想い想われ?



番外編・プレゼント大作戦! 05 え? サンタが来た?




「おはようございます」
「おはよう、久遠……いや、楡岸さん」

気まずいまま、車から降りて更衣室に向かう途中で勝浦さんに会った。
気まずいといいつつ、しっかりと“いってらっしゃいのキス”は受けたんだけど。
それまでも拒否したら、きっと史明くんは再起不能だもの。
お互いなにか言いたげなまま、手を振って別れた。

「昨日はどうだった? 素敵なクリスマス・イブだった?」
「え? ええ……」
「旦那、張り切りってそうだもんね。あ! もしかして、これ……」
「はい、プレゼントです」
「おお……」
「…………」

昨夜、史明くんに貰ったクリスマスプレゼントのペンダントを指さして勝浦さんがニマニマと笑う。
随分前からきっと史明くんからのクリスマス・プレゼントはアクセサリーじゃないかと勝浦さんは予告していた。

「やっぱりアクセサリーだったね。婚約指輪といい周りの男どもを牽制するアイテムだもんね」
「そんな……きっと私があんまりアクセサリー持ってないから……」
「でも、センスいいよね。シンプルだけど高級感あるし」
「…………やっぱり高級品なんですかね?」
「えー? そりゃ、あんな大きな会社の副社長でしょ? それなりのモノを選ぶんじゃない?」
「…………」
「?」

無意識に真珠の部分を指で触れる。

「え? なに? まさか愛人と同じものだとか?」
「え!? あ、愛人って……そんなんじゃないです!」
「ハハ、冗談だって。それにしても、なんでそんなに浮かない顔してんの?」
「そんな……たいしたこじゃ……」
「えー? そう?」

話ながら更衣室のドアを開けて、自分のロッカーの前に立つ。
勝浦さんとは隣同士のロッカーで、荷物を入れると服を整える。
制服があるわけじゃないから、あまり華美な格好でなければ大丈夫な職場だから。

「勝浦さん、静乃さん。おはようございます」
「あ! おはよう、梨佳ちゃん」
「おはようございます」

更衣室を出て自分達のフロアに向かう途中、うしろから帆稀さんが手を振って足早にやって来るところだった。

「あ! それ、ふみクンからのプレゼントですか?」

向かい合った途端、帆稀さんが私のしてるペンダントを見つけて顔を近づける。

「ええ……」
「わあー可愛いけど洒落たデザインで、静乃さんに似合ってますね。さすがふみクン。静乃さんに関してのセンスは完璧ですね」
「やっぱりそう思うよね?」
「え? どうかしたんですか?」
「ううん……なんでも……」

自分ではそんなつもりはなかったけれど、帆稀さんには誤魔化すように笑ったみたいに見えたらしい。
急に顔つきが変わって焦りだした。

「まさかふみクン、プレゼントを秘書の平林さんに選ばせたとかじゃないですよね?」
「ええ!?」
「それとも裕平ちゃ……」
「ち、違うから! ちゃんと史明くんからのプレゼントだったから」
「そうなんですか……でも……じゃあなんで?」
「えっと……」
「なんだか、ご不満があるらしいんだよ。ね?」
「いえ……“コレ”については別に不満は……」

ペンダントの飾りの部分を弄りながら答える。

「じゃあ……もしかして、渡すシチュエーションが最悪だったとか?」
「え?」
「あのレストラン、予約するって言ってたんだけどな……」

腕を組んで、考え込むように呟く帆稀さん。

「あ、あの、ちゃんとあのレストランで食事もしたし。プレゼントもそこで貰ったから」

なんだか話が大きくなっていくようで、慌てて考え込むのを遮った。

「そうですか」
「ええ、ごめんなさい。変な心配させて……」
「ね? 不思議だよね。じゃあ一体なにをそんなに塞ぎこんでるんだか」
「ふみクンがなにか粗相をしたなら、私からも謝りますから……」
「…………」

史明くん、どれだけ帆稀さんに情けない人だと思われてるのかしら……。

結局始業時間まで少し時間があるからと休憩所に移動した。
帆稀さんと勝浦さんに気になって仕事にならない、なんて言われちゃったから。
それぞれ飲物を買って、空いてるテーブルの椅子に腰をかける。

