ひだりの彼氏 別話編 高校生のツバサと奈々実 2



02




「なんかおもしろいコトないかなぁ〜」

俺の隣を歩く同級生の “堀部あやめ” がブツクサと文句を言っている。

「あのなぁ〜そんなお前に無理矢理連れ出された俺はもっとつまらん」

休みだっつーのに暇潰しの相手させられてるこっちの身にもなれっての。

堀部は同じ高校のクラスメイトだ。
あんまり高くない身長のわりには出るとこは出て、引っ込んでるところは引っ込んでるというなかなかのボディの持ち主。
スゲェ美人ってわけでもないけど、きちんと施されてる化粧で綺麗な顔だ。
パッと見、小悪魔タイプに見えるけどそのまんまだったりする。
特定の彼氏は作らず、でも遊ぶ相手は何人もいるらしい。
俺はその中には入ってないが、けっこうツルんでたりする。
ならフラフラと堀部に傾いてもいいんじゃないのかと思うところだが、彼女にしようとは思わない。
確かに初めて堀部を見たときはときめいたさ。
話しやすいし、甘えるのが上手で男心を煽るのも “お前それでも去年まで中学生だったのかよ?” 
って思えるほど慣れてた。
でも、そう思ったのも最初だけで段々とコイツの男との付き合い方に呆れだしたから。
特定の相手を作らずに複数の男と付き合うのはまあ有りとしても、彼女がいる男にも気のある素振りを
するのにはオイオイと思った。
決定的な言葉を言ったりするわけじゃないけど、ちょっとしたボディタッチや意味ありげにあの小悪魔スマイルで
笑いかけられれば男としちゃ悪い気はしない。
だから、つい彼女がいるのにフラフラとコイツの誘いに乗っちゃうわけだ。
本人曰く、

『相手が勝手にあたしに熱上げるんだもん、そんなのあたしのせいじゃないわ』 だと。

まあそれもそうかもしれないけど……半分以上、堀部に責任があると思うけどな。
いつかそんな男達の元カノに刺されたりすんじゃねーの?なんて密かに思ってたりする。

そんな女を彼女になんてしたいとも思わないし、本人が特定の男を作る気がないから、ただの男友達という
ポジションに収まってるというわけ。

なんでそんな奴と一緒にいるかというと、修羅場見れたりコイツに骨抜きにされる男見るのが楽しかったりするから?

それなりに気が合うのかもしれない。
堀部もそれがわかってるらしいから、遊ぶ相手がいないと俺に声を掛ける。
ときどき “あっち” の相手もしたりしなかったり。
でも今日はそんな気分じゃなくて、ふたりでブラブラと街中を歩いてた。

そんなときすれ違った相手に見覚えがあって、思わず声を掛けた。

「あれ?三宅?」

声を掛けるとチラリと視線を向けられたけど、そのまますれ違われそうで思わず相手の腕を掴んでた。

「だれ」

無表情のこの顔に、この瞳。
そう、コイツは中学のとき一緒だった “三宅 翔” 。
俺の中では他の奴等とはちょっと違った思いのある相手で、結構記憶に残ってる相手。

女子に人気があったくせに、この無表情に無関心で、なんか独特な雰囲気漂わせた男。
何度か話したこともあって、そんな会話でも “コイツ変わってる” と思った。

だから俺の中で忘れられない相手だったんだけど、相手はまったく憶えていなかったらしい。

“だれ” ときた。

「俺だよ俺!中学で一緒だった坂戸、坂戸朗(あきら)」
「さあ」
「ったく、憶えてないのかよ」
「まったく」

素っ気なくそう言い切ると、また歩きだそうとするから慌てて腕を掴んだ。

「離して」
「なんだよ、なに急いでんの?女?」
「関係ない」
「そうだけど、暇ならちょっと付き合わね?」

ジッと冷めた視線向けられた。
無表情以外でもそんな目ができるのか、と変なところで関心した。

「ねぇ、この人だぁれ?」

声に振り向けば、堀部が瞳をキラキラさせて話しかけてきた。
おお!獲物を見つけた牝豹みたいだな。

「こいつ中学の同級で三宅翔」
「へぇ〜中学の同級生?ツバサ君かぁ」

媚びるように見上げる姿は小悪魔モード突入か?
大体の野郎共はこれでまず動揺するんだが……かくいう俺も、コレにときめいたひとりだ。
さてさて無表情に無関心男はどんな反応するんだか楽し……み……。

