ひだりの彼氏 番外編 ツバサ大学生活


01




「あ」
「?」

大学が始まって2週間……大学内ですれ違った相手に指を指された。

「えっと……三宅?」
「1番の人」
「馬場だ!」

オレの目の前に立ってオレに指を向けてたのは確か高校のとき常に成績が学年1位だった奴。
何度かすれ違ったり話しかけられたり……
特に奈々実さんとの結婚を真剣に考え出して成績の順位が上がってから良く話しかけられた気がする。

「三宅もこの大学だったんだ」
「らしいね」
「なに?そのらしいって」
「さあ」
「くすっ……相変わらず変な奴だなお前」
「そう」
「昼?」
「うん」
「じゃあ一緒に食わね?俺お前に興味あるし」
「は?」

まあそんな雰囲気は感じなかったけどワザとらしく一歩後ろに下がった。

「バカ!そんなんじゃないって。人を変な目で見んな」
「どうだか」
「ホント面白い奴だなお前」
「そう」
「そうだよ」

結局そのまま大学の食堂に移動してあまり人の座ってないテーブルに2人で座った。

「なに?彼女の手作り?」

馬場がオレがカバンから取り出したお弁当を見てそんなことを言い出した。

「ちがう」
「じゃあ母親?」
「ちがう」
「え?まさか自分?」
「だったら」

奈々実さんのを作るとき自分の分も作るんだけど。

「ホント?ブハハ!マジ面白いなお前」

なんでだか馬場にウケてた。

「さっきから面白い面白いウルサイ」
「だってお前高校のとき色んな噂あったし女子に人気あったくせにコレッぽっちも関心なかったろ?」
「さあ」
「うちのクラスの男子は羨ましがってて女子は付き合ってる奴がいるのかとか結構話題に上ってたんだぞ」
「ふうん」

オレはそんな話には興味ないから自分のお弁当を食べだした。

「なあ三宅って付き合ってる女いるの?」
「いない」
「え?そうなんだ」
「?」

馬場に驚いた顔された。
なんだ?

「だって……」


高校3年のときいつもは学年10位以内の「三宅」という男が一気に4位に上がって来た。
高校に入って常に学年のトップだった俺にはたいして気にはならなかったけど
今まで5位までに入ってた他の奴がそんな三宅のことを噂し始めて俺の耳にも入ってきた。

「なあ馬場」
「ん?」

教室で雑誌を読んでる俺に学年3位の小早川が話しかけてきた。
勉強にしか興味ないと思われてるらしいがイマドキの雑誌も読むし漫画雑誌だって読む。

「三宅って知ってる?」
「三宅?3年の?」
「ああ……今回の試験で4位になった奴」
「んーーー名前だけは?確かなにかしら噂になったりしてたよな?昔」
「ちょっと……いやかなり変わってる奴なんだけど急に成績上げてきたから気になってな」
「ふーん……まあ大学受験に備えて勉強頑張り出したってとこじゃねーの?」
「だからっていきなりだろ?」
「なに?カンニングでもしてるっての?」

オレは雑誌から目を逸らして横目で小早川を見た。

「いや……そんなこと言ってない……ただ……」
「ただ?」
「…………」

何か言いたそうで言い出さない小早川をジッと見てた。

「そんなに不安なら自分でどうにかするしかないんじゃね?なんなら1位狙ってみれば?」
「……馬場……」
「きっと三宅って奴も短期間でこんだけ成績上げてきてんだ。お前より勉強してんじゃねーの?
ただそれだけのことだろ」
「確かに最近図書室で勉強してるの見かけたりしてたけど……」
「ならそれが事実だろ?」
「そうだな……」
「…………」

