ひだりの彼氏


13




散々な道案内でやっと目的地の彼の家に着いた。

「本当にゴールド免許?」
「本当にゴールド免許よ!あなたのナビが悪いからでしょ!」
「人のせいにしない。」
「どうみてもあなたのせい!」

あっちこっち走らされてそこは一通だとか…もう初めての場所でこっちはパニックよ!
やっと辿り着いたのは15階くらいの結構大型のマンションで…

「コーヒーくらい淹れてあげようか。」
「帰るから結構よ。」
「帰れるの?」
「ぐっ!!」

確かに道がわからない…かも…

「地図描いてあげる。」
「………」
「半分こはもう無いよ。」
「だ…誰もそんな心配してませんから!」
「そう。」
「い…行くわよ!お邪魔させていただきますからっ!!」

何だか癪に障ってそう言い切ってた。

「お邪魔します…」
「どうぞ。誰もいないよ。」
「そう…」

廊下を歩いてリビングに通された…
白い布製の軟らかなソファに座ってちょっと落ち着く…

「なに?」

「なんで私ここに座ってるのかな…って…」

「運転が下手だから。」

「違うわよ!」
「違わないよ。着替えてくるから待ってて。」
「…うん」

彼が部屋から出て行った後つながってるキッチンからコーヒーのいい匂いが漂って来た…
そのままソファの背もたれに寄り掛かって目をつぶる。

「はぁ〜〜」

疲れた〜ああ…本当私一体何してんだろう…
昨日から彼に振り回されっぱなしだわ…しっかりしなきゃ…

年上でしょ私!ここは一発ガツン!と…

「先に寝るなんて奈々実さんズルイ。」

「ハッ!ね…寝てないわよ!きゃっ!」

何も気にせず目を明けたら上から私を見下ろしてる彼と間近で目が合った!
ソファの背もたれに寄り掛かって上を向いてたからお互い逆向きだったけど…

「ちょっと!覗き込まないでよ!」
「え?なんで?」
「…………」

焦るからなんて言えないわよ!

「はい。」
「………ありがとう…」

コーヒーを私に渡しながら私の左側に座る。

「オレはこっち側なんでしょ。」
「別にそんな事は…」
「じゃあそっちに。」
「いいから!大人しくそこに座ってなさいって!」
「はいはい。」
「………」

ちゃんとミルクと砂糖が私の好みの量で入ってる…

「生意気!」
「え?どこが?」
「全部!」
「意味がわかんない。はい地図。」
「あ…もう描いてくれた……は?」

渡された地図を見ると数回の左折右折で大きな道に出るじゃない?

「本当にこのルートで帰れるの?」
「帰れるよ。」
「だって曲がる回数来た時よりが随分少ないじゃない。」
「来る時はね。帰りは簡単。」
「本当?」

何だか怪しいのよね…

「はあ〜〜」

大袈裟な溜息が聞こえたから…

「そんなに疲れるもん?」
「最近特に疲れる。きっと奈々実さんのせい。」
「は?何でよ!意味がわからないわ!」
「知っちゃったから。」
「な…何を?」
「え?」
「だから何を知っちゃったのよ。」

「奈々実さんの生のプロポーションとどんな下着はいてるのかと唇の感触?」

バチン!!

「あた!」
「黙りなさいよっ!セクハラ高校生!!」

思い切り肩を平手打ちしてやった。

「痛い。」

わざとらしく叩かれた肩を擦ってる。

「痛くて当たり前でしょ!!叩いたんだから!」
「冗談だよ。知っちゃったのは奈々実さんの横が落ち着けるって事。」
「前もそんな事言ってたわよね…どう言う理由なんだかわからないわ。」
「オレもわからない。」
「じゃあ私なんてもっとわからないわよ。」

だって付き合う気も無いって事は私の事はその…
恋愛対象で見てないって事でしょ……

「奈々実さんはオレに関心ないでしょ。」
「え?」
「だからかもね。ホント貴重な存在だよ。」
「それって褒められてるの?」
「さあ。」
「………」

「さあ」ってなによ!「さあ」って!!

