keep it up! 番外編 親切の行方



03




「うぅ……飲みすぎた……かな?」

トイレの鏡の前で真っ赤な顔のトロンとした目の自分を見てそう思った。
つい調子にのって飲みすぎたらしい。
だって……飲まずにはいられなかったというか……隣の彼を見ながら飲むお酒が美味しかったとか……
まあ理由は何個かあったのかな?

「お」
「ふえ?」

ふらつく足でトイレから出ると出てすぐの廊下で彼とバッタリ出くわした。
ああ……彼もトイレだったの?気づかなかったよ。

「大丈夫か?」
「へ?」
「顔真っ赤だぜ」
「あ……ハハ……ちょっと飲みすぎたかも」
「もう酒はやめたほうがいいんじゃないの」
「はい……そうします」

うっすら笑顔で言われてしまった。ハイハイなんでも言うこと聞きますよぉ〜。
ああ……相変わらず優しい人だなぁ……いいなぁ……こんな人が旦那さんなんて……
奥さんって一体どういう人なんだろうな……
きっと年下で守ってあげたくなるような可愛い子なんだろうな……
顔がモザイクなのにウフフと笑ってる奥さんのイメージが酔った頭の中に浮かんでしまった。

そのとき酔った勢いなのか何かのスイッチが入っちゃったのかな?

「あ……あの!!」
「ん?」
「やっぱりお礼させてください!!」

おお!お酒の力はスゴイ!考えるより先に言葉が口から出ちゃったよ。
ってやっぱりお酒の力?

「え?ああ……ホントいいって。気にすることないから」
「いえ!あのっ!お食事くらい奢らせてください!!あなたが通りかからなかったら
私あそこでどうしたらいいかわからなかったし」
「そんな大袈裟な」
「いえ!車オンチナメたらダメです!」
「え?」
「ご馳走させてください!!」
「ええ!?……まいったな」

ひゃあ〜〜私ったらなんて強引なっ!!すごい。お酒の力ってすごいわ!
もう頭の中がホワンホワンしてて身体もフワフワしてる。

「え?あ……オイ」
「……はれ?」

目が……回る?

「オイ大丈夫か?飲み過ぎだっての」
「え?あ……あれ?」

気づけば彼の腕の中。
しっかりと受け止められてて……ああなんか気持ちいい。

「オイしっかりしろ。寝るな」
「気持ちいい……です」
「オイ!」

もう何も考えられなくて……どうせ叶わない恋だもん。
あっという間に失恋で……ああ……本当夢みたい。
ううん……きっと夢だよ〜〜最後に恋の神様がいい思い出作ってくれたのかも。

夢ならもうちょっといい思いしてもいいかな?
なんて素面なら絶対しない男性に抱きつくなんてことをしてしまった。


「隼〜〜斗〜〜」

「!!」

「?」

私の背中越しに誰かが彼の名前を呼んだ気がした。
そのとき彼の身体がビクリとなったのに気づいた。
え?誰?

「これは一体どういうことなのかしら?」
「ちょっ……ちょっと待て!千夏!!こ……これはその誤解だ!!」
「へぇ〜〜こんな人目を避けたところで抱き合っててなにが誤解なのよ?」
「こ……ここにいるのはお互いトイレに来ただけだしこの子は酔ってて……
ってかお前こそなんでここにいんだよ!?」

「やかましいっっ!!いい訳すんなっっ!!」

「イデッ!!」

スコーーーン!!っと音がしてカツンと何かが床に落ちて転がる気配。

「ワザと指輪おいてったのはこういうことするためだったんだ!!」
「え?なに?指輪??ってお前なに指輪投げつけてんだよ!ああ……どこいった?」

「隼斗のバカッ!!浮気者!!!離婚よ!離婚っっ!!別れてやるっ!!」

「ちょっ……千夏!待てって!!オイ!!こらっ!!」

「……へ?」

目の前でなんだかドラマのような展開が繰り広げられてるみたいなんだけど……
彼は私を離すと何かを床から拾って駆け出した彼女を追いかけて行った。

「……え?……浮気??……離婚???」

酔った頭でそれらの単語を繰り返しながら意味を考えた。

「……え?」


これはひょっとして私は彼にとんでもな迷惑をかけてしまったんじゃないかと

酔いの冷めてくる頭で思った。

酔いって一瞬で冷めるものだとそのとき初めて知った。





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