ひだりの彼氏 別話編 高校生のツバサと奈々実 1



01




「オレと同じ高校だよね」

「え?」


学校に向かう朝の電車の中で座ってる私の隣に同じ学校で同じ学年の男の子が私に話しかけてきた。

かなりの生徒が使う電車だけど改札口から遠い後の車両では人も少なくてちょっとだけど席も空いてたりする。

始発駅から2つ目の駅で乗る私はいつも座ることができて今日も座って揺られていた。
先週まで降りる駅の改札口に近い場所に停まる車両に乗ってたんだけどそこは必然的に混んで
何度かチカンに遭ったりして怖いし気持ち悪くて降りてから歩くけど人の少ない最後の車両に替えた。

そんなふうに通学し始めて数日後の出来事だった。
空いてた隣の空間に停まった駅から乗ってきて彼が腰を下ろした。
……らしいんだけど私は持ってきてた小説を夢中で読んでて彼が隣に座ったのは気付かなかった。

隣に座ってるのは同じ2年の確か名前は 『三宅 翔』 。
クラスは違うけど私は彼を知ってた。

と言うかきっと学校中が知ってると思う。
なんせ彼は学校で有名人だから。

入学当初から見た目の容姿が噂になってどの学年の女の子も彼の噂をしてたし何人かは早々に
告白なんかもしてて毎日騒がれた。

『可愛い感じなんだけどあの左目の泣き黒子が艶っぽさをかもし出してんのよ〜』

と言う友達の説明。

そんな友達に引っ張られ彼を見に行ったこともあるんだけど確かに皆が騒いでもおかしくないルックス
だと思ったし背も高いし痩せてもなくて太ってもいない。
確かに騒がれてもおかしくはないと思う。
でも思うだけでだからって彼に惹かれたりはしなかった。

周りが騒ぎ過ぎのせいかもしれないけど……
でもそんな騒ぎも入学式を終えて月が替わった頃には大分落ち着いてきた。

それは当の騒動の中心である彼がそんな騒ぎにまったくの無反応だったから。
しかも毎日の行事のような告白に彼は1度も頷かなかったし聞くところによると呼び出しは全て無視。
話しかけられても殆んど返事もしない。
普通の会話ならOKらしいけどそれもほんの数回の会話のやり取りのみ。

だから彼に告白するには歩いてるところを捕まえてその場で言うしかないらしい。
捕まえた場所からも移動しようとしないらしいから。

男子とはそれなりに話したり友達もいるらしいけど女の子には本当に興味のない態度を貫いてたらしい。

そんな話を聞いて硬派なのか?と思ったけどそれとはまた違うらしい。

表立って騒がれることはなくなったけど今度は逆にそんな彼を一体誰が落とすのか!?
なんてのが女の子の間で密かに囁かれてるのを知ってる。

そんな彼が横から私に話しかけてきた。
って私に話しかけてるのよね?彼の視線がガッチリと私と合ってるし。

でも普段の彼の噂を聞いてるから彼から話しかけられるなんて信じられなくて……
って言うか女の子に自分から話しかけてくるって?なんで??