小早川は納得したのか小さく返事をするとじゃあなと言って教室から出て行った。

不安ならその不安を克服するほど勉強すればいい。
個人差はあるだろうけど結局は自分がどれだけ勉強に時間を割いたかじゃないかと俺は思う。

きっと三宅は今までの何かを代償に勉強に励んでその結果が出ただけだ。

「……図書室って言ってたか」

俺はちょっとした好奇心で図書室に足を運んだ。
何人かがポツポツと離れた席で問題集や参考書を広げて黙々と勉強をしてた。

そのうちの1人に視線が止まる。
顔と名前だけは知ってる男……
同じクラスにはなったことはないが学校のことにあまり詳しくない俺でも
三宅の噂は聞いたことがあった。

『上級生に呼び出されても無傷で帰ってくる』

もちろんその上級生は女じゃない。
女は呼び出されても行かないらしいから。

硬派なのか?なんて思ったこともあったがどうやら違うらしい。
時々見かけた三宅はいつも寝てた。
流石にココでは寝てなかったが……

「…………」

カタリとイスを引いて机を挟んだ向かい側に座る。
でも三宅はそんな俺に気付かなかったみたいだ。
って気付かないはずないよな?こんな至近距離で目の前の席で!

ということはただ単に「シカト」か?
なんだ?俺なんかしたか?
三宅はカリカリとシャーペンを動かしてる。

コツン!コツン!

周りに迷惑にならないように三宅の目の前の机の上を人差し指で軽く叩いた。

「…………」

流石に気付いて俯いてた顔を上げる。
見上げたその顔はとんでもなく無表情。

「なあ」
「…………」
「どんな心境の変化?」
「…………」
「お!」

俺の質問をまるっきり無視して三宅が問題集と参考書に視線を落とす。

「シカトすんな」

バサッと参考書の上に手を乗せたら流石に顔を上げた。
今度はゆっくりと上がってきたからこりゃ怒ってるのかと思ったらまたまた無表情の顔だった。

コイツ喜怒哀楽ってもんがないのか?
三宅の顔を眺めながらそんなことを思ってた。

ふーん……三宅って左目の下に泣き黒子があんのか……
なんてことを思ってたらキッと結んでた唇が開いた。

「邪魔。あっち行け。二度とオレに話しかけてくるな」

「…………」

男の割には綺麗な顔の三宅が顔とアンバランスな言葉を超不機嫌な声で言うから……

「ぶっ!!あはははは!!」

「「「「 !! 」」」」

思わず吹き出したら周りから非難の視線が突き刺さった。

「くっ……ププ……悪い」
「…………」

三宅にじゃなく周りの生徒に謝った。

「迷惑」
「悪い悪い」
「なに」
「え?」

三宅が無表情のくせに迷惑そうなのが余計おかしかった。

「ああ……俺馬場。名前くらい知ってるだろ?」
「…………」
「はぁ〜〜まあいいけど。学年1位狙ってんの?」
「別に」
「そっか」

俺は何だかこの三宅という男が面白く思えてきてた。
理由なんてわからないが笑える奴だ。

「まあどうせなら1位狙ってみれば。俺も簡単には譲らないし2位の垣崎もなかなか難しいと思うけど」

小早川は……まあ時間の問題か?

「関心なさそうだな。成績重視なクチか?」
「大学入れればいい」
「へえ……なに?ワケあり」
「さあ」
「……クスッ……ふうん。まあ頑張れよ。
お前は全然気にしてなさそうだけど俺は勝手にお前相手に次のテスト受けることにする」
「?」
「ちょっとした自分だけの楽しみだから三宅は気にすんな。じゃあな ♪」
「…………」

それからは廊下で偶然三宅とすれ違ったりしたときにはたまに話かけたりした。
俺の方から一方的だったけど。
返事は期待してなかったがたまに返されたりした。
高校最後の試験で三宅は3位まで順位をあげた。

そのあとは学校に登校しなくなってあっという間に卒業だった。

まあ特に改まって三宅とどうこうなかったからそれっきり三宅に会うことはなかったし
まさか同じ大学受けてたとは知らなかったからバッタリ大学で会った時は
ビックリで思わず声をかけたんだが……相変わらずでなんだか笑えた。