最後まで言葉が続かなかった。
これでもか! ってほど “迷惑!” って思ってるのがひしひしと伝わってくる。
なのに無表情なのが不気味すぎる。

「あたし堀部あやめ♪ ねぇねぇ、これから3人でカラオケでもいかない? 3人が嫌ならぁあなたとあたしの
ふたりだけでもいいよ〜それだったらカラオケじゃなくなっていいしぃ〜ウフフ」

どうやら堀部の好みに合ったらしい。
俺までも排除しにきたな。
しかし、このあからさまに迷惑だというオーラをもろともしないのには驚く。
もしかして気づいてないのか? それとも、気づいててもシカトなのか?
まあ、ゴーイング・マイウェイな奴だしな。

「行かない」
「ええ〜行こうよぉ〜ツバサ君♪ カラオケが嫌なら、ふたりっきりになれるところ行こ♪」

歩き出そうとした三宅の前に回り込んで、三宅の腰に正面から抱きついた。
下から見上げる顔に、押しつけられた胸。
胸元の開いてる服だから、胸の谷間も見えてるはず。
意識しない男はいないだろう?
青春真っ盛りの男子高校生だぜ?
しかも女のほうからのお誘いだし、据え膳食わぬわなんたら、ってヤツじゃね?。

「触んないで」
「ん?」
「離して」

うお!動じねぇ!
変わらずの無表情に無関心。
いや、もしかして本当は内心ニンマリとか?

「あやめと一緒に行ってくれるなら離してあげる♪」

さらにギュッと抱きついて、三宅の胸に頭をスリスリと擦り付けた。
相変わらず積極的な女だな……なんて思って見てたら、三宅の右手がゆっくりと上がっていく。
なにをするのかと思ってたら、そのまま “ガシッ!” と堀部の頭を鷲掴みした。

「きゃっ!? な、なに? あいたたたたた! やだぁ痛いーーー」

たぶん、堀部の頭を鷲掴んでる手に相当な力が入ってるんだろう。
なのにまたもや無表情ってマジで怖いって。
しかも、女相手に手加減なし! とみた。

三宅の腰に回されてた堀部の腕はアッサリと外れ、今は自分の頭を鷲掴んでる三宅の手を外そうともがいてる。

「ちょっと痛いじゃない! 離しなさいよー」
「やっと離れた」

堀部が腕を離して三宅から離れると、三宅の手も堀部の頭から離れた。
そして頭を掴んでた手をじっと見つめると、まるで汚れを落とすようにピッピと手首を振った。

「な、なによっ! 女の子に暴力振るうなんて最低!」
「離れないそっちのせい」
「うるさいわね! 頭が変形しちゃうじゃないのよ!」
「すればいいのに」
「なんですって!」

無表情の冷めた視線……マジで堀部になんの関心も、好意もないんだなと悟る。
さすがに堀部もそのことに気づいたらしい。
今までどんな反応だろうと、自分に対して好意以外の反応をされたことがなかっただろう堀部が
納得できないというように三宅にくってかかる。

「責任とってもらうから!」
「は?」
「この愛くるしいあたしの容姿が変わるところだったのよ。謝りなさいよ」
「言ってる意味がわからない」
「謝れって言ってるのよ! ちょっと見た目がよかったから付き合ってあげてもいいかと思って声かけたけどもういいわ、さあ謝って」

どんだけデカイ態度なんだと思いながら、三宅の出方を楽しみながら待つ。

「愛くるしいって誰が?」
「はあ? 誰ってあたしに決まってるでしょ? あたしよ、あ・た・し!」

フン! と腰に手を当てて胸を張る堀部。
どこまで自意識過剰なんだか……まあ確かに可愛い顔だけども、愛くるしいって笑えるんだけど?

