ひだりの彼氏 番外編 ツバサ・大学生活2


02




☆ 馬場視点です。


動きはそう日にちが経たないうちにやって来た。

あれからまた何度か三宅とあの女が一緒にいるところを見かけてたし
あの話も聞いてたから一体どんな結末を迎えるのかと気にはなっていた。

三宅に聞くと何のことだか?みたいな態度でホント相変わらずだ。

「え?昼休み呼ばれてるって?」
「らしい」

らしいって……呼ばれたのお前だろ。

「行くのか?」
「まあ……なんか教授がらみみたいなこと言ってたかな」
「…………」
「なに」

じっと三宅を見てたら突っ込まれた。

「いや……ずいぶんと仲がいいなと思って」
「誰と誰が」
「三宅とあの先輩の女」
「そう」
「俺には三宅も嫌がってないふうに見えるし仲良さげに見える」
「だから一度眼科行け」
「…………」


昼休みこっそりと三宅の後をつける。
この前の話を聞いていなかったら後をつけたりはしなかっただろうけど好奇心には勝てなかった。
三宅だからそれも当然のことだと自分の考えに納得。

ただあんな何も考えてないふうだけど何気に鋭い三宅。
だから気づかれないように慎重に後をつけた。

三宅が呼び出された場所は大学にこんな所があったのかと言うような
まあ都合のいい場所だった。

周りは背の高い樹で覆われてちょっとした森林みたいだ。
風で揺れる葉の音で癒される。
でも腰くらいの高さの樹も植わってて座れば周りの視界から消えることができる。
その前に構内の人気のないナイ場所だし。
しかもお誂(あつら)え向きに足元は芝生って……大学から構内でイチャイチャできる場所提供か?

まあ隠れるのには樹のお蔭で楽だけど。
きっとどこかの樹にあの時の女がこっそりと隠れてて2人の様子を窺ってるんだろうな。
俺も人のこと言えんけど。

「呼び出してごめんなさいね」
「はあ」

いつもどおりの三宅だ。
相手の女はこの前のことで素を知ってたから清楚ぶってるのが笑えてクスリとハナで笑ってしまった。

「三宅君」
「!」

おお!いきなり三宅の胸に飛び込んだぞ!

「私……あなたが結婚してるって知ってるわ。でも……私……あなたのことが好きになっちゃったの!」
「…………」
「迷惑なのわかってる……でももう自分の気持ち抑えきれなくて!」

計算したかのような眼差しで三宅を見上げてる。

「勝手にオレに触んないで」

ちょっとだけ眉が動いたか?
見上げた女の視線なんてまったくのスルーで女を自分から引き離した三宅。

「どうして?今まで私達うまくやってきてたじゃない」
「は?」

うまくやってきてたって……あの女はなにをもってそんなことが言えるんだ??疑問だ。

「だってあなた本当は女の子と話したりしないんでしょ?それが私とは嫌な顔せずに色んなこと話したじゃない」
「そう?オレは話しかけられたから話しただけだけど。自分から声かけたことないしくだらない話なら
話すつもりなかったけど講義の内容とかだったから聞いただけ。なにをどう勘違いしたんだか理解できない」
「!!」

くくっ……どうやら三宅は素直に講義に関する話だから聞いてたまでらしい。
そうだよな……三宅はそういう奴だよ。
鈍感なんかじゃなくて色々相手のことを読んでてちょっとでも“女”の立場を前面に押し出してきたら
シカトするつもりだったんだろうな。

そう考えると三宅もちゃんと人との付き合いができるってことなのか?

「だ……だって……あ……あんなふうに優しくされたら勘違いしちゃうじゃない」

あーどうやら自分が思ってたのと三宅の反応が違くて焦ったか?
ギャラリーもいるのわかってるしな。

「優しく?憶えがないんだけど」

トドメ刺したか……三宅。

「ゴ……ゴミをわざわざ捨ててくれたでしょ」
「ゴミ?」
「ほら!私が飲んでたペットボトルを捨ててくれたじゃない。あれだって私だけでしょ?」
「ああ……あれ」
「しかも一度や二度じゃなかったわ。私だけに声かけてくれて……私に気を使ってくれたんでしょ?」
「あれはあのメーカーの飲み物にポイントのシールがあったから。景品が欲しかったんだけど
オレあの紅茶好きじゃなかったからあきらめてた。でも捨てるなら貰おうと思って。
もしかして集めてた?だからちゃんと 『もういらないよね』 って確めてたんだけど。
それにもう応募しちゃったし返せって言われても無理。その前にキャンペーン終わったけど」

「は?」

ぶははははっっ!!!流石三宅!!
俺は声を出さずに笑うのが大変だった。

「もういい?」
「え?」
「話し終わったんでしょ。最初から教授の話なんてなかったみたいだけど。もうこれからはオレのことかまわないで」
「な……」

三宅はクルリと女に背を向けて帰ろうとする。

「ま……待ってよ!それじゃ私の気持ちがおさまらないわ!こんなに三宅君のこと好きになっちゃったんだもの!」
「…………」

三宅は無言で顔だけ振り向いて女を見てた……いつもの無表情の顔と眼差しで。

「それってそっちの勝手な勘違いでしょ。オレのせいにされるのすごい迷惑」

確かにペットボトル捨ててくれたくらいで自分に好意持ってるなんて思うほうが自意識過剰だよな。
なんだけど……相手が三宅となるとそれだけでも特別になるのか?
親切心からじゃなかったけどな。

