癒しの君mokuji



  blog    site index



癒しの君  【 R18  /御曹司 / 俺様 / 結婚 / シスコン / 溺愛 / ハッピーエンド 】



 あらすじ


    ゆくゆくは社長就任が約束されている高貴と『癒しの君』と呼ばれている双葉。

    そんなふたりが恋をして婚約してあとは結婚式を待つばかり。

    けれどシスコン兄と姉貴肌の会社の先輩には未だに認められていない様子。

    俺様・高貴とほんわか双葉のとある日常の一コマ。




癒しの君




 海外勤務をしていた俺は社長である親父から、日本にある本社へ呼び戻された。
戻った俺には、本社で専務という役職が与えられ、ゆくゆくは社長就任が約束されていた。
 そんな本社に、俺の人生を大きく左右する女、双葉(ふたば)がいた。


 『癒しの君』と呼ばれていた双葉は、社のマスコット的な存在で、周りの奴らに守られながら
ひっそりと咲いてる一輪の花だった。

 持って生まれた体質なのか、何かの神秘的な力なのか……そばにいるだけで周りの人間を癒していく女。
それが双葉だった。
 見てるだけで満足してる奴らばかりの中で、俺は手を伸ばし、いとも簡単に茎を折り、その花を摘み取った。
強引に掻っ攫って、自分のものにした。

 周りの困惑や妬みなんて知ったこっちゃない。
俺は欲しいものは、どんな手を使っても自分のものにする。
双葉を自分の女にしようと考えていたその他大勢や、見ているだけで満足しているほかの野郎と、共有する気なんてさらさらない。
さっさと手に入れておかない自分の間抜けさを悔やめばいい。

 双葉は俺のものだ。俺だけの女だ。

 それはこれから先、未来永劫、天と地がひっくり返っても変わらないことだ。


「あ! おかえりなさい高貴(こうき)さん」
「ただいま」
 帰ってきた俺に気づいた双葉が、玄関で俺を出迎えた。

 双葉を手に入れてから一緒に暮らしてる。
婚約してる者同士、一緒にいて誰に文句を言われる筋合いがある。
 そんな双葉の腰に腕を回し抱き寄せて、触れるだけのキスで十分満足だと言っている双葉を相手に、
舌を絡めた濃厚なただいまのキスをする。
会えなかった時間分のキスを堪能して唇を離すと、ほんのり上気した顔で、浅い息を繰り返す双葉と目が合う。
 支えがないとその場にヘタリ込みそうな双葉は、俺の服を握りしめながら体重を預けてる。
「軽い……ハァハァ……キスにしてっていつも……言ってるのに」
「これでも抑えてるんだが?」
 それは本当のことだ。
本気を出してたらいまだに双葉の唇を貪ってるだろう。
それか、玄関先だろうが双葉を押し倒して、ふたりで絡み合ってる。
 俺がそんなことを想像してるなんて双葉が知ったら、どんな顔をするんだろうな。
真っ赤な顔で怒って拗ねるのか?

「はぁ……何か食べる? でももう時間も遅いから、軽くのほうがいい?」
 なんとか持ち直した双葉が、俺の顔を上目遣いで覗き込んで聞いてきた。
時間はもう夜の10時半を過ぎてる。
「いや……風呂入ってくる」
 さすがにこれ以上、ここで双葉に手を出すのはマズイ。
楽しみはあとにとっておこう。
「わかった。じゃあ、お酒の用意しておくね」
「ああ」
 俺からスーツの上着を受け取ると、パタパタとリビング中を動き回る双葉。
そんな双葉を視界の隅におさめつつ、俺は浴室に繋がるドアを閉めた。


