想い想われ?



01・史明・静乃視点




「と言うわけなんです」

「…………はぁ……」


静乃さんは僕の話を聞いて、なんとも言えない返事をした。

時計を見れば、話し始めてから30分近い時間が経っていた。
ここに来て、静乃さんが淹れてくれたコーヒーは当たり前だけれど冷めていた。
でも喉の乾いていた僕は、そんなコーヒーに口をつけてコクリと飲んだ。

「じゃあ帆稀さんとの婚約はウソで、帆稀さんに他の男の人が近寄ってこないように、北見さんに頼まれたからなのね」
「はい。僕には婚約者なんて誰もいません。付き合ってる女性もいませんから」

史明くんの話を聞くと、やっぱりあの2人は相思相愛だったのね。
なのになんだかややこしいことしてるのね……と思った。

30分ほど時間をかけて、今までの経緯を全部史明くんは話してくれた。

帆稀さんの婚約者のフリをすることになった経緯と、私と会えなくなってからのことと、昨日会ったのは偶然だったということ。
私もまさか、あそこに史明くんがいるなんて全然知らなかった。
その他にも色々細かいことも聞いて、今はちょっと頭の中がゴチャゴチャしてる。

そんなゴチャゴチャを頭の中で、整理してる間に史明くんはもうとっくに冷めてしまったコーヒーを飲んでいた。
そんな史明くんを見ながら、ああ……新しいの淹れたほうがいいかしら?なんて思ってたら名前を呼ばれた。

「静乃さん」
「はい」
「もう、全ての誤解は解けたでしょうか?」
「…………」

とっても真面目な顔で聞かれ、今までの自分の中で消化しきれていなかったことが全て綺麗に答えと
対になってることを理解する。

「はい」

だから正直に真正面にいる史明くんに返事をした。
私達は今、正座をして向かい合って座ってるから。

「では、もう少し僕の話を聞いていただけますか?」
「はい」

「 「 ………… 」 」

しばらく2人で沈黙。
だって史明くんが話を聞いてくれって言うから私は黙って史明くんが話すのを待ってたから。

「史明くん?」

あまりの沈黙に、名前を呼んでしまった。

「…………静乃さん!」
「は…はい?」

真面目な顔の史明くん。

「僕は……初めて静乃さんに会った日から静乃さんのことが好きです。たとえ僕のことを異性として
見てくれていなくても……静乃さんが僕と一定の距離を置いて付き合っていたのはわかってました。
でも……僕はそれでも静乃さんのことが好きです。誰よりも愛しています。
誰にも渡したくないくらい……いつかその距離を縮められるように努力をしますから……
どうか僕と……僕と結婚を前提にお付き合いしてください。お願します」

そういうと史明くんは、床に手を着いて頭を下げた。

「えっ!?ちょっ……史明くんやめてよ!顔上げて!!」

史明くんの肩に手をかけて起こそうとするけどビクともしない。
男の人にこんなコトされるなんて初めてで、なんだか自分が悪いことしてるみたいで罪悪感が!!

「いえ、ちゃんと返事をいただけるまでやめません」
「…………」

手をついて俯いたままの史明くん。

史明くんは全部話してくれたのよね。
今までの起きたことと自分の気持ちも……

だから今度は私がちゃんと全部話をする番よね。

「私が史明くんと一定の距離を置いて付き合っていたのは、史明くんに結婚を考えてる相手がいると思ってたから」

「静乃さん!」

史明くんが私のその言葉に慌てて顔を上げる。
私はなにか言いたそうな史明くんの口に指先で触れて止めた。

「…………」

「初めて史明くんと会ったとき、こんなに優しくて素敵な人に彼女がいないなんて思えなかったから……
だから史明くんには聞けなかったの。だって史明くんの口から彼女がいるって聞いたら、私は史明くんに
会えないって思ってたから。確かめなければ、曖昧なままで史明くんと会うことができたから。
だから史明くんと一度きりって思ったのも、彼女がいてもいいから一度だけって……最初で最後にするからって決めてたの。
でも婚約者が帆稀さんだってわかったとき、もうダメだと思った。親しくなってとってもいい娘だってわかってたし、
史明くんにはお似合いだと思ったから……だから、史明くんとはもう終わりにしなくちゃって思って、だったら手っ取り早く
史明くんの前からいなくなって、連絡もとらないことにしたの。そんなことをすれば史明くんが呆れるか怒って私のことなんて
すぐ忘れると思ったから」

