちゃん」
「ん?」
「久遠さんなんてどうかな?どう思う?」
「久遠さん?」
「そう、人当たりもいいし、優しいし……子安さんなんて “肝っ玉母さん” なんて言ったのよ」
「肝っ玉母さんって……いつの時代だよ」

それに、若い女性に失礼じゃないのか?それって褒め言葉か??

「ね?どうかな」

同意を求めてくる梨佳の目が、キラキラ期待いっぱいに輝いてる……そこまでか?

「どうだろうな……史明の奴、こっち戻ってから女性関係あんまり興味なさそうだったしな。
テルさんが具合悪くなってから、余計そっち方面は敬遠してたし。今だって見合い全然乗り気じゃないだろ」
「別に無理矢理お付き合いさせなくてもいいんじゃない?話し相手って感じで」
「話し相手って……年寄りの茶飲み友達じゃないんだから」
「でも女友達って感じでも、あの2人なら大丈夫な気がするのよね。お互いにホンワカと話してるのが
想像できちゃうのよ、これが!」
「…………」

どうやら、気に入った久遠さんをどうにかして史明とくっ付けたいらしい。

「んーーじゃあ話だけでもしてみるか?」
「本当?」
「ああ……でもあんまり期待するなよ、昨夜の様子じゃなんか期待できそうもないしな」
「じゃあ、黙って会わせちゃいましょうよ。私が久遠さん連れ出すから、裕平ちゃんはふみクン連れ出してよ」
「別にかまわんけど……また飲みで誘うのか?史明は無理だと思うけど」
「そうね……私も最近飲むのに付き合ってもらってるから……どうしようかしら?」
「んじゃ、これ行ってこいよ。知り合いから貰ったんだけど俺あんまこういうの興味ないし、その前に仕事で無理だから」

背広の内ポケットから、今日知り合いからもらったクラシック・コンサートのチケットを取り出した。

「いいの?」
「俺が持ってても無駄になるだけだし」
「もしかして、誘いたかった相手がダメだったから私にくれるんじゃないの?」

横目でチラリと俺を見る。

「さあ、どうだかな」

本当に仕事だけど、疑ってるみたいだからちょっとからかってやる。

「ふーん……」
「終わった後、一緒に食事すればいいんじゃないか?史明も食事なら付き合うと思うし。ってか断らせねぇよ、
昨夜どれだけ迷惑かけられたか……奢らせてやる」

思い返しただけでも腹が立つ。

「じゃあ久遠さん誘えたら連絡する」
「ああ」


次の日、梨佳からOKがもらえたと連絡が来た。
俺はそれを受けて、史明のところに向かう。
面と向かって、この前の文句も言いたいしな。

史明の会社の受付を顔パスで通って、そのままエレベータで史明のいる階で降りる。
いつも先に話は通ってるからなんだが、学生のころから何度も来てるしもう慣れたもんだ。

史明のいる副社長室のドアをノックすると返事のあと中からドアが開いて、お馴染みの
史明の秘書の平林女史が顔をだす。
なにも咎められることもなく、すぐに史明のところに通された。

「よお」
「話って?」

大人の男が座っても余裕ありまくりも応接用のソファに向かい合って座ると、疲れた顔した史明がいた。
テーブルの上には平林女史が運んできたコーヒーが置いてある。

「この前のアレって一体なんだったんだ?」
「…………すみません……でも、本当はひとりで飲むはずだったんですけどね……まさか子安さんが
裕平に連絡するなんて思いませんでした」
「あんな状態じゃ連絡してくるだろ?なにがあったんだよ」
「…………まあ……色々です。でも、もうあんな失態は見せませんので忘れてください。あとで子安さんにも
お詫びに伺いますから」
「…………まさかとは思うが、女にフラれたか?」
「!!」

一瞬、史明が固まったのを俺は見逃さなかった。
ふーん、史明が女ねぇ……。

「違いますよ。フラれるような相手はいませんから」
「そうか、じゃあ会わせたい相手がいるんだけどな、別にかまわないよな」
「!!」

大きく目を見開いて、すぐにまた疲れた顔に戻った。

「……お断りします。僕、今どなたかとどうのって考えられませんので」
「なんでだよ?どうせお前のことだから会社と家の往復だけなんだろ?付き合えとはいわないから
ちょっと話してみろよ。話しやすい人で梨佳の……」
「裕平」
「ん?」

最後まで言う前に史明に遮られた。

「気にかけてくださるのは嬉しいですが、本当に今はそんな気にはなれませんので。仕事のほうも
また忙しくなってきましたし、そんな時間ありませんよ」

その声の感じから、史明の意思に硬さを感じる。
普段優しい雰囲気の漂う史明だけれど、伊達に大企業の重役の役職を持ってるわけじゃないっていうのを俺は知ってる。

「……そっか。ならメシ付き合え」
「はい?」

あまりの切り替えの早さに史明がちょっとビックリしてる。
無駄だと思うことに時間なんかかけるかっての。
だったら確実なほうで誘ったほうlがいいじゃないか。

「っていうか奢れ」
「?」
「お前、この前どんだけ俺に迷惑かけたと思ってんだよ。忘れたとは言わさないからな」
「ああ……そうですね……いいですよ」

女を紹介されないとわかってか、史明が身体から力を抜いてソファの背凭れにもたれかかった。

「じゃあ、今度の土曜日な。場所と時間は俺が決めとくから」
「はい、わかりました」
「ドタキャンするなよ。これは、お前の俺へのお詫びのメシなんだからな」
「わかりましたって……」
「じゃあ、あとで連絡する」
「はい」

出されたコーヒーを飲んで、史明の会社を後にした。


そのあと梨佳に連絡して、史明を食事に連れ出すことに成功したことを告げた。

久遠さんのことは聞く耳持たなかったと言ったが、彼女にも内緒でお店につれて来いといった。
知らない相手の奢りで気を利かせて遠慮するなんてことにならないように、俺の奢りと言うようにも伝えた。

付き合う付き合わないは別として、きっと彼女との会話は史明にとっても気分転換に
なるんじゃないかと思っていたんだが……。

でもまさか、この食事であんなことになるなんて俺も梨佳も、ましてや色々な張本人の史明も予想もしてなかった。








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