「双葉! 家にいるときはこのメガネはかけるなって言ってるだろうが」
 言いながらすぐ隣に座る双葉のメガネを、顔から奪い取る。
乱視で視力の悪い双葉は、かなり分厚いレンズの黒縁眼鏡をかけてる。
会社では男除けにもなるかもしれないが、俺の前では禁止だ! 禁止!!
せっかくの双葉の顔が見えやしない。
「あ! かけてないとテレビが見れないの!」
「俺が帰って来たんだからテレビなんて見るな」
 そう言って、目の前のローテーブルからテレビのリモコンを掴むと、ブチンと電源を切った。
「こ……高貴さん横暴ーーーー!! ひゃあ!!」
 隣に座ってる双葉の背中から、脇の下に腕を回してガッチリと捕まえる。
そのまま俺の膝の上に抱えあげた。
「ちょっと……高貴さん?」
「お前今日も抱きつかせてただろ」
「へ?」
「ごまかしてもダメだぞ。ネタは上がってる」
「……なん……で?」
「甘いんだよ」
 肩越しに双葉の顔を覗き込んで、睨んだ俺の視線に双葉は怯えたようにビクリとなった。
「言ったよな。俺以外に触らせるなって……なぁ双葉」
「え……」
 ニヤリと笑ってやったら、双葉がさっきよりビクリとなって引き攣った顔になる。
「だって……典子さんだよ? 女の人じゃない?」
 どうして? と言いたそうな顔だ。
「前も説明しなかったか? 女でもダメなものはダメなんだよ。俺の双葉に何人たりとも触ることは許されない」
「……はあ?」
 大真面目な俺とは対象的な双葉の態度だ。
ちょっとムッとくる。

 ――双葉が好きだと自覚する前、色々な女性と散々イイコトをしてきた高貴。
名ばかりとはいえ親が決めた“婚約者”までいたくせに、自分勝手な俺様男はそのことを、
きれいサッパリ忘れ去っていた――。

 『癒しの君』と呼ばれてる双葉は、会社の奴に『癒して』と乞われると、相手が双葉に抱きつくのを許していた。

 そばにいるだけで癒されるから、抱きしめたらもっと癒される。
双葉に触れれば効果は絶大で、だから双葉はよく色んな奴に抱きつかれたり手を握られたり……
それを許してたのは女子社員だけだったが、
もし男共がそんなことをしてたら即刻セクハラでクビにしてやる!
上司と会社経営者の一族としての特権を、フルに活用してやる!
 だが、いくら相手が女だからって、それでも俺は許せない。

 双葉は俺だけのものだ!

 なのに双葉の先輩の江波典子(えなみ のりこ)だけは、俺が睨んでも双葉に触ることをやめたりしない。
大学の同期だった江波とは、顔は知っていたがそんなに付き合いのある相手じゃなかった。
もちろん男女の関係も一切ない。
ときどき、ほかの同期の奴等と一緒にいて話すくらいの間柄で、そのころから江波は俺に対して
あからさまに気に入らないという態度が現れてた。

 どうやらそのころの俺の女関係を知ってたらしい。

 一度だけ相手をした女が何を勘違いしたのか俺と付き合ってると思い込み、そのとき一緒にいた女と取っ組み合いの喧嘩を始めたことや、
俺の子供を妊娠したと迫ってきた女のことなど(もちろん嘘だったが)、表に出ていないことをどういうわけかあいつは知っていて、
俺へ蔑(さげす)む視線を送り続けていた。
あとから知ったんだが、姉御肌の江波は女子の間では相談役だったらしい。
きっと人伝いに俺の話を聞いたか、直接俺のことでも相談されたのかもしれない。

 だから俺にとって双葉のそばにあまりいてほしくない相手……そんな女が職場の先輩だなんて危険すぎる。
ひとまず江波を双葉から遠ざけたいと思ってるが、女同士だからセクハラにもできず……ああ! パワハラという手もあるか?
ダメだ。肝心の双葉がそう思ってない。
逆に江波に懐いてるから始末が悪い!
部署移動も考えたが、やった途端俺が手を回したと双葉と江波には容易にわかってしまうだろう。
そうすると双葉は呆れるを通りこして、俺に見切りをつけるかもしれない。
想像すればするほどありえそうで、思い切ったこともできず忍耐の毎日だ。

 あのクソ女……いつかギャフンと言わせてやるっ!

