君のそばにいたいから…



03




「俺と付き合ってほしい」

「!!」

彼女の瞳が見開かれて、俺をじっと見つめてる。
ああ……この眼差しを独り占めしたい。

「OK?」
「…………え?」

目の前にニッコリと微笑んでる彼の顔。
今……彼は何を言ったのかしら?
なんか怖いこと言ってた気がするのは気のせい?

なに?なにがOKなの?彼なんて言ってた?

「俺と付き合ってくれる?」
「…………」
「俺の彼女になってくれるのかな?」
「へ?」

どうも思考回路がうまく動いてないみたい。
彼女?彼女って言った?

「楼々ちゃん大丈夫?」

戸惑った彼が、心配そうに私の顔を覗きこんでくる。

「え?いえ……あの……もしかして私に交際申し込んで……ます?」
「もしかしなくても申し込んでるけど……ダメ?」
「……って言うことは……武光君は私のことが、好きということですか?」
「うん。好きということです」

う〜ん……オウム返しで返されてしまった。

「で……でも……私達、昨日会ったばかりだし……それもほんの数分間でしたよ」
「なんだけど、俺は楼々ちゃんのことが気になって仕方ないんだ。
昨日もあれからずっと、楼々ちゃんのことしか考えられなかった」
「…………」

フニャリと笑う彼……本当に?本当なのかな?
私の頭の中には、さっき聞いた彼の話しが渦巻いてて、
素直に目の前の彼の言葉が信じられない。

「楼々ちゃん?」
「あの……」
「ん?OKしてくれるの?
ってか、それ以外の返事聞きたくないんだけど」
「武光君こそ今、付き合ってる人……いないんですか?」
「え?」

彼女が困った顔をして、俺に聞いてきた。

「……お付き合いしてる方が、いるんじゃないんですか?」
「いないけど?」
「本当ですか?」
「本当だって!なんで?なんでそんなこと聞くの?俺がいないって言ってるのに、信じてくれな……」

そこまで言って、言葉に詰まる。
ああ……そうか……彼女も俺の噂を耳にしてるんだ。
だから、俺の言ってることを、信じてくれないのか?
そうだよな……知らないはずないよな……でも……。

「あのさ……楼々ちゃん」
「はい」
「俺の噂で、どんなこと聞いてるのかなんとなくわかるけど、本当に俺、今誰とも付き合ってないよ」
「付き合ってる人はいなくても、遊ぶ相手はたくさんいるってことですか?」
「!!」

大人しそうなのに、結構鋭く聞いてくる楼々ちゃん。

「今日も見かけましたよ。たくさんの女の子に囲まれながら、廊下を歩いてる武光君を」
「…………ただの……友達だよ。あの中に、付き合ってる子も好きな子もいない」

友達ですらないと思うけど、今それ以外の言い方は彼女には言えなかった。

「そうですか」
「俺の言葉、信じられない?」
「……噂は、ウソではないんですよね?」
「うん……でも昔のことだよ。今はそんなことしてない」
「…………」

突然の告白に驚いたけど、今の彼はとっても素直なんじゃないかな?って思う。

自分でも、彼のことが気になってるのは事実だし……でも……私、今まで誰とも付き合ったことないし、
あんなに女の子に人気がある人なんて、きっとこの先色々苦労するような気もする。

彼のこの困ってる顔も、信じていいのだろうか?
と不安もあるし。
だって、女の子の付き合いに慣れてる相手だもの……どうやったらお付き合いできるかなんて、
私よりも詳しいだろうし、そのために演技だってできるかもしれない。

ただ……私相手にそんなことまでして、付き合いたいのかと思うと、そんなことない気がする。
と、いうことは……。

「…………」
「楼々ちゃん?」

嫌われてはいないと思う。だけど楼々ちゃんは黙ったまま、何か考えてるみたいだった。

「私……武光君のことよく知りません。だから今ここで、お返事はできないです」
「え!?」

も……もしかして断られ……た?

