keep it up! 番外編 お騒がせな社員旅行☆



01




「○○コーポレーションの創立30周年と、さらなる発展を祝って!乾杯ーーー!!」

大広間に乾杯の言葉と、グラスを合わせる音が響く。
今日は久しぶりの社員旅行の真っ最中。

ここ数年社員旅行はおあずけになっていたけど、一昨年辺りから少しずつではあるけれど業績が向上して、
尚且つ今年は創業30周年という節目にも当たるため、会社も久しぶりの旅行を奮発したってわけ。
それなりの大所帯の社員を2グループに分けての旅行で、私達は先のグループ。
来週後半のグループが旅行にいくことになってる。

「さあー飲むぞーー!食べるぞーーー!!」
「んーなんかこんな雰囲気久しぶりでウキウキするね」

隣に座ってる同期の望美が浴衣の袖をまくって宣言する。
私もさっそく箸を持ってお刺身に手を出した。

「は〜〜美味しい〜〜そう言えば隼斗君、丈夫だったの?」
「大丈夫って?」
「だって千夏が家を空けるなんて、久しくないんじゃない?あたしとも旅行に行った記憶が、
遥か遠い昔の気がするんだけど。だから、なにもなく素直に送り出してくれたのかな〜ってさ」
「ああ……まあそれなりに文句あったけど、だからってそんなの仕方ないじゃない?黙らせてきたわよ」
「ふ〜ん確かに隼斗君うるさそう」
「要らん心配ばっかりでさ。エロビデオの見すぎじゃないのって思うよ」
「アハハ!ヤダーー “OL温泉乱れ旅” とか?」
「ちょっ!恥ずかしいからそんな大きな声で言わないでよ!」
「だってなんか想像するとね?きっと隼斗君の頭の中じゃ、千夏のあられもない姿が浮かんでるんでしょうね」
「それってセクハラ?」
「でもね〜千夏ってばなかなか悩ましい浴衣姿ですわよ♪」
「え?」
「この項もね〜」
「ひゃっ!」

つつーーっと望美が指先で、私の項を撫でるから変な声が出ちゃったじゃないのよ!
髪をアップにしてて、確かに項が見えるけど……私だけじゃないじゃん!

「もう!」
「このチラリと覗く胸の谷間も」
「ちょっと!ホントセクハラ!」
「あたしと千夏の仲だからいいの〜」
「もう酔った?」
「まさか〜これからよ♪」

そう言って望美はビールの入ったコップを持ち上げると、一気に飲み干した。

それからしばらくは皆食事やら歓談なんかで落ち着いた雰囲気だったけど、30分を過ぎた頃からあちらこちらで
勝手に盛り上がるグループができてきた。
今のご時世で、そうそうセクハラなんてものはないけど、お酒が入れば普段と変わる人もいる。
しかも、浴衣なんてスタイルは余計そんな気分を盛り上げるのかもしれない。

って隼斗が口煩く喚いてたな。

『男にとって、肌蹴た浴衣の裾からチラリと覗く生足なんて生唾もんなんだぞ!ムラムラこないほうがおかしい!
酒の勢いもかりて、千夏に言い寄ってくるかもしれねーだろ!』

だから、AVの見すぎだって。
万が一そんなのが来たって上手くかわすっての。
そんなことを思い出しつつ、望美や周りの同僚と話してたら視界が陰った。

「?」

見上げれば同じフロアの違う部署の男性社員ふたりが、私と望美と私の間に顔を突き出してた。
見たことのある顔だったけど、名前は曖昧。
いつもネームプレートで名前を確認してたから。
だって仕事でも接点なかったし。

「楽しんでますぅ?水森さぁん」
「はあ」

どうやらすでに出来上がってるみたいで、顔が赤いしお酒臭い。

「はい、楽しんでますよ」
「いや〜まさかこんなふうに水森さんとお近づきなれるチャンスがくるなんて、思ってもいなかったなぁ」
「はあ……」

こっちは別にお近づきなんてなりたくなかったけど。

「このあと俺達と一緒にホテルのバーで飲みません?」
「そうしましょうよ。普段なかなか話す機会もなかったし」
「そうそう、それでこれからもお近づきなれれば……」

いや、私達は全然お近づきなんてなりたくないんですけどね。
男ふたりを挟んで、望美と視線を合わせてウンザリしてしまった。

「おーい!水森と前田!ちょっとこっち来て酌してくれ」
「あ!はーい」
「え?あ!ちょっと……」

呼ばれたほうを見れば、私と隼斗と同じ高校だった柚月先輩が呼んでいた。

「すみません。この後は部屋で女子会って約束してるんです。それに “主人” がヤキモチ妬きでうるさいので、
今日もこれから先も個人的におつき合いするのは無理ですわ」

