ひだりの彼氏


20




アクシデントとはいえ裸で彼に抱きついてしまった…

「はあ〜〜〜」

一体どんな顔で会えばいいのか…
そんな事を思いながらちょっと長めのシャワーを浴び終えて部屋に戻った。

キッチンに繋がる6畳の和室との引き戸を開けるとクーラーのひんやりとした
空気が身体に当たった…

「なっ!!!」

「?」

開けてびっくり!!彼が上半身裸で座ってた。

「ちょっ…!あなた一体何してるのよっ!!」
「え?だって奈々実さんに抱きつかれたから服びしょ濡れ。」
「あ…」

そう言って脱いで干してあるTシャツを指さす。
結構な範囲でTシャツが濡れてた…
そうか…あの時頭も身体もビショビショだったんだ…
そんなので抱きついちゃったんだ……って…

思い出したら一瞬で顔がボッと赤くなったのがわかった。

「どうしたの?」
「う…ううん……さっきは…ありがと…う…」

ぎこちないお礼を言って彼と少し離れた場所に座った。

「なんでそこ?」
「へ?」
「何度も言わせない。オレは奈々実さんの隣で落ち着くの。そこじゃ隣になれない。」

そう言って自分の右側の床をぺしぺしと叩く。

「………」
「奈々実さんが来ないならオレが動く。」
「わ…わかったわよ…座ればいいんでしょ!」

仕方なく彼の隣に移動する。

「最初から素直に座ればいいのに。」
「うるさい!色々事情があるのよ!」
「どんな事情?」
「……い…色々よ!しつこい!それより身体冷えない?」
「え?ああ大丈夫。」
「………」

チラリと見ただけだけど…結構しっかりとした身体つきしてるんだ…

「ん?」
「え?あ…」

しまった…目が合っちゃった…

「夏休み始まった。」
「そ…そうね…」

相変わらずの唐突な会話のフリなのよね…脈絡が無いったら…

「奈々実さんの所にホームステイしていい?」
「は?」

今なんと?

「だって40日間暇だもん。」
「ば…バカな事言ってんじゃないわよ!何でそんな事…」
「毎日夕飯作ってあげる。」
「けっ…結構ですっ!!!」

じょ…冗談じゃないわよ!

「ちぇっ…ケチだな奈々実さんは。」
「ケチとかの問題じゃないから。」
「だって毎日来るより泊まってた方が楽だし。」
「毎日来るつもりなの?」
「ダメ?」
「ダメ!何考えてるのよ!」

「断られる理由がわからない。」

何?その真面目な不思議顔は??

「は?本気でそう思ってるの?」
「何で?」
「何でって…」

「やっとホッと出来る時間を満喫できるのに何で邪魔するの。」

そりゃあなただけが満喫するんでしょうがっ!

「あ…あのね…色々問題もあるでしょう!家の人だって許すわけ無いし…」

いやいや…許すとかそう言う問題じゃ…

「時々昼間帰るから大丈夫。」
「だから…」
「じゃあオレの方が問題無ければ良いんでしょ。」
「だから…一応男と女でしょ!やっぱりマズイから!」

「………」 「………」

彼がキョトンとした顔してる…
うう…なんか気まずい…この沈黙…

「高校生たぶらかしたなんて言われたら困るし…」
「奈々実さんオレの事たぶらかすの?」
「たぶらかすわけないでしょ!あなたみたいな年下!」
「あ!それ偏見。」
「どんな?」
「オレだって役に立つ。のぞきの抑制にはなる。」
「……」

「奈々実さんを守ってあげる。」

「……え?」

「だから泊めて。」
「!!」
「?」
「い…今のは泊めて欲しいから言ったの?」
「ん?でも一理ある。」
「………」

何その涼しい顔は!今自分が何言ったのかわかってんの?この男は!

「嫌!面倒な事はご免だから!」
「だから奈々実さんには迷惑掛けないよ。」
「だから…」
「奈々実さん。」
「無理……」
「大丈夫。」
「何がどう大丈夫なのよ。」
「色々。大体今夜1人で大丈夫なの?」
「へ?」
「オレ帰ったら奈々実さん1人だよ。」
「………」
「怖くないなら構わないけど。」
「………」

改めて言われると確かにちょっと怖い…かも…
今でも覘いてた男がその辺をうろついてたら…なんて想像しちゃう…
でも…ここでそんな事許したら…

「………」

うっ……小首傾げて…訴える様な眼差しはやめて!

「ふ…布団無いし…」
「ベッドがある。」
「い…一緒になんて無理だし…」
「オレ寝相良いから平気。」
「だからそう言う問題じゃ…」
「だって床の上じゃ身体痛い。」
「だからダメだって…」

が…頑張れ私!ここが踏ん張り所よ!

「ダメ!」
「えー」
「そ…そんな声出してもダメ…」
「奈々実さん。」
「そんな顔しても…ダメだか…ら…」
「奈々実さん。」
「………」
「じゃあ今日だけ泊めて。」
「は?」
「って言うか泊まる。奈々実さんが心配だから。」
「ウソでしょ!」
「何で?」
「その顔よ!全然心配してる顔じゃないもの!」
「だからこの顔は生れつきだから。」
「じゃあ心配してる顔してみなさいよ。」
「?」
「納得出来たら考えてあげてもいいわよ。」
「………」


ああ…今思えばなんでそんな事言っちゃったのか……


「どうしたの?奈々実さん。」

彼が心なしかウキウキした声でそんな事を言うから…

「うるさい!黙って寝なさいよ!」

私は逆に超不機嫌の不貞腐れ!!

もう大失敗!!
まさか…あ…あんな顔されるなんて……

負けてしまった…!!不覚!!





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