ひだりの彼氏 別話編 高校生のツバサと奈々実 1



05




「三宅どこ行ってた?」

教室の自分の席に着いた途端横に座ってるクラスメイトの馬場に声を掛けられた。

「屋上で寝てた」
「ふ〜ん」

頬杖をついてオレに意味深な視線を向けてくる。

「なに」
「お前がいない間下級生の女子が2人訪ねて来たぞ」
「そう」
「なにか心当たりでも?」
「ない」
「だろうな……で?お前彼女できたの」
「いきなりなんでそんな質問」
「もう学校中の噂だぞ」
「大袈裟」

そんな話オレには興味ない。
適当に聞き流しながらカバンから教科書を出してた。

「たしかにそこまではないけどかなり噂になってるのは本当だぞ。
俺にまでお前に彼女が出来たのかって聞きにくる奴もいたし」
「暇人」
「最近これといって他に目新しいコトもなかったからみんな面白がって
過敏に反応してんじゃねーの?女子嫌いのお前についに彼女ができたのかって」

「……手繋いでキスしたら付き合ってるってこと?」

「は?」

馬場がなに言ってんだ?コイツって顔してオレを見てる。
随分とマヌケな顔だけど。

「一緒にいて不快に思わないってどういうことだと思う?」
「はあ???ちょっ……ちょっと待て!お前いきなりナニ……」

そんな話を始めたら5時間目の授業の先生が教室のドアを開けて入ってきた。

「その話は後でゆっくり聞かせてもらうからな」
「別に聞いてくれなくてもかまわないけど」
「俺が知りたいっての!ちゃんと話し聞かんと勉強にも身が入らん」
「根性なし」
「根本的に貶(けな)すところ間違えてんぞ!とにかく後でな」
「…………」

自分から話をふった手前溜息をつくコトは我慢した。

でも考えてみたらそんな話を馬場にふったこと自体いつものオレらしからぬ
行動だったのかもしれない。

それすらもオレは気付いてなかったらしい。


結局休み時間の間じゃ時間が短すぎて話しにならないということで放課後じっくりと
話をすることになってしまった。
どうせ奈々実さんも今日は委員会だと言ってたから時間潰しには丁度良かったけど
それまで寝て待ってたかった。

そのことを6時間目が始まる前に奈々実さんに言いに行くとあからさまにオレを見て引き攣った顔してた。
周りから結構な視線を感じたけどオレは気にしない。
奈々実さんは気にしてるんだろうか?まあ気にしてても関係なけいど。

「携帯かして」
「は?」

眉間に皺までよせて睨まれた。

「奈々実さんが委員会終わるまで待ってる。オレも丁度用事あるし。
だから終わったら奈々実さんからオレに連絡頂戴」
「い……いいわよ!先に帰ってよ。っていうか一緒に帰る理由ないし」
「オレはあるから。いいから携帯」
「……イヤ!」
「出すまでここに居続けるけど」
「なっ!?やめてよ!」
「先生に理由聞かれたら奈々実さんが赤面するような理由言わせてもらう」
「ちょっ!!なに言って……」
「携帯。早く」

ズイッと奈々実さんの目の前に手を差し出す。
仕方なくって感じで奈々実さんが携帯を出してオレの手のひらの上に置いた。
オレは携帯を受け取ると素早くお互いの情報を赤外線で交換する。

「素直に出せばいいのに」
「うるさいです」
「はい。じゃあ必ず連絡して。怠ったりズルしたりしたらそれ相応のお仕置きが待ってるから」
「ちょっ!!なによ!それ!!」
「じゃあ放課後」
「あ!」

そういうと彼はサッサと教室を出て行った。
まったく……自分勝手なんだから!
大体今日初めて話した相手になんでこんな目にあわされなきゃいけないのよ!!

「奈々実」
「え?ハッ!!」

友達に呼ばれて振り返ればクラスの視線を一身に集めてた。

「…………」

私は慌てて自分の席に座った。
もうやだ!!

「顔真っ赤だよ。奈々実」
「……もう私が一体ナニしたっていうのよぉ」

情けないセリフを吐いて机の上にうっつ伏した。

「災難ね。今までどんな接点があったの?あたし全然知らなかったわ」
「私だって知らないわよ!今朝電車で隣同士で座っただけだもの。
それがこんなふうになるなんて誰が思う?」
「なにも泣かなくたって……ホントご愁傷様」
「薄情者〜〜〜〜!!でも彼って女の子には興味なかったんじゃないの?」
「のはずなんだけどね?どんな心境の変化なんだか?一目惚れってやつじゃないのぉ〜〜?」
「もう真面目に考えてよ!どうやったら彼から逃げれるか」
「無理じゃない?」

アッサリと否定されてしまった。

「なんでよ?」
「どうみても奈々実は勝てないと思うよ」
「ええ?そんなこと……」
「だってふたりの上下関係すでに成立してるみたいだし奈々実だってもうあきらめてない?」
「そ……そんなこと……」

うう……反論できない。

「それにちょっとすれば三宅君も飽きて構わなくなるかもよ」
「そうかな?」

でもそれはいつ?

