keep it up !


09




「ふわぁ〜〜美味しい〜〜」

運ばれた料理のお刺身を一切れ口に放り込んで自然とそんな声が出た。
目の前には所狭しと料理が置かれてる。

「千夏食う前にホレ乾杯!」

そう言ってビールの入ったグラスを差し出して来る。

「……何に乾杯なのよ」

私は隼斗にだけ超不機嫌な態度をとってる…
そんな私の態度をなんでだか隼斗は無視して普通に話掛けてくる。
私が機嫌悪いって…わかってるくせに…

「この旅行に乾杯!」
「……」

仕方なく渋々とグラスを出したら隼斗が自分のグラスを私のグラスにカチン!と当てた。



「ちょっと外歩くか?」

食事も下げられて窓際のソファに座って外を見てたら隼斗がいつの間にか私の近くに来てた。

「酔ったか?」
「あのくらいで酔わないわよ」

返事をしながらぷプイっと横を向く。

「まだ機嫌悪ぃの?」

ソファの横に立って腕を組んで私を見下ろしながら隼斗が笑って言う。
隼斗もまったく変化なし……確か隼斗はザルだったはず。

「別に」
「じゃあ行こうぜ」
「………」
「ほら千夏」

そう言って目の前に隼斗の手が差し出された。

「………」

私はそんな隼斗の手を無視して無言で立ち上がる。

「あのな人が手出してんだからシカトすんな!」
「!!」

そう言うとまた勝手に手を繋がれた。

「ちょっと!!」
「まだ外の店開いてっかな?」

私の態度をまったく気にせず繋いだ手を引っ張られる。

「知らないわよ!」
「じゃあ目の前の川に行ってみるか」

部屋の鍵を閉めながらまた私の言葉は無視で隼斗は話し続ける。

「フン!」
「まだヤキモチ妬いてんの?」
「誰がヤキモチなんて妬くもんですか!」

ふざけんなっ!

「痛っ!!」

そんな言葉にムカついて隼斗の足を遠慮無く蹴る。

「ったく痛てぇな…でも可愛い奴 ♪」

言いながら隼斗にクシャリと頭を撫でられた。

「!!」
「痛っつ!!!」

今度は膝蹴りを隼斗の腰に叩き込んでやった。ザマァミロ!

「…って〜でも千夏の生足見れたからいいか ♪」

クスリと隼斗が笑った理由がわかって私はハッとする。

「!!」

慌てて浴衣の裾を片手で押さえた。
裾が割れて結構な所まで隼人に見えたかもしれない…くぅ〜〜不覚!!


「親父達無事に着いたってさ」
「連絡あったの?」
「さっき風呂から出た後千夏待ってる間に親父から電話が掛かって来た」
「そう……」

そんな話にまたさっきの派手な女2人にナンパされてた隼斗の姿が蘇る。
ああーーー!!気分悪い!!

そんな私を知ってるのか知らないのか……隼斗はホント何事も無かった様に歩いてる……
何だか自分1人だけそんな状態で悔しい気持ちがおさまらない!
学生の頃の嫌な事までこっちは思い出しちゃったって言うのに……
まったく……隼斗の奴……

平気な顔して勝手に私と手を繋いで歩いてる隼斗の後ろ姿を何気に睨んで歩いてた。
本人はこれまたそんな私の視線なんかまったく気付いてない様子……
余計にムカつく!!

ホテルから出て道なりに進むと自然と川に続く道に出た。
途中何人かの観光客とも擦れ違った……皆考える事は同じなのね……


川岸で川の流れを見ながら川の流れる音を2人で聞いてた。
ここでも隼斗は当たり障りの無い話をする……

川に魚はいるかとか川の流れる音がいいとか…料理が美味しかったとか…

まったくエロモードは窺えない……一体どうしちゃったのかとまで思うほど…
私としてはこのまま家まで行ってくれれば万々歳で……なんて事を思ってた。

黙ってタバコを吸い続ける隼斗の横顔は一体何を考えてるのかわからない…

「そろそろ戻るか」
「うん……あ……私戻ったらもう1回温泉に入ってこようかな……」

そうよね……せっかく温泉に来たんだもの!しっかり堪能しなきゃね!!

「のぼせんなよ」
「大丈夫よ」
「ナンパされんなよ」
「!!…………あんたじゃあるまいし…」

ワザと意味深に言ってニヤリと笑う……
ったく…折角人が忘れててあげてたのに……ナンパされた本人が言うなっつーの!!

部屋に戻ると私は宣言通りに着替えを持って浴場に向かった。



「なっ……なんで?」

2度目のお風呂から戻って来ると部屋の中に布団が2組敷かれてた。

「さっき仲居さんが敷きに来た」
「ベッドでいいじゃない」
「たまにはベッドじゃない方が新鮮かなってな」

はあ〜〜?何が新鮮なのよ!!な〜・に〜・がっ!!!

「私はベッドで寝るから隼斗はそっちの布団で寝なさいよ」

使ったバスタオルを部屋の中に干しながら素っ気なく言い放つ。

「別に構わんけど」
「…………」

隼斗も何も思ってない言い方で返された。
ふ〜ん……随分余裕よね…まあいいけどさ。

私は来る時にコンビニで買ってあったペットボトルを部屋に備え付けられてる
冷蔵庫から取り出してごくごくと飲んだ。

冷蔵庫に入ってる飲み物なんて高くて勿体ないもんね。
隼斗はケチケチすんなって言うけどもとはお義父さんのお金じゃない!
って言ったら 「半分は自分が働いた金だ」 と言った。
確かに2人で働いたお金だよね……


「隼斗って結構真面目に働くよね」

そんな流れで私はいつも思ってる事をふと言葉にした。

「結構は余計だろ」

心外!とでも言いたそうな隼斗の言い方だった。
だってホント見た目とはちょっとギャップがあるんだから仕方ないじゃない。

「親がやってるからって手抜いたりしないしサボったりしないし」
「惚れ直したか?」

言いながら私が座ってるソファの隣に座る。
一瞬ドキリとなったけど私は何事も無い様な素振りでそのままソファに座ってた。

「もともと惚れてないし」
「またまた…」
「本当だっ……」

文句を言いながら振り向いたら直ぐ傍に隼斗の顔があって驚いた。

「!!」
「千夏……」

隼斗の手が私の方に伸びて頬にそっと触れる。
またいつもの様に隼斗の視線が私の唇にいったのがわかった。
でも私は慌てない……だっていつもの事だもの……いつもここまで…

ここから先にはいつも進まない隼……

「ちゅっ……」

「へ?」

頬に触れてる手はそのままに隼斗が……隼斗が……私に……

キスしたーーーーーー!?

うそ!!うそうそうそぉーーーーー!!!





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