となりの拡ちゃん☆



01




オギャアと生まれたその時……拡(hiromu)ちゃんは10歳でお隣りの優しいお兄さんだった。


「何その子?」
「隣の颯子(souko)ちゃん」
「じゃなくて!何でデートに隣の子供が同伴なわけ?」
「どうしてもついていくって聞かなくて」

拡ちゃんが15歳私が5歳……
出掛けるという拡ちゃんの足にピッタリとしがみつきどんなに宥めすかされても
拡ちゃんの足にしがみついた腕は離さなかった。

「信じらんない!ちょっとお嬢ちゃんお家に帰んなさい!!」
「やあ!」
「ヤじゃないから!邪魔しないでもらえるかな?」
「ヤダの!!ヒロムちゃんといっしょ!」

私は目を瞑ってさっき以上にヒロムちゃんの足にしがみつく。

「離しなさいって!」

ヒロムちゃんのデートの相手が私をどうにか引き離そうと私の身体を引っ張る。

「やああああ!!びえ〜〜〜〜〜!!!」

私は辺り構わず大泣き。
5歳の子供ながらなんとなく察してワザと大袈裟に泣いた。

「なっ…」

相手の女の子は私の泣き声と周りの視線に耐えられないらしい。

「ちょっと椙田(sugita)君どうにかしてよ!これじゃ出掛けられないじゃない!」

相手の女の子はたいそうご立腹らしい。

「颯子ちゃん」
「ふえっ……」

ヒロムちゃんが私の名前を呼んで両手を広げながら屈んでくれる。
それは私を抱っこしてくれる合図。

「ヒロムちゃ……」

そっとヒロムちゃんに抱き上げられたあと私は素早くヒロムちゃんの首に両腕を廻してぎゅっとしがみつく。
ぎゅっとぎゅっと力を込めて…
私のほっぺにヒロムちゃんのほっぺがピッタリとくっつく。

「颯子ちゃん」
「………」

私の背中に廻されたヒロムちゃんの手が優しくトントンと叩く。

「悪いけど今日は帰るよ」
「え!?」

ヒロムちゃんがデートの相手にそう言うと相手の女の子が驚いた声を出した。

「颯子ちゃん連れて行けないし家に戻って出直すのも大変だし」
「何でそうなるの?」
「ごめんね。じゃあ」
「ちょっ……ちょっと椙田君!?」

女の子がヒロムちゃんを呼んでたけどヒロムちゃんは立ち止まったりしなかった。

泣いたのもあったしヒロムちゃんの抱き心地が良かったからかホッとしたからか
5歳の私から見たらとっても大きなヒロムちゃんの身体で抱きかかえられて
抜群な揺れ心地でウトウトとしだした。

「くすっ…眠いの?颯子」

ヒロムちゃんは私の事を時々呼び捨てにする。
その使い分けが何を基準されてるのかわからないけど何となく2人っきりの時に言われてるみたい…

「ふわぁ…」

でも子供の私にはその理由はわからない。

「いいよ。寝てな」

言いながらヒロムちゃんが私の頭をそっと撫でる。
大好きな大好きなヒロムちゃん……ずっと私のそばにいてね。

「ヒロムちゃ……だいしゅ…き……」

半分眠りに落ちながらでもちゃんとその言葉は言った。
だって……

「オレも好きだよ颯子」

って…ヒロムちゃんの返事がしたもん。

その後……知らないうちにヒロムちゃんと一緒に出掛けてしまったのを知ったお母さんに怒られた。

「ごめんなさいね拡君。いつも颯子が迷惑掛けちゃって……今度はいくら泣いても置いていっていいからね」

もうお母さんはまたそんな余計なことを言う。

「今日だってデートだったんでしょ?」
「いえ……文化祭で使うクラスの必要な材料の買出しを担当の子と行っただけですから。
別にもう1人の子だけでも大丈夫だったんですけどどうしても一緒にって言われて……
本当は行きたくなかったから逆に颯子ちゃんが来てくれて助かりました」
「あらそうなの?でもやっぱり拡君ってモテルのね ♪ 」
「そんな事ないです」
「あ!いつまでもごめんなさいね。ほら!颯子起きなさい」
「……くぅ……」
「もう」
「いいですよ。このままオレが連れて行きます。あっちでいいですか?」
「本当ごめんなさいね。この子拡君の事がお気に入りみたいで…ちゃんと自分のお兄ちゃんがいるのに……」
「いいですよ。オレも颯子ちゃん可愛いし」

そんな風に言ってくれたヒロムちゃんなのに……
高校生になったヒロムちゃんはいつの間にか私だけのヒロムちゃんじゃなくなってた。

お母さんが言うには同じ高校の女の子と付き合ってるって……
その後も他の女の子と付き合って…って拡ちゃんのおばさんが言ってた。

私もそんな拡ちゃんと拡ちゃんの隣に並んで歩く女の子を何度か見た。

でもそれは仕方ない…だってその時拡ちゃんは18歳……私は8歳。
何も言えなかった……

でも……どうしても辛くて……悲しくて……

「拡ちゃん!!」

拡ちゃんのお家のリビングのソファに座って寛いでる拡ちゃんの膝を跨ぐように座って呼びかける。
拡ちゃんは私がそんな風にしても怒ったり嫌がったりしない。
今でも拡ちゃんに抱っこされながら寝る時もある。

「何?颯子」

ほら……2人の時拡ちゃんは私の名前を呼び捨てにする。

「あのね私拡ちゃんのことが好きなの。だから付き合って!」
「付き合う?付き合うって?」
「拡ちゃんが他の女の子としてるみたいに」
「え?……う〜ん」
「いい子にするから。おねがい!」
「颯子はいい子だろ」
「もっといい子になる!拡ちゃんのいうこともきく!!」
「オレの言うこと聞いてくれるの?ん〜それでも颯子にはまだ無理だな」
「拡ちゃ〜〜〜ん!!」

いつものおねがいの声とうるうる眼差し攻撃!!

