ひだりの彼氏


09




自分の部屋の入口のドアでガクッ!っとなって後退りした!

だって…だって…
家の前で別れたはずの彼が……

何で私の部屋にいるのよーーーーーっっ!!!



「え?ベランダの窓開いてたし。」

「は?」

ベランダの窓って…私…鍵掛け忘れてた?

とりあえず持ってたコーヒーをテーブルに置いてベランダに面した窓を開けた。
本当に彼の靴がちゃんとベランダに脱いで置いてある……

「どうやって登ったの?」

ここ2階だし…

「え?」
「って人のコーヒー飲むんじゃない!!」
「オレのじゃないの?」
「違うから!本当一体どうやって?」

「壁際の荷物に足掛けて雨樋の金具に足掛けて途中から物置の屋根に乗って
そしたらベランダに手が届いた。奈々実さんちって壁際にモノ置き過ぎ。
泥棒に入ってくれって言ってる様なもんだよ。」

「!!!」

「でもオレの足が長かったのも良かったらしいけど。」

「………もう……もう……馬鹿じゃないのっっっ!!」

「?」

「落ちたらどうするつもりなのよ!!危ないでしょ!!」

「………」

「はぁはぁ…」

思わず叫んで息が切れる…
そうよ雨樋の金具なんてそんな頑丈じゃ無いでしょ?

「部屋に入った事は怒らないんだ。」

「!!」

「これって不法侵入だもんね。」
「そうね!」
「本当奈々実さんって無防備。」
「!!」
「今この家奈々実さんしかいないんでしょ?」
「…だから?」

「これがオレじゃなかったら…奈々実さん襲われてる。」

「こんな事するなんてあなたくらいよっ!」

「そう?」
「はあ〜〜〜〜」

「また露骨に溜息つく。」

「つきたくもなるでしょ…本当あなた一体なんなの?私に何を求めてるの?」

「何も。」

「え?」

「だから言ったじゃない。別に付き合いたいなんて言って無いって。」
「そう言ったわね…でもそれとこの行動とどう関連があるの?」

「んーオレはオレが落ち着ける空間が欲しいの。」

「は?」

「それがたまたま奈々実さんの隣だっただけ。」

「え?何?言ってる意味がわからないわ?」

本当にわからなかった…

「本当にわからないの?鈍いな…流石奈々実さん。」
「茶化さないで!」

「最初に車の助手席に乗った時もそうだったけど…
何でだか奈々実さんの隣ってオレ落ち着けるんだよね。」

「え?」
「座ってみて。」
「?」

そう言って自分の隣に視線を落とす。
そんな事を言われて最初は彼の左側に座ったけど……なんか居心地が悪い。
だって…見慣れない彼の泣き黒子が見えるし…

「………」

だから右側に座り直す。

「こだわるね。」
「うるさい!で?」
「しばらくこのまま。」
「…………」

2人でベッドを背もたれに私は床に体育座りで彼は胡座をかいて座ってた。

「………」

で?これで一体?

「ちょっとこのままいてみて。」

「………」


それからどのくらいそんな風にしてただろ…ずっと沈黙が続いて…

でもそんな沈黙も別に苦にならなくて…この事言ってるのかな?


「ねえ…」

「…………くぅ〜」

「なっ!!」

寝てるしっっ!!

「ちょっと!!何寝てるのよっ!」

肘鉄を彼の腕に入れてやった。

「……え?あー」
「もう!」
「ね。」
「何がね。なのよ!!」

「だから奈々実さんの隣だとこうやって寝れちゃうってこと。」

「なんなのよ…それ?」
「さあ…なんなんだろうね。」
「私は知らないわよ!」
「オレも知らない。」
「は?」

また訳のわからないこと…

「奈々実さんはオレを構わないから…」
「?」
「他の女子はね…なんだかんだってオレに触ってくるの。」
「は?」
「腕だったり背中だったり頭だったりね…」

「スキンシップでしょ?きっとあなたの事が好きなんじゃないの?」

「それでもオレは触ってもいいなんて一言も言ってないし
大体その子達の事何とも思ってないし。」

その子達ね…複数形かい!

