ひだりの彼氏 番外編 クラスメイト・須々木君とツバサ 1


03




俺はリモコンを持ってツバサが座るソファの隣に腰を下ろす。
やっとテレビの画面に映像が映し出される。

とあるマンションの一室を玄関からカメラが入っていってキッチンやリビングを抜けてとある部屋のドアが開く。
そこは勉強机があって制服の上着が勉強机のイスに掛けてあって学生の部屋だってわかる。
そして途中から段々と大きくなる女の声。

『ハァ…ハァ…ハァ…ああ〜〜〜ん』

「………」

ゆっくりとツバサが俺を見る。
俺じゃなくてテレビを見ろ!テレビを!!

『あっ!あっ!あああーーー!!』
『ハァハァハァ…せ…先生!!』

男と女の喘ぎ声とギシギシと激しく軋むベッドの音と画面一杯に映し出される先生と呼ばれてる女が
ベッドに仰向けに寝てる男の上で腰を振って乱れまくってる。

「高校生と教師の設定で女の方が年上で男は高校生なんてお前達のシチュエーションにピッタリだろ?
未修正で……イデッ!!」

思いきり頭をゲンコツで殴られた。
当然殴ったのはツバサだ。
殴られた頭を押さえつつ視線を向けたツバサは相変わらずの無表情な顔だったが珍しくこめかみに
『怒りマーク』 が浮き出てる気がしたのは気のせいか。

「帰る」
「は?いや…ちょっと待て!」

立ち上がったツバサの肩を掴んで強引にソファに座らせた。

「俺はなお前のためを思って言ってるんだぞ!」
「どこが」
「このDVDはな年上を対象とした男にとってのバイブルとも言えるDVDなんだぞ!」
「………」
「なんだ!その呆れた眼差しはっ!!
浜内なんかこのDVDのお陰で年上のお姉さんを満足させてあげられたと感謝されたんだからな!」

浜内とは夏祭りの時一緒に行ったクラスメイトだ。もともとモテる方に入る男だが去年 『そろそろ年上狙う!』
とかいきなり言い出して知識としてと言ってこのDVDを持ってると知って俺に見せてほしいと言ってきた。
1度見て初めての年上…確か5歳上のどこかのOLでもともと何度か経験のあった浜内は失敗することもなく
上手く乗り切ったらしい。
それからはDVDに頼ることなく時々年上相手に遊んでるらしい。

「そんな由緒正しいDVDなんだぞ!」

テレビ画面を指差して俺は力説する。

「……」

ツバサはそれでも無言の圧力を掛けてくる。
『オレは帰る』 と言うセリフがツバサの身体から出てるのがわかる。

『ダメダメ…アッアッ……そこは……あああーーーー!!』
『ハァハァ…おれもう…ああ…先生ーーー!!』

テレビの画面の中では最初のクライマックスが迎えられた瞬間だった。

「とにかく最後まで見てけ!絶対後悔しねえから!!」
「すでに後悔なんだけど」
「なんだよ!お前興味ねーの?」
「別に」
「……」

これが他の野郎なら何惚けやがってと詰め寄るところだか…ナゼかツバサだと納得できる。
相変わらずの無表情の無関心だ。

「女とHしたいと思わねーの?」
「女子興味ないし嫌いだし」
「……」

その答えを聞いてならば男が?と聞くほど俺もバカじゃない。

「女の身体触りたいと思わねえの?」
「別に。今さらだし」
「………はあ?!」

コイツ今サラっと羨ましいこと言ったな?言ったよな?