一瞬にして目の前が真っ暗になった。
全身から血の気がひいた気もする。

「それに、武光君は女の子に人気があるから、まだ武光君のこと100%信じられないです」
「うっ!る……楼々ちゃん……あのさ……」

まさかそんな答えが返ってくるなんて思ってなかった。
俺は内心パニック状態。
わかってはいたけど、楼々ちゃんって、真面目だ。

こ……これはじっくり話して、納得させないとダメか?
そう思って楼々ちゃんのほうに近付くと、楼々ちゃんが言葉を続ける。

「なので、武光君を知る時間をください。そしてそれは、私のことも知ってもらう時間にもなります」
「え?」
「3ヶ月」
「3ヶ月?」
「はい。その3ヶ月の間にお友達として過ごして、それからお付き合いを考えるってことにしませんか?」
「…………」

俺はそんな時間も惜しいと思ってる。
すぐにでも俺のものにしたいのに……3ヶ月……とんでもなく長い時間に思える。
でも……ここで強引にコトを進めることは彼女は望んでないし、きっとそれだと確実に“ゴメンナサイ”されそうだ。

「その間、友達として話したり傍にいたり一緒に帰ったりしてかまわないの?」
「はい。そうじゃないとお互いのこと、知る機会がないじゃないですか」

ニッコリと彼女が笑う。
ああ……拒絶されたわけじゃないんだと、ホッとしてる自分がいた。
ホント心臓に悪い。
こんなこと、初めての体験だ。

「そっか……じゃあ俺を知ってもらって、彼氏に昇格すればいいんだね」
「そ……そうですね」
「わかった。3ヵ月後に晴れて彼氏になる。その時はOKしてくれるんだよね?」
「私が武光君と、付き合いたいと思ったらですけど」
「いいよそれで。俺、楼々ちゃんに気に入られるように頑張るよ」
「はい。でも、もしかして武光君の方が私に呆れて、付き合おうなんて思わなくなるかもしれませんよ」
「そんなことないよ。大丈夫」

そう……本当に大丈夫だと言い切れる。
俺にとって彼女は今までの女の子達とは違うんだ。それは自分が一番よくわかってる。

「じゃあ、今日から宜しくお願いします」

そう言うと、彼女はペコリと頭を下げた。

「こちらこそヨロシク」
「あの……私、今まで誰とも付き合ったことないので……恋愛に関しては初心者ですから。
そのつもりでお願します」
「え?そうなの?」

ということは、もしこのまま付き合えたら、なにもかも俺が初めてってことになるのか?

「あ!じゃあ昨日の口移しって……」
「!!」

その一言で、彼女の顔が一瞬で真っ赤になった。うわっ……かわいい♪

「もしかして……ファースト・キスだった?」
「……ひ……人助けでしたので……あれはキスとは……」
「え?」

ま……まあそうか。
人工呼吸だって、キスとは言えない気がするし……
それにこのまま付き合って、また俺とすればいいんだ。
もうそうなったら、ファースト・キスだろうがセカンド・キスだろうが気にすることじゃない。

「じゃあさっそくだけど、今日一緒に帰ろう。友達として」
「え?あ……はい……わかりました」
「じゃあ教室に迎えに行く」
「え?あ……いやそれは……そんな気を使わなくても大丈夫ですから!!」

さすがにいきなりそれは……ちょっと目立つんじゃないかと?

「昇降口で……」
「教室まで迎えに行くから!じゃあ、またあとでね♪」
「え?あ!ちょっと!!」

私がした提案はあっさりと却下され、彼は手を振ってさっさと校舎のほうに帰ってしまった。

ああ……どどどど……どうしよう!!
人の言うこと聞いてくれないし。

きっと注目の的になって、次の日には学校中の噂かも?
そうなったら私、今までのような穏やかな学校生活を送れないんじゃないかしら??
そりゃ多少心構えはしてたつもりだけど……最初はもうちょっとひっそりと運びたかったというか……。


頭の中に思い浮かぶことは最悪なことばかりで……。

そのあとも、その場所からしばらく動くことができなかった。





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