 双葉の顎を掴んで俺のほうに向かせる。
もう片方の手は、さっきから双葉の腰や腿を撫で回して、敏感な場所を手のひらで攻める。
「なんだ? 赤い顔して潤んだ目で俺を誘ってるのか?」
 言いながら、双葉の目元に唇を押し付ける。
「やん! 違う……お酒飲んだからで……高貴さんが……触る……から……あっ!」
「酒なんて飲んでないだろうが。ウソつくなよ双葉」
「飲んだもん! ちょっと……だけ……私がお酒弱いの……知ってるくせに……んっ」
 確かに双葉はアルコールに弱い。
そのおかげで嬉しいこともムカつくことも経験済みだ。

 いつもは俺との間に壁を作ってた双葉が、酔ったせいで俺に甘えてきたり下着姿が見れたりと、いい思いも何度かあった。
 逆に双葉を狙ってた男共に、お持ち帰りされそうになったりとヒヤヒヤさせられたこともあった。
まあそのときは江波がいて助かったが、俺の邪魔をするのであれば話は別だ。

 そんなことを思い出し、顎を掴んでた手に力を入れて逃げないように捕まえた。
強引で乱暴なキスで双葉の唇を奪って口内を舌で攻める。
「ふ……ぅ……ぅぅ……んっ」
 ほんのりとアルコールの味が俺の舌に広がる。
「……双葉……」
「ん……高貴……さん……んっ……」
 クチュクチュと淫らな音が延々と続く。
無理な角度で苦しそうにキスを交わす双葉を解放してやると、俺のほうに振り向いて膝を跨ぐように座った。
そして、自分の腕を俺の首に巻きつけて積極的にキスに応える。

 かわいい奴……。

 俺はそんな双葉のパジャマをキスに応えながら脱がしていく。
あっという間に裸にした双葉を、そっとソファに押し倒した。
 双葉の唇から離れると、そのまま耳たぶを甘噛みしたり舌の先で舐めたりした。
「やぁ……」
 ぴくぴくと震える双葉の身体……。
そのまま何箇所か俺のシルシを付けていく。

 双葉は幼い顔をしてるくせに、身体はちゃんと大人だ。
初めて双葉の身体を見たとき、そのギャップに驚いたのを覚えてる。

 仰向けなのにツンと上を向いてる胸は、張りがあって俺の手にピッタリだ。
胸の頂を口に含んで舌の上で転がすと、足の間に入り込んでた俺の身体を双葉の両足がぎゅっと挟む。
「高貴さ……あっあっ……あん」
 反対の胸は、手のひらと指でじっくりと弄り回す。
空いてる片手を双葉の足の付け根に伸ばして、そのまま身体の中に指を埋める
「ふぅ……うぁ!」
「ずいぶん潤ってるな双葉。そんなに俺が欲しかったか?」
「やだ……そういうこと言わないでって……約束……」
 双葉は言葉で攻められるのが苦手だ。
だから言葉攻めはしないでと約束させられたが、耳元で囁けば過敏に反応するからおもしろいし、
困った顔が余計に俺をその気にさせる。

 だからやめられない。

 何度も舌を絡ませるキスを繰り返して、双葉の身体にも舌を這わす。
逃げようとする身体を、両手で押さえ込み、目の前で大きく開いた。
「やぁ……恥ずか……しい……」
「俺しかいないんだから恥ずかしいわけないだろ」
「そんな……ことない……いつも……恥ずかしい……」
「そうか。ならそれ以上に恥ずかしかったら気にならんだろ」
「え? あっ! やああ!!」
 双葉の腿を両手で押し広げて、迷うことなく双葉の中に強引に挿入(はい)り込んだ。
ビクンと双葉の背中が弓なりに仰け反る。
「さっきまでが恥ずかしく思えないくらいのことしてやるからもう気にするな」 
 そう言ってグッと体重を掛けて双葉を押し上げる。
もちろん双葉の両足は限界まで開いて俺を受け入れてる。
「やっ!! だめ!! 高っ……ひゃあっっ!!」
「恥ずかしいなんて思うヒマないだろ? 双葉」
「うあっ! あっ……あんっ!!」

 言ったとおり、双葉は恥ずかしいなんて思うヒマもないほど俺に攻められて乱れた。


「あっあっあっ……やぁ……高貴さ……もう……やめ……あっ……」
「誰がやめるか」
「んあっ……あっ」

 ソファでクッタリするほど双葉をかわいがったあと、寝室に移動してさらに激しく双葉を攻め続けてた。

 双葉は俺しか知らない。
子供のころからそばにいる相手を和ませると認識されてた双葉は、周りから……特に男共には普通の女とは違う扱いを受けてたらしい。

 何人かの男は『君を僕の手で汚すなんてコトできない』なんてバカなセリフを吐き、マジで双葉に手を出すことはしなかったらしい。
ほかの野郎共も同じく“そっと見守る”“見てるだけで満足”なんてことで、俺に抱かれるまで双葉は男を知らなかった。

