ひだりの彼氏


14




「………」

もう辺りは薄暗くなってて…エレベーターを待ちながらふと思った。

「そう言えばあなたってお姉さんいるんでしょ?」
「そうだね。」
「歳近いの?」
「ちょっと上。」
「私と同じくらい?」
「奈々実さんと変わらないかな。」
「え?そうなんだ…1人?」
「残念な事に2人。」
「は?」
「なんで?」
「ううん…別に…」

「本当は姉さん達も疲れるんだよね。」

「え!?」

「来たよ。」
「え?あ…」

そんなタイミングでエレベーターが来たから2人で乗り込んで…
さっきの先は聞けずじまいで終わっちゃって…

まあ私が気にする事でも無いんだけど…なんとなく聞きたかった…


車の運転席に乗り込んでエンジンを掛けると運転席の直ぐ横に彼が立ってた。
だから何も考えずに窓を開けて見上げると…

白のパーカーにジーンズに…サラサラの髪に…眠たそうな顔に左目の泣き黒子…
何気に整った顔で…やっぱりまだ 「大人の男」 とは言えない子供らしさが残る顔が私を見下ろしてる。

「帰れそう?」
「多分大丈夫だと…」
「頼りないな。」
「どうにかなるわよ。まあもうここには2度と来る事無いと思うし。」
「そう。」

「…………」

何だか今のセリフに何も言い返されなかったのがかちょっと胸の中にチクリと来た。
なんで??

「じゃあね。コーヒーご馳走様。」
「別に大した事じゃない。」
「そう?でも美味しかったわよ。」
「わあ奈々実さんに褒められた。」
「その棒読みセリフで言われると褒め甲斐が無いわね。」
「え?こんなに喜んでるのに。」
「だから見えないっての!もう少し感情を顔に出す練習しなさいよ。後々社会に出て困るわよ!」
「先生みたい。」
「一応社会人ですから!じゃあね!本当にもういいから部屋に戻りなさいよ。」
「奈々実さんが行くの見送ったら戻るよ。」
「あらそう。じゃあサッサと行こうっと…」
「奈々実さん。」
「ん?」

窓ガラスが全部下に下ろされたドアの窓枠に彼の両手が掴まってて…
全開に開いてたドアの窓から彼が車の中に上半身を乗り出した…

「 ちゅっ ♪ 」

触れるだけの感触で…私の唇に…彼の唇が触れた…
今は何も半分こなんてするお菓子も無いのに……これって…

「口移しはダメでもお礼なら大丈夫でしょ。」

「………え?」

そんな彼のセリフを聞くだけでも意識を集中する作業をしなくちゃいけなくて…
結構大変だった…

「送ってくれたお礼。言っとくけどキスじゃないから。」
「は?」

これがキスじゃないって??ウソつくな!どう見たってキスでしょ!キス!!!

「こんな唇に触れるだけなんてオレにしてみたらキスなんて言わないから ♪ 
今のはお礼の気持ちを大人風にしただけ。大人っぽかった?」

「なっ…!!」

そんな説明をするとサッサと窓から身体を引いて車の横に立つ。
じゃあ一体どんなキスがキスって言えるキスなのよっ!!

「そんな説明言う事自体子供っぽいわよ!やる事が子供よ!!こ・ど・も!!」
「そう?なんだ残念。奈々実さんには大人に見て欲しかったのにな。」
「全然残念そうじゃない!大人からかうのもいい加減にしなさいよ!
私じゃ無かったらセクハラのわいせつ罪で捕まってるんだから!」
「奈々実さんはさ…」
「な…なによ…」

「オレが何してもそこからオレに言い寄って来ないよね…」

「え?」
「学校の女子に同じ事したら即彼女気取りだよ。」
「当たり前でしょ!男の子にあんなことされたら誤解するに決まってるじゃない!
気にしてる男の子からだったら余計でしょ!」
「奈々実さんは誤解もしないしオレの事も気にしてないから大丈夫なんだ。」
「…お…大人だからよ!子供のこんな悪戯に目くじら立てるのも大人気ないじゃない。」
「じゃあオレ以外の子供にされても怒らないってこと?」
「え?」
「だってそうでしょ?子供のする事に目くじら立てないんでしょ?」
「……それは…まあチョッとは相手見る…かも…」

「オレは下心ないから気にも留めない。」

「え?」

「気を付けて帰ってね。他の子に悪戯されない様に…バイバイ。」

「…………」

そう言うと彼は2・3歩後ろに下がってもういつもの無表情で何を考えてるのかわからなくなった…
何だか私の方が変な気分と言うか…何とも言えない気持ちにさせられた…

何よ…一体なんなのよ……

私は窓を閉めて車を走らせた…
チラリとバックミラーで見ると彼はまだ立ってて…でも私の車の方は見てなかった。

どう見たって高校生は大人じゃない…私はそう思う…
子供かと言われるとちょっと悩むけど…
大人か子供かと2つしかなかったらやっぱり高校生はまだ子供になるんじゃないかと思う…
だからそれをそう言ってなんで彼が機嫌を損ねるのか…
自分でも自分は子供って言ってるくせに……

多分機嫌悪かったのよ…ね?わかりにくいけど…
機嫌悪くなる権利は私の方にあると思うんだけど…

今日だけで2度も唇を奪われて…それでもキスとは言わないといわれた…

ホント人をからかうのもいい加減にしてって言うのよ!


そんな事を思いながらも描いてもらった地図で簡単に家に帰る事ができた。


「どうしたの?」

家に戻ってリビングに入ると何となく家族が浮かれてるっぽい。
いつもと感じが違うし…それにリビングのテーブルの上にはケーキもあるし…
何気におかずも豪華で…何かのお祝いでもするの?
でも今日は誰の誕生日でもないはず…

「ああ奈々実お帰り。」
「なに?何かあった?今日誰かの誕生日だったけ?」

ニコニコ顔の母親に声を掛けるとそのニコニコの顔のまま振り向いた。

「お祝いよ。お祝い ♪ 」
「だから何のお祝いよ?」
「おめでたですって。」
「は?何が?」

「だから安奈に2人目の子供が出来たのよ ♪ 」

「え?」

「嬉しい?お姉ちゃ〜ん ♪ またもう1人甥っ子か姪っ子が増えるのよ。」

「お…おめでとう…」

まあ結婚してるんだし上の子が生まれて1年以上経つし
そろそろ2人目が出来ても良いんじゃないと思うけど…

「な…何よ…お祝いなら生まれてから…」

安奈が意味ありげに笑ってるから…

「生まれるにはまだ時間はあるんだけど〜」
「そうよね…」

約10ヶ月はあるでしょ?

「でね…お姉ちゃん。」
「な…だからなによ…」

「なるべく早目にお姉ちゃんの部屋明け渡してね ♪ 」

「はあ???」


いきなりそんな事言われて……

私の思考回路はショート寸前だった。





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