ひだりの彼氏 番外編 元クラスメイト・須々木君とツバサ 4


01




「あれ?」

大学生活も3年目のクリスマス・イブ。
相変わらずの独り身の俺は大学の仲間で同じような独り身の奴等とクリスマス・イブを祝うために
イルミネーションに飾られた街を歩いてた。
中には付き合ってる相手がいる奴もいたけど仕事やらバイトやらで相手の都合がつかなかった奴も
いたりして女の子も何人か参加してた。

予約した店に向かってる最中だったんだんだがそんな歩道に見知った顔を見つけて思わずマジマジと見てしまう。

高校を卒業して一度も会ったことのない男。
2回ほど開かれた同窓会にも顔を見せない男。

もともとそういう男だったのはわかってたからあきらめてはいたけれど……。

そんな男を偶然にも見かけて俺は立ち止まってしまった。
まるで珍獣を見つけたようなラッキー感。

無視されるのも頭にあったからわざと大きな声でそいつの名前を呼んだ。

「ツバサ!!」

「「「「 !! 」」」」

ツバサよりも周りにいた奴等のほうが俺の声に驚いたみたいだった。
肝心のツバサはゆっくりと俺のほうに顔を向けた。

「…………」

相変わらずの無表情。
髪も染めず高校のときの奴そのままで思わず嬉しさがこみ上げる。

やっぱ奴は奴のままだった。
それが無性に嬉しくて知らずうちに高校のときの感覚が蘇る。

不審そうに俺を見てる周りの奴等を気にせずツバサのところに走った。

「ツバサ!久しぶりじゃん!元気だったか?」
「生きてたんだ」
「勝手に殺すな!……って相変わらずだなお前は……」

たしかに気づいてはいたんだよ。
ただなんともツバサにはミスマッチであえて考えないようにしてたんだが……
流石にシカトはできないと思った。

「なあツバサ」
「なに」
「この子なに?」

ツバサの腕に抱っこされてるのはどう見ても小さな子供だ。

端に真っ白なウサギの毛みたいなフワフワしたものが縁取られてるフードつきのポンチョと言うのか?
そんなコートを着た子供。薄いピンク色のこれまたフワフワのワンピースを着てるってことは女の子か?
模様入りのレースふうのタイツを穿いて小さな花が幾つも着いてる歩き易そうな靴を履いてる。

そんでもって顔っといったら頬っぺたで切りそろえられた細くて柔らかそうな髪がサラサラと揺れてて肌は色白。
子供特有のポチャポチャした感じの身体のつくりで頬っぺたも寒さのせいか淡いピンク色に染まってる。

右目の下には小さなホクロがあって……子供とはいえ超可愛い!
天使?妖精??そんな言葉が似合いそうだ。

「犯罪者」
「は?」
「須々木のその視線がキモイ」
「バッ!んなわけあるかよ!ったく!俺はロリコンじゃねーって!」

確かに可愛いとは思うが流石にそんな趣味はねーー!!

「どうだか」
「オイ!!」

昔と同じその呆れた眼差しやめろ!!

「100メートル以上近づくな」
「それって帰れってことか?」
「そう」
「ったく!元同級生にその態度か?ってかマジでこの子なに?まさかツバサの隠し子とか?」

多分親戚の子だとは思うが久々にからかってやろうと思わず顔がニヤニヤしてしまう。

「隠してないけど」
「は?」
「正真正銘オレの子だけど」
「ええっっ!!??」

まっ……マジか?

「い……いつの間に?ああ!」
「ホントキモイ」

俺はとっさにツバサの左手を掴んで自分の目の前に引っ張り上げた。
子供は右腕で抱っこしてるから心配ない。

「あった……指輪……」

一瞬目の錯覚かと思った。
だってよぉ……左手の薬指に指輪って……。

「お前結婚したのか??」
「そうだけど」
「もしかしてあの年上の彼女とか?」
「そう」
「まさか……出来ちゃった婚?」
「ちがう」
「でも……この子いくつだよ?」

見た感じ2・3歳ってとこだろ?

「今日で2歳」
「へ?今日?クリスマス・イブが?」

2歳?2歳ってことは……妊娠期間入れたってできたのは3年前くらいか?

「ツバサお前いつ結婚したんだよ」
「高校の卒業式の日」
「はあ??」

あ……あのころに??結婚だぁ!!??

「なに」
「…………」

なんか……もう……

「ホントお前って男は……」

全身から力が抜ける感じだ。

「名前はなんてんだ」
「知ってどうすんの」
「はあ?なにケチってんだよ!」
「ケチってるわけじゃない」
「じゃあなに警戒してんだよ!なぁ?お兄ちゃん怪しい奴じゃ……」

そう言ってにっこりと笑って子供の頬っぺたを突っつこうと指を近づけた。
マジで下心も邪な気持ちもなかった。
だって子供の頬っぺた突っつくなんてごくごく普通の行動だろ?なのに……

―― ペチン!!

