ひだりの彼氏 番外編 ツバサ嫉妬する


03




「え?なに?現役の高校生なの?」

どこか入って落ち着いて話そうと提案した大輔君に頷いて駅から少し離れたファミレスに3人で入った。

大輔君に彼の紹介をしたら案の定驚かれた。

「で?卒業したら就職すんの?」

大輔君は頬杖をついて片手にコーヒーカップを持ってる。
そんなカップを口元に運ぶとコクリとコーヒーを飲んで彼に視線を向けた。

さっきまでの軽いノリはどこへやらで歳相応の社会人らしき態度と喋り方だった。

「ううん。大学に」

彼は不機嫌のまま喋らないから私が代わりに答えてる状態……なんとなく後が怖いのは気のせい??

「じゃあ奈々実ちゃんが生活費稼ぐんだ」
「そうなるけど……彼に掛かるお金は彼のご両親が出してくれるし貯金もあるし
結婚祝いでうちの親からもまとまったお金もらったから当分は大丈夫なの」
「ふーん……未成年は辛いな」
「!!」

大輔君がそう言った後クスリと笑うから彼の身体が微かにピクリと動いた。

「で……でも彼は真剣に私のこと考えてくれてるのよ!」
「ホント?奈々実ちゃんに全部おんぶに抱っこじゃないの?」
「そんなことない!毎朝私より早く起きて朝ごはんの支度してくれるし
お弁当だって作ってくれるし……夕飯も作ってくれて……」

ってなんでっ全部食事のこと!!??

「料理で騙されてんじゃないの?まあ奈々実ちゃん料理あんまり得意じゃなかったもんね」
「……そう言うわけじゃないけど……私のこと……すごく気遣ってくれてる……」

言いながらちょっと照れてしまう。
なんせ2人っきりでも彼にこんな自分の胸のうち話したことなんてなかったから……
それなのに第三者のいる場所で話してる自分……う〜〜ん。

でも……

「オレは奈々実さんが傍にいてくれればそれでいい」
「ん?」

ずっと不機嫌に黙りこくってた彼が彼に向かって話始めた。

「未成年なのも学生なのもわかってる。でも歳だけは月日が経たなければどうにもならないし
未成年で云々って言うならあと2年でハタチになる。学生も4年たてば就職してあんたと同じ社会人だ。
高卒で働くには今の世の中分が悪いと思ってるしあんただって将来的にとか考えて大学出たんでしょ。
オレはこれから奈々実さんに負担かける分……大学卒業するまでの4年間だけどその後は奈々実さんに
なんの負担もかけないって決めてる。
今あんたが未成年の18歳の学生のくせにとか思っててもオレはそのことに言い返すことは出来ない。
それが現実だし」

「…………」

大輔君も私も彼の話を黙って聞いてる。

「でもこれからの4年間奈々実さんと恋人でいるのも婚約者でいるのも嫌だ。
同じ4年間一緒に過ごすなら結婚してオレの奥さんで過ごしたい。だから誰がなんて言おうと
卒業したら奈々実さんと結婚する。誰にも邪魔なんてさせない」

「もしかして焦ってる」
「……奈々実さんは天然で無防備で鈍感で抜けてるから」
「なっ!」

良いこと言ってくれてるなぁ……なんて思いながら彼の話を聞いてたのに……
なんでいきなり私の欠点らしきことを暴露なの?

「それに……すぐオレに遠慮する」
「!!」

そう言って私を見た彼はいつもの無表情だったけどちょっと悲しそうな瞳に見えた気がした。


「確かに鈍感だよね。俺の気持ちも気付いてなかったし」
「え?」
「なんてね ♪ まあ俺も奈々実ちゃんのことは好きだったけど姉貴みたいな感じだったかな。
俺兄貴はいるけど姉貴はいなかったし女姉妹いなかったから」
「大輔君……」
「何度か奈々実ちゃんの部屋に泊めてもらった時も本当は不思議と変な気持ちにはならなかったんだよね。
楽しかったけど……なんか落ち着くって言うかさ。俺にとって奈々実ちゃんは目の離せない手のかかる姉貴みたいだった」
「は?」

なんで私って年下の男の子に心配されなきゃいけないの?
ちょっと納得いかない気持ちが込み上げなくもない。

「でもさ。今日は本当にビックリしたんだ。いきなりこんな若い奴が奈々実ちゃんと結婚するなんてさ。
騙されてるのかと思うのも無理ないだろ。奈々実ちゃん人がいいから」
「そんなこと……」
「あるって。でも違うんだってわかったから安心した。
あんだけあからさまに俺に突っ掛かってさ。奈々実ちゃん好き好きオーラ出まくってるし ♪
だから奈々実ちゃんも彼と結婚してもいいと思ってるんだよね?」
「……うん」
「…………」

大輔君の言葉に彼がピクリと反応する。

「そっか……おめでとう。奈々実ちゃん」
「あ……りがとう……」

急にニッコリと笑われてお祝いの言葉なんてもらっちゃうとなんだか照れてしまう。

「え?なんでそんな自信なさ気なの?照れてる?奈々実ちゃん」
「えっと……」
「そんなんだから彼に強引に押し切られちゃううじゃないの?
奈々実ちゃんそれなりに歳くってるわりにイマイチだから」
「なに?そのイマイチって?」
「もっとしっかりしろってこと?」
「え!?私しっかりしてない?」
「まあ社会人的にはそれなりだと思うけど恋愛に関してはあんまり」

頬杖をついてまたニッコリと笑われた。

「まあ奈々実ちゃんにはこれくらい強引な彼が合ってるのかもね」
「そうかな?」

自分では彼の強引なところに振り回されてる気もしなくもないんだけど……
でも振り回されながらも結局落ち着くところに落ち着いてたりして……
やっぱり精神年齢が私もよりも彼の方が上ってことが大輔君にも感じたって……こと??

