ひだりの彼氏


15




奈々実さんがオレの家に来てから2週間が過ぎた。

その間に1学期の期末テストも終わり後は高校3年最後の夏休みを待つだけ。
要領の良いオレはテストで赤点なんて取った事は無い。

いつもヤマが当たってそこそこの点数が取れる。
だからいつも学年10番以内には入ってるから勉強に関して心配した事は無い。

そんな日程で短縮授業やら学校行事で帰宅時間がズレて奈々実さんとも会えない日が続いてた。
まあ別に会う約束もしてないから会えなくても当たり前なんだけど…

今までも最初に車に乗せてもらった後帰宅途中の奈々実さんを何度か見かけた事はあった…
でもその時はそのまますれ違うだけだったけど…

奈々実さんの家で奈々実さんに会ってから何だか妙に絡みたくなって仕方ない…
からかって…慌てる顔も怒る顔も…でも変に優しくて無防備な所が最近気になる…

特にオレに言い寄ってこないのが一番の…


「三宅〜!」

「…………」

廊下で呼び止められるとろくな事が無いんだよな。
振り向いたら水谷だった…まあ声でわかったけど…

「なに。」
「あんた今週の金曜日暇?」
「暇じゃない。」
「うそ言いなさいよ!どうせ何も用事なんて無いでしょ?暇でしょ?」
「だから暇じゃ…」
「暇じゃないけど用事も無いんでしょ?彼女だっていないくせに。」
「彼女がいないと暇で用事がないのはいけないの?」
「は?何言ってんの?とにかく金曜日空けといてね!
皆で1学期のお疲れ会と試験終了の打ち上げでカラオケ大会やるからさ。」
「オレは行かないよ。」
「何よ〜付き合い悪いわよ!」
「もともと付き合う気ないし。じゃあね。」
「ちょっと三宅!」
「…………」

うんざりして振り向くとプリプリと怒った顔した水谷が腰に手を当てて仁王立ちしてた。

「なに?」
「こんなに言ってるのに来ないつもり?」

そう言いながらオレの腕を掴む。
オレ触っていいなんて言ってないのに…

「離して。」
「うんって言うまで離さないわよ!皆だって三宅が参加するの楽しみにしてるんだから。」
「そんなの知らない。とにかくオレは行かないから離して。」
「………何よ!ケチ!!」
「離して…オレ帰るの。」
「じゃ…じゃあさ…」
「なに?」

「あたしと…2人で行く?大人数が嫌ならさ…」

「…………」

ああ…疲れる…

「そしたらカラオケじゃなくてもいいじゃない。」
「行かない。」
「なっ!!」
「帰る。」
「もーーー!!勇気出て誘った女の子を断るなんてあんた何様よーーーっっ!!もう誘ってやらないわよ!」
「良かった。」
「むーーー!!何ですって!!!」

後ろで何か言ってたみたいだけどオレは耳を傾けていない…
どうしようか…また無性に奈々実さんに会いたくなる…

自然に足が向いて奈々実さんが通る道のファストフード店で奈々実さんが通るのを待った…
ああ…待ってたのか…ただ帰る奈々実さんを見れれば良かったのか…

ただぼんやりと車の走る道路を眺めてた…

………気付くといつも奈々実さんが通る時間はとっくに過ぎてた。

「…………」

オレも暇人なのかな?
暇人だけどクラスメイトに付き合う気なんてサラサラ無い。

また自然と足は奈々実さんの家に向かう。
奈々実さんの部屋は角部屋でちょっと表からは隠れてる。

前やったみたいに荷物やら雨樋やら物置を使って2階に上がった。
相変わらす荷物の多い事…簡単に2階に上がれた。
この家は家族揃って学習能力が無いのかな。

「あれ?」

レースのカーテン越しに薄っすらと部屋の中が見えたけど…なんだ?目の錯覚?

「うーん…これは…」

どう見ても奈々実さんの部屋は家具も何もない…

俗に言う 「 もぬけの殻 」 だった。


そのままコッソリと下におりて敷地内から出るととりあえず駅に向かって歩き出す。
歩きながら携帯を取り出して初めて掛ける登録番号を押して相手が出るのを待つ。
何度目かのコールで相手が出た。

『何であなたの携帯番号が私の携帯に登録されてるのよっっ!!』

「いきなり電話口で大きな声出さない。」
『うるさい!』

「今どこ。」

『は?』

「部屋がもぬけの殻だった。」
『また雨樋昇ったのね!』
「今どこ。」
『………』
「なら安奈先輩に聞く。」
『………』

「付き合ってるって言ったら素直に教えてもらえるよね。」

『ちょっと!変な事家族に吹き込まないでよ!』

「じゃあ今どこ。」
『う〜』
「奈々実さん。」
『………』

「会いたいな。」

『だからそんな棒読みセリフに騙されないわよ!』

「おかしいな。こんなに感情込めて言ったのに。」
『ウソ言わない!』

「オレに会いたくない。」

『全然思いません!今まで会わなくたって全く平気だったし
あなたの事なんて思い出しもしなかったわよ!』

「そう。」
『……いつの間に登録したの?』
「映画見た時。」
『あの時ね。』
「まさか今まで気付かれないなんて思わなかった。ホント奈々実さん無防備。」
『うるさい!』
「奈々実さん。」
『なに?』
「今どこ。」
『………駅で待ってなさいよ。』
「いつもの?」
『そう。』
「10分で着く。」
『わかった。』
「奈々実さん。」
『ん?』
「眠い。」
『じゃあ自分の家に帰りなさいよ!』
「もう忘れたの?学習能力ないな。」
『10分後よ。』
「10分ね。」

そう確認し合って携帯を閉じた。


「どうぞ。」
「…………」

あの後いつも彼が使ってる駅前で待ち合わせして車で迎えに行った。
そこで合流して引っ越した私の新しいアパートに連れて行った。

「いつ引っ越したの。」
「え?ああ…3日前。」
「随分急だね。」
「あなたの家から帰った後安奈のオメデタが発覚して…部屋を明け渡さなきゃいけなかったから…」

「追い出されたの。」

「違うわよ!最初っからの約束だったの!次見付けるまでの間って…
子供部屋として使うって言ってたから…そろそろ私も出ようかと思ってたから丁度いいと思って
思い切って引っ越したの。1人暮らしだから2DKでも十分だしトイレもお風呂も付いてるし…
築年数少ない割りに家賃も安かったから…」

「ふむ。」
「なに?」
「これで2階に上がる手間が省けた。悪かったね気を使ってもらっちゃって。」
「別にあなたの為に1階にしたわけじゃありませんから!!たまたま1階が空いてただけだから!
って言うかあなたまた窓から入るつもりだったの?」
「じゃあ玄関から入って良いんだ。」
「そ…それは…」
「それにさ。」
「?」

「まさか部屋まで連れて来てくれるとは思わなかった。」

「え?」

「外で会うのかと思った。」

「あ”っっ!!!」

「もしかして今頃気付いた?」

「…………」


言われて気付いた!!!

そうよーーー!!別に部屋まで連れて来る必要無かったじゃない!!!





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