ひだりの彼氏 番外編 李舞と馬場 01



01






☆ 大学のことは作者の想像の世界なので広いお心でお願いします。


「は?」
「!?」

1日の講義が終わって帰る支度をしていたとき、一緒にいた三宅が携帯に向かって珍しく微かに眉間にしわを寄せてた。

「まったく……」
「三宅?」

急にテキパキと荷物を鞄に入れてサッと席を立つ。
そのまま、いつもよりも足早に教室を出て行った。
俺はそんな三宅のあとを不思議に思いながらついていく。
どこに行くのかと思えば、真っすぐ正門に向かってる。
帰るつもりなのか?

「オイ、三宅。お前、 とどろき 教授に呼ばれてなかったけ? 行かなくていいのか」

講義が終わったあと、ゼミの講師である轟教授のところに来るように言われてたはず。
面倒くさいってブツブツと文句を言ってたよな?

「緊急事態」
「は?」

なんだかわけのわからないことを言って、ひたすら歩く三宅。
なに急いでんだ?
さっき携帯に入った連絡がどんな内容だったんだか。

歩くこと数分、やっと正門にたどり着くと周りを見渡す三宅。

「誰か探してるのか?」
「…………」

聞こえてないのかシカトなのか、俺の問いかけに返事はない。
なに焦ってんだ? 珍しい。
なんて思ってると、耳を疑う声が聞こえた。

「ツバサパパ〜〜♪ こっちですよ〜〜♪」
「ったく」
「は?」

声の方に振り向けば、歳は俺達と同じくらいのちょっと派手目な印象の女がいた。
その女の腕の中には、多分その女の子供であろう小さな女の子を抱いていた。
あんまり子供のことはよくわからないけど、1歳か2歳くらいか?
まだ赤ちゃんと言えるかもしれない。
誰? 三宅とどんな関係?
随分馴れ馴れしいじゃん、珍しい。
なんて思ってると、驚きの言葉が!

李舞 いぶ 〜パパ来たよ〜♪」

その顔は、わざとらしいほどのニッコリ笑顔。
抱かれていた子供はその言葉に反応してか、パパと呼ばれた人物に手を伸ばす。

「はあ!?」

その伸ばされた手の先に居たのは……

「三宅!?」

マジか!?
ここ最近で1番の衝撃な出来事だ。

「ちょっと、どういうこと安奈先輩」

子供を抱きながら、目の前にいる女に呆れてるような言い方で尋ねる。
三宅に抱っこされた子供は三宅の首に腕を回して、顔を肩に乗せるようにギュッとつかまってる。

「ちょっと散歩がてらね♪」
「はあ? ウソつかない」
「ウソなんかついてないって」

相変わらずのわざとらしい笑顔で、俺でもウソだろうとわかる。

「嫌がらせ? こんなところに李舞を連れて来るなんて」

自分の肩に顔をうずめてる子供の頭を何度も撫でながら、ちょっと眉間にシワを寄せて女を見つめる。

「三宅、嫁さん?」

この状況で、子供を連れてきて三宅を“パパ”と呼ぶならそう思うだろ?
これが噂の年上の嫁さん?
にしては、三宅の態度がイマイチ腑に落ちない。
夫婦仲悪いのか? と疑う。

「は? なに言って……」
「んふふ♪ どうも、いつも(姉の)主人がお世話になってますぅ〜」
「!!」

よく通った声で挨拶されて、ザワリと周りがざわめいた。
大学の前で、子連れでパパ呼びならそりゃ注目されるわな。

「やっぱ、嫁さん?」
「だから違うって。一応義理の妹」
「妹?」

イヤ、どう見ても三宅より年上に見える。

「失礼しちゃうよね〜あたしは認めてないんだけどね。あたしは姉だと思ってるからね」

やっぱり三宅より歳が上なんだろうな。
そういえば“先輩”って呼んでたっけ。

「迎えに行くって言ったよね」

珍しくムッとした顔を見せた三宅だった。



その日の講義が終わり、あとはゼミの講師である轟教授の所に行けば今日の予定は終わるはずだった。
今日はいつもと違って李舞を奈々実さんの実家に預けていたから、そっちに李舞を迎えに行くはずだったのに。
送られてきたメールには、

『今、李舞と一緒に大学の正門前にいるから〜早く迎えに来てね(ハート)ツバサパパ♪』

「はあ?」と、呆れた声が出たのは仕方ないと思う。
一体なんでそんなことになってるのか。
李舞をこんな人目にさらすような所に連れて来るなんて。
安奈先輩の悪意を感じる。
オレが嫌がるのをわかってて、李舞をここに連れて来たんだろう。
でも、いくらオレに対する嫌がらせにしても、ここまでするかと多少疑問にも思う。
なにか問題でもあったのか?

