keep it up! 番外編 親切の行方



01




「もうまいったな〜〜どうしよう」

田舎道ではないけれど見渡す視界に入ってくるのは田んぼと遥か遠くに見える数軒の住宅。

「あ……JAFだっけ?私こういうの良くわからないのよね」

会社の車で緊急の書類を取引先の会社に届けた帰り道の出来事だった。

「こんなところでパンクなんて……」

走ってる最中にパシュっと音がしたと思ったら車がガタガタとなってハンドルが取られる感じになって……
車を停めて確かめると助手席の後ろのタイヤに金属の破片が突き刺さってた。

「タイヤ交換なんてできないし……やったこともないわよ〜〜一体どこに連絡したらいいの?」

来る途中にガソリンスタンドもなかったしな……
流石に警察はないだろうし……うーん……
なんて悩んでたら一台のバイクが走って来て停めてあった車のちょっと先でとまった。
慣れた動作でバイクのエンジンを止めて被ってたヘルメットを取る。
まだ後ろ姿だったけど茶髪の髪に服の上からでもわかる男らしい引き締まった身体に若い男の人だとわかる。
私は急に現れたそんな男性にちょっと期待しながらドキドキとしてた。
だって後ろ姿でもカッコイイとか思っちゃったから。

バイクを降りて私の方に振り向いた相手はそんな私の期待を裏切らない男の人だった。

日に焼けた浅黒い肌に服の上からでもわかる胸板。
ちょっと乱れた髪の毛を後ろにかき上げて現れた顔は男らしくて男の色気も漂うような男の人だった。
一発で心臓がドクンと跳ねてしまった。

「どうした?故障か」

こっちに近づきながら彼が話しかけてきた。

「あ……はい!タ…タイヤがパンクしちゃって……」
「ふーん……もしかしてタイヤパンクしたの初めて?」
「はい。もともと車もあまり運転しないし近くにガソリンスタンドもなくてどうしたらいいのか困ってたんです」
「まあ女でタイヤ交換できる奴なんてそういないだろうな。今時男でも怪しいから」

そう言いながら車に沿って歩くとパンクしている後ろのタイヤを見る。

「パンクしたのこのタイヤだけみたいだな」
「はぁ……」
「車いじっていいか?」
「はい?」
「俺がタイヤ取り替えてやるよ」
「え?あの……でも……」
「慣れてるから任せろ」

その言葉と一緒に見せた笑顔がまたカッコイイ。

「本当にお願いしていいんですか?何か用事があったんじゃ?」
「いや。もう済んで帰るところだから気にするな」

慣れてると宣言したとおり彼はテキパキと車からスペアのタイヤと工具を出すと
あっという間に取り替えてしまった。

「すごい手際がいいですね」
「まあこれで飯食ってるからな」
「え?」

咥えてたタバコを手で持つ仕草がまた似合う。

「後はパンクしたタイヤ持ってガソリンスタンドに行きゃパンクは直してくれる。
そしたらまたタイヤつけ替えてもらえばいい」
「わかりました。本当になんてお礼を言ったらいいのか……
あの今は無理ですけどちゃんとお礼がしたいので携帯の番号教えてもらっていいですか?」

素直にそう思ったからで決して下心からではない。
そりゃまったくなかったとは言わないけど……

「いやいい。気にするな。困ってるときはお互い様だ」
「でもそれじゃ私の気が……」
「ホントいいって。じゃあ気をつけて帰れよ」
「あ……」

言い終わった時には彼はヘルメットを被ってバイクに跨がってた。
すぐにエンジンがかかって彼は一度も振り向かずに走り去った。




「えー!じゃあ結局名前も連絡先も聞けなかったの?」
「うん……お礼がしたいからって言ったんだけどいいって言われて」

あのタイヤのパンクした日から3日後私は同僚の女の子3人と
全国チェーン店の居酒屋に飲みに来ていた。
座敷タイプの大広間で6人ほど座れる大きなテーブルが6台ほどあって
私達以外のテーブルもすでに埋まってた。
隣のテーブルにはサラリーマン風のグループが注文をし始めていた。

そこで先日パンクしたタイヤを取り替えてくれた男の人がタイプだったにもかかわらず
そのまま別れてしまったと愚痴っていたのだった。

「そんなにタイプだったんだ? カッコよかったの?」
「うん♪ ちょっと危なそうな感じなんだけど優しくて男らしい人だったなぁ〜」
「ふーん……肉食系ってヤツ?」
「うん。そんな感じがピッタリ」
「ふーん」
「もう二度と会えないんだろうな……はぁ」
「運が良ければまた会えるんじゃない?そしたらそれは運命かもよ〜〜」
「まさか……そうだったらいいんだけどなぁ〜」

ニヤリと笑われてしまったけどそんな偶然早々あるわけがないってば。
そんな叶わない望みを呟きながらビールをゴクゴクと飲んだ。

それから20分ほど他愛のない話しをしてた。
仕事のことやお互いの恋のこと……久しぶりに気兼ねしない友達同士で話に花が咲いた。


他のテーブルでもお酒が入ってか部屋全体がザワザワとざわめいてちょっと声を大きく話さないと
聞こえないくらいだった。
そんなとき隣のテーブルが一際騒がしくなった。
別に意識したわけじゃなくふと隣のテーブルに目がいった。

「おー!やっと来たかーー!!」
「遅せぇぞ隼斗!!」
「悪りぃ」

「!!」

すまなそうに隣のテーブルにやって来た男の人を見て私の心臓がドクン!と跳ねた。

「あ……あ……」

「座れ座れ!今日はじっくり話し聞くからな。隼斗」
「おう」
「ったくよーー!!今日はお前の奢りだぞ」
「なんでだよ。普通逆だろ!お祝いに俺に奢るもんだろうが!」
「バカ野郎!幸せ満喫してるお前がオレ等に奢るもんだろうが!」
「ヤダよ」
「カアーーーー心の狭い男だねぇ〜〜」
「そういう問題じゃねーって」

「…………」

私は隣の人達にわからないように横目で彼の様子を窺ってた。

「潤子どしたの?」
「へ?」

ユサユサと肩を揺すられて彼とは反対側の隣に座ってる優菜に振り向いた。

「顔!間抜けな顔してるよ?酔った?」
「え!?あ……いや……その……いた!」
「「「 は? 」」」

私以外の皆が頭にハテナマークだった。

「いいい……いたの!さっき話してたタイヤ交換してくれた彼が……」
「ええ!?どこ?」
「と……隣」
「え?ウソ!?隣?」

私はコクコクと何度も頷いた。
優菜達が隣のテーブルをじっと見る。

『誰?』
『どこに座ってるの?』
『と……隣』
『へ?』
『私の隣!!』

そう……なんとあんなに会いたかった意中の彼がホンの数十センチ離れた隣に座ってるのよ!!

『声!声かけなよ!』
『ええっっ!?や……無理!』
『もう何言ってんのよ!こんなチャンスないって!』
『どうせ忘れてるよ……それに彼女だっているかもしれないし……』
『そんなこと今は関係ないでしょ!とにかくチャンスよ!チャンス!行け!!』
『…………』

何事にも積極的な優菜が私の脇腹を何度も小突く。
だから……無理だってーー!!

「はうっ!!」

小突いた場所が悪かったのかどこかのツボにハマったのか
かなりの痛みが脇腹に走って変な声まで発して勝手に身体が跳びはねた。

そしてあろうことか隣のテーブルに倒れ込みなんと
あの人に肩が思いきりぶつかってしまった。





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