となりの拡ちゃん☆


04




「はぁ〜〜〜」

隣に拡ちゃんが住んでるのに……どうしてこんなにも会えないんだろう。

あれから仕事に向かう拡ちゃんを見掛けるだけで話したりはしてない。

いつ……結婚するんだろう?相手はどんな人なんだろう。
でもハッキリと拡ちゃんから聞いたわけじゃないから……本当じゃないことを願いたい。

どんなに冷たくあしらわれても……やっぱり私は拡ちゃんの事が好きで……
いまだに微かな希望にすがりついてる。
もしかして……なんて毎日思う。

でも悲しいかな受験生……これで受験に失敗したら目も当てられない。

私は短大に進む予定。
将来やりたい仕事につく為に通った方がいいという学校だから落ちるわけにはいかなかった。

あの日から蓮田君とは話してない。
同じクラスだから毎日のように会うけど話しもしない。

「拡ちゃんが助けてくれたまでは良かったんだけどな〜」

ドラマや小説ならあのあと2人で抱き合ってハッピーエンドなんだろうけどな……

「はぁ〜〜〜」

自分の部屋の机の上でうつ伏せになったまま溜息が止まらない。

このまま高校をちゃんと卒業して誕生日を迎えたら……本当に私と付き合ってくれるのかな?

まあ拡ちゃんが1人だったらってことだけど……
もし1人じゃなくても……最後に1度くらいデートして欲しいな……

それくらいのワガママ……言ってもいいよね?拡ちゃん。



それからあっという間の年が明け……受験の本番が訪れてどうにか志望校には合格した。

私には待ちに待った卒業式……あの日から……10年。

長かった……本当に長かったよーーー

本当なら卒業証書を持って拡ちゃんに見せたいくらいだったけど思い直してやめた。


そこからまた約2週間が長かった……でもとうとう運命の日がやって来た!!

私の……18歳の誕生日!!!3月20日!

直接拡ちゃんに会って話すのは勇気がなくて……メールで約束を確認した。

『今日会いたいんだけど』

そうメールで送るとちょっとしてから拡ちゃんから返事が来た。
こんな早い返事なんて珍しいけど内容が内容だもんね。
拡ちゃんだっていくらなんでも今日がどんな意味を持つかわかってるはず……

『○○駅の駅ビルにある 「モカ」 でPM6:00に』

指定された 「モカ」 というお店は全国チェーンを展開してるコーヒーの専門ショップ。
送られてきた返事……私はぎゅっと携帯を抱きしめた。

10年前に約束した日……

もし拡ちゃんが1人だったら……私と付き合ってくれるって言った。
その言葉を信じてずっと想い続けてた……

もしかしてそれはもう叶わないことかもしれないけど……
今日は……ワガママ……ちょっとくらいは言ってもいいよね?

だって……もしかしたら……今日で最後かもしれないし……

でも……もし……拡ちゃんが1人じゃなくても……これからもずっと想っててもいいよね?


だってもしかしたら……まだ望みがある……かも……




今日はなんてついてないんだろう……

余裕を持って家を出たのに今日に限って電車がどこかであった事故で大分遅れちゃった。
しかも携帯を家に忘れてくるという失敗までした。

拡ちゃんからの返事が嬉しくてずっとベッドに寝転びながら携帯を抱きしめてたらそのままベッドの上に
置いてきちゃったらしい。

ホントバカだ……

そんな運の無さは繋がってるんだろうな……

約束の時間に10分くらい遅れちゃって慌てて走ってると指定されたお店が見えて来た。
この駅ビルの中で結構人気のお店。

拡ちゃんもう来てるかな……こんな日に遅れるなんて……怒ってるだろうか。

「!!」
「え?」

もう少しでお店の入り口というところで……バッタリと会ってしまった。

誰と……会ったって……

「拡……ちゃん?」
「颯子……」

そう……別に何も不思議じゃない……だって拡ちゃんは私と待ち合わせしてたんだもん。
だからお店の近くで拡ちゃんに会ったって……おかしくなんて……ねえ……ないよね?

「なに?どうしたの拡?」

拡ちゃんと腕を組んでた女の人が……拡ちゃんの名前を呼ぶ。
大人の女の人……お化粧もちゃんとして…スーツ着てどう見てもバリバリ仕事してますって感じの……

私の頭の中は一瞬で真っ白になった。

「どうして……」
「颯子……」

「どうして?ねえ拡ちゃんどうして!!最後くらい私にだって優しくしてくれたっていいじゃない!!
なんで彼女なんて連れてくるの?私だって子供じゃないよ!!
そんなワザと付き合ってる相手連れて来なくたってちゃんと聞き分けられるよっっ!!!」

「あら……どうしたの?この子」

「!!」

いきなり怒鳴った私を拡ちゃんの彼女が驚きながらそれでいて呆れたような言い方だったから
余計止まらなくなった。

「そんなに迷惑だったんならさっさと結婚しちゃえば良かったじゃんっ!!
なに?そんなに悩んでる私見てるのが面白かった?いつまでも約束約束って言ってる私が……
拡ちゃんを想い続けてる私が鬱陶しかった?
子供が大人の拡ちゃんを好き好き言ってるのがそんなに面白かった!!」

「颯子!!」
「なに?結婚って……拡そうなの?やだ…そんな」

目の前で彼女がニコニコしだして……照れて……そんなの見たくもなかった。

「颯子落ち着けって……イテッ!!!」

近付いてくる拡ちゃんの足を思い切り ドカリ!!と蹴飛ばした!
そのくらいやられて当たり前なんだから!!

「乙女心を踏みにじったバツよ!思い知れっ!!拡ちゃんのバーーーーカっ!!!!」

「なっ……」

私はそう言い捨てるとその場を一目散に走り去った。


ああ……私の10年……最後がこれか……なんて惨め。

でも……でもね……一番のショックはね……

私……拡ちゃんにあんなにも嫌がれてたなんて……知らなかったってこと……


泣きながら歩いて……思い出すのは小さかった頃の拡ちゃんとの思い出……
あの頃は良かったな……抱っこしてもらって……拡ちゃんの胸の上で眠って……

そういえば私のことも好きって言ってくれたよね……

「うっ……」

もう……いいや……
そうだよ……早く結婚しちゃえばいいんだ!!そしてあの家から出てってもらって……

私も新しい生活をスタートさせるんだから!!!

拡ちゃんの事なんて……拡ちゃんの事なんて……忘れ…て……忘れ……

忘れられるかな……拡ちゃん………苦しいよ……悲しいよ……





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