想い想われ?



番外編・プレゼント大作戦! 01 史明くん。変なこと、考えてるんじゃないでしょうね?




とある日曜日の午後。
たまにはと、史明くんとふたりで自宅から近いショッピングモールに出かけていた。
店内はまだ少し先であろうクリスマスをイメージした装飾やらオブジェやらで、いつにもましてきらびやかだった。
そんな店内をブラブラとウィンドウショッピングを楽しんだり、フードコートで食事をしたりしてあっという間に時間は過ぎていった。

「あ…」
「え?」

通りかかったお店に目を惹かれ、立ち止まった。
当然手を繋いで歩いていた史明くんも立ち止まる。

「ここにもお店出してたのね」
「静乃さん?」

こんなところで、老舗の呉服店があるとは思わなかった。

「以前……成人式のときに、ここのお店で振袖を買ったのよ」
「え? 振袖……ですか?」
「そう……ちょっと覘いていってもいい?」
「はい、かまいませんよ」
「ありがとう」

私はちょっとウキウキとしながらお店に足を踏みいれた。

「いらっしゃいませ」

お店に入った私達に気づいた女性の店員さんが挨拶をしながら近づいてくる。
私はペコリと頭を下げて、店内に飾られている反物や仕立てられた着物に視線を移した。
申しわけないけど、買うつもりはないんですよ……ごめんなさい。
だからそんな接客なんて本当に申しわけないんで、私達にはかまわないでいただいて結構なんですけど。
なんて、そんなわけにはいかないわよね。

「なにかお探しですか?」
「いえ、以前こちらで振袖を買ったことがあって……それで……」
「まあ、振袖でございますか。ということは成人式ですね」
「はい」
「では、訪問着をお探しで?」
「あ…いえ……」

さすが商売人。
すかさず売り込むのね。
でも、本当にちょっと寄っただけだから……うーん、どうしよう。

「こちらなんてどうでしょう。値は少々はりますが今人気の加賀友禅作家が手がけました品なんですよ」

勧められた着物は淡い桜色で、可愛らしい花の絵が描かれている訪問着だった。
さすが人気作家が手がけただけあって、見てるだけどもホウっと溜息が漏れてしまう。
チラリと値段を見てもホウっと溜息が出ちゃったけど。

「はあ……でも今日は立ち寄っただけですから……」
「そうですか」
「すみません」
「いえ、ではなにかご用のときはお声掛けください」
「はい。ありがとうございます」

そう言うと、店員の女性はペコリと頭を下げて店の奥に戻っていった。

「静乃さんが着物に興味があるなんて知りませんでした」
「そんなたいしたもんじゃないのよ。ちょっと興味があるだけで」
「もしかして、自分で着れるんですか?」
「え? ええ。一応教室に通って覚えたのよね」

たしかそのときは興味がわいて、ヤル気になったんだった。

「そうなんですか」
「最近じゃ全然着てないし、着物も家に置きっぱなしだけど」
「僕、静乃さんの着物を着た姿が見たいです」
「そんな……大したもんじゃないわよ」

私の着物姿が見たいと言った史明くんは、なんだか期待一杯に目をキラキラさせていた。
ああ……それにまた、頭の上の耳とフサフサの尻尾がパタパタと揺れてる幻覚が見える。

「じゃあこれを機に買いましょうよ。僕がプレゼントしますから。この訪問着がいいんですか?」
「え!? い…いいわよ。着て行く場所もないし、もったいないわ」
「なんでですか? 別に出かけるためじゃなくて、普段家で着てくださればいいんですよ。僕のためにも是非! お願いします」
「そんなこと言ってもねえ……」

未だに目をキラキラさせてる史明くん。
まさかとは思うけど……

「もしかして……史明くん。変なこと、考えてるんじゃないでしょうね?」
「え? 変なことですか? 変なことって、一体どんなことですか?」
「…………」

ジッと覗き込んだ史明くんは、私から視線を外すことはなかったけど……なんか怪しい?

「でもね、それだと家のこともなかなかできないし。その前に、高額すぎて手が出ないわ」
「だから、僕がプレゼントしますから。静乃さんはなにも心配することはありませんよ」
「もう、本当にいいってば」
「では、もう少し価格の安いものにしますか? 僕としては、先ほどの加賀友禅作家のものがお薦めですけど。静乃さんに似合ってると思います」

そう言って別の着物に視線を移した史明くんだったけど、さっき言っていたものとあまり差のないものだった。

「それでも、高額にはかわりないから! 本当にいいんだってば。今日は見るだけでいいのよ」
「そう……ですか?」

いかにも納得していない顔の史明くんだったけど、私はあえて気にしないようにして店内を歩き始めた。


久しぶりに静乃さんと出かけたショッピングモールで、以前振袖を購入したというお店を見つけて立ち寄った。
静乃さんが着物を着る姿なんて今まで想像したことがなかったけれど、成人式か。
振袖姿の静乃さん……とても似合っていたことだろう。
初めての着物で、きっと初々しかったに違いない。
いや、初めては七五三か?
いや、あれをカウントに入れるのはどうだ?
でも、きっと三歳と七歳の静乃さんも可愛かったことだろう。
今度お義母さんにお願いして、そのときの写真を見せてもらうことにしようと心に誓う。

お店に入るとさっそく従業員が近寄ってきた。
以前振袖を買ったことを話すと、ここぞとばかりに商品を薦められた。
人気作家がデザインしたという訪問着は、着物のことがよくわからない僕でも魅入ってしまう仕上がりのものだった。

「はあ……でも今日は立ち寄っただけですから……」

ヤンワリと接客を断る静乃さん。
え? 静乃さん、買わないんですか?