 “身体だけの関係もOK”“お互い合意なら会ったその日でもOK”な俺には馬鹿らしくて呆れる話だが、
相手が双葉となると話は別で今まで手を出さなかった男共に感謝感謝だ。

「ハァハァ……高貴……さん……少し……休ませ……」
 俺の下にいる双葉の身体を、両腕で抱え込むようにギュッと抱きしめてる。
だからお互いの身体と身体は1ミリの隙間もないほど密着して、双葉の肌の温度がじかに伝わる。
双葉は俺の首に両腕を回してしっかりと掴まってた。
 囁いた声が聞こえるほどお互いの耳に口を近づけた体勢で、双葉のそんなセリフに俺は顔が綻ぶ。

「もう少ししたらな」
「ウソ……ばっかり……もう少し……なんて……いつもウソだもん……っく」
「わかってるなら余計なこと言うな」
「だって……あっ! あっあっあっ……ああっ!!」
 双葉に逃げられないよう、自分の身体でガッチリと抱え込んで押さえつける。
そのまま腰だけ動かして双葉を攻め続ける。
 もともとそっちの経験が豊富な俺は、そうそう双葉に負けることはない。
相当な時間そうやって俺に身体を揺さぶられ続けてる双葉のほうは、もうとっくに限界を越えてる。

 そんなことはわかってる……でもやめられないんだよな……これが。

 双葉の自由を奪って攻め上げるこの抱き方を俺は気に入ってる。
双葉は俺のものだ! 俺だけのものだ!!

「あっあっあっ……やあ!! 高……貴さ……んぅ……」
 身体を双葉に密着さて舌を絡めるキスをしながら、両足の膝の後ろに腕を差し込んで引き上げる。
「!!」
 思ったとおり双葉が大きくのけ反った。
両足を抱え上げた体勢だと、双葉の身体の奥まで挿入(はい)り込むことができる。
ああ……奥まで俺に攻められてたまんないんだよな……双葉。

 俺はお前の身体のことならなんでも知ってるぞ。

 どこをどう触って弄って撫でてやれば、お前がどんな顔してどんな声出すのか俺だけが知ってる。
いや……俺だけが知ってないとダメなんだよ。
ほかの誰かが知ってるなんてそれは許されないこと。

「ひゃ……あぁ……」
「双葉」
 繋がったまま双葉を抱き起こして向かい合った。
「ぁ……高貴……さん……すごく……奥まで……ふぁ……」
 言いながら、頭を俺の肩にコテンと預けると、双葉の吐息が俺の首をくすぐる。
「ああ……俺が双葉の身体の奥まで挿入(はい)ってるな」
「ん……」
 何度もイった双葉の身体が、話すたびにフルフルと震えてる。
かわいすぎるぞ双葉!

「いいか双葉」
「?」
 話しかけられた双葉は、朦朧としててぼんやりと俺を見つめ返す。

「双葉の身体に挿入(はい)れるのは俺だけだ。双葉の身体に触れることができるのも俺だけ。
ほかの誰も双葉に触れることは許さない」
「……うん」
 俺の肩に頭を乗せて頷きながら軽く瞼を閉じる。

「双葉が感じるのは俺だけ……俺だけに双葉は感じて乱れるんだ……だからほかの誰にも
自分の身体を触らせるんじゃない。わかったか双葉」
 双葉の耳に囁きながら、触れるだけのキスを耳に……こめかみに……頬に落とす。
「……わかった……」
 ホワンとした返事だったが、俺の言ってることは理解できてるはず。
「いいな俺だけだぞ」
「……はい……」

 初めて双葉を抱いたときから、呪文のように双葉の耳に囁き続けてる言葉。
俺以外に抱かれることを、拒否するように仕向けた言葉。


 そばにいるだけで癒される……触れたらもっと癒される……。

 抱いたら……どれだけ癒されるんだろう……ずっとそう思ってた。


「……ん?」
 微かに聞こえる音で目が覚めた。
いつものように、双葉は俺の腕の中で気持ち良さそうに眠ってる。
裸の身体は、お互いの体温がじかに伝わって気持ちがいい。