「どこが」
「なっ!」
「そのくらいの顔なら見飽きてる」
「ぐっ! な、なんですって!」
「もうオレにかまわないで」
「あ!ちょっと、待ちなさいよ!!」

これ以上付き合う気はないと言わんばかりに三宅が歩き出した。

「ちょっと!」

三宅に伸ばされた堀部の手が、三宅の手によって “パシン!” と音を立てて叩き落された。
俺はそんな三宅の行動に驚かされる。
中学のとき女子と仲良くしてたところは見たことはなかったけど、これほど邪険にするのにはびっくりだ。
無表情の無関心で笑った顔なんて見たことがないけど、ここまでハッキリと拒絶する男だったんだな。

「いい加減にして、鬱陶しい」

「!!」

肩越しに顔だけ振り向いた三宅の淡々とした言葉のクセに、その言葉には色んな気持ちが込められてて 
“グサリ!” と突き刺さるトドメの言葉だった。
一番の大きな気持ちは “大迷惑!” ってやつかな?
さすがの堀部もそれを感じ取ったのかその場で立ち尽くして、もう三宅のことを追いかけようとはしなかった。

まあ……なんというか……相手が悪かったんじゃねぇの?
声掛けたのは俺だからなんか悪いな〜とは思うけど、俺としてはなんとなく楽しめたからイイか?





「おお〜モテ男は大変だね? 私達がいなかったら誘いに乗ってたんじゃないの? ね、奈々実」
「えっと……」

嫌味全開の紗智。
まあ仕方ないよね? 私達の目の前で繰り広がれてたんだもの。
彼女が彼にしっかりと抱きついたの見せられちゃったし。
そのあと、情け容赦ないやり方で引き剥がしてたけど。

離れた場所から、さっきのやり取りを一部始終見ていた私達。
遠くからでも女の子が可愛いというのはわかったし、いきなり彼に抱きついたのには皆で驚いてしまった。

私はなんとも複雑な心境で、普段彼が女の子にどう対応してるのか知り尽くしてたから、
心の中では彼は嫌だろうなと思った。
でも、目の前で彼が他の女の子に抱きつかれてるのを見た途端に鳩尾の辺りが重くなった。

かなり強引な形で始まった私達の恋人関係だったけど、彼のことが自分の中でどれだけの比重を占めているのかわかった瞬間だった。
思ってた以上に、私の中で彼の占めてる面積は大きかったらしい。
今まで彼の浮気とか、他の女の子に目が行くとか、考えたことなかったから。

それって自惚れだったのかな? と自己反省。
そうだよね……彼って結構……いや、かなりモテるんだった。

彼が、私以外の女の子にまったくの無関心だったからそんなこと考えたこともなかった。
それって本当はかなりスゴイことなんじゃないかなと思う。
今まで私がそのことで心配したり悩んだりしなかったのは彼のお蔭なんだろう、と今さらながら納得した。

「なに? 目、腐ってんの?医者行けば」
「はあ? 抱きつかれてハナの下伸ばしてたんじゃないの〜」

紗智が腕を組んで意地悪く彼に言う。

「こんな真昼間の人混みの中で “痴女” にあうなんて最悪」

「「「「え!?」」」」

私達は皆目が点。
どうみてもさっきの彼女は “痴女” ではないだろう?
声を掛けてきた男の子連れで、逆ナンされたんじないの?
どうしてそうなったのか、会話を聞いてないからよくわからないけど。

「もう用事済んだんでしょ、帰るよ」
「え?あ!ちょっと……」

私の手を掴んで、そのまま歩き出した。

「そうだ、ちゃんと奈々実さんのこと見ててくれたよね?」

思い出したように視線だけ紗智に向けて、上から目線の物言いだった。

「へ?な……当たり前でしょ!それに、こんな女の集団をナンパしようなんて奴はいないから!」

負けじと紗智も言い返す。

「そう、もう当分奈々実さんは貸さないから」
「は?なに、この独占欲の塊男!それはこっちのセリフだから!修学旅行で奈々実は私達と一緒なんだからね!」
「さあ、どうだろう」
「あ……皆また学校でね!今日は楽しかったよ」

サッサと歩き続ける彼に手を引かれながら、慌てて離れて行く紗智達に手を振って別れの挨拶をした。
皆、苦笑いの顔で 『またね〜』 って手を振ってくれた。

しばらくふたりとも無言で歩いてたら、彼が歩きながら私と繋いでた手を引っ張る。
それに気づいて顔を上げると、彼が顔を近づけてコツンと額をくっつける。
そしてスリスリと額同士を擦ると、そのまま顔をずらして “ちゅっ” と額にキスをした。
最初は唇の先で……そしてそまま、自分の温度を私にうつすように唇を押しつけた。

そのとき……いつもはしない甘い香水の香りが彼からフワリと匂って……私はちょっとだけ俯いてしまった。





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