想い想われ?



16




「あ!」
「ん?」

次の日、ランチルームであのときの男の人を見かけた。
数名の男の人と一緒で、そのあとを何人かの女の子がニコニコしながら、
つかず離れずの距離で後をくっ付いて歩いてる。
あれはとりまきですか?と、すぐにわかってしまった。

とんでもなくイケメン!ってワケじゃないけれど、男らしいキリリとした顔。
高めの身長に痩せすぎでも太りすぎでもない体格。
しかも、爽やか感漂ってるし……。

この会社の男性社員の中では、有望株なのかもしれない。

「どしたの?久遠さん」
「え?あ……あの男の人、誰かなっと思って」
「ん?」

私の見てるほうに勝浦さんも視線を向ける。
ちょっとしたグループになってるから、すぐにわかったらしい。

「ああ、北見氏ね」
「きたみ?」
「北見産業の息子でうちの社長の親戚なんだって。うちでしばらく武者修行らしいよ」
「え?ここの社長の親戚?」

ということは……

「梨佳ちゃんとは従兄妹になるらしいのよね」
「従兄妹……」

だからあんなに親しかったのか?
ああ!だから挨拶代わりの “デコチュウ” なんていうのもできたのかな?身内として?

「帆稀さんとは仲がいいんですか?」
「さあ?彼女から彼の話はあんまり聞かないし、話してるのも見たことナイかな」
「え?そうなんですか?」
「ただでさえ色眼鏡つきで見られてるのに、ここの社長令嬢との仲まで勘ぐられるのも
イヤなんじゃないかな?
彼あんなふうに女子社員にモテるけど、女の子には冷たいんだよね」
「え?」
「必要以上に女の子と接点持たないし」
「はあ……」

ということは、昨日のことはやっぱり従兄妹同士だったから?

「お疲れ様で〜〜す」
「あ!梨佳ちゃんお疲れ」
「お疲れ様です」

相変わらずの可愛い笑顔で、帆稀さんが料理の乗ったトレイをテーブルに置いて、
勝浦さんの隣に座る。

「噂をすればだね〜〜」
「え?私のこと噂してたんですか?」
「梨佳ちゃんというよりも、梨佳ちゃんの従兄妹かな」
「従兄妹……?ああ、裕平ちゃ……北見さんのことですか」

そう言って、同じランチルームのちょっと離れたテーブルに座る彼をチラリと見た。

「ほ〜〜裕平ちゃんって呼んでるんだ〜〜本当は」
「うっ!……幼なじみなんです。裕平ちゃんと私と……あと、もうひとり」
「男?」
「はい。私達よりちょっと年上ですけど」
「もしかして、その3人で三角関係とか?」
「え?やだなぁ勝浦さん。テレビの見すぎですよ」

ウフフ ♪ と帆稀さんが微笑む。

「そうなの?なんだつまんない」
「すみませ〜〜ん、ご期待に添えなくて」

そうおどけて言って、料理をパクリと口の中に放り込んだ。

「…………」

多分、もうひとりは史明くんのことだと理解した。
そっか、3人で幼なじみなんだ……そのうちのふたりが結婚するってことなのね。

「幼なじみかぁ……私には、そう呼べる奴なんて誰もいないし」

勝浦さんが頬杖をついて、ボソリと呟いた。

「私もいないですよ。実家に帰っても同級生なんてほとんど地元にいないですから」
「久遠さんも?だよね?なかなか幼なじみなんていないし、いても同性とかじゃない」
「たしかに」
「幼なじみなんて面倒なだけですよ」
「え?」
「その一言で逃げられちゃうんですから」
「帆稀さん?」
「なに?梨佳ちゃん、やっぱり2人のうちの誰かとそういう関係なの?」
「えへへ〜〜今、頑張ってるところです♪」
「え?北見氏?」
「内緒です」
「えーーケチ」
「ウフフ♪ 晴れて結ばれたあかつきにはご報告差し上げますわ」
「じゃあ、そのご報告を心より楽しみにお待ち申しておりますわ」
「やだ〜〜勝浦さんってば」

ふざけ合うふたりを見ながら、私は突っ込むことができなかった。
帆稀さんのいう相手は北見さんのことなの?それとも……史明くんのことなの?

