君のそばにいたいから…



02




「あ!また女の子引き連れてお通りだよ〜〜 ♪」
「え?」

次の日の2時間目の休み時間。
私の前の席に座ってる友達の渚ちゃんが、私の方にイスに横向きで座ったまま
中廊下に視線を向けて私に見てよ ♪ と言いたげに視線を動かす。

教室の中から見るにはちょっと遠い中廊下を見ると、女の子が数人とその真ん中に
彼女達より頭2つ分は高い男の人が見えた。

「あれって?」
「6組の武光将宗君。前に楼々にも教えてあげなかったっけ?1年の頃からあんな感じなんだよね。
女の子周りに引き連れて。まああの顔じゃ女の子の方が寄ってくるらしいから仕方ないけど、
女の子なんてより取り見取りで、据え膳食わぬはじゃないけど手当たり次第手を出してるらしいよ。
高校生のクセに何しに学校に来てるんだか〜 ♪」
「…………」

渚ちゃんとは新学期が始まってちょっと経ってから仲良くなった。
新学期早々、渚ちゃんは体調を崩してお休みしてたから、休み明けに登校して私のことを知って話しかけてくれた。

そのころ、まだこっちの生活にも慣れてなかった私にはとても嬉しいことだったし、なにより渚ちゃんとは気が合った。
渚ちゃんは見た目可愛いのに、話す内容や口から飛び出す言葉は結構毒舌のときがある。
そのギャップに最初は驚いたけど、だからって意地悪とかはない。
優しいし、女の子らしい一面も持ってる。

そんな渚ちゃんの言葉に思わず黙ってしまった。
武光将宗君って……昨日のあの人?


渚ちゃんからの話は初耳だったけど、あの集団には覚えがある。
転校早々廊下で見かけた異様な集団。
1組は隣の特別校舎に行くのに、教室のすぐ横にある中廊下を使う。
6組は3組と4組の間にある中廊下を使うことが多いから今まですれ違ったことがなくて、
遠巻きに見てただけだったから、中心にいた人の顔も知らなかった。
それが誰かなんて興味もなかったから名前を知ろうとも思わなかった。

だから今、初めてあの集団がなんなのか、その中心に彼がいたことを初めて知った。

昨日、あとから考えたら顔から火が出そうなほど恥ずかしかった。
いつもの自分のお気に入りの場所に、誰かいるなんて初めてで……
しかも、手足をダランと伸ばして倒れてるから慌てちゃったし。
だって……どう見ても、寝てるようには見えなかったんだもん。

だから彼に言われるまま、口移しでお茶なんて飲ませちゃったけど……
あとから冷静に考えたら、あれが私のファースト・キスだったんだと気付いた。

どうして素直にあんなことをしてしまったのか?

確かに彼の顔を見たとき胸がときめいたけど……
もしかして……これって……一目惚れってやつ??

私ってばそんなキャラだったかな?
顔で好きなっちゃったの??わかんないよ〜〜〜〜!!

きっと傍から見たらおかしな子だったと思う。
ひとりで唸って、真っ赤になってたから。

そんなことを昨日から考え続けて……渚ちゃんにはまだ話してない。
さっきの話から、なんだか言えない雰囲気になってしまった。

ああ……そう言えば、今日もあの場所に行くって約束しちゃったんだ……どうしよう。



結局、昼休みにあの場所に来てしまった。
また来ると言ったけど、いつ行くかなんて約束しなかったから、
もしかしてこの時間に彼は来ないかもしれない。
女の子の相手が忙しくて……

あのあと、渚ちゃんに彼のことをもっと詳しく聞いた。
憶測なところもあったけど、大体は本当のことらしい。

入学当時から女の子に人気でつねに恋人がいて……とても短いサイクルでその女の子が変わってるってこと。
今は特定の女の子はいないみたいだけど、だからって女の子に不自由はしていないってこと。
渚ちゃんの情報は、もと付き合ってた人からとか、彼の傍にいつも一緒にいる人とかからの情報だから
あながちウソとも言えない気がする。

今まで彼は自分の傍にいなかったタイプだし、自分から近付こうと思わなかった相手だと悟った。

なのに、私はなんでここに来ちゃったんだろう?
ああ……どうかどうか……彼が居ませんように!!

そんな私の願いも虚しく、木に覆われた昨日の場所に行くと、そこには彼が先に座ってて
こっそりと覘いたにもかかわらず、あっさりと彼に自分の存在がバレてしまった。

「やあ ♪ 待ってたよ」

とっても爽やかな笑顔で挨拶されて……逃げ出すことは出来なかった。

「こ……こんにちは……」
「こんにちは」

1日ぶりの彼女は、相変わらず優しい雰囲気をまとって現れた。
“こんにちは”だって可愛いよな〜〜 ♪

「身体、大丈夫ですか?」
「え?あっ!ああ……昨夜一晩ぐっすり寝たらこのとおり」

俺は片腕の肘を曲げて、それを上下に振って元気さをアピールした。
いやいや……昨日も具合が悪かったわけじゃないから最初なんのこと言われてるのかわからなかったよ。
そういえば、昨日は具合が悪かった振りをしたんだっけ。

「立ってないで座れば」
「あ……はい」

返事をしながら遠慮がちに座る彼女……その仕草もやっぱり可愛い!

昨日、あれからずっと彼女のことしか頭になかった。
いつものように、自分の周りに女の子が来ても煩わしいだけで代わりに彼女がいたら……
なんて思ったのも1度や2度じゃなかった。

昼休み会えなかったら放課後、彼女のクラスに迎えに行こうと思ったほど。
この気持ちは一体なんなんだろう?と思ったけど自分では答えを導き出せなかった。
だから小学校からの友達に、今の自分の状況を話した。

『それが恋ってやつじゃないのか』

と、いとも簡単にそして明快に答えを導き出してくれた。
その友達の声が、あきれ返っていたように思ったのは気にしないでおくことにする。

「恋……恋か!!これが恋なのかぁーーーーっっ!!」

携帯を握り締めたまま、俺は自分の部屋で叫んでた。

俺にとって生まれて初めての恋だった。



「楼々ちゃんは今付き合ってる人いるの?」
「え?」

単刀直入に聞いた。
もう人生初のこの恋に駆け引きや迷いなんてなかった。

楼々ちゃんにいつも会いたい。
楼々ちゃんにはいつも俺の傍にいてほしい。

楼々ちゃんに俺の彼女になってほしい。

そんな気持ちを隠しもせずに、彼女の肩を掴んで言い寄る。

「え?あの……」
「ああ……好きな相手がいてもいいや。
そんな相手俺が忘れさせてあげるし、付き合ってる相手がいても同じだから。相手の男から君を奪うし」

自分でも、とんでもないことを言ってるのはわかってたけどもう止まらない!

「俺と付き合ってほしい」


生まれて初めて……俺が自分から女の子に告白した瞬間だった。





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