「え? サンタが来た?」
「サンタ?」

今朝の事の顛末を話すと、二人同時にサンタ発言に反応した。

「そうなんです。どう考えてもサンタなんかじゃなくて、史明くんの仕業だと思うんですけど。本人はしらばっくれてるんでよね」
「この歳でサンタからのプレゼントって……聞いたことないかな」
「ですよね……」
「どうしてそんな面倒なこと、ふみクンはしたのかしら? 素直にプレゼントですって渡せばよかったのに」
「きっと私のせいじゃないかと……」
「え? 静乃さんの?」
「私、生まれも育ちもごく普通の一般家庭育ちだから、高額な買い物とかって躊躇しちゃうの。婚約指輪のときもそうだったけど、
あんまりにも自分の金銭感覚からかけ離れた金額を聞いちゃうと“もったいない”って思っちゃって……せっかくのプレゼントなのに、
素直に受け取れないというか、受け取る前に躊躇しちゃうっていうか。史明くんは、自分はそういうものを買える収入があるから
気になくていいって言ってくれるんだけど……どうしてもダメで。
だから買うつもりのなかった着物を見たとき、素直に喜べなくて。その前にちゃんとクリスマスプレゼントは受け取ってたから……
まさかまだ贈ろうとしてたなんて思わなくて。だから自分からじゃ受け取らないと思ったから、
サンタからって言ったんだと……」「んー普通は旦那が高給取りで、高いもの買い放題なんて飛び上るほど嬉しいと思うんだけどね」
「はあ……ごめんなさい」
「くすっ……まあそれが、楡岸さんっぽいって言えば楡岸さんっぽいんだけどね」
「ふみクンが今まで付き合った女性に、高額な贈り物はしてないと思うんですよね。海外に留学してたときは、親が会社の社長だって言ってなかったらしいし。
こっちに戻ってからは誰ともお付き合いしてなかったはずだし」
「だから本命には際限なく、プレゼントを贈りたいってこと?」
「私は本当にささやかなものでいいんですけど。気持ちがこもってれば、なんでも嬉しいし」
「あの……静乃さん、聞いてもいいですか?」
「はい?」

しばらく考え込んでいた帆稀さんが、なにかを思いついたように私に問いかけた。

「あの……バカにしてるとかじゃなくてお聞きしたいんですけど、静乃さんってパーティとかに着ていくドレスとか持ってるんですか?」
「え?」
「うちの母もですけど、きっとこれからは静乃さんもそういう社交場に出席することも多くなると思うんです。
既婚者はパートナーに奥さんを伴うのが常識ですし。副社長夫人として、静乃さんもふみクンと同伴することが増えると思うんです」
「…………」

そう言えば、結婚するとき私にも覚えてもらったりすることがあるって史明くんが言ってたわよね。
“そろそろ英会話も勉強してもらわないと”なんて言ってたし。

「そんなときに、やっぱりそれなりの服装じゃないと周りの目もあると思うんですよね。
着物なんかで言えば、帯だけで数千万のものを締めてくる人いますから」
「え!? 帯だけで?」
「はい。アクセサリーなんかも指輪ひとつで何百万、何千万のものをしてくる方もいますから」
「まあ、そうだろうね。そんなパーティに呼ばれるなんて、どこぞの社長や重役とか、セレブって言われてる人達だもんね。
もしかして、政治家なんかもいたりするかもね」
「セレブ……政治家?」

なんだか、テレビの向こうの世界の話みたいで頭の中がうまく回らない。

「企業も横の繋がりが大事ですからね。だから相手に見くびられないように、装いにお金をかけるのも仕方ないことなんです。
変な話、戦闘服みたいなものじゃないですかね。これだけのものにお金をかけれるのよって」
「せ……戦闘服?」
「たしかに、そんな場所に情けない恰好では行けないかもね」
「静乃さんにはまだ慣れないかもしれませんけど、きっとこれからそういう場へ出て行かなくちゃならないことが増えると思うんです」
「…………」

想像はしていたけど、当事者の帆稀さんから話を聞くと現実味が増してくる。

「だから、遠慮せず貰っちゃっていいんじゃないですか?」
「……え?」
「きっとこれから、その着物を着ていくことも増えると思いますよ。うちの母も何着も持ってますし、
宝石関係もかなりコレクションありますし。
逆に静乃さんがそれなりじゃないと、ふみクンだって甲斐性なしみたいに思われるかもしれませんし」
「……そう……思われるかしら?」
「旦那がオーダーメイドのブランドの背広なら、隣に立つ奥さんも釣り合う恰好じゃないとね。
旦那はなにしてんだってなる可能性はあるかもね」
「…………」

たしかに……そう思われるかもしれない。

「うちの母なんて、父にバンバンお強請りしてますよ。と言っても自分の誕生日とか、クリスマスとかイベントのときが主ですけど。
でも、それを着ていく場も多いですから。それに女は女で色々戦いの場があるみたいだし」
「ひゃあ〜〜コワイ! それ、コワイわ〜」
「……勝浦さん、脅かさないでくださいよ」

勝浦さんが大袈裟に自分の二の腕を手で擦る。
テレビドラマで、そんな場面を見たことがあるような気がしてドキドキしてきた。

「あ、ごめんなさい。脅かしたわけじゃないんです。でもきっとこれから、もっとそういった服が必要になると思うんで、
あんまり気にしなくていいんじゃないかと思うんです。
プレゼントの仕方は……まあちょっと問題があるかもしれませんけど……ふみクンなんで、その辺は大目に見ていただけると……」
「きっと、驚かせたかったんじゃない。サンタからなんて思ってもらえるとは考えてなかったと思うけどね。
きっとそのほうが素直に受け取ってもらえると思ったんじゃない」
「ふみクンもわかってると思います。静乃さんが堅実な人だって」
「……そう……ですね」
「これからは“副社長夫人”のお仕事も待ってるってことだね」
「私も協力しますし、いざとなれば母に相談すればいいですよ」

そうね……私、そんな人と結婚したんだものね。

「勝浦さん、帆稀さん。ありがとうございます。帰ったらちゃんと史明くんにお礼を言います」
「ダメだって、サンタがくれたことになってるんだから」
「あ、そうですね」
「ふみクン、きっと喜びますよ」

私はニッコリと笑って頷いた。
そのあとは、時間が来るまで3人で飲物を飲みながら過ごした。
話しながら、早く史明くんに会いたいと思った。









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