ひだりの彼氏


16




「相変わらず無防備だね奈々実さんは。」
「こ…こう言うの無防備って言わないでしょ!」
「そう?じゃあ抜けてる。」
「ぐっ!!ほ…ホント失礼ね!」

不覚にも会いたいという彼を自分の引っ越した新しいアパートに連れて来てしまった私…
なんてお間抜け!

「ここの方が駅に近い。」
「少しね。」
「お構いなく。」
「たいしたもの出せないわよ。荷物片してないから。」
「物は揃ってるの?」
「前一人暮らししてたからその時のをそのまま持って来たから揃ってるわよ。」
「そう言えば何で一人暮らしやめたの?安奈先輩は出戻ったって言ってた。」
「!!」
「あれ…聞いちゃいけなかった。」
「わかってるなら聞かないでよ!」
「わかった。」
「!!」
「なに?」
「随分アッサリと引き下がるわね…」
「だって今の奈々実さんには関係無いでしょ。」
「………」
「大体察するけどね。」
「どう察するのよ!」
「え?」
「………」
「………まあそんな感じで。」
「だからどんな感じよ!!」
「はぁ…コーヒーまだかな…それに眠い。」
「お構いなくって言ったでしょ!水で我慢しなさいよ!」
「まったく…じゃあオレがやってあげる。奈々実さんの引越し祝いにね。」
「え?あ…いいわよ…」
「オレ奈々実さんと違って器用だから。どの段ボール。」
「え?ああ…この辺?」
「どいて。」

そう言うと彼は段ボールから食器や調理道具を出しては所定の場所に入れていく。
確かに手際いい。

「入れた場所覚えておいて。」
「え?」
「実際使うの奈々実さんだから。」
「あ…そうか…」
「一人暮らし大丈夫?何だか心配。奈々実さん無防備だし。学習能力無いし。」
「だ…大丈夫よ!一回は一人暮らししてたんだし!」

思わずムキになってる自分…なんで??


黙々と片づけをしてる彼…
そんな彼をちょっと離れた場所で体育座りで見てる私…

しかし…一体何が彼をここまで動かしてるの???


「……冷たいもの飲む?」
「そうだね。」
「あなたでも汗かくんだ…」

俯いてる顔にうっすらと汗が出てるから…一応クーラーは点いてるけど…

「毛穴はあるから。」
「その顔でそのセリフやめなさいよ。幻滅されるわよ。」
「誰に?」
「え?んーーークラスの女の子に?モテてるんでしょう?」
「奈々実さんは?」
「え?私?私は別に…それに今は私の荷物片付けて貰ってる訳だし…」
「だよね。」
「何飲みたい?コンビニで買ってくるから。」
「炭酸のグレープ。」
「メロンソーダじゃないの?」
「お店で売ってるのは好きじゃない。」
「そう。」

そう言ってバックを持って靴を履こうとしてたら彼が片付けの手を休めて近付いてくる。

「やっぱり一緒に行く。」
「え?大丈夫よ。ちょっと歩くけどそんな遠くないし。外暑いから待ってれば?」

「奈々実さんが他の子供にイタズラされたら困るから。」

「え?」

「なんてね。他にもお菓子買ってもらう。」
「は?」
「奢ってもらおう。片付けたご褒美。」
「まあ…いいけど…」

結局2人で歩いてコンビニに買いに行った。

「………」
「なに?」
「ううん…ただ…」
「ただ…」
「何か変な感じだから…」
「どう?」
「何であなたと2人でコンビニに向かって歩いてるんだか…」
「さあね。」
「本当さあねよね…」
「来週から夏休み。」
「いつも話しが唐突なのよね。あなたは…そっか…巷の学生は夏休みかぁ…
ああ…あなたも大学受験じゃない?もう夏休みから頑張らないとまずいんじゃない。」
「そうだね。」
「そうだねって…他人事みたいに…後で泣くわよ。」
「泣いたら奈々実さん慰めて。」
「嫌!」
「嫌かぁ…嫌か。」
「何?傷ついた?」
「いや。奈々実さんが貴重な存在なのを再認識。」
「いつも気になるんだけどその貴重な存在って何?」
「え?ああ…いつかわかるんじゃない。」
「え?いつか?いつかって?」
「そうだな…奈々実さん抜けてるからいつわかるだろうね。」
「教えなさいよ。」
「だからいつかね。」
「何よ勿体ぶっちゃって〜お菓子買わないわよ。」
「それは困るな。」

