ひだりの彼氏


12




「おっはよ〜う!三宅!」
「おはよう…」

次の日の朝…教室に向かう廊下で後から声を掛けられ肩を叩かれた。
叩いたのは同じクラスの女子。

なんで挨拶するだけでオレに触るんだろう?必要無いと思うけど…いつも思う。

「昨日忙しかったの?」
「なんで?」

そんな会話の間に教室に入って自分の席に座る。

「携帯に何度も掛けたのに出ないから。」
「昨日は出掛けてたから…何か用だった?」

携帯の番号もオレは教えてないのに何で知ってるんだろう。

「んー別に…暇だったからさ〜暇つぶし?」
「暇つぶしにオレを巻き込まないでよ。」
「なによ〜どうせ暇してぼ〜っとしてたんでしょ?」
「ぼーっとがいいの。」
「まったく!ジジムサイわねぇ〜年寄り?」
「若いよ。同い年でしょ。」
「そう言う意味じゃ無いって!三宅には若さが無いのよ〜」
「重い…」

首に腕を廻されて体重を掛けて絞め上げられる。
もうオレに構わないで欲しいのに…

「ちょっとやめて欲しいんだけど。」
「え?なに?欲情しちゃう?」
「しない。オレに触んないで。」
「あ〜水谷ズル〜〜イ ♪ 」
「あ!おはよう〜〜 ♪ 」
「…………」
「朝から仲の良い事で〜お2人さん ♪ 」
「やあだ〜そんなんじゃないってば!」
「またまた〜ねぇ?ツバサ君だって悪い気はしないでしょ?フフ ♪ 」
「してる。早く離れて。」
「もー全然嫌がってないよね〜その言い方 ♪ 」
「嫌がってるよ。」
「ツバサ〜また女に囲まれてんのかよ〜良いよな…毎日天国だろ?」
「じゃあ須々木代わって。」
「はあ?何勿体無い事言ってんだよ〜この野郎は!!」
「…………」
そう言って頭をクシャクシャとやられる…まったく…
「禿げるから。」
「禿げるかよ!」

毎朝毎朝…ホント鬱陶しい…どうしてオレのこの気持ち…伝わんないのかな?

「ホントやめてって。」




「喜美恵〜!」
「ん?」
「喜美恵とツバサ君って付き合ってんの?」
「え?なんで?」
「だって仲良いじゃん。」
「仲良いだけだよ。1年の時から何でだか同じクラスでさ。」
「じゃあ付き合ってないの?」

休み時間の廊下で同じクラスの女の子に声を掛けられてそんな事を言われた。

「だからそんなじゃ無いって。やめてよ〜あんな活気のナイ男。」
「そう?でもツバサ君人気あるの知ってるでしょ?結構な女子が狙ってんだよ。」
「そうなの?あんなお惚けてるヤツが?」
「そこが良いんじゃな〜い ♪ 女心…ううん…母性本能をくすぐるんだよ〜」
「そ…そう?」
「そんな余裕かましてると他の女に取られるよ〜」
「だから別にそんなんじゃ無いって…」
「ホントかな〜〜」

「…………」


そりゃ他の女の子達よりはアイツの近くにはいるかもしれないけど…
ホント…そんなんじゃないし…

あんな頼りなさげな男…彼氏になんてしたらホント頼りないし…

でも…まあ…アイツから言われたら…考えてあげてもいいかな…
なんて思ってたりもしなくもないけどさぁ……なんて…フフ…

あたしがそんな風に思ってるなんて…アイツ知らないだろうな…



「………はぁ…」

1限目が始まってやっと諸々も事から解放される…
話すくらいならまだ耐えられるけど…構われるのは本当に勘弁…

放っといてくれないかな…奈々実さんみたいにさ…

「…………」

ジャンケンに勝って獲得した窓際の一番後ろの席でポカポカ陽気がたまらない…

昨日はいつもオレの右側に奈々実さんがいたんだ。

今日の帰り会えるかな。

オレ運がいいから会えるかな。




「もーーーーっっ!!何でまた乗って来るのよーーーっっ!!!」

「ホント学習能力無いよね奈々実さん。ほら前走ったよ。」

運の良いオレは奈々実さんを見つけて車に乗り込む。
相変わらず無防備。

「………もう…駅までよ!」
「今日は奈々実さんの部屋まで。」
「はあ?どうしてよ!」
「疲れた。休ませて。」
「は?」
「今日はチョコあげるから。」
「い…いらないわよ!」
「そう?後で欲しいって言わないでよ。」
「言いませんから!」