「あなたも誤解招く様な事してるんじゃないの?」
「まさか…ただ…」
「ただ?」

「オレって母性本能くすぐるんだってさ。」

「え?」
「………」

見つめ合っちゃった…

「あなたの一体どこが?」
「……この辺?」

って手の平見せてどうする?

「そんなはず無いでしょ!!その眠たそうな顔じゃないの!」
「だからこれは生れつきだってば。」
「じゃあその左目の下の泣き黒子じゃい?その眠たそうな顔を余計引き立たせてるとか?」
「そう?」
「さあ知らないわよ。」

そう言いながらコーヒーを持った。

「もう冷めちゃったじゃない…せっかく淹れたてだったのに…」

カップに口を付けた瞬間…

「あ…間接キスだ。」

「ぶっ!!」

「やだな。そんなに動揺する?」
「ゲホッ!ゴホッ!!あなたが…変な事…言うからでしょ!!」
「だって本当の事じゃん。」
「………別にだからってどってことないわよ!」
「そう?はいティッシュ。」
「……ありがとう…」

何だか…納得いかない気分…

「さあもう帰って。」
「なんで?寝るの?」
「あなたじゃあるまいし!仕事するの!」
「仕事?」
「そう。だから帰って!」
「邪魔しないけど。」
「居るだけで邪魔!さよなら!ちゃんと玄関から帰ってね。
二度雨樋昇らないで!壊れたら弁償ですからね。」
「じゃあ梯子置いといてよ。」
「何でよ!玄関から来なさいよ!」
「来ていいんだ。」
「ぐっ!!そう言う事じゃ…」
「じゃあどう言う事?」
「雨樋昇るならって事!本気で受け取らないでよ!もう…」

本当やりにくいな…

「あれ食べなかったの?」
「え?」

見ればローボードの上の飴を摘んでた。

「ああ…だって怪し過ぎでしょ?教わらなかった?
知らない人から食べ物貰っちゃいけないって。」
「貰ったくせに。」
「あなたが勝手に置いていったんでしょ!」
「でも捨てなかった。」
「それは…」

何でだか…捨てられなかったのよ…

「勿体ない。せっかくあげたのに…パク!」

「あ!」

彼がさっさと飴の封を切ってパクリと飴を食べた。

「ん?」

頬っぺたにプクっと飴の形が浮き出てる。

「ちょっと何で勝手に食べるの!」
「だって要らないんでしょ?」
「………」

モゴモゴと舐めてる。

「クラスの女子から貰ったんだけど食べる気なかったし。」
「じゃあ何で今食べるのよ。」
「奈々実さんにあげたから今は奈々実さんのでしょ。なら食べる。」
「貰ったのは私なんだから勝手に食べないでよ!」
「もう…人が食べてるとすぐ欲しがるんだから。」
「そんなんじゃ無いわよ。」

別にそこまでその飴に執着してたわけじゃ無いけど…
彼が勝手に食べた事が何だか気に入らなかっただけで…

「じゃああーん。」
「え?」
「あーん。」
「…………」

もう1つ…飴を持ってるのかと思ったから…

「あー……ん…」

と軽く口を開けた……

コ ロ ン ……

「 !!! 」


今まで…彼の舐めてた飴が…

私の口の中に押し込まれて…舌の上にコロンと乗った…


「半分こね。」

そう言いながら彼が自分の唇をペロリと舌で舐めた。

「…………」


私は何も言えず口を閉じた……

確かに口の中に飴がある…甘い…甘い…飴……


って!!!え?ええ?えええええ????

い…い…今のって………今のって……


口移しって言うモノじゃないのーーーーーーっっ!!!???





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