ひだりの彼氏 番外編 ツバサ嫉妬する



02




「奈々実ちゃんーーーーん ♪」
「大輔君」

1つ下の大輔君は昔から私のことをちゃん付けで呼ぶ。

「奈々実ちゃーーーん ♪ 久しぶり〜〜〜会いたかったよぉ ♪♪」
「きゃっ!」

高校のときとあまり変わらない外見の大輔君。
こげ茶色の短めの髪の毛とイケメンとは言わないけどそこそこ整ってる顔。

そんな大輔君が走って来たと思ったら大きく両手を広げてそのままの勢いでガバリと私を抱きしめた。
そうだった!!大輔君ってば昔からこんな子だったっけ!!忘れてた!!

人見知りしない大輔君は無意識にスキンシップを求めてくる。
一方的だけど。

「いや〜〜1年ぶりくらい?ごめんね連絡もしないで。新しい職場で慣れるに精一杯でさぁ〜」
「わ……わかったから……ちょっと離して……」

ずっとぎゅうぎゅうと抱きしめられて今にも頬っぺたでスリスリされそうな勢い。

「え?なんで?奈々実ちゃん冷たくなった。昔は好きなだけスリスリさせてくれたのに」
「なっ!?そ……そんなことさせて……」

「へぇーーー昔からこんなコトさせてたんだ奈々実さん」
「!!!!」

ギクリとビクリが一緒になったくらいに身体が跳ねた。

「へ?」

「いい加減離れて」

そう言うと彼が私と引っ付いてる大輔君の身体の間に腕をズボッと突っ込んで
グイン!と乱暴に大輔君を私から引っ剥がした。

「なに?誰?この人?」
「えっ!?っと……あの……」
「奈々実ちゃん弟なんていたっけ?」
「いや……その……」

やっぱりそうくるか……そうよね……どう見ても弟よね……

「婚約者の三宅です。初めまして」

「うっ!」

ああ……言っちゃったわよ……堂々と……

「へ?え?!婚約者??って……え?奈々実ちゃん?どういうこと?」
「どういうことって言われても……えっと……」
「なに?結婚するの?奈々実ちゃん!!こんな若い子と?」
「うん……まあ……いつの間にかそんなことに……」
「大恋愛の末の当然の結果で」
「は?大恋愛?奈々実ちゃんと?」
「他に誰と」
「…………」
「奈々実ちゃん……ちゃんと話してくれる?」
「……うん……」
「話すのはかまわないけどこの手いい加減に離して」
「あ!」

抱きしめてた腕を彼に振りほどかれたあと大輔君は私の両手を自分の両手でギュッと握ってたのだった。
しっかりとそんなところまであざとく見つけて彼は無表情だけど超不機嫌。
こ……怖い……

「んなっ!」
「…………」

ブン!!という効果音がつきそうな勢いで彼が大輔君の両手を私の手から振り解いた。
ちょっと大人気ないっていうか……うーーん……

「なに君?いくら奈々実ちゃんの婚約者だからって俺と奈々実ちゃんの仲は裂けないよ」
「!!」

ブチリ!!と彼からそんな音が聞えた気がした。
最近発覚したけど彼ってけっこうヤキモチ妬きだったりする。

『奈々実さんがオレ以外の相手に無防備だとイライラする』

ってしっかりと宣言されてるし昨夜だって大輔君からの電話のあとの行動が物語ってる。

「やだ……大輔君ってばなに言ってるの?高校の時だってただ話したり時々遊びに行ってたり
してただけで……そんなふうに言うような間柄じゃなかったじゃない!」
「そう思ってたのは奈々実ちゃんだけだよ!奈々実ちゃん鈍感なんだから!」
「ええ!?」

いきなり……なに?

「泊めてもらった時だって何度奈々実ちゃんの布団に潜りこもうかと思ったか。
それなのに奈々実ちゃんってば全然警戒心ってものがないんだから!」

「!!」

なに?なんで今さらそんなことを??

「ほらオレの言ったとおり」
「ぐっ!!」
「でももうあきらめて。奈々実さんはオレの奥さんになる」
「でもまだ婚約中なんだろ?だったらオレにもチャンスはある!!」
「ない。1ミリもない。天地がひっくり返ることがあってもない」
「なんだその無表情な顔は!しかも至って冷静に文句言ってくれちゃって!本気で言ってるのか?ったく……
いや!あるね!!ね?奈々実ちゃん!!」

うっ!私にフラないでほしいんだけど……

「え!?いや……その……」

ウ……ウソでしょ?一体これって……どういうこと??どうしたら?
私はもう上手いこと考えられなくて頭がクラクラする。

だって……今まで親戚としてしか思ってなかった大輔君に……こんな告白されるなんて!?

「大輔君……」
「なに?」
「冗談……だよね?」
「なにが」
「大輔君が……私のこと……?」
「好きだよ。ずっと昔から」

「「 !! 」」

ゴンっ!!!っと鈍い音が響いた。

私と大輔くんがいきなりの音でビクリとなる。
なに?