「なあ三宅って付き合ってる女いるの?」
「いない」
「え?そうなんだ」
「?」

三宅には付き合ってる相手はいないという。

「だって……」

三宅自ら手作りの弁当を食べる奴の左手の薬指に光る指輪は……

「三宅く〜ん ♪ 一緒に食べよう〜 ♪」

「!」

ガシャンと三宅の隣の席に食堂で使うトレイが置かれた。
俺の隣にもトレイが置かれて同時に食欲を無くす香水の匂いが漂う。

「こんにちは〜 ♪ 隣座らせてね」

香水と化粧バッチリの女が2人断りもなく座った。

「三宅の知り合い?」
「知らない」
「ヤァダァ〜 ♪ 昨日も話したじゃない」
「さあ」

三宅は残ってる弁当をパクパクと食べて退散する気配だった。
俺もほとんど食べ終わってたしハッキリ言ってこの手の女は苦手だったからさっさと退散するつもりだ。

「ねえ昨日の話考えてくれた?」
「さあ」
「もーーだからウチのサークルの新入生の歓迎会に参加しない?って誘ったでしょ。
誰でも参加出来るから1年の三宅君も気にしないで参加できるって昨日言ったじゃない。
知り合いがいなくて参加しずらいなら私がずっと一緒にいるし〜」
「…………」

三宅は甘えた声を出す多分先輩であろう彼女のことはまるっきり無視で
食べ終わった弁当箱を片し始めてた。

「ね……ねえ……あなたもどう?三宅君の友達なんでしょ?一緒に参加しない?」
「あたしが一緒にいてあげるし ♪」

今度は俺にその話を振ってきた。

「俺そういうの興味ないから。他当たって」
「え〜〜なに?彼女に遠慮とかしてんの?」
「え?彼女?……んーーまあそうかな」

あいつが彼女と言うのか怪しいところだけど俺が惚れてるからそうでいいか。
なんて今考えることじゃないと思うことを考えてた。

「三宅君は彼女いないんでしょ?付き合ってる子いないって言ってたもんね?」
「…………」

黙々とカバンに弁当箱をしまって女の言葉は無視だ。

「でもさぁ〜そうするとその指輪気になるよね?」
「そうそう」

ほお〜やっぱこいつらも気になるのか。
そうなんだよな……付き合ってる相手がいないって言いつつ三宅がしてる指輪は……

「ファッションでしてる指輪のわりには地味な感じだしぃ〜しかも左手の薬指って
男の子がするには珍しくない?それってまるでさぁ〜〜」

そう……そうなんだ。
それってまるで……

「結婚指輪みたいじゃん?」

そう!まさにソレだよ!!

「結婚指輪」
「「 え? 」」

「結婚してるんだから指輪してるの当たり前」

「「「 ええーーーーーーっ!? 」」」

三宅以外が大声で驚いた。

マジか??
思わず俺まで一緒になって驚いてしまった。

「……じょ……冗談よね?」
「なんで」
「だって……三宅君18?3月に高校卒業したばっか……でしょ?」
「だから」
「本当に?」
「…………」

まあ……そりゃ驚くよな……高校の同級の俺だって驚いてんだから。
いつの間に??ってか三宅ってそういう奴だったのか?ってなにがそういう奴なんだかなんだか……

「オレ奥さん以外の女子嫌いだから二度とオレに話しかけないで」

「え?」

「オレ女子って鬱陶しくって嫌い。だからもうオレにかまわないで」

そう言い切ると三宅は呆然としてる2人を後にしてさっさと食堂を後にした。
俺もそんな三宅の後をついて食堂を後にした。

だまって後を追う俺を三宅は邪険にも追い払うこともしなかった。

「さっきの話マジか?」
「?」
「結婚してるって話」
「そうだけど」
「いつ結婚したんだ?」
「式は高校卒業してからで籍は先に卒業式の日に入れた」
「へ……へえ……」
「なに」
「いや……ちょっとビックリしただけ。お前昔から女に興味なさそうだったから」
「興味ない」
「奥さん以外?」
「そう」
「ふーーーん……ぷっ!」
「?」

たまらず吹き出したらじっと見つめられた。

「いやいや……お前ってホント面白い奴だな。ますます興味が湧く」
「は?」
「だからそうじゃないって。わざとらしく警戒すんな」
「どうだか」
「あのな……まあいいけど。なんか俺お前とは気が合うと思う」
「迷惑」
「そうか」
「…………」
「んじゃ俺次の講義あるから行くわ」
「清々する」
「くすっ……じゃあまたな!」
「!」

