想い想われ?



24・史明視点




次の日の朝、待ちに待った携帯が鳴って梨佳ちゃんかと思ったら竹之内さんからだった。

静乃さんが勤めていた会社を辞めた理由を調べてくれていた。

そして僕は、静乃さんが勤めていた会社を辞めた理由を知った。
確か僕が静乃さんのことを頼んですぐに、竹之内さんの部署も忙しくなったと聞いてたからそんな中、
調べてくれたのはありがたかったし申し訳なかった気持ちで一杯だった。

偶然にも静乃さんと再会したこと伝えて、もう手を引いてくださいとお願いした。
もう少し時間の余裕があったなら、もっと調べられたのにと落ち込まれてしまって逆に静乃さんが
会社をやめた理由がわかって助かったとお礼を言った。


「僕の……せいだったんですね」

まさか、佐渡さんが絡んでるとは思わなかった。
梨佳ちゃんに忠告されてたのに……でも、いつ静乃さんのことがわかったんだろうか?
自分としては、注意してたはずなのに。

かなり自己嫌悪に陥ってると、今度こそ梨佳ちゃんからの電話だった。

『お待たせ、わかったわよふみクン』
「ありがとうございます」
『ん?どうしたの?』

僕の声の覇気のなさに気づいたみたいだ。
誤魔化しても仕方ないので、正直に話すことにした。
それに、このことは梨佳ちゃんと話すのが一番だと思ったし。

「いえ……先ほど竹ノ内さんから連絡がありまして…………静乃さんが会社を辞めた理由がわかったんです」
『え?本当に?』
「はい……多分それが静乃さんが僕を避けた理由です」
『わかったの?』
「はい……静乃さんが僕を避けたのは当たり前だったんです……嫌われて当然でした」
『ふみクン?』
「会社……辞めさせられていました」
『え?』
「静乃さんをクビにしないと、会社を潰すと脅されたそうです」
『ええ!?なにそれ??』
「ハッキリと言ったわけではないらしいですが、仕事の依頼がなくなると脅されれば従うしかなかったみたいです」
『久遠さんは納得したの?』
「逆に迷惑をかけて申し訳ないって……本当は僕のせいなのに」
『一体誰が……!!ってまさか!』
「はい、佐渡さんだと思います」

彼女が直接動いた痕跡も社長が動いた痕跡もなかったらしいけれど、S・Sコーポレーションほどの会社なら
静乃さんの会社のお得意さんと繋がった会社を探すのも簡単だろうと思う。

僕が同じことをしようと思えば、電話を2・3本かければ済んでしまうだろう。
そこまで静乃さんが勤めていた会社はギリギリの経営状態らしい。

「どうしてそこまで……」
『一般の人だったからじゃないかしら』
「え?」
『だって他の噂のあった人達みたいに親に力がないもの』
「そんな……」
『それに、久遠さんの部屋に訪ねて行ったりしてたんでしょ?』
「はい」
『きっとそれで、本命だって思ったんじゃないかしら』
「僕のことを調べてたってことですか?」
『きっと後をつけられてたのよ。そんな雰囲気なかった?』
「はい……静乃さんのところに行くときは、会社からこっそり抜け出しましたしタクシーを使いましたから」
『でも相手がプロだったら、そんなの簡単に見破られてたんじゃないの?それにふみクン浮かれてて、
周りに気なんて配ってなかったんじゃない?』
「うっ!……確かに……浮かれてたかもしれませんけど……でもまさか、自分がつけられてるなんて
思わないじゃないですか!」
『そうね……でも逆に森末さんに送ってもらったほうが、森末さんが気づいたんじゃない?』
「…………」

そう言われると何も言い返せないんですけど……。

『まあ、今さらだけどね』
「は……ぁ……」

そんな傷口に塩を塗るようなこと言わなくても……と思ったりもした。

『今はそんなことないのかしら』
「竹ノ内さんもそんなことは言ってませんでしたけど」
『まあ、ウチの人事部にそんな圧力かけられないからかもしれないわね』
「そうですね……それに静乃さんが引っ越してから僕は一度も静乃さんにも会ってないですし」

正確にはその前から会ってなかったから、もう別れたと思われたのかもしれない。

『それに私が婚約者だって信じたからじゃない?さすがに私になにかするっていうのは
あきらめたんじゃないかしら?でも、久遠さんを辞めさせたあとだったんだ……なんだか悔しいな』

もし先に梨佳ちゃんが婚約者だと思わせることができていたなら、静乃さんは会社を辞めずにすんだかもしれない。
その前に、僕が気づいていればそんなこと絶対許しはしなかった。
でも、僕は今の今まで気づかなかった……本当に情けない。

「静乃さんに申し訳ないことをしました……僕は償えるんでしょうか」

静乃さんの人生を変えるようなことをしてしまった。
仕事の話をしたとき、働きやすくて楽しいと言ってた気がする。
そんな会社を辞めさせられたなんて……。

『だったら余計ちゃんと話し合って許してもらいなさいよ!ふみクン』
「梨佳ちゃん……」
『静乃さんだってちゃんと話せばわかってくれるわよ。静乃さん肝っ玉母さんなんだから!』
「え?なんですって?きも?」
『いいから!じゃあ住所教えるわね?それにちゃんと結果を報告してよ!』
「わかりました……ありがとうございます」
『いいの、いいの!だって私、静乃さんだったら大賛成だもの♪』

そうして梨佳ちゃんに教えてもらった住所に、今日は森末さんに送ってもらうことにした。
前回の反省と言うわけではないけれど、これから何度も送ってもらうと思うから。

「静乃さん……家にいるでしょうか」

思うことはそのことばかりだった。
裕平の言う通り、一晩時間があったから逃げるのには十分だったはず。

「静乃さん……」

教えてもらった住所にあったのは、前に静乃さんが住んでいたところと同じような感じだった。
ただ周りには緑はなく、背の高い建物に囲まれていた。
森末さんには、帰りにまた連絡するといって帰ってもらった。

前も思ったけれど、静乃さんはあまり自分の身を守ることを考えていない気がする。
直接玄関まで、なんの障害もなく行けてしまう造りばかりのところに住んでいる。
こういう時はありがたいけれど、これからは少し考えなければいけないかもしれない。

そんなことを考えている間に、静乃さんの部屋の前にたどり着く。
玄関の壁のプレートには “久遠” とマジックで書いた紙が挟まれていた。
それを見ただけで、僕は少しホッとする。

部屋に……居るだろうか?

震える指で、チャイムを押した。








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