「で?!」

近づけた指が空中で止まる。
淡いピンクのお餅みたいな頬に触れる前にその小さな手に指を叩かれた。

「…………」

い……今のは一体?

「身内と保育園の先生と友達以外受け付けないから」
「はあぁぁ?」

なんだって?
それってそいつら以外敵と見なされるってことか?
お前はこんな幼児にどんな教育してんだ?!

「だから勝手に触るな」

「!」

そ……そのセリフ聞いた記憶があるぞ!
ツバサが高校のトキに女子相手に言ってたセリフじゃねーか!

「お前親バカ?」
「普通」
「どこが普通だ」
「どこも」
「…………」

それにしてもコテンとツバサに頭を預けて片手は自分の口にもう片方の手はツバサの服を
ギュッと掴んでてよく見れば顔はツバサソックリじゃんか。
泣きボクロが右目の下なのが惜しい。

「ツバサにソックリだな」
「そう」
「なんだしっかり父親やってんじゃん」
「まあ」
「どっか出かけるのか?」
「帰るとこ」
「そっか……今度連絡すっから一緒に飲もうぜ」

あんま強くないけどせっかく飲めるようになったんだから酔ったツバサも見てみたかった。
まあツバサが酔っぱらうなんてあんま想像できねぇけど。

「遠慮する。連絡しなくていいから」
「…………プッ!アハハ……ホント相変わらずだよなツバサは」
「そう」

まあツバサが俺ににこやか絡んで来るところなんて想像できねぇからそれはそれでいいのかもしんない。
いや……ツバサにはずっと今のままでいてくれたほうがいいかもな。

「クリスマス・イブは家族とか?」
「そうだけど」
「俺もこれから大学の仲間とクリスマス・イブ祝うところだ」
「そう」
「一回くらいは同窓会に出ろよ」
「やだ」
「ホント相変わらずすぎて高校生に戻ったみてぇ」
「3年経った」
「そうだな……んじゃ俺行くわ」
「ああ」
「じゃあ元気でな」
「ん」

手を軽くふって歩きだすとツバサも反対側に歩きだした。


「ツバサがパパかよ……」

子供を目の前にしても信じらんねー。

「どっちかっていうと年の離れた妹だよな。ま!当分話題には事欠かないな」


さっそくこのあと会う同じ高校だった奴に話してやろうと俺はニヤニヤと笑いながら足取りも軽く店に向かった。




「まさかこんなところで須々木に会うなんて……今度から用心しよう」

高校の同級生の須々木。
なにかと構われて鬱陶しかった男。

「李舞さっきのは上出来」

李舞(いぶ)は人見知りがあって初対面の相手にはなつかないし触られるのも嫌がる。

皆オレに似てるっていう。
誉められてない気もするけどオレはそれでかまわないと思う。

「見ず知らずの他人に触られるなんて冗談じゃない。ね?李舞」

今日は李舞の誕生日でケーキを買いに来た。
同時にクリスマス・イブでもあるんだけど途中で李舞が店頭にならぶオモチャに惹かれて遊んでる間に
奈々実さんが先にお店にケーキを取りに行ってる。

「須々木につかまったから無駄な時間費やした」

ちょっと遅れてお店に向かってたところに須々木と出くわした。

「李舞ああいう男に引っ掛かるんじゃないよ。わかった」

「?」

「もうちょっと大きくなったらちゃんと教えてあげる」
「まぁ」
「もうすぐ会える」

顔もオレに似てるって言うけどオレから見たらふとした表情は奈々実さんの面影がダブる。
そうわかってるのが自分だけでいいから言い返したりしない。

きっと奈々実さんの子供の頃ってこんな感じだったんだろうと思う。
今度奈々実さんの子供の頃の写真を見せてもらおう。
拒否されそうだけど。

「李舞」

オレが笑いかけると李舞もにっこりと笑う。

ちゅっと髪の毛の上から李舞のこめかみに触れるだけのキスをする。
まだ子供の李舞は外でのこんなキスも嫌がったりしない。
奈々実さんは未だに照れて慌てて怒るけどね。


奈々実さんと知り合うまで色んなものに執着がなかったオレ。

それが奈々実さんと李舞だけはいつまでもオレの傍にいてほしいと思う。

それ以外なにもいらない。

姉貴達や安奈先輩に言わせるとオレは須々木の言うとおり “親バカ” らしいけどオレ自身は自覚はない。
自分ではこれが普通だと思ってるから。

「奈々実さん」

何軒か先のお店の前にケーキを持つ奈々実さんをみつけた。
奈々実さんもこっち気づいてオレ達に手を振る。

「まぁ」

李舞も奈々実さんを見つけて下におりる素振りをするからゆっくりと地面におろす。

まだ転びそうになることが多い李舞と手を繋いで奈々実さんに向かってゆっくりと歩き出した。









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