俺はそう言うと三宅の頭をグシャグシャと撫でまして三宅とは反対の方向に歩き出した。


「…………はあ」

自分だけ満足気に軽い足取りで離れていく相手の背中をしばらく見送って溜息をつく。
高校のときに一緒だった学年1位の奴。
まさか同じ大学だったなんて……しかもどうしてだか気に入られたらしい。

「鬱陶しいな」

高校のときは色々な噂のお蔭で周りがオレを避けてくれたのにここじゃまた1からやり直しらしい。
しかも高校にいた女子よりここの女子はメゲないししつこいからホント疲れる。

あの1位の男ももうオレにかまわないでほしいんだけど……

「はあ……」

オレは携帯を開いてデータの中から奈々実さんと一緒に撮った写真を眺める。
本当は声が聞きたいけど奈々実さんは今仕事中だ。

「…………」

オレはしばらく携帯の画面を見つめてからポケットに携帯をしまった。

「さて……今日の夕飯のおかず何にしようかな」


奈々実さんと知り合ってから考えることはいつも同じ。

でもそれがオレにとって普通のことで当たり前のこと。

オレはそんな言葉を呟いて次の講義を受ける教室に向かって歩き出した。









オマケの話。 【 馬場&垣崎 】

「そう言えば今日大学にアイツがいたんだ」
「アイツ?アイツって?」

今は夜の9時過ぎでここは俺の部屋。
そんな俺の部屋に隣に住む幼馴染みの「垣崎 里菜」が
俺のベッドにうつ伏せで寝っ転がりながら頬杖をついて顔だけ俺に振り返る。

里菜は小学5年の時からの付き合いで高校まで一緒だった。
大学は別々になったけど夜はこうやって一緒に過ごすことも多いし休みの日も一緒に過ごすときが多い。
俺命令で。

「高校のとき三宅って変わった奴いただろ?最後の方で学年順位上げてきた奴」
「ああ!ツバサくん?ツバサくんがどうしたの?」
「ん?なんでアイツのこと名前で呼ぶんだ」
「え?ああ!女子の間じゃ名前で呼んでた子が多かったから」
「ふーん」
「な……なによ!変なヤキモチ妬かないでよね!」

俺が機嫌を損ねると自分の身に何が襲い掛かってくるか
十分に承知してる里菜は焦って急にベッドの上に起き上がった。

「三宅が同じ大学だった。今日バッタリ会ってさ。ビックリだったよ」
「だってツバサくん頑張ってたみたいじゃん」
「んーー大学受かればいいって言ってたしな。でもその理由が今日わかった気がする」
「え?」
「あいつ結婚してた」
「へ!?……ええっっ!?」

よっぽどビックリしたらしい。

「ぶっ!変な顔」
「なっ!!う……うるさい!ってそれ本当?」
「ああ……詳しいことは聞いてないけど結婚したのは本当らしい。指輪もしてたし本人が認めてたし」
「い……いつの間に……」
「卒業式の日に籍入れたんだってさ。式はその後って言ってたな」
「へえーーーって相手どんな人?」
「さあ。そこまで聞いてない」
「なんで聞かないの?気になるじゃない!」

ベッドの上で身を乗り出して俺に訴える。
なんでそんなに意気込む?

「んーーアイツそういうことベラベラ喋りそうもないから」
「んーー確かにそういうキャラじゃないかもね。はあ〜〜でも結婚?信じられないな」
「俺も信じられなかったよ」
「ふ〜ん……私はツバサくんにはちょっとばかし……」
「ん?」
「いや……ツバサくんと言うよりは成海(なるみ)のせいなんだけどね」
「は?」
「忘れたとは言わせないわよ!」
「ああ!」