「で……でも勘違いするようなことをしたあなたにだって責任はあるでしょ!」
「ない」
「!」

そう言いきると三宅は歩き出した。

「まっ……待ちなさいよ!」

おお!ついに本性が現れたのか?言葉遣いが命令口調になってきた。

「あなたに遊ばれたって言いふらすわよ。結婚してるくせに私にチョッカイ出してきたって」
「…………」
「いいの?私ってけっこう注目されてるのよ?私が言えばあなたはこれから先この大学で
ずっとそういう目で見られることになるのよ?」

開いた口が塞がらないってのはこういうことを言うのか?
ものすごい論理だな……まあプライド踏みつけられたみたいだし。
これって所謂逆ギレだろ。

立ち止まってる三宅に近づいて腕を掴んだ。
三宅はそのままその腕を振り払おうとはしない。
黙って女の顔を見下ろしてるけど……無表情の顔がいつも以上に怖い気がする。

「でも……キスしてくれたら許してあげる。それにあなたのことも忘れてあげる」

三宅の無言に女がしてやったりという顔をした……まさか三宅の奴頷くのか?

「たかがキスぐらい簡単でしょ?これから先大学でまわりから白い目で見られないですむのよ」

ニヤリと笑った顔はもう清楚とかお淑やかなんてイメージはどこにもないな。
きっと高校のころの彼女はこんな感じだったんだろう。

「奥さんにだって言わなければバレやしないわ。大丈夫私だって黙ってて……」

「意味がわからない」

「え?」
「どう考えればそういうことになるのか理解もできない」

言いながらパシリと腕を掴んでた女の手を払い落とした。

「…………」
「どうしてそっちの勘違いでオレがあんたにキスなんてしなきゃならないの」
「だ……だから勘違いさせたのはあなたのせいで……その責任を……」

「あんたに触れるなんて冗談じゃない。あんた見てるだけで虫唾が走るんだけど」

「!!」

「オレ女子って嫌い。あんたは特に嫌い」

「…………」
「二度とオレに話しかけないで」

そう言った三宅は相変わらずの無表情だったけれど女に向けられた視線とまとってる雰囲気は
超不機嫌さを漂わせてた。

そして三宅はそのままその場を立ち去ったけど女はしばらくの間その場で立ち尽くしてた。
まあ自業自得だろ。
俺も見るもんは見れたとサッサとその場を立ち去った。

そのあとあの女がどうなったか知らないがあの場にいた同級の女にどう言い訳したのかちょっと気になった。
まああの場をバッチリ見られてたら言い訳もなにもないけどな。


それからしばらくして構内の休憩場所で飲み物を飲んでると見知った顔の男が話しかけてきた。

「なあお前って三宅って奴と親しかったよな」
「親しいっていうか……同じ高校出身だけど?なに」
「いやさ……ちょっと小耳に挟んだんだけどさ。3年の田山さんって知ってるか?この大学のマドンナ的な存在の」
「!」

田山ってあの女じゃん。

「名前だけは。そいつがなに?」
「いやさ……三宅に遊ばれたって周りに話してたっていうからさ」
「へえ……」

あのときのやりとりを聞いてた俺は察しがついた。
本当にやったんだあの女と思った。

「そいつの勘違いじゃね?三宅結婚してるし嫁さん溺愛だし嫁さん以外の女嫌いだっていってたから」
「え?三宅って結婚してんの?マジ?」
「しかも新婚」
「そっか……」
「大方振られた腹いせにあることないこと言ってんじゃねーの」
「そうかもな……確かにほとんど奴……っていっても女子の間じゃ普段女子をまったく相手にしなくて有名なのに
おかしいってのは言われてんだ。それに話しかけてたのはもっぱら田山さんのほうからだって言ってるし」

ふーん……みんな結構気にして見てたんだな。

「俺も三宅のほうから話しかけてるのなんて見たことない。それに毎日寄り道もしないで家に帰ってるしな」

って聞いたわけじゃないが多分……いや確実に真っ直ぐ帰ってるだろう。

「へえーそんじゃ田山さんをフったってのも頷けるか……まあ結婚してんじゃな」
「多分プライド傷つけられておさまらなかったんじゃないか」

これは多分じゃなくて確実なことだけどな。

「ひゃーーー女って怖えーーオレ彼女に憧れてたのに……女ってわかんねぇな」
「だな」

そいつは俺の話と周りの反応で納得したらしく礼を言って立ち去った。

普段の三宅からして三宅のほうから言い寄るなんて話は最初っから無理があったんじゃないのかと
今さらながら三宅の女子に対する徹底的な態度に感心した。

結局その話はたいした噂にもならずに鎮火したらしい。
あの女の評価を下げて。

俺の話も少しは役に立ったと思う。
なんせあのあと何人かに同じことを聞かれたからだ。
だから同じことを答えてやった。
ただ噂が広まったところで三宅の奴は気にしなかったんじゃないかと思うが。


「なに?」

あれからしばらく経ってまた三宅と食堂で向かい合って昼飯を食べてる。
相変わらず三宅は弁当持参だ。

「感謝しろよな」
「意味がわかんない」
「ちゃんとフォローしてやったんだからな」
「は?」
「ホント三宅がどうしてモテるのかわかんねぇ」
「言ってる意味がわからないけど」
「お礼は嫁さんの写真でいいぞ」
「…………」

一瞬で超不機嫌オーラを漂わせる三宅を見て俺はクスクスと笑う。

どうやらこれからも俺の大学生活は楽しく過ごせそうだな……と

この日また改めて思った。





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