彼がカバンから取り出したチョコをパクン!と口に入れた。

「甘。」
「………」

一瞬で車の中にチョコの甘い香りが漂う…確かにすきっ腹に堪える…かも…

「ん?」
「何?」
「欲しそうな顔してる。」
「してないってば!」
「半分あげようか?」
「い…いらないから!それに…運転中だし!」

半分こなんて…つい昨日の事が脳裏に蘇る…

「赤だよ。」
「え?」

慌ててブレーキを踏んで止まった一瞬の隙に…目の前が暗く…

「ふうーーーーーっっ!!んんっっ!!」


強引に顔を向かされて口の中に甘い味が…
飴の時なんか比べ物にならないくらいに広がった…


「ん…うっ…」

ブレーキから…足が…離れちゃう…

「半分こ。」

そう言ってまた何事も無かった様に唇をペロリと舐めながら私から離れた。

今回は私も自分の唇を舐める…
だって…溶けたチョコが唇に付いちゃってるんだもの…

うう…まったくもう……でも…甘い…

「も…もう…何するのよっ!!事故ったらどうすんのよ!!」

そうよ!今まで無事故のゴールド免許なんだから!!

「口移しは怒らないんだ。」
「それよりも事故の方が深刻でしょ!!もう!降りて!」
「奈々実さん。」
「な…何よ…」

「奈々実さんの部屋で休ませて。」

「 !!! 」

何気にいつもの眠そうな顔に…瞳潤ませて…
その顔の角度は何なのよーーー!!またコイツは…母性本能に語りかけてるなーーー!!

「きょ…今日は家に皆いるんだから無理!」

ってそう言う問題?甘い!甘いわよーー!私!!

「またベランダから入るから平気。」
「だからそれは危ないからダメ!」
「そう?オレ身軽だし。」
「そう言う問題じゃ…」

信号が変わって車を走らせる。

「ホント…疲れたの。奈々実さん…」
「……学校で何かあったの?」
「また構われて疲れた。」
「ちゃんとイヤだって言いなさいよ。」
「言ってるよ。」
「ホントに?どう言う風に?」
「 「 ホントやめてって。 」 って言った。」
「…………」
「なに?」
「もっと強めな言い方しなさいよ!そんなんじゃ嫌がってる風には見えないわよ!」
「そう?」
「と…とにかく今日はダメだから…帰りなさいよ。」
「行き倒れる。」
「はあ?何バカな事言ってるのよ!じゃあ…」
「じゃあ?」
「特別に家まで送ってってあげるから…今日は帰りなさいよ…」
「わあ…アッシー君。」
「何そんな古臭い言葉知ってんの?」
「昔なんとなく聞いた。」

確か泉美が昔絢姉さんの男の事をそう言ってた。

「別に私は送らなくても構わないのよ!電車で帰りなさいよ!」
「そこ左。」
「は?」
「ほらそこ曲がり損ねると遠周りになるよ。」
「え?ちょっ…ちょっと待ってよ…急にそんな…」
「トロイ。」
「うるさい!いきなり言うから…もっと前もって言って!」
「仕方ないな。500メートル先右。」
「はあ?そんな先の事わからないわよ!」
「わがままだな。」
「あなたがおかしいのよっ!!」
「ナビ無いの?」
「あるわけないでしょっ!」
「やれやれ。」
「 !!! 」

ムカつくーーーーーっっ!

送ってってやるなんて言わなきゃ良かったーーー!!




* * * * 



【 オマケの話… 】

「ツバサくんチョコ食べる?」
「………」

放課後…帰ろうと昇降口に向かってると後から声を掛けられた。

振り向くとクラスの女子が2人ニコニコしながらチョコの入った袋をオレに向かって差し出してる。

「これ100円だけど美味しいんだよ〜ヒット商品なんだから!」
「いいの?」
「え?あ…うん!どうぞどうぞ!!」

そう返事をしただけでなんでそんなに嬉しそうな顔をするんだか?

普段オレは勧められてもお菓子はもらったりしない…
だって何となく何かの気持ちが篭ってそうで…押し付けられて仕方なくもらう時はあるけど…

でも今日は使う用途があったからちょっとラッキーなんて思いながら手を出した。
奈々実さんに会った時のからかうためのネタ仕込み。

差し出されたチョコも袋の中から1つだけ摘まんで取り出した。

「え?もっと一杯あげるよ。取っていいよ。」
「いい…1つで十分。」

1つを半分こするのに意味があるんだ。

「そ…そう?」
「うん。じゃあね。」
「あ…バイバイ…」
「ツバサ君また明日ね。」

そんな2人の挨拶ももうオレの耳には届いてなくて…

このチョコを半分こした時の奈々実さんがどんな風に驚くか想像しながら学校を後しにた。

* * * * 





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