「な…なんだよ!今さらって?」
「さあ」
「惚けんなーー!!やっぱテメエ経験あんじゃねーか!」
「さあ」
「ったく……まあいいや。とにかく最後まで見てけ!そんで自分と違うところはちゃんと吸収して
あの年上のお姉さんに生かせ!自分のスキルアップだ!」
「須々木がスキルアップすれば」
「お…俺は大丈夫だ!後は実践あるのみ!」
「ふーん」
「ツバサぁーー!!俺はちゃんと経験者だかんな!まだ年上のお姉様とはお近づきになってないだけで!!」
「ハイハイ」
「くぅーーー!!いいからテレビ見ろ!」

俺は両手でツバサの頭を掴むとグイッと強制的にDVDを見せた。

「痛い」
「痛くない!」
「ウザイ」
「ウザくない!」
「眠い」
「うるさい!」
「飽き…」
「黙れ!」

「……」

5分程してツバサが大人しくなった。

流石に諦めて大人しく見てるのかと思ってツバサの顔を覗き込むと……

「くぅ…」
「!!」

寝てやがったーーーー!!

「ツバサーー!起きろ!!」

そういやコイツ寝る奴だった!

「ん〜終わった?」
「ああーーもういいっ!!お前に女の楽しさをわからせようとしたのが間違いだったよ!」
「やっと気付いた。トロイ…ふわぁ〜」
「ったく!じゃあコレやる」
「じゃあの意味がわからない」

俺が差し出したモノをツバサがじっと見てる。

「余分に買ったからお前にやる。あって困るもんじゃねーだろ?無くて困るけど」
「いらない」
「遠慮すんな」
「遠慮なんてしてない。いらない」
「なんでだよ。買う手間省いてやってんだから素直に受け取れ」

俺は持ってたゴムの箱をツバサの鳩尾に突き出す。

「要らない」
「なんでそこまで拒むんだよ?有り難く受け取れ!薄型の新商品なんだと。使い心地いいらしいぞ」
「それって使った感想?」
「!!」

使ってないのわかってて言ってやがるな…

「どうでもいいだろ!ホラ」

そう言ってツバサの手を取って強引に握らせた。

「……」
「絶対感謝するって」
「しない」

そんな押し問答をしてツバサはカバンを掴んで立ち上がった。
よしよし!諦めたか。

「見送ってやるよ」
「いいよ。キモい」
「なにがだよ」

まったく!口の減らない奴め!
喋らない奴かと思えばなかなか面白い奴なんだよな。

そんなことを玄関に向かうツバサの後ろ姿を見ながら思った。
だからツバサに絡むのはやめらんねー。


「気をつけて帰れよ」
「だからキモい」
「じゃあまた明日な」
「じゃあね」

家の前で丁寧にお見送りしてやるとツバサは自転車に乗って帰って行った。

女が嫌いと言いながらしっかりと相手がいるんだから本当よくわからない奴だ。

そんなツバサの相手が出来る年上の彼女…いつか生彼女に会えねぇかな?いや…無理そうだな。
ツバサが会わせるとは思えない。
そういうトコ何気に心が狭そう。

「ん?」

そう…たまたま…偶然に家に入る前にチラリと後を振り返った。

「は?………げっ!?」

目の錯覚か気のせいかと思った。

「い…いつの間に……」

偶然に振り返った視界の先の塀の上にツバサにやったはずのゴムの箱が置いてあった!

「なっ!!」

俺はソッコー箱を掴んで周りを見渡す。
良かった誰もいねえ。

「あの野郎〜〜なんでこんなトコに?嫌がらせか!?」

ツバサならやりそうだと…いや!やるだろうと納得する自分がいる。
俺が気付かなかったら近所や親におもいっきり見られてたじゃねーか!!
まったく!!油断も隙もあったもんじゃねー!!

色々な感情が渦巻きながら呆れるやら感心するやら……
だがお返しに次の日こっそりツバサのカバンにゴムの箱を入れてやった。
流石にそれは突き返されなかったがこれから先それは使われることはあるんだろうかと
ツバサを観察してたが相変わらずのツバサは何の変化もなかった。

また今度誘って色々聞き出してやろうと思ってるがきっと警戒されて連れ出すのは
難しいだろうなと誘う前から諦めムードだった。





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