「まあ登下校気をつけてね」
「え?」
「だってあの3年の女子見たでしょ?女は怖いもん」
「…………いや〜〜!!ますますイヤ〜〜!!」
「ひとりで歩くときは気をつけなね。あたしが一緒のときは気をつけてあげてるから」
「輝美ーーーー!!」
「ご愁傷様」
「…………」

どうしてこんなことに……
屋上でのアノ出来事ももう私はなにがなんだかわからなくなってた。






「マジで付き合ってねーの?」
「らしいね」

勝手に約束した馬場にランチルームに連れて来られた。
誰もいないランチルームのテーブルに向かい合うように座る。
オレは販売機で買ったコーヒー牛乳を飲みながら馬場の質問に適当に返事をする。

「じゃあなんでそんなに彼女にこだわる?」

馬場は頬杖をついて買った烏龍茶のペットボトルを指先で器用に弄ってる。

「さあ」
「……ったく。相変わらずだなお前……ん?」
「?」

話してる最中に人の気配がしてオレ達の座ってる席の近くで止まる。
仕方なく視線を向けると女子がひとりモジモジしながら立ってた。
その後ろにもうひとり付き添うように立ってる。

「ああ!昼休み来てた子」

馬場が立ってる女子を見てオレに向かって説明する。

「あ……あの……三宅先輩」
「なに」
「あの……」
「…………」

オレは座ったままじっと相手を見てた。
馬場も頬杖をついたまま黙って成り行きを見てる。

「他の人に聞いたんですけど……あ……朝一緒にいた人って……
先輩とおつきあいしてるわけじゃないんですよね?」
「だったらなに」
「あの……」

真っ赤になりながら自分の胸の前で両手をぎゅっと握り締めてる。

「私……三宅先輩のことが好きです。よければ……お……お付き合いしてください!」

「やだ」

「「「 !! 」」」

いつもと同じたった一言のセリフで目の前の女子を突き放す。
みんな懲りない。
オレの噂聞いてるだろうに……なんでみんな凝りもせずオレに告白なんてするんだろう。
無駄なのに。

「で……でも……あの人は彼女じゃないって……」
「彼女じゃないとオレは君と付き合わなきゃいけないの」
「……ち……違います。でも……いつも女の子を避けてる先輩が女の子と一緒にいたってことは
まるっきり女の子が嫌ってワケじゃないって思えて……朝の人とお付き合いしてないっていうなら
もしかして女の子を受け入れてくれる気になったのかなって思って」
「オレ女子嫌い。鬱陶しい」
「でも……」
「だからオレは断ってる」
「!!」

目の前に立ってる女子の目に一瞬で涙が溜まる。
でもだからってオレには何もできないしする気もない。
だから視線を外して正面に向き直った。
その目の前にまた呆れた顔の馬場がいてウンザリする。

「…………」
「行こう」

横でそんな声が聞こえて付き添ってたもうひとりに促されてオレに告白した女子は歩き出した。
ふたりの気配がランチルームからなくなると目の前の馬場が大きく溜息をついた。

「はあ〜〜お前もうちょっと言い方ってモノを考えろよ」
「なんで」
「ストレートすぎだろ?きっとあの子の胸にはグッサリとお前の言葉が突き刺さってるぞ」
「他の言い方なんてできないし相手もオレがなんていうかわかってる」
「微かな希望を抱いてきたんだろ。それだけ三宅の今朝の行動は驚きだったんだよ」
「迷惑。放っておいてほしい」
「そういうわけにもいかないらしい。また来たぞ。昼休みに来た後輩」
「?」

また人の気配にウンザリしながらチュウとパックのコーヒー牛乳を吸い上げた。

「三宅先輩……あの……」


結局オレはまたさっきと同じことを繰り返し馬場にまた呆れられた。



「付き合ってるって言えばこの面倒なことから解放される?」

ふたり目の子がランチルームから出て行った後オレはそんなことを馬場に尋ねてた。

「まあ特定の彼女がいればそうそう告白なんてされないだろうな。だからってそんな理由で付き合うわけ?」
「一緒にいるのが苦じゃない。それって相手のことが好きってこと?」
「苦にならない相手なんていくらでもいるだろ?俺だって女子で一緒にいて苦にならない奴なんてたくさんいる。
だからってその子のことが好きだからじゃない」
「そう」
「三宅さぁ……もしかして女を好きになったことないのか?」
「変」
「マジ?」
「女子を好きなるって自分でわからない。今までそう思った相手もいないし必要なかったし。
一番は欝陶しくて嫌いだから」
「お前女でなにかあった?」
「さあ」

オレの返事に馬場はしばらく黙ってオレを見てた。
それから一瞬目をつぶるとクスリと笑った。

「なに」
「いや。あの子は欝陶しくもなく嫌いじゃないのか」
「…………」
「へえ」
「なに」
「じゃあ付き合っちまえば?そうすれば周りも静かになんじゃね」
「なんで彼女って肩書にこだわるの」
「付き合えば彼氏彼女だろ。周りも暗黙の了解でふたりの仲を認めるし彼女にチョッカイ出す奴もいなくなる」
「…………」
「ってゆうか俺が三宅が女と付き合うところ見たいのが本音」
「悪趣味」
「皆もそう思ってると思うぞ」
「……遅い」
「は?」
「委員会」
「ああ……終わったら連絡くるんだろ?まだ話しが終わってないんだろ」
「じゃあね」

オレは馬場の意見には頷かず席を立った。

「凄い独占欲だな」
「馬場だってじゃないの」
「アイツは俺のもんだから当たり前」

馬場が幼なじみの女子に執着してるのは知ってる。
相手はそんな執着をわかってないらしいけど。

「じゃあオレも同じなのかも」
「は?」

ランチルームに馬場を残してオレは委員会が行われてる図書室に向かって歩き出した。
携帯に連絡を入れるという手もあったけどとりあえず行って確かめてからと思った。
まだ話し合いの最中ならメールの受信音はちょっとマズイかと珍しく気を使った。





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