ひだりの彼氏


22




「ん…もう……狭……い…」

なんでこんなに窮屈なのか…半分以上眠ってる頭でそんな事を思った。

「だったらもっとこっち来れば。」
「んー………」
「………」

そう言っても奈々実さんはオレには近付かず寝返りをうってオレに背中を向けた。

「ふーん…寝てるのにそうなんだ。流石奈々実さんかな。」

狭いって言ってたからオレもそれ以上近付かなかった…
ベッドの端ギリギリまで身体をずらして奈々実さんのスペースを広くする…
絢姉さんは離れて欲しいって思う程オレに密着してきたのに…どうして奈々実さんはこうなんだ?

だからかな…オレの方がかまって…傍にいたくなるのは…

気を利かせて広く空けた奈々実さんのスペースをやめて近付いた奈々実さんに手を伸ばす。
背中から腕を廻して抱きしめてみた…

「……くぅ…」

まったく起きる気配なし。

「へえ…起きないもんなんだ。」

ちょっと感心…オレって警戒されてないらしい。

でもホント奈々実さんて無防備…改めて再確認。

いくら何でも男と一緒に1つのベッドで寝るなんて…襲われたらどうするつもりなんだろう。
って襲ったりしないけどさ。

ああ…それを分かってるって事?

「…………」

気持ち良さそうに眠ってる奈々実さん…

本当この気持ちは何なんだろう?これが「好き」って言う気持ち?
こんなあやふやなで…ハッキリしない気持ちが?

自分でもわからないこんな気持ちが…「好き」って気持ち?

「う〜ん…良くわからない。」

だから考えるのは止める。
考えても仕方の無い事は考えない。

昔からそうだった…絢姉さんにかまわれるのも泉美に練習台にされるのも
絢姉さんの友達にかまわれるのも…どうしてかなんて考えた事無かった。
それはオレが受け入れなきゃいけない事で受け入れたからって自分が変わるわけでもなくて…

オレはそんな事をいちいち気にしない様にしてきたし…今もそうだ。
気にしてたらやっていけなかっただろうし知らないうちの自己防衛だったのか…
大体の事に関心なんて持たないし…特に女子のする事には余計関心なんて湧かない。

それが今はオレの性格を作り上げてるみたいだけど…別にガッカリじゃない。
逆に他人と深く接しなくて済むから助かってる。

だからかまいたくなる奈々実さんの事は気になる…
オレがかまいたいのに奈々実さんはオレと係わらない様にしたいらしい…
だから余計気になって…余計かまいたくなって…こうやって今1つのベッドで寝てるんだろうな。

オレからのキスは誰にもしないと思ってた。
そんなキスだったのに奈々実さんは逃げ腰だった。

嫌だったのか?わからない…
奈々実さんの事はわからない事だらけ…

「……ん…」

そんな事を思いながらちょっと腕に力を込めて奈々実さんを抱きしめたら気付かれたらしい。
目を擦りながら寝ぼけ眼で背中越しにオレを振り返る。

「……どうしたの?……眠れないの……」

眠れないって言ったら奈々実さんはどうするんだろう?