そんな話をしながらコンビニに着いてお互い欲しいものを買った。
帰り道も他愛もない話をして帰った。

「あっという間に段ボール3箱空になったわ…」

キッチンは完璧。
他の靴とか雑貨とかもちゃんとあるべき所に置かれてるし…

「奈々実さんがノンビリしすぎなんだよ。どうせ必要な物だけ引っ張り出して使ってたんでしょ。
食事はコンビニと外食?それともほか弁?」
「うう…」

図星で言い返せず…

「こ…今度の休みにやろうと思ってたのよ!」
「いつの休みだろうね。」
「だ…だから今度…」
「残りの段ボールは下着とか奈々実さんの私物みたいだからやらない。」
「うん…ありがとう。」

コンビニで買った飲み物を飲みながらベッドを背もたれに
2人で並んで座ってそんな話をしてた。

一体この関係って何なんだろう?
歳は8歳も違う…年上との遊びの関係を求めてる訳でも無いみたいだし…

「………」
「…………」

お互い何も会話の無い時間…でも気まずくないのよね…何でだか…
それって年下だから?弟みたいだから?彼が私に対して何の下心も感じさせないから?
わかんない…
下心無いなんてそんなのわからないじゃない…猫被ってるだけかもしれないし…

「あなた…彼女…いないの?」
「いない。欲しくないし。」
「ふーん…」
「奈々実さんは?」
「え?」
「いないよね。」
「な…何で言い切るのよ!」

「奈々実さんは二股掛けたり浮気なんて出来ないと思うから。
きっと彼氏がいたらオレともこんな風に付き合わない…付き合えないか。」

「………本当あなたって生意気!」

「そう?」
「じゃあ何であなた私とこんな風にしてるの?
彼女いなくたって同年代の子達と遊べば良いじゃない。
言い寄って来る女の子なんてあなたならたくさんいるでしょ?
私みたいな年上女なんて相手にしないで…」
「奈々実さんは?」
「え?」
「何でこんな高校生の年下男に付き合ってるの?」
「私が先に聞いてるんでしょ。」
「うーん…さあ?」
「は?」
「そうとしか言えない。」
「え?」

「奈々実さんといると落ち着けるしからかうと面白いし無防備で抜けてる所が気になる…けど…」

「けど?」

「それがどうしてだかわからない。」
「!!」

「オレ女子の事好きになった事ないし…もちろん男子なんて論外だし。
今まで人を好きになった事ないから。今の自分がわからない。」

「………」

「だから考えてない。」

「は?」
「考えてもわからないから。無駄な事しない。」
「え?」
「だから思った事してるだけ。」

自分の前をボーっと見つめてそんな事を言う…

「………ふーん…そう」

私も同じ…自分の前を見てそんな返事だけする…

「奈々実さんこれ頂戴。」
「え?」

そう言って彼がちょっと身体を伸ばしてローボードの上から何かを摘んで私の前に見せる。

「これ。」
「え?これ?」

彼が見せたのは小さな黒い羽に青い模様の入った蝶のピアス。

「つけないんでしょ。奈々実さん穴あけてないもんね。何で買ったの?」
「え?……お店で見つけて…気に入ったから買ったの。あけたらつけるつもりだったんだけど…」
「ビビッてあけられなかった?」
「……うるさい!ってでもあなただってあいてないでしょ?」
「あけてるよ。」
「え?うそ…」
「本当。」

そう言って身体を私の方に向けると自分の左耳を私に向けた。

「え?どれ?」

見れば飾りの付いたピアスはしてなかったけどいわゆる透ピンと言うものが付いてた。

「あけたんだけど気に入ったピアスなくてずっと無し。」
「え?1つも?」
「探せばあったかもしれないけど探す気も無かったし。でもこれならつけたい。」
「あのね…それ私のなんだけど。」
「奈々実さんが使うまでオレが使っててあげる。まあ一生使う事なさそうだけど。」
「そ…そんな事無いわよ!でも学校にはしていけないでしょ。」
「皆結構してるよ。ウチの学校規則緩いから。その代わり成績にはシビアだから
皆何気に勉強は真面目だけどね。」
「そう?」

そう言えば安奈も派手な恰好のわりにはヒーヒー言いながら勉強はしてたわね。
そのギャップが笑えたけど。

「いい?大事に使う。」
「まあ…いいけど…」
「よかった。じゃつけて。」
「は?」

「奈々実さんつけて。」

いきなり彼がそんな事を言いだした…





Back  Next

  拍手お返事はblogにて…