美浬 みり が熱出しちゃってさ」

美浬とは安奈先輩の二人いる子供の下の子のことだ。
朝は何ともなかったらしいけど、午後から熱が上がり寝込んだらしい。
医者に連れていくのと、万が一李舞にうつるとマズイということでオレが迎えに行くのを待たずにここに連れて来たらしい。

「家に迎えに来るより、ここから帰ったほうが近いでしょ。家にいる時間も短くて済むしさ。今日はお姉ちゃんはお迎え無理でしょう」

今日は保育園が休園で、オレは大学で奈々実さんは仕事が忙しい時期でここ数日残業決定だった。
だから奈々実さんの実家で李舞を預かっててもらったんだけど、そういう理由なら仕方ない。
気を使ってもらったんだとは思うけど……

「理由はわかったけど、わざとここで待ってたよね」
「え?」

ニンマリ笑う安奈先輩。

「車で待っててもよかったんだし」

そう、わざわざこんな人目につく正門前で待つことはないはずだし。

「別に結婚して子供いるって隠してるわけじゃないんでしょ? どうせまたそのキャラで、周りに変な情報撒き散らしてんだろうし。
少しは真実を提供してあげないとね」
「余計なお世話。これで構われるのめんどい」
「相変わらずだわね。じゃあ、そろそろ行くわ。医者も行かなくちゃいけないし。李舞も様子が変だったらすぐに医者に連れていきなさいよね」
「うん」
「じゃあね〜李舞♪ また美浬達と遊ぼうね」

言いながら何度も李舞の頭を撫でて安奈先輩は帰って行った。
李舞も安奈先輩に手を振って応える。
人見知りと言われてる李舞だけど、実際は人を見てるだけで身内と保育園の先生と友達には普通に接してる。
それ以外には興味がないだけで愛想がないなんてたまに言われるけど、嬉しいときや楽しいときはちゃんと笑うし、
他人への気遣いだって小さいながら気を使ってる。
親バカと言われるけど、このくらいの子供ならそんなもんだろうと思う。
癇癪をおこして泣きわめいたりするよりはいいと思ってる。

「三宅」
「!」

呼ばれて馬場の顔を見て、ここが大学だったと思い出した。

「さっきのは三宅の嫁さんじゃないんだな?」
「そうだって言ったよね」
「そうだけど、一応確認」
「安奈先輩のことは記憶から消していいから」
「この子が三宅の子供?」
「そうだけど」
「いぶちゃん」
「それも記憶から消していいから」
「三宅に似てるな」

じっと俺を見てる顔は、全体的に三宅に似てる。
泣き黒子が三宅とは反対の目元にあるけど、それがあることで余計似てる。

「親子だから当たり前」
「まあ、そうなんだろうけど……で? これからどうするんだ?」
「帰る」
「でも、お前轟教授に呼ばれてるだろ。どうすんだ」
「別の日にしてもらう」
「でも、教授明日から出張でしばらく留守にするから今日って言ってたんじゃなかったか」
「…………」

俺と一緒にいるときにそう言ってたんだから間違いない。
三宅もそれを思い出して無言になる。
さっきから片手は子供の頭を撫で続けてる。
もしかして無意識か?

「俺が子供見ててやろうか?」
「!!」

三宅が珍しく表情を強張らせた。
なんだ、その犯罪者を見るような目は。

「ここで待ってればいいんだろ」
「馬場に預けて、李舞に変なことしないって保障、ないよね」
「俺はどんなふうに見られてんだっての。変なことなんてするか。相手は子供だろう」
「オレへの嫌がらせに」
「なに? 俺に嫌がらせされるようなことしてるわけ?」
「オレは憶えがないけど、逆恨みってことも」
「そう思うようなことされてないから心配すんなって。てか、逆恨みされるかもしれないってことをしてるかもしれないって
自覚があったのか」

本日二度目の驚きだ。

「…………」
「そんなに悩むことか?」

さっきから真剣な顔で悩んでる。
無表情だけど、多分そうだろうと思う。
子供はそんな三宅に大人しく抱っこされてる。

「大人しそうだし、泣いたりもしなさそうだし」
「李舞はむやみやたらに泣かない」
「じゃあ大丈夫だろ? 抱っこが嫌なら傍にいるだけにしとくし」
「…………」

さらに無言。
オイ、三宅。
そんなに俺は信用がおけないか?





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