オホホ〜〜とつきそうな断り文句を言って立った。

「あたしも彼女と同じく、彼がとんでもなくヤキモチ妬きなので無理ですぅ」

望美もオホホ〜〜ご免あそばせ〜と続きそうな言い方で立ち上がる。
呆気にとられてるふたりを残して、私と望美はスタスタとその場を離れる。

「いつの間に彼氏ができたの?望美さん、初耳なんですけど」
「ウソも方便よ。誰があんな下心丸出しの男なんて相手にするかっての」
「うーん確かに」

誘いながら、視線はしっかりと人の身体を上から下まで舌なめずりしながら見てたもん。

「それにさ、千夏の結婚指輪見てないのかしら」
「さあ、わかってて声かけてきたとか」
「なんでそんなにがっついってんの?ヤダなー」

そんな話をしながら柚月先輩のところに来ると、先輩はニヤニヤしながら私達を見てた。

「大丈夫か?」
「はい、ありがとうございました」
「まあこういう場じゃ、ああいう奴がいてもおかしくないんだけどな。他の奴なら放っておくけど、
隼斗の嫁さんと嫁さん友達じゃ見てみないフリもできないし」
「助かりました、柚月さん。もう少しで身体を触られるところでした」

私を通して先輩と顔見知りの望美が、身体を擦りながら頭を下げる。

「やっぱり?あいつらの手がムズムズしてたの、こっからでも丸わかりだったしね」
「なに勘違いしてんですかね」
「まあこんな雰囲気だから調子に乗っちゃったんじゃない」
「ホント助かりました。はい、柚月先輩どうぞ」
「え?ああ、サンキュ」

口実に酌をしてくれと呼ばれたけど、お礼の意味も込めて先輩のお膳にあるビールの瓶を持った。
望美も隣に座ってる男性社員にビールを注ぎ始めた。
先輩の周りに座ってた人達はお酒の力とこの雰囲気にも調子に乗らず、とっても感じのいい人達ばかりだった。

「隼斗うるさくなかった」
「え?ああ、でも社員旅行だし、これも会社に勤めてれば仕方ないことじゃないですか。
それに、たとえ一晩でもアイツから離れられるなんてちょっと息抜きできて清々するっていうか」
「はは、アイツ相変わらずだもんな」
「相変わらず以上ですよ」

あのふたりだけの旅行から隼斗はなんの遠慮もなくなったから、毎日毎日……お互いの仕事の間以外の時間は私にベッタリで、
ときどき鬱陶しく思うときも無きにしも非ずというか……。
とにかく、毎日私に関する色んなコトに全開のだ。

「あんな高校生活だったけど、お前のことは一途だったしな」
「一途……ですか、ね?」
「まあ、同じ男としてわからないわけじゃないけど」
「先輩にはそのころからお世話になりっぱなしで」

ホント、高校時代を思い返すと柚月先輩には色々とお世話になってしまってた。
特に隼斗に関して。

「でも無事に納まるところに納まってよかったんじゃないか」
「はあ……なんとなく癪なのは癪なんですけど」
「はは、その分これから隼斗に返してもらえばいいんじゃね?俺もそうするし」
「え?」
「アイツのために昔から俺がどんだけ手を貸してやったかって話」
「?」

なんだかよくわからなかったけど、隼斗が高校時代から先輩にお世話になってたのはわかってたからとりあえず頭を下げた。

「気の済むまで隼斗をコキ使ってくださってかまいませんから」
「そうする」

そのあと少しして自分達の場所に戻ると、さっき私達に声をかけてきた男性社員は他の女の子達のところで楽しそうに話してた。
あんだけ露骨な態度をとって拒否した私達より、ノリの合う女の子のほうがいいもんね。

「よかった〜他の相手見つけたみたいだね」
「うん、でもいいのかな?あの子達大丈夫かしら?」
「子供じゃないんだから自分達で判断するでしょ?それに、あの子達もまんざらでもなさそうだし」
「そっか」

ちょっと心配する私とは逆に、望美はあっけらかんとしたもんだった。
まあ、確かにそうだよね……これをキッカケにお付き合いが始まるかもしれないし。


それから少し経って宴会はお開きになった。
私と望美はお風呂に入ることにして、支度をして風呂場に向かった。





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