「それ以上言うならその口二度と喋れないようにする」

「え?」

見れば彼が私を片腕で抱きしめながらもう片方の腕ですぐ横の街路樹の木に拳を叩きつけてた。

「…………」

いつもの無表情なのに目が半端じゃないほど冷めてる。
しかも超!超!!不機嫌オーラ出まくってる気がするんですけど……?

「な……なんだよ!脅したって無駄だからな。これは奈々実ちゃんの気持ちの問題なんだから」
「だから奈々実さんがOKする可能性なんて”0”だから。今ここであきらめて」
「なんだよ……そんなに奈々実ちゃんのこと好きなのかよ」
「だから結婚する」
「……奈々実ちゃんは?こんな奴でいいの?騙されてるんじゃないの?」

大輔君が昔ながらの心配してくれる顔になる。
高校のときもわたしがちょっと落ち込んでたり具合が悪かったりするとすぐにそう言って心配してくれてたよね。

私……弟が出来たみたいで嬉しかったのかも……

「……心配してくれてありがとう大輔君。騙されてなんかいないから安心して」
「本当?」
「うん……でも私の方が騙されてるなんて言ってくれたの大輔君だけだよ」
「なんで?だって奈々実ちゃんは男騙すような子じゃないじゃん!誰だよそんなこと言うの!!」
「誰って訳じゃないけど……世間一般的に考えると……ね」
「…………」

私がちょっと苦笑いすると大輔君の顔がムッとなった。
あ……なんだか余計なこと言ったかも?なんてまた後悔。

「やっぱりダメだ!奈々実ちゃんは俺と結婚した方がいい!年だって1つしか違わないし社会人だし。
奈々実ちゃん1人くらい養えるよ。ね?こんな若いツバメなんてやめて俺と結婚しよう!」

「大輔君……」

ツバメじゃなくてツバサなんだけど……
ってそう言う意味じゃないよね!!うう……私ってば何考えてるのよ!!

「人の話聞いてないの」

「「 え? 」」

ビュオーーーーっとブリザードが吹きぬけたような冷たい空気が私達の周りに漂ってる。

「その口塞ごうか」

これは……夢でも見てるのかしら?
彼が無表情のままポキポキと両手の指を解してる。

「ちょっ……ちょっと待っ……ダメよ!暴力は!!」

私の言葉も聞こえてないみたい。

「大輔君!じょ……冗談よね?ね?ふざけただけよね??ね?」

うん。って言ってよーーーーっっ!!!

「…………」

大輔君がじっと彼を見てる。

「君みたいな男が奈々実ちゃんのこと幸せにできるのか?」
「あんたに心配してもらう理由はない」
「どうせ家政婦みたいに奈々実ちゃんのこと扱うつもりなんだろう!自分はさっさと若い相手見つけて!」

大輔君が彼に向かってビシリと人差指を突き付けた。
ちょっと大輔君……それってちょっとヒドイんじゃ??
それに実際家政婦なのは彼の方のような気がするし……

「なに。それって奈々実さんが歳くってるって言いたいの」
「え!?あっ……違うよ!奈々実ちゃん!!奈々実ちゃんは歳のわりに若く見えるから大丈夫!」
「あ……ありがとう……」

ってなんだか複雑な心境だけど……

「とっ……とにかく君には奈々実ちゃんと結婚する資格はない!!」
「あんたにはあるの」
「ある!」
「………」
「大輔君……」
「はあ……そう」

その言い方はいつもの素っ気ない言い方だった。
でも……

「その勘違い今のうちに粉々に壊しとかないと」

「うわっ!ちょっと!」
「きゃあ!ダメ……」

彼が大輔君の胸倉を掴むから慌てて彼の腕に飛びついた。

「……くっ……くっくっ」
「?」
「大輔……君?」

大輔君が胸倉を掴んでる彼の手を両手で握って笑い出した。

「そんなに奈々実ちゃんのことが好きなんだ?」

笑いがおさまるとそんなことを言って彼を真っ直ぐ見てる。

「?」
「大輔君?」
「ちょっと話そうか?奈々実ちゃん」

さっきまでとは大分違う大輔君の態度で私はちょっとビックリで……
でもそう言えば昔の大輔君は時々こんな態度で私に接してくれたときが
あったな……なんて思い出した。

「……うん……」
「彼氏もいいよね?大分人目についてきちゃったし」
「…………」
「え?」

大輔君に言われて周りを見ると遠巻きに結構な人数のギャラリーが!!

「うっ!!」

そう言えばココは駅のロータリーで通行人がひっきりなしに歩いてたんだ。
やだ!恥ずかしい!!!

「だったらこの手いい加減に離して」
「は?」
「オレその気ない」
「へ?…………うわあ!!!バッ……!!俺だってノーマルだちゅーの!」

ナゼかずっと彼の手を握り続けてた大輔君がパッと手を離した。

「とりあえずどっか入ろう。話はそれから」
「うん……」

そう言うと大輔君はいつもと同じ笑顔で私の頭を手の平でポンポンとした。

「ぐあっ!」
「だから慣れなれしいって」
「…………」

ベシン!!っという音がしたかと思ったら私の頭をポンポンとした大輔君の手に
彼が思い切りシッペを叩き込んでいた。

彼の意外な一面を発見した気がした。





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