「静乃さん……」
「!!」

史明くんが唇に触れてる私の手をそっと握って、その指先に自分の唇で触れる。
私はくすぐったいような、恥ずかしいような感じがして、手がピクンと跳ねた。

「僕はそんなすぐに、静乃さんのことを忘れたりしません」
「うん……」

今なら、そう思う。
史明くんはずっとあきらめることなく、私を捜してくれていた。

「お互い、相手に確かめたらこの関係が終わると思っていたんですね……お互いを想う気持ちは同じだったのに」

お互いを想う気持ちは同じ……そうだね……同じだったんだね。

「……そうね……最初にお互いが……ううん……どちらかが聞けばよかったのよね」
「僕も思っていました。こんな素敵な人に相手がいないはずないだろうと……でもその反面、静乃さんが
お付き合いしてる人がいながら、僕と身体の関係をもつなんてありえないと思ったので、あえて静乃さんに
聞かなかったのかもしれません。
でも心には想う人がいると言われるのがいやで、僕も静乃さんに聞けなかったのかもしれませんね。
もし、静乃さんの心に想う人がいたなら、どうにかして僕のほうに気持ちを向けさせようと思っていました。
ただ、どうすれば僕のほうに向いてくれるのか模索中でしたけど……」

史明くんは言いながら、私の握った手に自分の頬を当てる。
今まであからさまに何かを言われたことも、されたこともなかったけど、史明くんってけっこう突き進むタイプ?

「私は……ネットで史明くんのこと調べちゃったし、そこに婚約間近って書いてあったからやっぱり相手がいる
人なんだって思ったの」
「それはとんでもないデマですから!」

史明くんが慌てて否定する。

「だから史明くんが結婚したら、もう会うのやめようって思ってた。でも、結婚まで考えてる人がいるってわかってたのに、
史明くんと会うことをやめられなかった……自分勝手ってわかってても、会うことはやめられなかったの……」
「静乃さん、それって僕に好意を持ってくれてたって思っていいんですか?」
「史明くん……」
「静乃さん……」

正座したまま、私を見上げる潤んだ瞳……ああもう……その目で見つめないでよ〜〜。
“クゥ〜〜ン” って声が聞えてくるし……ほら、耳と尻尾まで見えてきた。

「初めて史明くんと会ったときから……史明くんのこと好きだった」

「静乃さんっ!!」

あらまあ……目に見えてわかるほど史明くんの顔が明るくなった。
ホント “パアァァァァ” っていう表現が当てはまるほど。

「きゃあ!」

その勢いで私に抱きついてきて、押し倒されて2人で床の上に倒れ込んだ。

「静乃さん……静乃さん……静乃さん……」
「…………」

史明くんが私をぎゅっと抱きしめたまま、首筋に顔を埋ずめて何度も何度も私の名前を呼ぶ。

「もう……突然いなくなったりしないでください……僕をおいてどこにも……行かないでください……
僕を……切り捨てたりしないで……くださ…い……ぅ……」
「うん……ごめんなさい……史明くん……ごめんね」
「……クスン……ふ…ぅ……」
「…………」

首に雫が落ちる感じと、史明くんの堪えたのに出てしまったと思える熱い息がかかる。
史明くんの背中と後頭部に手を回して抱きしめた。

泣き虫なんだから……。

「僕……も……静乃さんに……辛い想い……たくさんさせて……ごめんなさい……」
「うん……」

首筋から顔を上げると、謝りながら触れるだけのキスを繰り返された。

「静乃さん」
「ん?」

唇が、触れるか触れないところで名前を呼ばれた。

「静乃さんを抱いて、いいですか」
「…………」
「僕はずっと静乃さんに触れたかった……愛し合いたかった……」
「史明くん……」

また触れるだけのキスが始まって、時々長く唇が触れるようになった。

「静乃さんが僕のものだと感じたいです……静乃さんが本当に僕の傍にいることを実感したい……」
「…………」

メガネ越しの史明くんの瞳が、色々な感情を含んで揺れる。
メガネを外してあげて、頷く代わりにニッコリと微笑んだらわかってくれた。

「好きです……静乃さん……ずっとずっと好きでした」
「史明くん……」
「愛してます……」
「……んっ……」


愛の言葉を囁かれて、急に舌を絡める深いキスをする史明くん。

私はそれが嬉しくて、満たされて……。

自然に瞑った瞼の端から……涙が零れて流れて落ちた。








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