「なんだ?」
 そんなことを呟きながら、手は寝てる双葉の身体を無意識に撫で回してる。
昨夜かわいがりすぎて、ぐっすり寝てる双葉は起きる気配がない。
今日は休日だから、このまま眠ってても何も気にすることはないんだが……。
どうやらインターホンが鳴り続けてるらしい。

「7時……マジか」
 時計に目をやってウンザリする。
いつまでも鳴り続けるインターホン……アイツしかいない。
「ふざけるな……こんな朝っぱらから」

 本当なら迎えてやる義理はないが、拗ねるとかなり厄介な奴だから仕方なく部屋に入れる。


「朝っぱらから迷惑なんだが」
「………」
 じっと俺を睨んでる。
仕方なくだが、広い心で朝っぱらからの訪問を迎え入れてやった俺にその態度か?
いい度胸だな。

「なんだ」
「双葉に無理をさせてないだろうね!」
「は?」
 パジャマのズボンに上半身裸の俺を見て、昨夜何があったか察したらしい。
「いやらしい奴だな。なにを想像してる?」
「君の性格とそのいでたちを見ればね」
「今何時だと思ってる。よそさまの家を訪ねる時間じゃないだろう」
「双葉は?」
「寝てる」
「様子を見てくる」
「断る」
 リビングから寝室へと繋がるドアの前で奴と睨み合う。

 早朝からお騒がせのこの大迷惑男は月上俊也(つきがみ としや)。双葉の腹違いの兄だ。
兄貴だと知るのにだいぶ時間を要した俺は、散々こいつに振り回された。
超ド級のシスコン兄貴は、俺と双葉をくっつけないためにかなり姑息な手段を使って邪魔してきた。
 なまじ金とそれなりの権力があると厄介だ。
月上も負けず劣らずの財閥で、会社も俺のところと対抗し得るくらいの存在だったから余計手こずった。
 何度思い出してもハラワタが煮えくり返るが、双葉が惚れてる相手は俺だ! 俺!! ざまあみろ!!

「こ……高貴くん! やっぱり君……双葉にだいぶ無理させてるんだろう!! 許さないぞ!! 婚約は破棄する!」
 リビングのソファ近くに落ちてた双葉のパジャマを掴んで、ワナワナと震える俊也。
ああ……昨夜拾うの忘れてたな。
もしかしてあの中には、双葉の下着も紛れてるんじゃないか?
すぐにでも俊也の腕の中から回収しなきゃな……ってなんでそんなに後生大事に、腕の中に抱え込んでるんだよ! この変態兄貴が!

「なんだその的外れな妄想は? 双葉は俺に惚れてるし俺も双葉を手放す気はない。朝っぱらからそんなくだらないこと言いに来たんだったら帰ってくれ」
 言いながら、俊也の腕から双葉のパジャマと、たぶんそこに紛れているであろう下着も奪い返す。
「くだらないとはなんだ! だいたい僕はこの婚約には最初から反対なんだからな! 認めてない!」
 凝りもせず、双葉のパジャマに手を伸ばす俊也から身体を捻ってよけた。
しつこいぞ! シスコン兄貴!!
「黙れ! もうあんたが認めなくても婚約は正式に成立してるし、式もあと3ヵ月後だ。いいからもう二度とその口開くな!」
「はあ? それが双葉の身内の、しかも兄に向かって言う言葉か!?」
「別にあんたとは縁を切ったっていい。双葉が嫌がってるからしないだけだ」
 俺にとって、双葉との穏やかな日々を邪魔する江波に並ぶ、目の上のタンコブ的な存在だしな!
「こ……この……」
「は?」
 何か言いたげな俊也だが、うまく言葉が出てこないらしい。
しばらくワナワナと震えてたが、キッと俺を睨んで口を開いた。

「この独裁者! 暴君!! ワガママの俺様男!!」

「…………」
 30近い男が朝っぱらから叫ぶ言葉か?
しかも何、目を潤ませてんだ? 育ちがいいせいで、出てくる言葉にも言い方にも、なんの脅しも迫力もないのが悲しいな……俊也。

「え? ……俊也さん?」
 俺達のすぐ後ろのドアが開いて、その隙間から双葉の声がした。
「「!!」」
 俺と俊也はドアの隙間から見えた双葉に、釘付けになった。

 ドアの向こうの双葉は、俺のかなり大きめなパジャマの上を着ていた。
寝起きのポワンとした顔……長すぎて双葉の手を覆い隠すように折れた袖口で片目を擦ってる。
その仕草がかわいすぎる。

 最高だ!! 双葉!!