「もうどうでもいいわよ!これ飲んだら帰るから。」
「じゃあ後5分オレに時間頂戴。」
「5分?何で?」
「寝る。」
「は?」
「奈々実さんの横だと落ち着くんだって言っただろ。だから疲れた身体と気分を回復しないとさ。
協力して。」
「たった5分で足りるの?」
「もっと協力してくれるの?しないでしょ。」
「まあ……」
「オレ熟睡型だから。」
「は?」
「5分でも回復出来るって事。出来れば30分は寝たいけどね。」
「イヤミ?」
「え?そう聞こえた?じゃあきっと罪悪感があるんだ。」
「無いわよ!」
「まあいいや。」
「………」

そう言うと彼はソファにもたれ掛かって目を閉じた。

「やっぱり私帰った方が良くない?」
「オレの話聞いてた?奈々実さんがそこに居て意味が…あるんだっ…て……」
「え?」
「……スゥ…」
「なっ!!」

ウソ!?もう寝た?

「寝にくくないのかしら?」

軽くソファの背もたれに寄り掛かってちょっと頭を傾けて…
まるで電車の座席で眠ってるみたい…

「………」

これって…私帰っても良いわよ…ね?ダメ?

「!!」

彼がカクリと傾いた。
ホント熟睡なのね…でもこの頭の傾き加減が…辛くないのかしら……




「………ン…」
「あ…」
「ンンーーーふぁ〜〜ん?あれ?」

寝起きで向きを変えて頭を擦りつけたら感触が柔らかくてあったかくてこれって膝の上?

「目が覚めた。」
「え?奈々実さん?なんでこの位置?」

下から奈々実さんを見上げてる。

「とんでも無く寝にくい恰好で寝てたしあなたの方から私の方に倒れて来たんですからね!
仕方なく膝を貸してあげたのよ!」

「ふーんおかしいなオレ枕変わると寝れないのに。」

そう言ってまた身体を動かして顔を私の膝にくっ付ける。
本当に偶然だったんだ…ワザとなのかと思っちゃった…

「私の膝は枕じゃないしあなたがそんな神経質なんてウソでしょ!」
「なんで?」
「そんな風に見えないからよ!あなたの神経は針金並みでしょ!」
「そんな失礼だな。」
「いいから早くどいて。大分時間経っちゃったわよ。」
「え?あれ?30分経ってる。なんで?」

顔だけちょこっと上げてリビングの時計を確認してそんな事を言う。

「なんで?起こさないでいてあげたからでしょ!お優しい奈々実さんに感謝しなさいよ。」
「………」
「何よ!」
「ううん…30分間何してたの。」
「え?別に何も…コーヒー飲んでぼーっとしてただけ。」
「そう。」
「だから何よ!」

「寝てる間に唇奪われたかと。」

「あなたじゃあるまいし!奪われたのは私でしょ!」

「奪ってなんかないよ。あれは口移し。」
「だから…」
「ん?」

だからしっかり唇が触れてるって言うの…

「もういいわよ!口移しでも!とにかくもう!絶対!口移し禁止!」
「なんで?」
「当たり前でしょ!
私はあなたから口移しでお菓子を欲しいなんてコレっぽっちも思ってないのよ!!」
「そう?だって奈々実さんいつも欲しそうな顔してるから。」
「してないし!」
「そう?」
「って言うか早く起きて!いつまで人の膝の上で寝てるのよ!」
「ああ…忘れてた。」

起き上がる時に彼の髪の毛からフンワリといい匂いが漂った。
男のクセに…高校生のクセに!!

「お礼に夕飯ご馳走しようか。」
「結構よ!」
「そう。」
「帰る。」
「じゃあ車まで送る。」
「いいわよ!」

「送ってもらってそれは失礼。」

「…………」


そう言って心なしか彼が笑った様に見えたのは…気のせい?

ううん…きっと気のせいよ…





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