君のそばにいたいから…



04




「楼々ちゃん、帰ろ〜〜♪」

HRが終わって5分ほどすると、教室の入口で私を呼ぶ声がした。
本当に迎えに来たんだ……。

わかってはいたことだけど、やっぱりとても目立ってた。
彼も、彼の声も。

「楼々、本当に来たよ」

渚ちゃんが呆れた顔で私を見る。
渚ちゃんには、彼と交際を前提にお友達から始めることを話してあったから。

『流されたらダメだよ!危ないときは蹴れ!』

と、エールを送られ、教室から送り出された。
“蹴れ” ってどこをですか?

「じゃあ、帰ろうか」
「はあ……」

うう……周りの人の視線が痛い。
特に女の子の視線が……うっ!?いきなり手を繋がれて、引っ張られた!!ウソでしょ!?

「あの……ちょっとこの手は?」
「気にしない、気にしない♪」

いや……気にしますから!

校門までの間でも、女の子からの視線が、突き刺すように自分に注がれてるのがわかる。
そして、あからさまなヒソヒソ話。

そうよね……昨日まで話してるところも見せなかった、どこの馬の骨ともわからない女が、
皆の憧れの的の武光君と、手を繋いで歩いてるんだから。

「あ……あの……でも大丈夫だったんですか?」
「なにが?」

萎縮してる私とは反対に、ウキウキしてる彼。

「あの……いつも傍にいる女の子達……一緒に帰るんじゃ」

この針のムシロの視線と雰囲気に堪えかねて、思わず聞いてしまった。

「なんで?今日から3ヶ月の間に俺は君に気に入られなきゃいけないんだよ?
他の子にかまってなんかいられないよ。
っていうか、楼々ちゃんがいるのにどうして他の子の相手なんてしなきゃいけないの?」

「…………」

ごもっとも。
流石モテ男クン……言うことが違う。

だって、そんなセリフと優しい笑顔で私の心臓がドキドキしてるもの。



「ねえ」
「はい?」
「楼々って呼んでいい?」

ああ……またそんな顔……。
噂はあんななのに、なんて爽やかな笑顔。
ああ……女の子はこの笑顔にやられちゃうのね。

「ん?」
「あ……はい」
「ありがとう。俺のことは将宗って呼んで」
「はあ……じゃあ将宗君で」
「OK!」

もう……またそんな笑顔で……ダメダメ!顔で決めちゃダメなのよ!!
彼の人間性を見極めなきゃいけないんだから!



「楼々、時間大丈夫?」

呼び捨てを許した途端 “楼々” と呼ばれた。
“ちゃん“ づけで呼ばれるよりもドキドキするのは、呼び捨てだから?それとも彼が呼ぶから?

確かなのは男の子に呼び捨てで呼ばれるのは初めてってこと。

「え?うん」

そんなことを思ってたら、ちょっと返事をするのに間が空いちゃった。

「じゃあ、アイス食べていかない?」
「アイス?」
「俺達の間じゃ評判いいんだ。嫌いじゃなきゃだけど」
「大丈夫。嫌いじゃないです」
「そう?じゃ行こうか」
「はい」

いつも利用してる駅からちょっと脇の道に入った。
大通りより静かな雰囲気で、人通りもまばら。
お店も洒落た感じのお店じゃなくて、昔からあるようなそんなお店ばかりだった。

寂れてるわけじゃないけど、なんだかのどかな雰囲気が漂う。
こんな場所が駅の近くにあったなんて……全然知らなかった。
いつも駅前の道を学校に通うだけしか歩いてなかったし、こっちに来たばかりであまりこの辺の地理にも
詳しくなかったから仕方ないと言えば仕方ないのかも。

それでもレンガの道路を進んでいくと、アイスの絵が描かれてる看板が目に入った。
そんなに大きなお店じゃなかったけど、洋館風のお店の造りはなんとも可愛らしかった。

「おススメはバニラだけどストロベリーもイケるよ」
「え……そうなんですか?じゃあ何にしようかな……」
「じっくり考えて」
「はい。将宗君は何にするんですか?おススメのバニラ?」
「いや。俺は抹茶」
「えっ!?」
「え?なに?俺、変なこと言った?」
「あ……いえ……将宗君のイメージにしたら渋い選択かな?って……」
「え?そう?もともと俺、和食派なんだけどな」
「そうなんですか?なんだか意外です。まさか聞く歌も演歌?」
「ぶっ!ちょっ……まさかそれはナイっしょ?ちゃんと今時の若者のが聞くのが好きだって」
「はあ……そうなんですか……」
「で?何にするか決まった?」
「え?あ……じゃあ、おススメのストロベリーで……」
「OK!じゃあ抹茶とストロベリーで」
「はい。ありがとうございます」