「聞えてる?」
「え?あ……私?」
「他に誰がいるの」
「……そうよね……で?」
「だから同じ学校だよね」
「ええ……」





高校に入ってすぐオレの周りは騒がしくなった。

いつも女子が視界に入ってくる。

『今付き合ってる人います?』
『彼女いるの?』
『私と付き合わない?』

ウザイ。

毎日毎日飽きもせず誰かが傍にくる。

女子は嫌い。
欝陶しいとしか思えない。
しかも馴れ馴れしいし。
なんで勝手にオレに触るんだかわからない。
勝手に腕なんて組まれて不快指数200%だ。

オレの女子嫌いは2人の姉と姉の友達のせい。
そのことはオレの中で処理されてることだから構わないけどこれから先の学校生活を思うとウンザリする。

オレのことなんて放っておいてほしい。

ほんとウンザリだ。

話しかけてくる女子はことごとく無視した。
気を使ってやる気もないし話しかけてくる内容もくだらない話しばっかりだし。
必要最低限のこと以外は話さなかった。

そのせいか入学式から1ヶ月が過ぎたころやっと周りが静かになった。
懲りない女子が何人かいたけど無視。

2年に進級するとまた周りが騒がしくなった。
新入生のせいだ。
でもオレの態度はいつもと同じ。
しばらくすれば静かになるだろうとことごとく周りの騒音は無視してた。

そんなオレの態度にクラスメイトは『勿体ねぇ』なんて文句を言うけど余計なお世話。
こっちは鬱陶しくて邪魔で大迷惑なんだっての。


オレはいつも自転車通学だ。
理由は自転車で通えない距離じゃないし一番は誰にも邪魔されずに過ごせるから。

そんなある日の朝……出かけに自転車がパンクしてることが発覚。
前日はちゃんと乗って帰ってきたから気にしてなかったけどきっとタイヤに何か刺さってて夜のうちに空気が抜けたんだと思う。

朝から自転車屋なんて開いてないだろうしかといって自分で直すには時間もない。
その前に自分でんなんて直す気なかったけど。
仕方なくその日は電車で学校に行くことにした。

前の方の車両はうちの学校の駅の改札口の前になるから生徒で混み合ってる。
そんな中に乗る気なんてなかったから最初から迷わず最後尾の車両に乗った。
予想通りうちの学校の生徒は乗ってないし人もまばら。
でも微妙な間隔で席が埋まってて目のついた空いてる座席に座った。

いつもなら気になったはずなのに座って初めて隣にいる人物に気付いた。
同じ高校の制服。
しかも女子だ。

チラリと視線を向けると相手は隣にオレが座ったのは気付いてないみたいで手に持ってる小説に夢中のようだった。

ごくごく普通の女子だった。
横顔だから顔は良くわからないけど何も染めていない黒い髪は肩よりちょっと長め。
校則のわりと緩めのうちの学校では珍しい。
茶髪にピアスなんてほとんどの生徒がやってる。

それに色白で少し痩せ気味に感じる。
もうちょっと肉がついてた方が……ってオレなんで観察してんだろ?

大体他の席に移ればいいんだよ。
同じ学校の女子なんてウザったいだけで後々嫌な思いをするだけなんだし。

──── だけどなんだろう……この感じ。

隣に座ってるだけなのにこの心地良さに安心感。
なんだか眠くなってくる。

もともと寝るのが趣味のオレ。
結構色んなところで寝たりするけど今日は昨夜姉の泉美にくだらないDVDを夜中まで見せられて寝不足気味。
これで寝たら間違いなく乗り過ごしそうなんだけど……でもこの心地良さに眠気が増す。

「…………」

自分でも不思議な行動だと自覚してた。

「オレと同じ高校だよね」

「え?」
「聞えてる?」

思いのほかオレが声を掛けたことに驚いてる。

「え?あ……私?」
「他に誰がいるの」

なに?天然?

「……そうよね……で?」
「だから同じ学校だよね」
「ええ…そうだけどそれが?」
「駅に着いたら起こして」
「は?」
「聞えなかった?駅に着いたら……」
「ちがくて!聞えてるけどどうして私があなたを起こさなきゃいけないの?」
「他に誰もいない」
「だ・か・ら!ちがくて!!私あなたと話したの初めてよね?」
「そう」
「なのになんでそんなこと頼めるの?」
「だから他に誰がいるの」
「誰もいないけど……はあ〜〜あのね……」
「ほらもう1分経った。時間がもったいない」
「はあ?」
「優しく起こして。よろしく」
「え?ちょっと」

オレはそう言うとサッサと目を瞑った。
ハッキリ言って真面目に眠かった。
学校がある駅まで10分弱。

オレは自分でも信じられないほど安心して……

うたた寝では珍しく熟睡したらしい。





Next

  拍手お返事はblogにて…