「おはよう双葉ぁーー! 待ちきれなくて早く来すぎてしまったよ」

「!!」

 しまった! つい双葉の寝起き姿に気を取られて、俊也の存在を忘れてた!
俺より先に朝の挨拶をするだと? しかも、寝起きの無防備な双葉をしっかりと腕の中に抱きしめてる。

 ブチッ! とキレた。

「おい! 気安く双葉に触るな! 離れろ! 離せ!!」
 俊也の腕を掴んで、グイグイ引っ張るが離れやしない! この野郎……実力行使に出るぞ!
「嫌だ! 君こそ遠慮するべきだろう。久々の兄妹の抱擁なんだよ」
「久々って確か一昨日会っただろうが! 離れろ! ってか待ちきれなかったってなんだ?」
 そういえばそんなことを口走ってたな? この男。

「あの……高貴さん……あのね、今日俊也さんと出かけることになってるの」
「はあ? 聞いてないぞ俺は!」
 初耳だ。
「ごめん。言い忘れてた……だから今言った」
 本当に忘れてたのか? 作戦じゃないだろうな? この男の入れ知恵で?
「双葉」
「残念だったね。双葉の予定を教えてもらえないなんてかわいそうに。でもそれって婚約者の意味がないんじゃないか?」
 その嬉しそうで勝ち誇った顔、俺に向けるな!!
「だから黙れ!」
 俊也を怒鳴りつけて、今度は双葉のほうに振り向いた。
「双葉」
「はい!!」
 俺の呼ぶ声に、双葉は背筋をピンと伸ばした。
「どこに行く約束をしたんだ」
「えっと……この前高貴さんと話してたテーマパーク……」
「そこは後日、俺と行く予定の場所だろ」
 そう約束した。
「も……もちろん高貴さんとも一緒に行くよ」
「じゃあ、なんでだ」
 なんで先にこんな男と行く?
「今、期間限定のイベントやってるの。高貴さんと行く日はまだはっきりと決まってなかったでしょ? 
イベント来週の日曜で終わっちゃうから……」
 最後のほうは、消え入るように小さな声だ。
一応、罪悪感はあるらしい。

 確かに約束はしたが、今は忙しくて結婚式までには行こうとあやふやなままだった。
だが、そんな期間限定のイベントがあったなんて聞いてない。
聞いてればそれに間に合うように予定を組んだのに。

「だから僕が連れて行ってあげるって約束したんだ。融通の効かない婚約者なんて当てにできないからね」
「!!」
 得意げな顔に、また腹が立つ。
「俺が連れてってやるから今日は行くな!」
「え?」
「無理しなくていいよ高貴くん。あの製薬会社と進めてる共同開発の新薬の件で、契約が煮詰まってきてるんだろう? 
今日もその話し合いじゃないのかい? ここで手を抜いたら他社に足をすくわれるよ」
「!!」
 なんでそんなこと知ってる?
「あ! 図星だったの? カマかけただけなのに。まあそういうことだから今日は僕が双葉を独り占めだよ。
さあ双葉、支度をしてきなさい。シャワーを浴びて身体をきれいにしておいで。ね?」
 はあ? なんだその言い草は? 俺の痕跡が汚いってのか?
「君は10時にここを出るんだろう。僕達はすぐにでも出かけるから。双葉、朝食は行く途中でどこかでモーニングでも食べよう」
「………」
「あの……高貴さん?」
 無言でいると、双葉が窺うように俺の顔を覗き込む。
「なら準備を手伝ってやろう。双葉」
「へ?」
 双葉は俺の言葉にギクリとなった。
そりゃそうだろう、俺がこのあとどんなことをするのか双葉はもう察してるはずだ。
「じゃあ、ちょっと待っててください。俊也さん」
「え? ああ……」
 急に物分かりの良くなった俺に、俊也は戸惑いながら、でもなんとなく話の流れで頷いたらしい。
フン! ホント甘いなお坊ちゃま。
「勝手にコーヒー飲んでてください。すぐ支度してきますから」
「わかった……」
 俺は丁寧にそう言うと、双葉を連れてリビングを出た。
後ろ手にドアを閉めた瞬間、双葉の手首を掴んで歩き出す。
「高貴さん?」
「…………」
 ズンズンと無言で歩く俺を気遣いながら、見上げる双葉。
そりゃ、ドキドキだろうな。
これから自分がどうなるか、双葉は薄々感づいてるはず。

