keep it up! 番外編 お騒がせな社員旅行☆



03




「あら、おはよう千夏さん」
「お……はようございます……なんだか、色々お世話になりました?」
「なんで疑問系なのかしら?そうね、お世話しましたかしら?」

次の日の朝、なんとか朝食の時間ギリギリな時間で自分の部屋に戻ることができた。
本当は昨夜のうちに戻るつもりだったのに……隼斗の奴め、本当に部屋に帰る体力まで奪い尽くしたな……。
ちょっとヨロめくのは、見なかったことにしてほしい。

「充実した時間を過ごされたようで、なによりですわね、奥様」
「うぅ……もうなにも反論の余地はありませんです……」

ヨロヨロとしながら部屋に入ると、もう同室の他のふたりはいなかった。

「加藤さん達は?」
「もう先に行ったわ」
「なにか……言ってた?」

社員旅行で旦那が来てるからと、夜に部屋を空けるなんて呆れられても仕方ない。

「別に追求はされなかったわよ。“アツアツですね♪” とは言ってたけど」
「はは……」

もう弁解の余地なんてないし、笑うしかない。

「お疲れのところ悪いけど、もう行かないと」
「うん」

望美に腕を両手で絡められ、支えられるように食事が用意されてる宴会場へと向かった。



「え?なに?」
「ん?」

宴会場に向かう途中のちょっと広めの廊下で、多分ウチの社員だろう人達がザワザワとざわめきながら集まっていた。

「なんかあったのかしら?」
「なんだろう?」

私も望美も遠巻きに見ててワケがわからない。
そんな中、なんだか甲高い声がときどき聞えてくる。
言ってる内容はよく聞き取れないけど、どうやら結構な剣幕で文句を言ってる感じ?

「どうしたの?」

望美が傍にいた女子社員に声をかけた。

「いえ……なんだか……あっ! 水森さん!?」
「え?」

声をかけた望美に返事をしながら、隣にいた私を見てナゼかギョッとされた。
しかも、その声で周りの人も一斉に私を見る。

「え?なに?」

私はワケがわからなくて、周りのなんとも言えない視線に戸惑うばかり。

「水森ですって?」

さっきまで遠くで聞えていた甲高い声が、私の苗字を叫んだ。
そして私の周りがサッと一歩引いて、私と望美だけが取り残された。

「え?なんで?」
「…………」

さっきからワケがわからず、周りをキョロキョロするばかり。
でも誰もなにも言ってくれないし、教えてくれないから望美とふたりその場に立ち尽くしてたら、
よけてできた隙間をひとりの女の人がもの凄い怖い顔でこっちに歩いてきた。

「千佐子!」

その後からきっと女の人の名前なんだろう、呼び止める声がした。

「どっちが水森さん?」
「え?あ……はい、私ですけど」

私と望美を見比べて、尋ねてくるから素直に答えた。
そしたら次の瞬間……。

「この泥棒猫っ!!」

そう叫ばれて思いっきりバシン!と頬を叩かれた。

「………っつ!」

左の頬がジンジン痛い。
突然のコトでワケがわからなかった。

目の前に立っているのは私よりちょっと年上の小奇麗な女の人で、でも私は見覚えがなくて余計にワケがわからない。
なんでいきなり叩かれたのかも、なんでこんなにワナワナと震えるほど怒っているのかも。

「ちょっと!イキナリなにするんですか!!」

隣にいた望美のほうがいち早く反応した。

「泥棒猫だから泥棒猫だって言ったのよ!人の旦那に手を出すなんて!」
「は!?」
「!!」

人の……旦那に手を出す?
旦那って……隼斗のこと?
え?隼斗ってばこの人と結婚してたの?

「え?ウソ……」
「惚けるんじゃないわよ!ちゃんと調べはついてるんですからね!」
「…………」

いや本当に、なにがなんだかワケがわからないんだけど。

「千佐子!いい加減にしないか!」
「あなたは黙ってて!」

慌てまくってやって来たのは確か人事課の……課長だったっけ?
えっと……高平課長?

あとから加藤さん達に聞いた話だと、以前から女性関係に色々噂のある人だったらしい。
奥さんも前々から相手は社内の人だろうと感ずいていたらしく、最近なにやら決定的になったのだとか。
だからこの社員旅行でも奥さんの目を気にせず浮気するには絶好のチャンスだろうとふんで、今までの不満もあって
現場を押さえようと宿泊先のホテルまで乗り込んできたというわけだ。
しかも早朝に。
良かったのか悪かったのか奥さんの予測通り、居るはずの課長の部屋に課長はおらず浮気が発覚。
私と同じように朝になって帰ってきたところを、待ちかまえてた奥さんに捕まったというわけだ。
なんとか誤魔化そうとする課長だったが、部屋にいなかったことをどうしてもうまく納得させることができず、
どうにもならなくなってたところにどこの誰だかわからないが、私が全く会社とは関係ない階の部屋から
コソコソと出てきたところを見かけたとボソリとこぼしたのが浮気相手を追求してた奥さんの耳に届いたらしく、
物凄い形相で追求され、仕方なく私の名前を言ってしまったんだとか。
まあ、身体を引きずるようにヨロヨロと歩くのを目撃してたのなら、夜の間にナニがあったのかなんて
想像できてしまうのは仕方ないのかもしれないけど……。

ここで課長が “違う” と否定してくれればいいものを、ナゼか無言でいたらしく益々奥さんの怒りは頂点に。
加藤さん達も私が旦那の隼斗といたのは知っていたけれど、社員旅行で会社に黙って旦那と別の部屋で
一緒にいたことをこの大勢の前で言っていいものか迷ってしまったらしい。
そうこうしてるうちに私が現れてしまったというわけだ。

「千佐子いい加減にしないか!とにかくここじゃ落ち着いて話ができないからあっちに」
「触らないで!もうハッキリさせましょう!この女なんでしょ?あなたの相手はっ!!」
「だからその話はここじゃ……とにかく落ち着け」
「落ち着いてるわよ!あなたの言い訳をじっくりと聞かせてもらおうと思ってるもの」
「高平課長……」

その話し合いに、私は行かなければ行けないのだろうか?と素朴な疑問だった。
いいから、私は関係ないって奥さんに言ってくださいよ。
今さら遅いかもしれないけど。

「馴れ馴れしく主人を呼ばないでちょうだい!いい加減あなたも認めたらどうなの?」
「ですから私は……」

認めるもなにも関係ないんだって。

「往生際が悪いわよ!」
「あっ!」

今度はグイッと浴衣の衿を掴まれた。
そのちょっと肌蹴た胸元に、昨夜隼斗につけられたキスマークが!
ザワリと周りもざわめく。

ち、違うんだけどーーーーー!!!もう!!隼斗の奴めーーーーー!!!
八つ当たりっぽいけど隼斗を責めずにはいられない!!

「なっ!やっぱりあなただったのね!」
「いえ…ちがっ……」
「言い逃れできると思ってるの!これが確かな証拠じゃないのっ!」
「ちょっ……」

浴衣の衿を掴まれながら、奥さんの片手が上がる。
また叩かれるとギュッと目を瞑った。





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