「……夢?」
「奈々実さん?」
「あ……うん……」
「なんかうなされてたっていうか溜息っていうか」
「!!」
いやいやいや……それは……その……夢の中で……その……うわぁーーー!恥ずかしい!!
なに?欲求不満??なの私??
なんであんな夢を??しかも超リアルだったし……
「奈々実さん」
「な……なんでもない!大丈夫だから……」
そう言って肘を使って上半身を起こした。
彼はあきらかに納得してない顔でジッと私を見てる。
「…………」
うーーーーそんな顔でジッと見ないでよ……まだ夢でのことが自分の中で引きずってるんだから。
恥ずかしいじゃないよ!!
って彼は何も知らないんだけど……
同じ顔が目の前にあるってだけで夢でのことが生々しく思い出されて居たたまれない。
「また顔が赤くなった。本当に大丈夫奈々実さん」
「!!」
そう言ってそっと私の頬に手を伸ばして触れる。
そのまま額に手を置いてまたじっと見つめる。
「熱はないみたいだけど」
「だから大丈夫だってば!」
額に置かれた彼の手を掴んで引き離した。
もうさっきから心臓がバクバクのドキドキで……離れてほしいと思ってしまった。
「気分は?」
「え?ああ……寝起きでちょっとボーっとしてるだけだから。大丈夫」
「…………」
「なに?」
なんだかなにかを疑ってる眼差し。
「朝食べれる?」
「……あんまり食欲ない……かな。お腹空いてないし」
もう夢見が悪くって疲れて食欲までもなくなってる。
「どんな夢見たの」
「え″っ!?」
「なんでそんなに驚くの」
「……べっ……別に」
「食欲もなくなるような夢なのに」
「だから別に夢のせいじゃ……」
「じゃあ何かスープでも飲む?何も食べないの良くないから」
「うん……」
相変わらず主夫してくれるなぁ……なんて思ってたら唇にチュッと触れるだけのキスをされた。
「おはよう奈々実さん」
「おはよう……」
そう挨拶を交わすと彼はベッドから立ち上がってキッチンに歩いていった。
「はあ…………」
私はベッドに座ったまま溜息が漏れた。
なんだか疲労感が漂ってて気分もあんまり良くない。
「あんな夢見たからかな……はあ〜〜でもなんであんな夢見たんだろう」
自分のことなのにまったくの意味不明。
ホント欲求不満だったのか……でも欲求不満になるほどご無沙汰なんてしてな……
って何考えてるのよ!私ったら!!
またひとりで真っ赤になってせっかく起き上がったベッドの上に倒れ込んだ。
「はぁ〜〜」
「…………」
出された野菜スープを目の前に私はあまり口をつけていなかった。
「また溜息」
「え?」
「さっきから溜息ばっかり。それにスープに手をつけてない」
「そ……そう?」
自分がそんなに溜息をついてたなんて全然気づかなかった。
「本当に具合悪くないの」
「……うん。あ……夢見が悪かったからかな……なんか夢で疲れちゃって……」
「そんな食欲もなくなるほどどんな夢見たの」
「うっ!ど……どんな夢だったか憶えてなくて……ホントなんなんだろう。ハハ……」
「…………」
本当は憶えてるけどね……彼には言えないわよ!
「はあ〜〜あ!」
また溜息ついちゃった。
「…………」
ほら。彼がずっと無表情で私のこと見てる。
疑ってるんだろうな……自分でも今の私は挙動不審だと思うもん。
「気分悪いの」
「え?」
「だって鳩尾さすってる」
「…………」
言われて見てみれば右手で自分の鳩尾を押さえてた。
「なんだろ?全然意識してなかった」
「…………奈々実さん」
「ん?」
「今日午前中だけでも仕事休んで。オレ今日の講義午後からだから」
「はい?」
なに?突然??
「なんで?」
「休んで病院行こう」
「は?病院?あなたどこか具合悪いの?」
なら私のことなんて心配してる場合じゃ……
「はあーーーまったく」
「な……なによ。なんなのよ!その呆れた溜息は!失礼ね」
「病院に行くのが必要なのは奈々実さん」
「は?」
「とにかく休んで」
「だからなんでよ!大体どこの病院に行くって言うのよ!そんな夢見が悪かったくらいで病院なんて!」
「行くの産婦人科だけど」
「え?」
「自覚ないの」
「……えっ!?えっ!?ええっ!?」
「もう2ヶ月以上避妊してないんだよ。それつわりじゃないの」
「つ……つわり??」
「大体きてないでしょ」
「なにが?」
「月のもの」
「!!」
一瞬で顔が真っ赤になった。
「なっ……なんでそういうこと男のあなたがサラッと言うのよ!!こっちが恥ずかしいでしょ!!」
「だってそれで出来ない日が最近なかったんだから嫌でも気づくと思うけど」
「うっ!」
確かにそれで断ったこと最近なかった……かも。
「本当なら奈々実さんが気づくことだよ」
「なっ!!」
なんかどんだけ鈍感なの?って言われた気がした!!
「会社電話して」
「…………」
「なに」
「べつに……」
もう完璧彼に負けた気分でなにも言い返せなかった。
しかも彼の読みどおり妊娠してましたよ!!さすが主夫?
初めて彼が私の車に乗って来たときは彼の右側の顔が見えたのに今は彼の左側の顔が見える。
その目元にはいつもと変わらない泣き黒子がある。
そう……彼は私の妊娠がわかるとすぐに車の免許を取った。
しかも集中コースとかで短期間であっという間に。
初心者のクセになかなかの運転捌きでちょっと納得がいかないけど。
「これからは車の運転今まで以上に気をつけてね」
「わかってるわよ」
「すごい心配」
「…………」
そう彼ってあんまり顔には出さないけどかなりの心配性。
彼曰く “奈々実さんだから” だそうで……そんなに頼りないかしらね?なんて私は首を傾げてしまう。
そんな私を見て彼はまた呆れたように深い溜息をつく。
夢の中で私のことを“好き”“愛してる”って言ってくれた彼。
それって……私が求めてるからなんだろうか?
「なに」
「ううん」
私が先に言ったら……あなたは私に言ってくれるのかな?
でも私ももうちょっとあとにとっておこうかと思う。
やっぱり彼から言ってほしいもんね。
それがいつになるのか普段の彼からはまったく想像できないけどそのときはきっとやってくるよね。
彼からその言葉を聞いたら……私どんな態度をとるんだろう?
なんて今からちょっと楽しみだったりして。
だって彼がどんな顔で言ってくれるのか想像がつかないから。
Back Next
拍手お返事はblogにて…