「じゃあ今度の土曜日、駅前に10時集合ということで」
昼休み教室のでお昼を食べたあと、机を寄せたまま仲のいい友達と週末の約束をした。
一週間後に控えた修学旅行の各々足りない買い物を、最近2駅ほど先にできたショッピングモールに買いに行くことになった。
「OK」
「了解」
「ラジャ!」
「わかった」
「…………」
私の返事に他のみんながジト目で見てくる。
「な、なに?」
「わかった〜なんて言ってるけど、大丈夫なの?」
「え?なにが?」
本当にわからない顔をしてると、みんなが私のお腹の辺りを見る。
「え?……あっ!」
そうだ……問題があった。
机に隠れて見えないけれど、私の膝の上には定番になってる彼の頭がある。
色々な経緯(いきさつ)で彼氏彼女の関係になって数ヵ月……いつもは屋上で私の膝枕でのお昼寝タイムが、
今日は雨のために教室でのお昼寝タイムになってる。
私の隣にイスを何個か並べて、そこで横になってる。
最近では周りの人が気を利かせてくれて、進んでイスを提供してくれるようになってしまった。
本当に申し訳ないと思う。
なんせ最初は、あの無表情で『イスかして』と、貸さないのかと言わんばかりの態度だったから。
『ごめんね』と私が代わりに謝りまくてった。
「……スゥ」
「ホント、気持ちよさそうに寝てるよね」
「最初は緊張したけど、最近は慣れちゃった」
みんなが頷きながら、クスクスと笑う。
「よっぽど寝心地いいんだろうね」
「……どうだろう?寝れればどうだっていいんじゃないの?」
っていうか、毎日そこまで眠いのか?と不思議。
「んなわけないじゃん。奈々実だからでしょう」
「う〜ん……」
気持ちよさそうに寝てる彼の横顔を見下ろす。
いつのころからか、膝枕で寝てる彼の髪の毛を弄ったり撫でたりするのが気持ちよくなってたりする。
だって彼の髪の毛って、柔らかくって触り心地がいいんだもの。
本人には言ったことないけど。
言うつもりもないけどね。
彼は、私が髪の毛を弄ったり撫でたりすることを嫌がったりせず、今まで以上にぐっすり眠れるらしい。
「ちょっと三宅君!」
「…………」
起きる気配はない。
「おーい三宅君〜ちょっと起きてほしいんだけど〜」
「…………」
机を挟んで、私のお腹に向かって紗智が声をかけるけど無反応。
「ほ〜起きないつもり?」
ふっふっふっと紗智が不敵に笑う。
「やっぱり身体を揺さぶらないとダメ?仕方ないから触るわよ?」
「……ふぁ」
スッと紗智が彼に手を伸ばすと、察したように彼が目を覚ました。
「……触んないで」
「はいはい。ならサッサと起きてよ」
「はふ……なに」
めんどくさそうに机の上に頭だけ出てきた彼を見て、みんながなんとも言えない顔をしてた。
「う、ううん」
「えっと……」
みんなバツが悪そうに下を向いたり横を向いたり。
「もう……三宅君、ムダな色気振り撒かない」
「なにそれ」
「寝起きのその顔がくるのよ!」
「は?言ってる意味がわかんない。奈々実さんおはよう」
「え?……きゃああああ!!」
ふたりの会話を聞いてたら下からニュッと彼の腕が伸びてきて、私の首に廻されるとギュッと引き寄せられた。
なななな、なにするつもり?
「なにするの?!」
「いつもしてる」
「なっ!」
寝たままの彼の顔が近づいてくる。
首はしっかりと彼に捕まってて……これって……
「!!」
みんなが息のんだのがわかった。
「いつも、そんなことしてないでしょうが」
またもや紗智に突っ込まれる。
「してる」
「し、してないでしょ!変なこと言わないでよ」
私も全力で否定する。
まあ屋上で誰もいないとき、たま〜にするときはあったりするけど断じていつもじゃないっ!
「テレない」
「テレてない!」
なんか彼ってこんなんだっけ?
「いいから、いい加減人の話聞きなさいよ。じゃなきゃ問答無用で奈々実連れてくからね。
別に三宅君の了承なんて必要ないんだけど、後々面倒くさいから言うだけだから」
「なに」
「無表情で睨まないでよ」
「なに」
「土曜日、奈々実かりるからね。っていうかそのくらい文句言わないでよね、あんた心狭すぎ」
「…………」
無言で彼が紗智を見てる。
紗智も無言で彼を見つめ返す。
ふたりの間に漂うのは、一体どんな視線の応酬なんだろうか?
「奈々実さん無防備で抜けてるからちゃんと見ててよね」
紗智から視線を外して仕方ないって感じで彼がそう言うと、また私の膝にコテンと頭を乗せて目を瞑った。
「ありがとう〜三宅君」
ふふん♪ と紗智がハナで笑う。
どうやら今回は紗智が勝ったらしい。
どんな勝負だったのかしら?
約束の土曜日。
終わったら迎えに行くからと、耳にタコなほど注意事項と禁止事項を前日に彼に言い含められた。
あのね……今まで約17年間ちゃんと生活してたんだから大丈夫だと思うんだけど。
彼は意外と心配性で独占欲が強くて自己チューだ。
「ちゃんと全部買えたよね?買い忘れない?」
「んー大丈夫」
「なんか余計な物まで買っちゃったよ〜」
「仕方ないよ、皆で買いに来てテンション上がるし」
それぞれ色んなコトを言い合って、盛り上がってた。
やっぱり女の子同士のお出かけって楽しいな。
来れてよかった。
買い物袋を腕に抱えて、ニコニコ笑ってる友達を見て自分の顔も綻ぶ。
「チッ!」
え?!
隣に立ってた紗智の舌打ちが聞こえた。
「時間ピッタリに来なくたっていいのに」
「え?」
「あー奈々実お迎えだよ〜」
「あ!」
言われた方を見れば、彼がこっちに向かって歩いてくるところだった。
「あ」
「なに?知り合い?」
こっちに来る途中ですれ違ったカップルの男の子のほうが彼に気づいて呼び止めた。
そして、そのまま話始めたようだった。
Next
拍手お返事はblogにて…