想い想われ?



番外編・愛し愛され? 01 静乃side




大安吉日、晴天にも恵まれ私達の披露宴が執り行われた。
私のほうは、ごくごく普通の家庭なので世間一般で行われる結婚式に参加する顔ぶれだったけれど、
史明くんのほうはそんなワケにもいかず、各業界の重鎮や会社関係のそうそうたる顔ぶれが披露宴の会場を占めていた。

当たり前だけど、帆稀さんや北見さんのご両親も出席してくださって、初めて対面してしまった。
ナゼか史明くんのお父様に会ったときのように緊張してしまった。

式は披露宴の一週間前に、身内と本当に親しい人達で慎ましやかに行われた。
因みに史明くんの要望で、海の見える小高い丘の上のチャペルでの結婚式だった。

史明くんといえば、式の一週間くらいからソワソワとしだし、花嫁の私より舞い上がっていたと思う。

式の最中はずっと顔が綻んだままで、終わった途端に今まで堪えていたのだろう、涙がポロポロと零れ落ちた。
そんな涙を、私は手袋を嵌めた手で拭い続けていた。

そんな一大イベントを無事に迎え、史明くんはリビングに飾ってある結婚式のときに撮ったふたりの写真を
毎日眺めてはニコニコと笑っていた。

そんな穏やかな毎日だったけれど、最近は史明くんの仕事が忙しくなってきたらしく、遅く帰る日も増えてきた。

そんなある日の出来事だった。




「もしもし」
『はい』
「え!? ………えっと……」

今夜は少し遅くなるって言われていたけれど、11時を過ぎて様子見のために携帯に電話をかけた。
……んだけれども。

『あ…こちら、楡岸さんの携帯ですが』
「…………はあ」

やっぱり史明くんの携帯よね?
なのに電話に出たのは、聞いたことのない女の人の声だった。

「あの……史……楡岸の家のものですが……」
『申し訳ありません、彼お酒に酔ってしまったみたいで今眠ってるんです』
「はい?」
『ご心配なさらずに。ちゃんとこちらでお部屋をご用意致しましたので、私が責任を持ってお世話致します。
目が覚めましたらそちらにご連絡するように申しておきますので』
「は……あ……」
『それでは失礼致します』
「え? あの……」

あまりの展開に頭がついて行かず、一方的に相手の話を聞いて終わってしまった。

「部屋を用意したって……今の女の人と?」


『静乃さんすみません。今夜は取引先の方と食事をしながらの商談がありまして、帰宅が遅くなりそうなんです』


朝、そう言って出かけて行った史明くん。
電話に出た人が取引先の相手なの?

「…………」

もう一度かけなおそうかとも思ったけど、またさっきの女の人が出るのは確実じゃないかと思って思いとどまってしまった。

「浮…気?」

史明くんが? まさか……と思いつつも、私は鳩尾辺りがズシリと重く感じ始める。


あれからひとり、悶々としながら眠れもしないのにベッドで横になっていた。
鳩尾が痛いのを通り越して、ムカムカとしてくる。

きっと本当に酔ってしまったのだろうとは思うけど。
ベッドヘッドに置いてある、未だになにも連絡の入らない携帯をじっと横目で睨んでる。
時間は日付が変わって、大分経つ。

「まだ起きないのかしら……それとも、連絡できないようなことをしてるとか……」

史明くんに伝わっていないっていうことも有り得るわよね。
声しかわからなかったけれど、きっと綺麗な人ではないかと思われるような声だった。
ハッキリとした、自信溢れるような声。

「史明くん……」

史明くんが浮気なんてしないと思いつつも、酔っていたらわからないかもしれないと不安は広がるばかり。

「はあ……」

重い溜息をつくと、なにやら玄関で音がした。

「え? 史明くん」

起き上がってしばらく様子をみていると、声が聞こえてきた。

「ええっ!? なんでですか? なんでドアガードなんて……ちょっ……これって……」
「あ!」

史明くんの言葉を聞いて、ハッと思い出す。

そういえば電話を切ったあと、なんともいえない気持ちを抑え切れなくて、玄関のドアガードをかけちゃったんだっけ。

なんか締め出したくなっちゃったんだもの。


「し…静乃さーーん。あ、開けて下さい……静乃さーーん」

控え目な声で私を呼んでいる史明くん。
仕方なくベッドから出て玄関に向かう。

ドアガードの幅しかないドアの隙間から、史明くんの困ってる顔が見えた。
その不安な顔が私に気づくと、一瞬でぱぁっと明るくなる。

「静乃さん、今帰りました。遅くなってごめんなさい」
「…………」

私はそんな隙間から覗く史明くんをじっくりと観察する。

「えっと……あの…開けていただけると助かるんですけど……」

いつもより腰が低い?
後ろめたいことをしたから?

「きょ、今日は随分と防犯意識が高いですね。いいことですが、できれば僕が帰る前に
外しておいていただけると助かるんですけど」
「今夜は帰ってこないと思って」
「はい? え?」
「連絡をくれれば外しておいたのに」
「あ…もう静乃さんは休んでいるかもしれないと思いまして」
「なにも聞いてないの?」
「え?」
「はぁ……一度閉めるから、離れて」
「あ…はい」

ドアガードを外すために一度ドアを閉めた。
視界から史明くんが消える。

あんなに困った顔をして、やっぱり浮気なんてしてないと思った。
もししていたとしたらきっと私に気づかせないように、落ち着いた態度じゃないかしら。
あれじゃ、浮気を隠すとかの態度じゃないわよね。

ドアガード を外してドアを開けると、困った顔をしながらも明らかにホッとした史明くんがいた。
そのままギュッと抱きしめられる。

「本当に遅くなってすみませんでした。寝ていたんですよね」
「横になってただけだから」

抱きしめられた史明くんから、アルコールの匂いが漂う。
飲んでいたのは本当だったんだと思った。

「さあ、身体が冷えてしまいますから」
「…………」
「静乃さん?」

きっと史明くんからは見えない場所で、気づいていないんだと思う。
でなければ、私を抱き締めたりはしなかったかもしれない。

ワイシャツの肩と項の間に、ハッキリと付いているピンク色の口紅。
もちろん私の口紅の色じゃない。
立っている分には、上着で隠れるけれど少し屈むと上着がズレて見えてしまう。
これってワザとかしら? 相手の女の人の私に対する当てつけ?
ここに口紅が付いたってことは、史明くんとその女の人は抱き合ったってこと?

今の私達みたいに……


「静乃さん?」

ジッと動かなくなった私に気づいて、史明くんが気遣うように名前を呼ぶ。

そういえば、朝出かけるときにしていたネクタイもしてない……一体いつどこでネクタイを外したの? 史明くん?






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