「そうだよ」
「え?」

彼が一言呟いた。

「はい奈々実ちゃんコレ受け取って」
「ん?」

大輔君がニコニコしながらスッと私の目の前のテーブルの上に白い封筒を差し出して
私の方に指を添えて滑らせた。

「これ……」
「そう結婚式の招待状 ♪」
「え?ウソ……大輔君結婚するの?」
「そうなんだ〜 ♪ 実は今日奈々実ちゃんに会いに来たのはこれを渡すためだったんだよね。
奈々実ちゃんには直接話して渡したかったからでもまさか先に奈々実ちゃんの結婚の話を聞くとは
思わなかったけどさ。思わず悪ふざけしちゃったけど奈々実ちゃんのこと好きだって言うのはウソじゃないからね ♪」
「大輔君……お相手は会社の人?」
「そう。そう言う話しが出たころ転勤になっちゃってやっと落ち着いたから」
「そっか……おめでとう」
「ありがとう。お互い相手が見つかって良かったね奈々実ちゃん」
「そうかな……」
「そうでしょ」
「!!」

また彼がボソリと呟く。
なんだかそれが変におかしくて思わず笑ってしまう。

『じゃあ奈々実ちゃん何かあったら遠慮なく俺に連絡してよ!』

あのあと大輔君と時間が許す限り色々話をした。

『奈々実ちゃんを泣かすようなことしたら俺が許さないからな!ツバサ!!』

最後に彼にはまた何だかんだと文句とお説教を言って私にはお祝いの言葉と
私を気遣う言葉を残して大輔君は帰って行った。


「まさかまだ他にああいう付き合いのある奴がいるなんてことないよね」
「……いませんから」

大輔君は特別……と言いそうになってやめた。
そんなことを言ったら彼になにをされるかわかったもんじゃないから。

「奈々実さん帰るよ」
「うん」

本当はこのまま2人でブラブラしても良かったんだけどなんとなくそんな気になれなくて
ちょっとした夕飯の買い物をして家に帰った。



「きゃっ!」

家の中に入って上着を脱いだ途端彼に背中から抱きしめられた。
それが突然のことで私はビックリして思わず声が出てしまった。

「ちょっ……どうしたの?」
「奈々実さん」

下を向いた彼の頭が私の肩の上に乗って彼の髪の毛が首と耳に当たってくすぐったい。
そんな頭をスリスリと私に摺り寄せる……なんだか甘えてるみたいだった。

彼のそんな仕草は珍しい……

「今日はイライラしすぎてどうにかなりそうだった」
「……心配しすぎなのよ。私なんてそんな心配するようなもんじゃないって」
「それが無防備だって言うの。ホント学習能力ないよね」
「そんなことないわよ」

「だから早く結婚したい」

「え?なに?」
「なんでもない」

呟いた言葉は奈々実さんには聞えなかったらしい。

奈々実さんがオレの傍にいてくれるために……
奈々実さんをオレの傍にいさせるためにもっともっと奈々実さんを縛らないと……

「傍にいるよ」

「え?」

「私を見て不安になるかもしれないけど……私はずっと傍にいる……」

あなたが望むなら……

「奈々実さん」
「もう言わない!!恥ずかしいから!」
「…………」

オレに背中から抱きしめられてる奈々実さんが恥ずかしそうに俯く。
いつも言葉にしてくれない奈々実さんが珍しく言葉で言ってくれた。
そんな奈々実さんをオレはさっきより強く腕に力を入れて抱きしめる。

きっともう強請(ねだ)っても同じ言葉は言ってくれないだろうなと思うから。

「未成年」と「学生」という言葉と現実。

奈々実さんの時間が止まってオレだけの時間が進めばいい。
そうすればあっという間に8歳なんて年の差追い越してみせる。

「ん……」

背中から抱きしめながら奈々実さんの顎を掴んで後に向かせてキスをする。
ちょっと無理な体勢で奈々実さんは余計に苦しそうだったけどオレはワザとそんなふうに乱暴に唇を奪う。

「ぷはぁ!!ちょっ……苦しい……」

身体を捻ってオレと正面を向くように立つ奈々実さんが怒った顔でオレを見上げる。

「オレのイライラはまだ治まってない」
「は?」
「次またオレ以外の男に抱きしめられたらこんなんじゃ済まないから覚悟いといて」
「はあ?んっ!!」

今度は正面から奈々実さんを抱きしめて抵抗出来ないようにしてから口を塞いだ。
最初抵抗してた奈々実さんも途中から諦めたのか大人しくなってオレの身体に腕を廻してくれた。

あと半年……

すべてが……オレの思ったとおり進むようにと願わずにはいられなかった。










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