彼が注文してくれて、お金まで払ってくれた。
自分の分を払うって言ったのに、彼は自分が誘ったからって頑として受け取らなかった。
仕方なくお言葉に甘えることにして、次になにかお金を払うときは自分が二人分払おうと決めた。

「ん〜〜美味しい〜〜♪」
「だろ?男の俺でも食べれるしさ」
「お友達も食べたりするんですか?」
「ああ……ときどき」
「女の子なんて、きっとこういうの好きですもんね……」
「…………」
「あ!べ……別にそんな意味じゃ……」

本当に深い意味もなく言った言葉だった。
未だに彼の言う “友達=女の子” になってる私の頭の中……でもそれは仕方ないと思う。
でも、彼にしてみたらあまりいい気分じゃないかもしれない。

「……ごめんなさい」
「楼々が謝ることじゃないじゃん。俺の今までしてきたことが原因なんだし、気にしてないから」
「…………」
「また食べに来よう。ね?楼々」
「!!」

頭をポンポンとされて、私は遠慮がちに 『はい』 と、返事をして頷いた。



「一応楼々に、義理立てはしてるみたいだね」
「ん?」

そう言うと渚ちゃんは、クイッと窓の外を顎で指す。
見れば渡り廊下を将宗君が歩いてる。

でも今までと違って彼の周りには女の子はいなくて、きっとクラスの友達だと思うけど男の子数人と一緒だった。

「変なことされてない?」
「変なこと?」
「AとかBとかCとかよ!あいつ手が早いんで有名だったんだよ!あたしはそれが心配でさぁ〜」

AとかBって……一体いつの話しなの?渚ちゃん?

「大丈夫だよ。だって今はまだ私達友達のお付き合いだもん」
「ふ〜ん……我慢してるんだね〜でもその欲求不満で他の女に手なんか出してないの?」
「多分……」

彼はあの日から、自分の周りに女の子を近づけさせていない。
それは今まで彼からは信じられない行動だけど徹底してる。

それに彼は優しいし、一緒にいると、とても楽しい。

毎日のように一緒に帰って、夜は電話が掛かってきて休日も何度か出掛けたりした。
男の子とふたりっきりなんて今までなかった自分なのに、彼だと全然緊張もしない。
彼も期限の3ヶ月の間は私に気を使ってくれてるのかもしれないけど、時々私の髪や頬に
触れる彼の手は優しいし、私を大事にしてくれてるのがわかる。

一番は、あんなにいつも彼の周りにいた女の子達がいなくなったこと。
一緒に帰り始めた頃は、時々彼の携帯に女の子からメールや電話があったみたいだけど、
最近はそんなこともなくなった。

『俺の携帯の女の子の登録は、母親以外は楼々だけだよ』

そう言って自分の携帯を見せてくれて、彼の言ってることが本当だと知った。
どうしてそこまでしてくれるのかと聞いたら

『俺、楼々には本気なんだ。だから友達にもそう言ってるし、今まで俺の周りにいた女の子にも
俺の友達とかが協力してくれて、皆俺の気持ちわかってくれた。
だから楼々に何か言う子いないだろ?皆、応援してくれてる』

そんなことを笑顔つきで言われたら、このまま3ヶ月が過ぎたら自然に恋人関係になりそうな気がするのは
私の気のせいかしら?

本当に彼は変わってくれたんだな……なんて思い始めてた。


それからも休みの日にはいわゆるデートになるんだろうけど、友達の付き合いの私達には
『お友達とお出掛け』 になるのかな?

なんだかとっても不思議な関係で、でも将宗君と一緒に過ごす時間は私にとって
なくてはならない時間になってた。

いつも繋いでる手は、当たり前になっていて逆に繋いでない時のほうが寂しい気がして
変な感じにまでなってる。


だから最初に言っていた3ヶ月と言う期間を、2ヶ月を迎えた今日に短縮してあげようかな……。
と、私は思い始めてた。


今日、それとなく言ってみようかな?

そうしたら政宗君、喜ぶかな?


そんなことを思いながら、待ち合わせのふたりだけのお気に入りの場所に向かって早足で歩き出した。





Back  Next








  拍手お返事はblogにて…