ひだりの彼氏 番外編 ツバサ名前を考える


01




「お帰り」
「ただいま。身体大丈夫だった?」

そう言って靴を脱ぐと何よりも先に私をぎゅっと抱きしめてキスをして大きくなってきたお腹に手を当てる。

最近前にも増して彼の心配性のレベルがUPしたような気がする。

「今日病院だったでしょ?先生なんて」
「順調って言ってたわよ。これに今度から2週に一度の検診になるんだって」
「今日は無理だったけど、なるべくオレも都合つけるから絶対一人で病院に行かないでね。もう車の運転心配だし」
「別に大丈夫なのに」

確かに動きは前みたいにはいかないけどまだ大丈夫なんだけどね。

「奈々実さんなんだから大丈夫なんてないの」
「…………」

心配してくれるのはわかるけどなんだかそれってちょっと失礼?

「すぐにご飯の支度するから」
「私も何か手伝うわよ」
「奈々実さんはいいから座ってて。ヤケドしたり重いもの持って身体が変になっても困る」
「だから心配しすぎだってば!」
「奈々実さん前科もちってわかってる」
「へ?あっ……」

ちょっと前手伝うと言ってお皿を持ったら手が滑って落として割ってそれに驚いて尻もちを
つきそうなったのを彼が後ろから支えてくれて事無きを得たことがあったんだけど……。

「大人しく座ってて」
「…………じゃあご飯よそう」
「それくらいならいいよ」

ああ……私ってば一体いくつになったのやら?
手伝いがご飯よそうこと?

まあでもそれ以上何か言うと彼がうるさそうだから大人しくご飯を2人分よそった。
ものの数秒のお手伝い終了。


「ねえ?あなたはどっちがいいと思ってるの?」

ご飯も食べ終わってお互いお風呂にも入ってコタツで寛いでる。
お腹が大きくて危ないからってなんと彼と一緒にお風呂に入ってるという信じられないこの状況。

まあ髪の毛洗ってくれたりなかなか決め細やかな至れり尽くせりで……本当に申し訳ないです。はい。

「男か女かってこと」
「そう。聞けば教えてくれるらしいけど聞かないんでしょ?」
「生まれてからのお楽しみがいいから」
「私は女の子かな?最初に女の子は育てやすいって言うから」
「そう」
「男の人はやっぱり男の子がほしい?よく一緒にキャッチボールするのが夢とかいうし」
「オレ野球興味ないけど」
「え?あ……そう」
「まあどっちが生まれたとしてもやっぱり最初は護身術じゃない?ちょっとならオレも教えられるし」
「は?」
「今の世の中自分の身は少しくらい自分で守らなくちゃね。奈々実さんも一緒に教えてあげるよ
そしたらもう少しオレの心配も減ると思うし。ああ……なんで今まで気付かなかったんだろ」
「ちょっと……」

そのあと彼は腕を組んでブツブツと言い出してた。
しかも顔は相変わらずの無表情で。
きっと何か色々とスケジュールを組んでるんじゃないのかとちょっと怖くなった。
まさか赤ちゃんのころからやるとは思わないけど。

「ねえ」
「なに」
「名前とか考えてる?」
「まあ」
「両方とも?」
「当たり前」
「教えて」
「知りたいの」
「できれば」
「どうしようか」
「変なのは却下だから!」

彼だから怪しいのよね。

「仕方ないな。そんなに聞きたい」
「本当は考えてないんじゃないの?」
「奈々実さんじゃあるまいし」
「あなたが自分で考えるって言ったんじゃない!」
「ああ」
「もう……」
「李舞」
「え?」
「女の子なら “ いぶ ” 」
「“いぶ” って……」
「予定日12月24日でしょ。だから」
「え?そういう理由?」
「生まれた日が自分の名前。クリスチャンじゃないけど漢字で書くから別に平気でしょ」
「…………」

え?それでいいの?自分??

「真面目に考えたの?」
「もちろん」
「…………」

そう言われるとなんとも言えず……それに変とも言い切れないし。
確かに女の子らしくて可愛い名前だと思う。

「ただ欠点がひとつ」
「え?」
「12月24日に生まれないとつけれないんだよね」
「あ……」
「25日とか前でもダメ」
「確かに……」
「と言うわけだから奈々実さん絶対24日に産んで」
「へ?」
「子供の将来がかかってる」
「え?ちょっ……なんで?」
「それ以外考えてない」
「そりゃ予定日だけどあくまでも予定なんだからそんなの私だって決められないわよ!」

言われてる出産予定日は12月24日のクリスマス・イブだけど……。

「だから今からお腹に念でも送っといて。予定日に生まれるようにって」
「ええ?」
「オレはそうしてるし」
「え″っ!?」

い……いつの間に??ってわかるはずないか。

「奈々実さんが寝てる間とかね。お腹撫でながら」
「はあ?」

そ……そんなことしてたの?

「も……もしズレたら?」
「そうなんだよね。25日なら “くりす” とか?前だと……悩むよね」
「ちょっ!!本気?」
「本気だけど」
「ち……ちなみに男の子は?」
「んーー “三汰” 。長男だけど」
「なっ!?」

それってサンタクロースの “サンタ” ですか?

「も……ふざけないでよ!」
「ふざけるってなに?全国の “さんた” さんに失礼だよ」
「う″っ!!そ……そういうわけじゃ……」
「だからできれば女の子がいいかな。12月24日生まれの」
「…………」

だから!!出産指定は無理ですって!!
それ以上に生みわけなんて今さらもっと無理ですから!!


じっと彼を見つめても相変わらすの無表情……どうやら彼は大真面目らしい。

ああ……お願い!!どうか女の子で12月24日に生まれてきて!

その日から私は自分のお腹に向かってお願いする日が続いた。









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