keep it up !


08




本当に…至って穏やかな車での道のりだった…
平日で道もそんなに混んでなくてスムーズに進む。

「ホントナビって便利」

私は感心した様にマジマジとナビを見る。

「音声案内だもんね…ホント便利」
「千夏は車の運転しないもんな。折角免許あんのに…帰り運転するか?」
「やっ…ちょっと冗談でしょ?ペーパーもいいとこでしかもこの車じゃ私にはデカすぎだし」
「じゃあ家にある代車の軽で練習するか?付き合ってやるよ」
「そうね……運転できたら楽かな?でも早々使わないからな…通勤電車だし」
「まあ気が向いたら言えよ。付き合ってやるから」
「うん…その時はね…」

なんて…本当に当たり障りの無い会話がずっと続いてた…

途中寄った 「オモチャの博物館」 や 「オルゴール博物館」 でも
ごくごく普通の2人…

ただずっと隼斗は私の手を繋いでたけど…

でもそれ以外はいつも(?)の家での態度で…段々気にしてる自分が馬鹿らしくなって…

そうよね…いくら両親が来れなくなったからって元は家族旅行の様なもんだったんだし…
そう言う心の準備だったんでしょうね…

これで 「何かありました」 なんて親に顔向けできないって思ったんじゃないのかしら。

まあ私としては勿論それが希望だったし…よしよし。

「何だよ?」
「え?」
「薄っすらと笑ってんだけど?キモイ…」
「なっ!!し…失礼ね!!この状況を楽しんでるんでしょ!!折角の旅行なんだから!!」
「ふ〜ん…どうする?お土産買うか?」
「買うわよ!私オルゴール好きだもん ♪」
「そういやガキの頃から好きだったな」
「うん…この何とも言えない可愛い音がいいのよね〜〜 ♪」
「じゃあオレが買ってやる」
「え?ホント??」
「親父に軍資金貰ってるし」
「え?そうなんだ」
「元は社員旅行だろ?当たり前じゃん」
「そっか…」
「だから昼飯も奮発してやるよ。何食いたい?」
「そうね……じゃあちゃんとした座敷のある所で食べる?確かこの先にあったってガイドに…」
「よし。じゃあお土産買ったら行くか」
「うん。あ!あと遊覧船にも乗りたい」
「OK!飯食ってそれ乗って最後にその辺適当に見たらチェックインの時間か?」
「そうだね…丁度いいんじゃない?」

そんな会話をしながら決めた通りに予定は過ぎていく…

見た場所も…モノも…船も…食べ物も……
全部私にとって楽しくて嬉しくて……気分は最高だった。

「楽しんでるな…千夏」
「うん。来て良かった」
「そう……」

隼斗がタバコを吸いながらフンワリと微笑む……
そんな笑顔に私も素直にニッコリと微笑んで返した。



「ではお食事は6時と言う事で…」

「はい。お願します」

そう挨拶を交わして担当の仲居さんが頭を下げて部屋を出て行った。
滞りなくすんなりとホテルにチェック・インした私達は予約してた部屋に案内された。

「へ〜なかなかいい部屋だね」
「ああ…」

部屋は12畳ほどの和室とすぐ隣の板の間にシングルのベッドも2つあって
その足元にはソファのセットが置かれてた。

ベッドが2つって事は私と隼斗がそれでお義父さん達は布団だったって事かな?

