ひだりの彼氏


18




「オッス!ツバサ朝からアチィなぁ〜」
「んーそう?」

朝の教室で自分の席に座ってたら須々木が入って来るなりダラけてる。

「お前は何でいつもそう涼しそうにしてるんだよ〜」

ダラリと机にノビながらオレに文句を言う。

「オレだって暑いよ。」
「そうか?汗掻いてるか?」
「んーオレあんまり顔に汗掻かないみたい。」
「相変わらず変わってる奴。」
「そう?」
「後2日我慢すりゃ夏休みだもんな〜待ち遠しいぜ〜あ!
そういやお前カラオケ大会来ないんだって?」
「うん。」
「何で?」
「興味無い。」
「女子だって来るんだぞ。」
「ふーん。」
「何?お前彼女でもいんの?」
「いないよ。」
「じゃあいいじゃん。同級で彼女作ったって。」
「いらない。」
「何?お前こっち系?」

親指を立てられた。

「さあ。」
「は?」
「そんな付き合いの悪い奴に話し掛ける事ないわよ!」
「水谷!」
「………」
「女の子の誘いを断る様な最低男。」
「ツバサ君本当に来ないの?」
「行かない。」
「えーつまんないな〜皆楽しみにしてるのに!」
「行かない。」
「無駄な事はしない方がいいわよ。ん?何?あんたピアスなんてしてたっけ?」
「え?本当?」
「え?何?どんなの?」

そう言いながらオレの左の耳に水谷の手が伸びた。

「触るな。」

「え!?」
「!!」

一瞬周りがしんとなる。

「これ預かり物だから触っちゃダメ。」

そう言って身体を下げる。

「な…何よ!誰も壊したりしないわよ!」
「ダメ。」
「………フン!」
「あ!喜美恵…」

来た時と同じ様に水谷がぷりぷりしながら離れて行った。

「はあ…」

ホント疲れる。

「あ〜あ…怒らせやがった。」
「そう?」
「……本当お前相変わらずマイペースだな。何だよお前等付き合ってんじゃないんだ?」
「何で?」
「だって仲良いからさ。」
「どこが?」
「………もういい…お前が誰も相手にしないの分かったから。で?誰から預かったんだよ?女か?」
「内緒。」
「ったくケチだな。」
「そう?」

そんな返事に須々木が流石に諦めて大人しくなった。
後2日で夏休みか…

奈々実さんオレと遊んでくれるかな…



「城田さんお疲れ〜」
「お疲れ様。」

終業のチャイムが鳴ってそうそう残業の無い5時までの人が帰り始めてる。
この会社の事務は私服のままで仕事に就いてるから終わっても
着替えるという面倒くさい事が無いから楽だ。

ただ仕事にも差し支えない格好となるとそうそう洒落た服装は出来ないけど…
でももともとそんな洒落た格好もしてなかったし車通勤じゃ誰に見られるわけでも無いから
私の格好は至ってシンプルのカジュアル。

「城田さんは真っすぐ帰るの?」
「はい…」
「誰か待ってる人でもいるの?」
「いたら良いんですけどね…」
「合コンとか行かないの?あなたくらいの年齢ってそう言うの多いんじゃないの?」

倉庫で働くおばさんと一緒の更衣室でそんな事を良く聞かれる。

「興味無いですから。」

おばさんは興味津々みたいだけど…

「この会社で城田さんにお似合いの相手でもいればいいんだけどね〜」
「おじさんばっかじゃね?しかもメタボじゃ先も危ないし。」
「第一不倫になっちゃうもんね。これはいただけないからね〜」
「そうそう。それにこの会社の男性陣じゃね〜まだバイトのあんちゃんの方がカッコイイの揃ってるよ。」
「見たことあるんですか?」
「何度かね。手が足りない時何人か夜の人に昼間も出てもらってるからさ。」
「へえ…あ…じゃあお先に。」
「また明日ね!」

あんまり付き合ってるとこっちが触れて欲しくない所まで突っ込まれちゃうから早々に切り上げる。
まあおばさん達も駅までの送迎バスが出てるからそれに間に合う様に出なきゃいけないから
そんなに長話もしないんだけど…


「…………」

駐車場に停めてある車のエンジンを掛けて即エアコンのスイッチを入れる。

なかなか冷えないけど走ってればそのうち冷えてくるだろう…
ふと…何となく彼が来てる気がしてちょっとだけ車を急がせた。

だって…確か今日って……終業式…



「あ…」

アパートの横の駐車場に車を停めて玄関に廻ると私の部屋の前に誰かが座ってた。
ってすぐに誰だかわかったけど…

「……何やってんの?」

体育座りで膝を抱えてうつ伏せてる彼の頭の上から声を掛けた。

「……ん?」
「いつからそこにいるの?もう近所の人に変な目で見られちゃうじゃない!」
「あー奈々実さん……おかえり…ふぁ〜〜」

あくびをしながら私を見上げる…

「良くこんな所で寝れるわね。」
「ん〜〜そうだね…奈々実さんに会えると思ったから?」
「わかんないんですけど!その理由!」
「そう?」
「これってあなたの?」
「え?うんそう。」

私の部屋の壁沿いにT型ハンドルの自転車が立て掛けてあった。

「電車よりも自転車の方が早いし楽だから。」
「ふ〜ん…」
「なに?」
「いやぁ…あなたが自転車をこいでる姿が想像できなくて…」
「上手だよ。両手離しでスイス〜〜イって。」
「え?両手離し?」
「ウソだよ。危ないじゃんそんなの。」
「……ぐっ!」

とんでもなく呆れた顔された!

「お帰り奈々実さん。お仕事お疲れ様。」

立ち上がってお尻の汚れを叩きながらちょっと笑顔らしき顔でそう言われた。

「え?あ…た…ただいま…」
「ん?」

目の前に立ってる彼は…白の胸にワンポイントの模様の入ったTシャツにズボンの簡単な格好…
首にはきっと音楽を聴いて来たんだろうと思うイヤホンが掛かってた。

やっぱり…高校生よね…どう見ても…
そんな彼にちょっとドキドキする自分が何とも嫌で…それにどうしてだか恥ずかしい…

「で?何しに来たの?」
「遊びに。」
「残念でした。そんな時間ありません。」
「ウソだ。」
「どうしてよ!」

「だってオレが来てると思って真っ直ぐ帰って来てくれたんでしょ。」

「……………」

「でしょ?」
「自惚れるんじゃない!!」
「そう?」
「そうです。」
「夕飯何するの?」
「人の話聞いてる?あなたと遊ぶ時間なんて無いです。」
「じゃあ一緒に過ごす時間はあるでしょ。」
「!!」
「あるよね?」
「……………」
「夕飯の買出しまだなら一緒に行こう。オレ買い物上手だよ。」
「……今日は夕飯の当番じゃないの?」
「今日はオレじゃない…って言うか皆帰りが遅いからオレ1人だったんだ。」
「……ご両親は?」
「親父の単身赴任で母親はついてった。姉貴2人もいたからこっちは何も心配無いだろうってね。」
「そうなんだ…」
「ほら早く。コンビニの近くにスーパーもあったよね。」
「良く見てるわね。」
「観察力はいい方だから。」
「ふーん…」

促されるまま…彼と2人スーパーに買い物に行く事になっちゃった……なんで??





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