「静乃さんが着物に興味があるなんて知りませんでした」
「そんなたいしたもんじゃないのよ。ちょっと興味があるだけで」
「もしかして、着付けなんてできるんですか?」
「え? ええ。一応教室に通って覚えたのよね」
「へえ」
「最近じゃ全然着てないし、着物も家に置きっぱなしだけど」
「僕、静乃さんの着物を着た姿が見たいです」

僕は頭の中で、その訪問着を着て微笑む静乃さんの姿を想像する。
それだけで、僕の顔が綻びそうになる。
ただ、今はそんな顔になるのをなんとか堪える。
そんな考えが目には出てしまったらしく、キラキラさせたらしい。

「そんな……大したもんじゃないわよ」

自分で着付けまでできるというのに、静乃さんは買うつもりはないみたいだ。
ならば、僕が静乃さんにプレゼントしようと思う。

「じゃあこれを機に買いましょうよ。僕がプレゼントしますから。この訪問着がいいんですか?」
「え!? い…いいわよ。着て行く場所もないし、もったいないわ」
「なんでですか? 別に出かけるためじゃなくて、普段家で着てくださればいいんですよ。僕のためにも是非! お願いします」
「そんなこと言ってもねえ……」

未だに期待一杯で、目をキラキラさせていると静乃さんに指摘されてしまった。

「もしかして……史明くん。変なこと、考えてるんじゃないでしょうね?」

静乃さんが僕の顔をジッと見つめて聞いてくる。

「え? 変なことですか? 変なことって、一体どんなことですか?」
「…………」

さらにジッと覗き込まれたけど、静乃さんから視線を外すことはなしなかった。
それでも、静乃さんの顔は僕を怪しんでるみたいだ。
変なこと……それは時代劇のように帯を引いて、クルクルと静乃さんが回りながら着ている着物を乱していくことだろうか?
それとも着物を着たまま僕に抱かれて攻められて、悩ましい顔をさせてみたいとかいうことは当てはまるんだろうか?

「でもね、それだと家のこともなかなかできないし。その前に、高額すぎて手が出ないわ」
「だから、僕がプレゼントしますから。静乃さんはなにも心配することはありませんよ」

どうして自分で買おうとするんだろうか?
夫である僕が、妻である静乃さんにプレゼントしたいと言っているのに。

「もう、本当にいいってば」
「では、もう少し価格の安いものにしますか? 僕としては、先ほどの加賀友禅作家のものがお薦めですけど。静乃さんに似合ってると思います」

高額と言うのなら、納得はいかないけれど別の着物に視線を移した。

「それでも、高額にはかわりないから! 本当にいいんだってば。今日は見るだけでいいのよ」
「そう……ですか?」

けれど静乃さんにとって、それはさっき言っていたものとあまり差のないものだったらしい。
キッパリとお断りされてしまった。
納得していない僕を置いて、静乃さんは店内を歩き始めた。

そのあとも他のお店を見て回り、偶然にも見たかったという映画が上映されていたのに気づいて見ていくことになった。
静乃さんと映画を見ながら、僕の頭の中はさっきの着物のことが頭から離れない。
どうしたら静乃さんにあの着物を贈ることができるだろうか。
誕生日はまだ先だし、だからといってなにも理由もなく贈ったとしても静乃さんはきっと困った顔をするだろうことがわかる。
いい例が婚約指輪だ。
僕としては、静乃さんの薬指にはめられたところを想像して即決で決めた指輪だったのに、あまりの高額に静乃さんに気を遣わせてしまった。
金額のことなんて気にしなくてもいいのに。
でも、そういう謙虚さも静乃さんのいいところだと僕は思う。

「…………」

チラリと横を見れば、静乃さんは真剣に映画に見入っている。
せっかく上映されてる映画の映像も音声も、今の僕にはなにも入ってこない。
うーん……どうしたら。

「!!」

ふと閃いて、口の端がゆっくりと上がる。
そうだ……もっともな理由で、尚且つ静乃さんが素直に受け取ってくれる方法があるじゃないか。

「ふふ…」

僕は静乃さんに気づかれないように笑うと、今度は静乃さんに内緒であのお店に行かなければと頭の中でこれからのスケジュールはどうだったかと考え始めた。

結局静乃さんと見た映画の内容はほとんどわからずに、映画館をあとにした。









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