ひだりの彼氏


11




「ツバサ〜〜〜帰ったの?」

リビングからオレを呼ぶ声がした。


「………いたんだ…」

そう呟いて渋々リビングに入る。
どうせ自分の部屋に行ったって部屋まで押しかけられるならまだここで話した方がいい…

「今日は遅番なの…行く前にツバサに会えて良かったわ〜 ♪ フフ…」

そう言ってオレの真正面に立って髪の毛や服やらを直すのはオレの姉の1人…「絢 (aya) 」

こげ茶色のロングの髪が肩より少し下でクルンとカールしてる。
ちょっとトロンとした顔はオレに似てるのか?黒目が多くてちょっと厚めの唇が色っぽいと言う評判…
左下の口元の黒子も色っぽさを引き立ててるらしい…
なかなかのプロポーションらしいけど子供の頃から見てるオレは良くわからないし何とも思わない…

確かにいい匂いはしてたかな…なんて思うけど…
女子の身体は柔らかいんだと絢姉さんから知ったのは覚えてる…

「どこに行ってたの?」
「ちょっとヤボ用…」
「変な女に引っかからなかったでしょうねぇ?」
「まさか…オレが女子嫌いって知ってるでしょ。」
「そうよね……ツバサがあんな高校生のお嬢ちゃま達になびくわけ無いわよね…フフ…」

満足気な顔でそう言って指先がオレの頬を撫でる。

「時間大丈夫なの?」
「もう行くわよ。夕飯…1人で大丈夫?」
「全然平……ぐふっ!!!」

そんな会話をしてる最中に背中にいきなり衝撃が走る。
きっとオレの背中に蹴りを叩き込んだんだろう…こいつ〜〜!!

「…げほっ…ごほっ……なんだよ…」

自分ではギロリと睨んでるつもりなのに相手には…特にこの女にはそれは全く通用してないらしい。

「どこ行ってたんだよ!ツバサ!お前メシの支度もしないでさ!!」

意地悪そうな顔でニヤニヤ笑ってるのはオレのもう1人の姉の「泉美(izumi)」だ。
そうこれでも姉なんだから嫌になる…名前に「美」だって付いてるくせに…

この暴力女…

「何で?自分で支度すればいいじゃん。」
「給仕がいるのに何であたしが作らなきゃいけないんだよ。お前の仕事だろ!」
「違うから。」
「違わねーだろ。なんなら身体にわからせてやろうか?」

そう言ってボキボキと指を解す。

「いいよ…もう…はぁ〜〜まったく…」
「いいわよツバサ。泉美ちゃんもう時間でしょ。それに私がさっき作ってあげたじゃない。」
「それなのにオレに作らせるつもりだったの?」
「そんなこと忘れてたよ〜 ♪ まあそれで自分の料理の腕上げれるんだからあたしに感謝しろよな。」
「………」

どんな理屈だよ…感謝されるのはオレの方だと思うけど。

「ああ?何?その反抗的な目は!」
「生れつきだけど?」
「あんら〜生意気な事言うね。ツバサ!久しぶりに練習台になるか?」
「いいよ…通院なんてごめんだから。」
「じゃあもう口答えすんなよ。」
「…………」
「わかってんのかよ!」

「!!……ケホッ!」

脇腹に突きを入れられてムセる。

「泉美ちゃん!」

「じゃあね〜帰り遅くなるから〜 ♪ 」

ヒラヒラ手を振って玄関に向かう…もう帰って来なくていいのに…
そんな眼差しで見送る。

「じゃあ私も行くわねツバサ。」
「いってらっしゃい。絢姉さんチュッ!」

絢姉さんの頬にいってらっしゃいのキスだ。

「フフ…行ってきます。」

絢姉さんは満足気に出て行く…
バタンと玄関のドアが閉まって部屋の中が静かになる。

「ふぅ〜〜しんど…」


ご覧の通りオレは姉2人のオレの3人姉弟。
姉とは10歳近く歳の差がある。

一番年上の絢姉さんは歳の離れたオレを異常なまでに可愛がった。
小さい頃はそれが他所と違うなんて気付かなくて絢姉さんには何も文句も言わなかった。

流石に小6まで一緒に風呂に入ってたのは母親が止めさせたけど
時々オレのベッドに入って来るのはつい最近まであった。

中学の頃から何となくウザったく思いだしたけどそんな態度をとったら
とんでもなく落ち込むから仕方なく昔からの変わらない態度を続けてる。

結局落ち込んだのを浮上させるのにご機嫌をとるのオレだし…
そんな面倒な事やりたくもないから。
ならいつも変わらなく接してれば済む事だったから…

彼氏でも出来れば違うのかもしれないけど元々男なんて自分の言う事を聞く
生き物としか思ってないから早々誰かと付き合うなんて考えてない。

オレは別らしいけど…

確かに絢姉さんは綺麗だし物腰も柔らかで男が放っておかないんだけど…
オレへの溺愛が問題なんだ…

『ツバサのその何とも言えない顔とその泣き黒子がたまんないのよ〜』

って言われ続けてる。

いってらっしゃいのキスも強制的に子供の頃からやらされた。
それは未だに続いてる…

もう一人の姉は絢姉さんと違って男みたいにガサツな奴。
趣味は格闘技。
暇さえあれば試合の観戦に出掛けるし付き合う相手はいつも格闘家。
泉美が格闘技が好きなのは子供の頃からで小さい頃良く技を掛ける練習台にされた。

口答えは許されず結局大人しくしてても口答えしても結果は同じで
肩が外れたりちょっとした打撲や擦り傷は当たり前で流石に肋骨に
ヒビが入った時は親のストップが入った。

それでも小突かれるのは変わらずで毎日うんざりしながら耐える日々だった。

中学の後半に父親が単身赴任で母親がついて行く事になりオレの面倒はこの2人がみる…
なんて事になって余計にオレへの干渉は強くなった。

だから余計にオレは構われるのが嫌になって…
構われても反応しなくなって…いつもホッと…落ち着ける場所を探す様になった…

本当は絢姉さんを邪険にするのも泉美を力でねじ伏せるのも今のオレには出来るけど…
その後の事を考えるとまだしばらくは一緒に生活するんだから気を使うのも面倒だし…
何より生まれてからの事だからこんな生活に慣れてるのも否めなくて…

ホント面倒くさい事は勘弁で…オレの事は放っておいて欲しい…

そんな毎日を過ごしてた…あの雨の日…
車の中にいたのに奈々実さんはオレの目を惹いた…

ぼーっとして…誰が見ても落ち込んでるのは目に見えてわかって…
とんでもなく無防備で…

オレの中の何かが引っ掛かった。

そう…それだけ…





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