「私初めてじゃないわよ」
「………」
隼斗の唇の温度がわかるくらいの距離でピタリと止まった。
「は？」
ちょっと離れてものすごい戸惑った顔してる。
「な…何言ってる千夏？」
「だから…」
「この期に及んでそんなウソを…」
「ウソじゃないって」
「デタラメを…」
「デタラメじゃないって」
「妄想を…」
「妄想じゃないって。だから初めてじゃないって…」
「わああああ！！言うなっ！それ以上言うな！」
情けない声を上げて自分の両耳を押さえながら隼斗が私から離れた。
私はゆっくりと布団から身体を起こす。
「………」
「何でそんな…お前今まで誰とも付き合った事無いじゃん？」
「付き合った事無いわよ。でもだからって男の人と出会いがないわけじゃないもの」
「……マジ…か？」
「マジよ」
「！！」
「きゃっ！！」
いきなり隼斗が私の両方の肩をガシッと掴んでさっきより真面目な顔で私を見つめる。
ちょっと……怖いんだけど……
「だ…誰だ？？どこのどいつだ？いつ？？」
「うるさいわね…相手はどこの誰か知らない。望美と飲んだ後街で声掛けられて意気投合して…」
「………馬鹿野郎……なんだそれ？行きずりってやつか？」
「まあそうね…その人とはそれっきりだし…その後会ってない」
「どこの誰ともわからない相手に初めてやっちまったのかよ！？」
「そうよ…私だってもう大人だもの。自分の責任で何でもするわよ」
もうさっきからオレはどんだけの精神的ショックを喰らってるんだ！？
ずっと男を知らないと思ってた千夏が……オレの知らない間に…どこの誰ともわからない相手と…
しっかりちゃっかりやってたなんてよーーーーーっっ！！！
うそだろーーーーーっっ！！！
「………もしかして…好きな奴とかいるのか？」
聞くのも怖いが聞かずにはいらんねえ……
「今はいないかな…」
今は…かよ…
まあ…でも…確かに想う事は自由だよな……ああ…そうだよ…そうだけどよ……
「何でだ？」
「え？」
「何で……そんな軽々しいこと…」
「………」
何だかとんでもなく悲しくなってきやがった……
「オレ…千夏のこと好きって知ってただろ？嫁さんにもするって…
それって…お前にとって何とも思わないことだったのか？」
「だって私にとってそれって自覚ないし憶えてないし」
「だからって！！！………だからって……そりゃねーだろ？」
「…………」
隼斗が目の前でこれでもかってくらいがっくりと項垂れて憔悴しきってる。
たった数分間でよくもまぁこれだけ変われるものだと感心しちゃうわよ。
「はぁ……」
「何だかムカつくわよね？その態度」
「はあ？」
隼斗が虚ろな瞳の顔をゆっくりと上げて私を見る。
「なに？私が初めてじゃないと隼斗にとって私はそんなに価値のない存在に成り下がるわけ？」
「べ…別にそんなこと言ってねぇだろ？ただオレはお前は誰とも付き合ってなくて
ずっとオレが初めての相手になるって思ってたんだよ！ショック受けたって仕方ねぇだろっ！！」
「じゃあ他の男に抱かれた女でもいいんだ？」
「そりゃ…オレが最初で最後の男になれたら最高だったけどな……」
「ふ〜ん…結構あっさりしてるんだ？もっと執着してるんだと思ったけど？」
「………そりゃとんでもねえショックだよ！！こんな風に話してっけどその男に会ったらきっと
そいつの事ぶん殴るかもしれねえ！！でも……今更……どうしようもねぇじゃん……
その場にオレがいたらどんな事してでも止めさせただろうけど……
その時そいつを選んだの千夏だしな……仕方……ねぇ…」
「！！」
ボスンっ！！っと隼斗が布団に拳を叩き込んだ。
何度も何度も……顔は俯いててわからないけど…歯を噛み締めてるのだけはわかる。
「…………じゃあ…もうしないってことで…おやすみなさい」
私は布団の上で浴衣の裾を直して正座した。
「は？何でだ？」
隼斗が俯いてた顔を上げると怪訝な顔つきで私を見る。
「だって……その気無くなったでしょ？だから…」
「誰が無くなったなんて言ったよ？だったら余計にお前をオレのモノにする」
「え？」
「お前の身体からその野郎追い出してやる」
「うそ……ちょっと……その目が怖いんだけど？」
さっきよりも眼光が鋭くなってますけど？？？
「今後他の野郎に目も行かないほどオレをお前の身体に教え込む」
「ちょっ……何怖い事言ってるのよ！！」
ど……どうしてそうなるの！？
「なに…怖い事なんて何もねえって…そんな気持ちも起きないくらい訳わかんなくしてやるから」
さっきの落ち込みはどこに行ってしまったのやら……
いつもの男気たっぷりな妖しげな笑いを口の端に浮かべてる。
「や……お…落ち着こうよ……隼斗…そんなもう憶えてないし…」
私は逆に追い込まれた獲物の様にズルズルと身体を引き摺りながら逃げるしかない。
「オレは至って冷静だ。どんな風にお前を鳴かそうか今頭の中でシュミレーション中だ」
「こ…このスケベ！！変態！！！何勝手に人を頭の中で想像してんのよっ！！」
何？その当たり前だって顔はっ！！