「高貴さん?」
「俺がきれいに洗ってやろう」
「え゛っ!?」
「遠慮するな。俊也だってきれいにしてこいって言ってただろ」
 俺はこれまでにない爽やかな笑顔を双葉に向けた。
「ひっ!!」
 双葉が真っ青な顔で俺を見上げる。
「なんだ? ん?」

 俺はそんな笑顔のまま、双葉を浴室に連れ込んだ。


「やあああ……」
「きれいに洗ってやるって言ってるんだから逃げるな」
「こ……これは洗ってない!! あっ! やあ! あっあっああんっ!!」
「洗ってるだろ俺の全身で」
 俺の手は、後ろから双葉の胸と腰の間を上下に撫でながら動いてる。
もちろん胸に触れたときは、揉むことも指で胸の先を弄ることも忘れない。
ボディソープの泡が、俺の手の動きを滑らかにする。
今、両手は双葉の腿の内側をスルスルと撫でてるところだ。
 双葉にとっては耐えられないほどの刺激らしい。

「んあっ!! 俊也さんが……待ってる……あっ!」
「待たせとけよ。俺とこうしてるほうが大事だろ」

 双葉の身体を洗うと称して両手で弄りまわして撫でまわし、ふたりの身体についた泡をシャワーで流したあと、
壁に手をつけた双葉を後ろから何度も押し上げる。

「俺に内緒で俊也とデートの約束なんてするからだ」
「あっ! ああっ!! あん! あん!」

 散々後ろから攻めたあと、向かい合って立ったまま、また双葉を攻めた。
加減なしのマジ抱き。
お互いの身体が激しくぶつかる音が浴室に響いて、余計に俺の気持ちを高ぶらせる。
双葉の奥に入り込んで、何度も何度も揺さぶられる双葉を見ながら思う……。

 このまま壊れればいい。


 昨夜から立て続けに俺に抱かれて、クッタリとなった双葉をベッドに寝かせた。
もう今日は出かけるなんて、そんな体力残ってないだろう。
予定どおりだ。
「おやすみ」
 眠ってる双葉の頬にちゅっと触れるだけのキスをして、俊也の待つリビングに向かう。

 そのあとの俊也の罵倒なんか、俺にとって痛くも痒くもない。

 それに、次の休日には時間を作って、期間限定だというテーマパークにもちゃんと双葉を連れて行ったしな。

 

 そんな休日を過ごした月曜日。
いつも一緒に出勤し、先に双葉の働く部署に寄る。

「おはよーーーー!! 双葉ぁーー会いたかったわーー!!」
「おはようございます。江波さん」
 部屋に入るなり、目障りな女が双葉めがけて両手を広げて走ってくる。
ったく双葉! こんな奴にそんな笑顔向ける必要なんかないんだよ!
「俺に断りもなく双葉に触るな」
 当然のように、双葉の前に立って江波を迎えうつ。
「断ったとしても頷かんがな」
「はあ? なに言ってるのかしらこの勘違い男は?」
「!!」
 ドン! と俺を突き飛ばすと、俺が後ろに隠してた双葉を抱きしめた。