いきなりプリプリと怒りだした里菜を見て思い出した。

幼馴染みの俺と里菜。
出会った小5の時から俺は里菜が好きだ。
里菜も多分俺のことが好きなはずなのにまあ悪あがきしてる。
昔から事あるごとに試験で勝負してきた俺達。
だから高校最後の試験の時も勝負をした。
ただ俺相手じゃ勝負にならないから(試験の結果でちょっと前から俺に勝てたためしがない)
勝負の相手に三宅を選んだ。
奴には内緒で勝手に。
まあ勝手にと言っても三宅にはなんの迷惑もかかってないんだけどな。

『次の試験で三宅に負けたら俺にバージンを捧げる』

半分は冗談で半分は本気。
進展しない2人の関係に……
原因は里菜の鈍感さと勘違いと幼馴染みの関係が絡み合ってるからなんだが
そんな関係にいい加減嫌気がさしてたから。

だが当然の結果なのか伊達に何年も俺と勝負してたわけじゃないからか
最後の試験は里菜が2位の座を死守した。

うーん……三宅にもさりげなく頑張ってくれるように声かけてたつもりだったのにダメだった。
里菜も必死になってたしな。

騙すように『三宅に負けたら俺にバージンを捧げる。そして俺に勝てなかったら俺に会った時は必ずキス』
俺に勝とうなんて里菜には無理。
里菜は本番に弱いタイプ。
結構なプレッシャーをかけてやったから三宅にも負けると思ったんだけどな。
流石に貞操の危機に必死だったか。

まあ踏ん切りをつけさせるキッカケにしてやろうかと思ってたんだがちょっとばかし時期がズレただけ。
そろそろ試験なしで勝負に出ようかと思ってる。

仕方ないことだったが大学が違うのは俺の目が届かなくて不安要素がありすぎる。。

「あ!もうこんな時間。明日の準備しなきゃ。成海私帰るね」
「ああ」
「ツバサくんのことなにかわかったら教えてね」
「なんで?」
「だって興味あるもん ♪」
「ふーん」

気のない返事をしながら部屋から出て階段を2人で下りる。
一階の奥の部屋にいる俺の母親に声をかけて玄関から外に出た。
里菜の家は俺の家のお向かいさん。
玄関同士が4メーター道路を挟んで向かい合ってる。

「じゃあおやすみ」
「ああ。浮気すんなよ」
「なっ!?し……しないし大体成海にそんなこと言われる筋合いないから!」
「ふーん」
「う″っ!!」

威嚇バッチリ込めた視線で見つめれば一瞬で里菜は自分の態度を反省する。

「浮気しないよな?里菜」
「う……うん」
「俺がいないんだから周りの男に隙みせんなよ」
「うん……」
「じゃあまたな。気をつけて帰れよ」
「いつもいつも……私んち目の前じゃない」
「それでも気をつけろ」
「はいはい……」

そう言って自分の家の門に向かう里菜に声をかけて呼び止めた。

「忘れてるぞ」
「え?あっ!」

最後の試験で交わした約束。

「…………」

もじもじとしながら俺の前に戻ってくる里菜。

「なんかさぁ……私に不利な約束だったんじゃないかって今さらながら思うのよね」
「ん?」
「条件2つだったもん」
「今さらだろ。約束は約束だからな」
「うう……」

子供のころから好きだった里菜。
幼馴染みの期間が長すぎてイマイチな反応だけどあとは俺を好きだと認めさせればOK!

「ちゅっ……」

軽く触れる里菜の柔らかい唇……

「じゃあ俺からもお返し」
「えっ!?ちょっ!!」

有無も言わさず里菜の顎を親指と人差し指でしっかりと掴む。

「ふむっ!!!うぅーーー!!」

里菜と違う触れるだけのキスじゃなく何度か角度を変えて一瞬舌を絡めるキスだ。

いい加減気付いて俺に落ちやがれっ!!何年人を待たせんだっつーの!この女は!

「……ふぁ……」

唇と指を離すと里菜はフラッとヨロめく。

「おやすみ」

何事もなかったように挨拶を言ってニッコリと笑う。
里菜はヨロめきながら自分ちの玄関に向かって歩き出した。

何度かコケそうになりながらも玄関のドアを開けて一度真っ赤な顔で俺に振り向くと
いつものアッカンベーという顔をして玄関のドアを閉めた。