「別にもう慣れたもんだ。これも１０年って年季が入ってる」
「この……バカっ！！！やっぱ変態だ！エロ隼斗！！！」
「なんとでも言え。もう止める気なんて更々ねぇし……」
「きゃーーーーーっっ！！！」
身体を捻って隼斗から…布団の上から逃げ出そうとした途端後から抱きつかれて
そのまま布団の上にうつ伏せに押さえ込まれた。
「ちょっ…！！」
「力でねじ伏せんのもなかなかいいかもな ♪」
背中越にそんな怖い言葉が降りて来た。
「ホント…このエロ隼斗っっ！！！」
「なんとでも言え。そんなのわかってただろ？そんなオレが１０年待ったんだぞ？褒めろ」
「だれが褒めるかっ！！！あっ！！！」
そんな事を言ってる間に肩から浴衣がひき下ろされて肌蹴た浴衣の裾から
隼斗の手の平が腿の後を撫でながら上がってくる。
「温泉のせいか？千夏の肌スベスベ……想像してた以上だな……」
「ひゃっ……」
後から耳に直接囁かれて…言った後舌の先でペロンと耳朶を舐められてパクリと唇で咥えられる…
ゾクゾクとして肩に力が入って仰け反った。
「……や……ぁ……」
「千夏って感度いいな……」
溜息をつく様に息を吐きながら隼人がちょっと楽しそうに言うからカチン！ときた。
「誰と……比べ…てるのよ！バカっ！！！」
「誰ともくらべてねえって…一般論」
「うそ……あっ！！やっ……ホントバカっ！やめ……」
スルスルと私の腿を撫でていた手の平が一度離れると今度はそのまま浴衣の上から腰の辺りを撫でられる。
うつ伏せで隼斗には背中向きだから思う様に抵抗出来ない……
「ちゅっ……ちゅっ……」
「あっ！！やんっ！！やあ……」
腰を撫でられながら項や肩に隼斗の唇が押し付けられて…そのまま音を立てて離れる…
離れる瞬間ちょっと肌が持っていかれる様な感覚があった。
「まずは２つ……」
「え？なに？」
背中じゃ見えないっての！！
「オレの印…俗に言うキスマークだ」
「なっ！！ちょっと……」
「身体中につけてやる……千夏……」
「や……ちょっ……と……あっ…」
うつ伏せになってる身体と布団の間に隼斗の手が押し込まれて
浴衣と一緒に隼斗の手の中に自分の胸がすっぽりと納まった。
「大きさピッタリ……さすが千夏……やわらけぇ……」
「やっ！！あんっ！！やめっ……隼…斗！！」
自分の体重が掛かって必要以上に隼斗の手の平の中に私の胸が押さえ込まれてる…
だから動いてる隼斗の指の動きがダイレクトに身体の奥の奥の方まで感じちゃう…
その間も項や耳や耳の後ろに隼斗の舌と唇が優しく私に触れてる……
「隼…斗……」
「ん？チュッ ♪」
返事をしながら肩にキスされた。
「まだ…私の事…お嫁さんにするとか思ってるの？」
「思ってるって…それがオレの子供の頃からの夢だし」
「じゃあ……私の事が……好きってこと？」
「当たり前だろ……じゃなきゃ嫁にするなんて言うか」
「４歳だったのに？」
「歳なんて関係ないね。４歳だろうがオレは千夏を他の誰にも渡したくなかった。
渡さない方法が自分の嫁にする事だって思ったから……」
「どうしてそんな風に思えるのよ……」
「どうしたもこうしたも…何時だったか忘れたけどガキの頃って言うより小さい頃だな…
一緒に昼寝して起きたら隣にまだ千夏が寝ててそん時の千夏の寝顔に惚れたんだよ。一目惚れだな」
「は？」
「何だよ？」
「どれだけ小さい頃よ？」
「んー年少前だな」
「………ホント馬鹿……」
「馬鹿じゃねーって…そんだけ千夏に惚れてるってことだろ？」
「………隼斗」
「ん？」
「ちょっとどいて」
俯せのまま顔だけ隼斗の方に捻って自分の肩越しに隼斗を見つめた。
「は？冗談だろ？逃がさねえって…」
「逃げないから」
「………」
「ちょっと話しがしたいの」
「………」
急に千夏が真面目な顔するからその雰囲気に押されて後から覆いかぶさってた身体を起こした。
逃げてもまた即捕まえてやるからな。
「………」
お互い浴衣を直して布団の上に正座した。
正座した膝と膝の間は１０センチほど…千夏は相変わらず真面目な顔のままだ。
「千夏？」
オレ…ちょっと不安になってきたんですけど？
「はあ〜〜〜〜」
「！！」
え″っ！？何？何の溜息だよそれ？
「隼斗…」
「ん？」
千夏が上目使いにオレを意味深に見上げからドキリとなったじゃねーか！
だからちょっと顔が緩んだのも仕方ない事で…
「歯食いしばれ」
「は？」
いきなりの千夏の言葉にオレは一瞬放心状態。
千夏の言葉の意味を理解しないまま衝撃がオレを襲った。
バ ッ チ ーーーーーン ！！！
「ぶっ！！！」
いきなり左の頬を叩かれた！！！
「なっ！？」
結構な勢いで片手を布団について倒れるのを堪えた。
その後慌てて体制立て直したそこに……
バ ッ チ ーーーーーーー ン ！！
「ぐっ！！」
今度は右の頬を叩かれたっ！！
「千夏！？」
「………ふう〜〜〜」
「一体何だよ！！」
オレはワケがわからないまま……
千夏が一仕事終わった顔で満足げに息をはいた。
拍手お返事はblogにて…