「はぁーー双葉ぁ! 癒されるわーー休みの間、死ぬかと思ったのぉーー」

 双葉より少し背の高い江波が、双葉の頭に頬擦りをしだした。
この勢いじゃ、このあとも双葉にベッタリなんじゃないか?
男除けには助かるが、なんとも納得がいかない。
「死ねばよかったんだ」
 だからこんなセリフも、簡単に口から出る。
「ちょっと高貴さん!!」
 びっくりした双葉が振り返って俺を睨んだ。
睨んだってまったく迫力なしで、それどころか逆にかわいいぞ! 双葉。
「はあ?」
 江波が何言ってるんだ? という眼差しを俺に向ける。
「大体君は自分の会社の上司に対して、その態度はなんだ」
 ここぞとばかりに、上司の立場を使わせてもらった。
「まだ就業時間前です! それに今のあんたは専務じゃなくて“大学の同期”で“双葉の仮の婚約者”でしょ」
「仮ってなんだ仮って!」
 同期はどうでもいいが、最後が聞き捨てならん。
「どうせしばらくしたら婚約解消だもん」
「なんでだ?」
 どんな根拠でそんなことを胸を張って言いきる?
「だいたいねーーあんた最初は双葉のこと『あんなミルク臭い女誰が相手にするかっ!』って私に啖呵きったの忘れたの?」
「ぐっ!」
「ふふん!」
 江波が鬼の首でも取ったような顔で俺を見上げる。憎たらしい顔だ。
同じ女とは思えないほど、双葉みたいなかわいらしさは微塵もない。
 そんな江波の腕の中には、しっかりと双葉がおさまったまま……なんとなく双葉は俯いてる気がする。
江波の言葉が原因なのは明白だ。

 江波の言うとおり、俺は双葉と知り合ったころ、絶対双葉とは付き合うことはないだろうと思ってた。
双葉の外見は身長こそ160近くあるが、童顔でそれに輪をかけてあの黒縁眼鏡。大人の女というよりは、高校生でも通じる幼さが残ってた。
 今はそんな双葉がかわいくて、愛おしくて仕方ないが、俺が今まで付き合ってた女は、双葉とは180度違う容姿の奴ばかりだった。

 仕事もできて向上心があって、男との付き合いも割り切ってる……そんな女。
だから、出会ったころは双葉のことはまったく眼中になかった。
ハッキリ言って女として気にも留めてなかった。

 それが今では、もう双葉がいない生活が想像できないほどになってる。
ほかの誰にも、双葉を渡すつもりはない。

「そんな昔のことは忘れた」
「んまぁーー都合のよろしいことで。双葉! この男、いつか必ず尻尾出すから、そのときはキッパリと振ってやりなさいよ! 私が許すわ!!」
 江波が双葉の両手をぎゅっと握って力説しだした。
また変なこと言いやがって……。
「おい! いいかげんに……」

「大丈夫ですよ江波さん」

「え?」
「!」
 双葉が手を握られたまま、ニッコリと笑った。

「高貴さんは私を裏切ったりしませんから」

「双葉ぁ」
「双葉」

「ね? そうですよね? 高貴さん。私にプロポーズしてくれたとき、ちゃんと約束してくれましたもんね」

 そう言って江波の手から離れると、俺の前に立ってニッコリと微笑んだ。

「ああ……俺はお前を……双葉だけを永遠に愛し続ける」


 そばにいるだけで癒される……触れたらもっと癒される……。

 抱いたら……どれだけ癒されるんだろう。


 それは……癒されるなんてもんじゃなかった。

 二度と手放せない……手放したくないと思えるふたりだけの時間だった。


『私が“癒しの君”だから好きって言うの?』

 初めて双葉に好きだと告げたとき、ナゼか双葉は悲しそうな顔をしてそう言った。
だから俺は……。

『双葉が“癒しの君”じゃなくても好きだ。双葉が好きだ。双葉だから好きになった』

 そうハッキリ俺が言ったあと、双葉はポロリと涙をこぼして……。

『私も高貴さんが好き』

 そう言ってくれた。


 ────俺と双葉は見つめ合って、お互いの愛を確かめあってる真っ最中だってのに……。


「あんたキザなのよっ! ムカつくっ!」

「きゃあ!」

 そんな怒鳴り声と双葉の悲鳴が聞こえて、ドカッ! と江波の容赦ない膝蹴りが、俺の脇腹に見事に叩き込まれた。

「ぐっ!」

 突然の衝撃に堪えきれずよろけてしまった。
ギロリと悪意を込めて睨んでも、あっさりと睨み返される。

 心配そうに俺を支える双葉に、今にも中指を立てて文句を言いそうな江波。


 お前こそ人の恋路を邪魔しやがって……。

 俊也と一緒に、馬に蹴られてしまえ! と心の底から願った。


 そんな俺の願いも虚しく、これから先もこのふたりには色々と邪魔される羽目になるのだが……。

 

 3ヵ月後、どうにか邪魔なふたりを黙らせて俺と双葉の結婚式が盛大に行われた。













 拍手お返事はblogにて…