そのあと私は心此処に非ずの状態で、勝浦さんに促されて残ってる料理を口の中に放り込んだ。





次の日のランチルームにやって来た帆稀さんは、心なしか疲れて見えた。

「お疲れさん」
「お疲れ様です」
「お疲れ様ですぅ〜」

いつも元気にモグモグと食べる帆稀さんが、今日はボソボソと食べてる。

「どうかしたの?」

勝浦さんも気がついたのか、すぐに声をかけた。
私はあの創立記念パーティ以来、あまり自分から帆稀さんには話しかけないようにしている。
心の中で、史明くんとのことが気になってるから。

やっぱりこのまま、ここに勤め続けるのは無理だなと改めて思う。
それにいつ、帆稀さんから私のことが史明くんにバレるとも限らないし。

毎日ドキドキと、変な緊張をしてることは確かだ。

「いえ……昨夜ちょっと疲れることがありまして……」
「え?いやぁん ♪ やだわ、梨佳ちゃんったら。昨夜、頑張っちゃったの?」
「!!」

勝浦さんがいきなり爆弾を落とした。

「ちっ……違いますよ!そんなんじゃありません!」

思ったとおりの帆稀さんの反応。
慌てまくってる。

「え〜〜本当にぃ?」
「本当です!セクハラですよぉ〜〜勝浦さん!」

もう〜〜なんて言って、顔が真っ赤。

「女同士だからそんなことにはならないでしょ」
「それでも!!そんな恥ずかしいこと言わないでください!!」
「だってお相手いるみたいだし、疲れることって言われたら……ねぇ?」
「え!?」

いや……私にふられても。
思わず史明くんと帆稀さんとのそういう場面を想像しそうになって、慌てて思考から追い払った。
私ったらなに考えてるんだか。

「本当に違うんです!……もうひとりの幼なじみの相手してたら疲れてしまって」
「なんで?」

勝浦さんが興味津々に帆稀さんに訊ねた。

「その幼なじみって優しいって言うかヘタレって言うのか……理由は言ってくれなかったんですけど
なんでだか落ち込んじゃってて……それを宥めてたら精神的に参ってしまって……」
「あら〜〜確か男で年上じゃなかったっけ?」
「そうなんですけど……そんな打たれ弱い人には見えなかったし、普段は私の相談に乗って
くれてたりして、頼れる存在だったんですけど……」

「…………」

史明くん、またお祖母様のことで落ち込んじゃったのかしら?
それとも、仕事が立て込んじゃって睡眠時間が少なくなっちゃたのかしら?

私のことは……もう心整理もついてるころだろう。
黙って引っ越して、電話もメールも拒否されれば嫌でも納得するだろうし、逆にそんな
私のしたことに怒ってるだろうと思う。

もっと緩やかに離れるつもりだったんだけどな……。

でも……史明くん、帆稀さんにちゃんと話せたんだね。
そっか……本当によかった……よかった……ね。

「と言うわけで勝浦さん、久遠さん、今夜飲みに行きませんか」
「 「 はい? 」 」
「気分転換がしたいんですぅ〜〜!!もう昨夜はグチグチワケのわからない愚痴聞かされて、
ストレス溜まりまくりです!!」
「ごめ〜〜ん私、無理。母親が来てるから」
「え?そうなんですか……じゃあ久遠さん!ぜひ!!」
「……えっと……」

できれば、帆稀さんとふたりっきりは遠慮したいんだけど……。

「予定なければ行ってあげれば」
「はあ……」

勝浦さんは何も知らないから仕方ないんだけれど……断りづらくなってしまった。

「やったーー!!じゃあ今日は、残業なしの方向でお互い頑張りましょうね。
下のロビーで待ち合わせで♪」
「え?いや……あの……」
「じゃあ、後で!」
「あ……」

帆稀さんは来たときとはうってかわって、軽やかな足取りでランチルームを後にした。

小さくなっていく帆稀さんの後ろ姿に、どうか変なことになりませんように!!
と、私は祈らずにはいられなかった。








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