「うん。」

言ってみた。

「しょうがないわね……ふぁ…んーーーはい…こっちおいで…」

「!!」

そう言って腕だけをオレの首に廻して自分の方に引っ張る。
だからオレは奈々実さんの身体を乗り越えた。
いいのかな?なんて思ったけど奈々実さんは目を瞑ったままだ。

「安奈…お姉ちゃんの方に……ン…」

「?」

そう言うと奈々実さんにぎゅっと抱きしめられた。
もしかして寝ぼけてる?
オレの事を安奈センパイだと思ってるんだ……くすっ…面白い。

「ホント…あんたは…1人で…寝れないんだ…から……くぅ…」

言いながらしっかりと自分の方にオレを抱きかかえる。
ちょっと見上げたら奈々実さんの寝顔が目の前にあって微かに奈々実さんの息がオレに掛かる。

ちょっとくすぐったい…でも…奈々実さんの腕の中は……

どうしてだろう…気持ちいいな…



「ふあ…」

寝起きからアクビが止まらない…

「何?奈々実さん寝不足?一体どうして?」

「………」

あんたのせいでしょ!ギロリと彼を睨んだ。

「はいコーヒー」
「………ありがとう…」
「寝起きにコーヒー出るなんて幸せでしょ。」
「えーえー涙が出る程嬉しいです。」
「そう。」

昨夜は夢を見た。
きっと彼が一緒に寝てたから眠りが浅かったんたと思うけど…
妹の安奈と一緒に寝てた頃の夢…

子供の頃…私は良く安奈と一緒に寝てた。
1人でなかなか眠れなかった安奈が私の布団に入って来て…
私はそんな安奈を小さいながら安心させようといつもギュツっと抱きしめて寝てた…
昨夜はそんな頃の夢を見ちゃって…朝起きて慌ててしまった。

まさか私…彼の事抱きしめたりしてないわよ…ね?
目が覚めたら彼はもうベッドにいなくて…キッチンでコーヒーを淹れてた。
だからってそんな事を聞けるはずもなくて…1人悶々としてる。

やってたらかなり恥ずかしい…かも…

「奈々実さんどうしたの?顔真っ赤。風邪ひいた?」
「ひいてませんから!大丈夫です!」
「そう。」
「………あなたは眠れたの?」
「ぐっすりと。」
「やっぱり…」

そうだと思った…

「あなたはどこでもぐっすり寝れるものね。」
「そんな事ないよ。枕が替わると眠れないタチ。」
「絶対ウソ。」
「そう?」

私が出勤の支度をしてる間に彼が簡単な朝食の支度をしてくれた。
何もしないのに料理が出来上がってテーブルに並べられてるなんてちょっと感動かも…

「本当慣れてるのね。」

「今時の男子は家事も出来ないとお婿にも行けない。」

「お婿行きたいの?」

って言うか行くの?

「ご縁があれば。」
「あってもあなたなら一刀両断で縁なんて切りそう。」
「失礼だな奈々実さん。これでも嫁ぐ日を楽しみにしてるのに。」
「本当?」
「嘘。」
「やっぱり。さて…そろそろ行かなきゃ。」

自分の食べた食器を流しに置くと彼も自分の食器を持って隣に立つ。

「後で洗っとくから鍵貸して。」
「は?」
「だって奈々実さんもう出るでしょ?オレもう少し後で出るから。」
「………」
「なに?」
「いいわよ。一緒に出れば。」
「だから洗い物あるし。」
「帰ってから私が洗うからいいから。」
「いいよ。泊めてもらったお礼。」
「いいって…」
「こんな押し問答してる時間あるの?」
「あっ!」

時計を見れば後10分くらいしか時間が無い。

「もう…」
「帰る前に電話くれればいるから。」
「………」
「スペアキーあればそれでもいいけど。」
「それじゃもっと後々大変じゃない!」
「そう?」
「そのまま鍵持たれたら困る!勝手に部屋に入るつもりでしょ?」
「さあ。」

いつもの無表情な顔だけどウソでしょ!
さあ…なんて絶対ウソよ!!

「………もう今日だけよ!」

仕方無しの苦渋の決断!!

「さあ。」
「今日だけ!」

更に念を押す。

「時間。」
「………」

諦めて自分の支度に取り掛かる。

「ちゃんと家に帰ってね。」
「大丈夫。」

ホントかしら?

「はぁ〜〜」

出掛ける前に大きな溜息なんて…もう…何でこんな事に…

「いってらしゃい。」
「……いってきま…」

ちゅっ…っと頬にキスされた。

「 !! 」
「姉さんが仕事に行く時はしてあげるんだ。」
「そ…そうなんだ…」

ってやっぱり私相手はお姉さん感覚なのかしら?

「毎回?」
「オレがいる時は。」
「そう…」
「しないと機嫌悪くなるし。」
「そうなんだ…あなたお姉さんに愛されてるのね。」
「そう?どうだろ?わかんないな。」
「わからないの?」

「愛情なのか独占欲なのか自己満足なのか。」

「独占…欲…?自己…満足?」

「いってらっしゃい。気を付けてね。」

急に言うからこれ以上は話したくないのかと思って止めた。
それに本当に時間がなくなっちゃうし…


「いってきます…」


もう一度言って玄関のドアを閉めた。


玄関のドアが閉まるまで…彼は私をずっと見て……

最後にドアが閉まる瞬間…私に向かって手を振った……





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