「じゃあ颯子が高校卒業したら考えてやるよ」
「こうこう?」
「今のオレの歳になったらな。颯子誕生日3月20日だから卒業してるし」
「18?あと10年あるよーー!!」

自分の歳に拡ちゃんとの歳の差の10歳を足して私はおもいっきり不貞腐れる。

「じゃあ無理」

すぐにそんな返事が拡ちゃんからかえって来た。

「え!わかった…じゃあ拡ちゃん待っててね」
「その時オレがまだ1人だったらな」
「え〜だれかといっしょなの?」
「さあどうだろう」
「そんなのやだ!」
「運が良ければオレと付き合える」
「本当?」
「後は颯子が18になるまでオレの事を好きでい続けてくれたらな」
「ずっと好きでいるよ!!拡ちゃんは?拡ちゃんは私の事ずっと好きでいてくれる?」
「ずっと好きでいるよ」
「本当!じゃあ他の女の子と一緒にいない?」
「それは無理だな」
「えーどうして?」
「男の事情」
「おとこの…?良くわかんない?」
「とにかく18だ。でも途中誰か他に好きな奴が出来たらさっさとそっちに行けよ」
「やだよ!ちがう人のところなんて行かない!拡ちゃんだけ!!」
「そうか……」
「拡ちゃん」
「ん?」
「このまましばらくいてもいい?」
「いいよ」

そう言ってくれた拡ちゃんの首にいつも通り腕を廻してぎゅっと力を入れてしがみつく。
そして自分のほっぺたをぴったりと拡ちゃんの胸に押し付ける。
拡ちゃんは私を胸に置きながらソファの背もたれに寄り掛かって器用に教科書を見てた。

「宿題?」
「テストがある」
「ふーん……頑張ってね」
「ああ」
「何かごほうびほしい?」
「ンン?ご褒美?」
「時々お母さんががんばったからって私がほしい物買ってくれるの。だから拡ちゃんは何がほしい?」
「颯子が何か買ってくれるの?」
「あ!……そっか」

私が持ってるお金なんてちょっとだ。おこずかいだってもらってないし……

「ごめんね拡ちゃん……」

あっという間にションボリだ。

「いいよ。気持ちだけもらっと……」
「ちゅっ ♪」

起き上がって拡ちゃんの首に抱き着いたまま拡ちゃんの唇に軽く触れるだけのキスをした。

「もうご褒美くれるの?颯子」
「あ……そうか」
「まあいいけど。先払いで貰っとく」
「がんばれる?」
「ああ」
「よかった ♪ 」

その時はこれが自分のファースト・キスだったとは思ってなくて……
本当に何も考えずごほうびを買ってあげることが出来ないと思って自然にしたことだった。


「ただいまぁ〜腹減った!」
「シッ!」

友達と遊んで帰ってリビングに入った途端7つ年上の兄が自分の口に人差し指を当てて俺を見た。

「え?ああ」

ソファに座ってる兄を見て納得。
兄の胸の中に隣に住んでる俺達の幼なじみ……と言うか妹みたいな女の子。
確か小学2年生の颯子ちゃんが兄の胸の上で気持ち良さそうに眠ってた。
それは彼女が小さな頃から見慣れた風景で俺はすぐに納得。

「何か掛けるもの取って」
「うん」

小さな声でそう言った兄にいつも彼女が眠った時に使ってるタオルケットを持って来て渡した。

「サンキュ」

そう言って兄が気を使いながら自分の胸の上に眠ってる颯子ちゃんにタオルケットを掛ける。

「胸から下ろせばいいのに」

いつも思う疑問。

「いいの。暖かいんだから」
「暑くないの?」
「全然」
「重くないの?」

これもまたいつも思う疑問。

「全然。心地良い重さ」
「そう」

まあ本人がいいって言ってるんだからいいか……なんていつも思って納得する。

「何だかお兄ちゃんが父親みたい」
「そう」
「うん。だって兄貴は楓也(fuuya)君がいるから兄貴には見えない」

楓也君は颯子ちゃんの本当に兄貴で俺と同じ年。
でも颯子ちゃんは自分の兄貴より俺の兄に懐いてる。

って言うか……好きなのか…な?だっていつも大好きオーラ出まくってるし。

高校3年の兄に小学2年の颯子ちゃんって……どう?
相手になんてされてないだろうな……颯子ちゃん……

だって兄には付き合ってる彼女いるみたいだし……
まだ幼い颯子ちゃんに付き合ってやってるんだろうか?

いつもこの2人の親密さには俺は頭を傾げてしまう。
だから兄の姿を颯子ちゃんを見守ってる父親の心境なのかな…って思うけど…


そんな2人の姿を見たのはそれからしばらくの間で…
兄が大学に進学するとそんな2人の姿を見る事は無くなった…





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