「千夏」
「ん?」
「川…」
「え?」

そう言えばさっきから水の流れる音がしてる…
隼斗が立ってる窓際に近付くと窓の下に渓流が見えた。

「露天からの眺め楽しみだな」
「そうね…」
「さっそく入ってくるか」
「……うん」

そんな返事を返しつつ……私はちょっと気になり始める……
今まで気が紛れてて気にしてなかった……隼斗と2人っきりって言うことに……


「じゃあ30分後にここで待ち合わせな。それとももっと後が良いか?」

隼斗が大浴場の入り口のロビーで真面目な顔で言ってる…
それが何だかおかしいけど黙ってる。

「ううん…そんなに長湯したらのぼせちゃうかも。また何度か入る予定だから大丈夫」
「そっか…じゃあ30分後にな」
「うん」

そう言ってお互いそれぞれ男湯と女湯に別れた。


「ふぁ〜〜気持ちいい〜〜〜 ♪♪」

身体を流して髪の毛やその他諸々の事を済ませると私もまず中のお湯から浸かってそんな声を出す。

本当に温泉なんて久しぶりで…はぁ〜〜和む〜〜

ここでも平日はやっぱり混んでないんだ…なんて思いながらノンビリとしてた。
きっと明日の夜辺りから混み出すんだろうな……

そうだ…あんまりゆっくりしてられないんだった…
次は露天風呂制覇よ!なんて思ってサッサと移動する。

「ひゃ〜〜最高〜〜〜 ♪」

目の前に広がる山々に…下にはさっき部屋からみた渓流が流れてる……

「まるで貸切よね〜〜ん〜〜〜気分良いな〜〜 ♪」

こんな広いお風呂に入ってるのは私1人…ふっふっふっ……

「次は絶対皆で来よう!うん!!」

そんな決意を新たにそろそろ時間かな…なんて思って浴場を後にした。


「隼斗もう出たかな?」

まあ男だしそんなゆっくり浸かってるって事も無いか?
それにしても温泉の効果って凄いわね〜何だかお肌つるつるになった気がするし
置いてあったボディソープもいい匂い〜〜♪
売ってたら買って帰ろうかな……

「ん?」

待ち合わせの約束をしてた隼斗と最初に別れた男女の入り口が一緒のロビーに先に来てた隼斗を見つけた。
でも……1人じゃ…無い…どう見ても女がいる…しかも2人。

「はぁ〜〜」

私はそのまま3人の横を何事も無い態度で通りすぎた。
本当はこっそりと帰りたかったけど出口の前に3人がいたから避ける事は出来なかったから……

「千夏?」

見付かったか……って当たり前だけど……
楽しそうに話してる女2人の後ろを通り過ぎて行き掛けた腕を隼斗に掴まれた。

「何シカトして行こうとしてんだ?」
「だってお話中だったでしょ。だから先に部屋に帰ってる…どうぞごゆっくり!」
「は?」
「私達はまだ良いわよ。なんなら場所変えてゆっくり話しましょうか?」

調子に乗って派手な2人がそんなセリフを言ってくる…風呂上りに派手って一体どんなよ?
ホント隼斗ってばいつもこんな感じの女に声を掛けられるんだから…
昔から…何度も見てた光景でここ何年かは見てなかったのに…

「千夏行くぞ」
「あ…」

そう言って腕を掴まれたまま隼斗が歩き出すから私は何となく不貞腐れてのモタモタ歩き。

「………無理しちゃって…別に良いのよ?ゆっくり話してくれば?」
「必要ない」
「………私の事なんて気にしなくていいから。ほらまだ立ってるわよ…あの2人」
「もしかして…」
「な…何よ?」
「ヤキモチ?」

歩きながら目だけを私に向けてそんな事を言う…

「ばっ…バっカじゃないの!!誰が…」
「そう?でも先に1人で帰ったって部屋の鍵オレが持ってるんだけど?」
「あ……」
「こんなところまで来てナンパなんてしないって。
その前に千夏がいるのに他の女なんかに声なんて掛けないっての!!」
「逆ナンされてたんでしょ?」
「暇人だよな。何しにこんな所まで来てるんだか」
「そう言う事しにじゃないの?」
「そうか」

隼斗は今で言う 「イケメン」 とはちょっと違う…
でも背もあるしボクシングで鍛えた身体はそれなりの身体つきで…
痩せてるわけでもなくほど良い浅黒な肌で……今で言う 「肉食系男子」 なのよね…

濡れてる髪は後に撫で付けてあってそこから剥がれた幾つかの髪の毛が
これまた似合いすぎるほどに歩く度に揺れる…

しかも今は浴衣姿で…結構な広さで開いた浴衣の前から男らしい胸が何気に見えてるし…
その胸にシルバーのネックレスが揺れてる……色っぽいじゃないよーーーーったく!

だから…あんな派手なのに声掛けられちゃうんだよ……いつもそう…


『八神君が好きだって言うの真に受けてんじゃないの?』
『その気無いくせに八神君の事弄ぶのやめなよ』

学生の時…何度か言われた言葉…
面と向かって言われた事もあったし陰でコソコソ言われた事もあった…
違う言葉でだって何度言われたか…そのことを隼斗は知らないでしょ?
隼斗の他の女との関係がわかる度に私がどんな目で見られてたかなんて知らないでしょ?

ああ…なんか久々に腹立って来た!!





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