ひだりの彼氏


27




何でだか奈々実さんがオレとの距離を縮めて来た。それもいきなり。
何か思惑があるんだと思って面白いからノッてみる事にした。
奈々実さんは自分で気付いてるのかわからないけどオレに何かする度に顔が微妙に引き攣ってた。
ああ無理してるんだとバレバレで…

『何で?嫌でしょ?女の子の方からベタベタされるの?』

その言葉を聞いてなんだと思った。
どうやら奈々実さんはオレが女子にベタベタされるのが嫌いだってわかってるから
自分もそうしたらオレが嫌がってここから出て行くと思ったらしい。

ただ…一緒に1つのベッドで寝たり口移しやキスまでしてるオレに
それが有効と思ってるあたりが流石奈々実さん。

「相変わらず抜けてる。」

これはしばらく様子を見てるのが一番。
この後奈々実さんは一体どうするんだか。



「はぁ〜〜」

長めのシャワーを終わらせてとんでもなく気まずい部屋に戻る。
気持ちもとんでもなく気まずいんだけど……
自分で始めた事だけど何かもう作戦失敗感が否めない…おかしいな……

「奈々実さん。」
「え!?あ…はい!」

って何でそんな真面目な返事返してるの?私…うう…やだやだ…

「アイス食べる?」
「え?あ…うん…」

風呂上りもあったしさっきのバツの悪さもあったし何の考えも無く頷いた。
彼が冷凍庫からアイスを出して私の前に立つ。

「限定品。最後の1つ。」

「へ?」

彼がさっさと包み紙を開けていく。
ソフトクリームタイプの有名な牧場の牛乳を使ってるこれまたコンビニの限定品。
パクリと彼が一口食べた。
パクリともう一口…私は何でだか黙ってそれを見てた。

何口目か彼がパクリと食べるとそのまま私に近づく…

「ふ…ぅ…んっ…」

冷たくて甘い味がすぐに口いっぱいに広がる…

「はぁ…」

彼が離れる瞬間そんな声が出ちゃった…なんで?
なんて思ってるとまた彼にアイスを口移しで食べさせられる。

「う…ん……んっ…」
「チュッ…」

彼がまた離れた。
最後のチュッって何よ!チュッって!!キスじゃないんだから…

「今日は1つしかないから半分こね。」
「………」
「奈々実さん?」
「え?あ……うん…」
「!?」

彼がちょっとびっくりした様な顔するから…

「あっ!違っ…半分食べたら頂戴よ!」
「なんで?」
「口移しじゃいらないから!」
「えー」
「えーじゃない!前からそう言ってるでしょ!」
「さっきは奈々実さんから迫って来たくせに。オレの心を弄んだ。」
「誰も弄んでないでしょ!!しっかりわかってたクセに!!!フンッ!!」
「何の事。」
「白々しい!!」

私はムッとしながらクーラーの利いてる部屋に移動して座り込む。

「ホント何の事。」

そう言いながら彼が私の隣にアイスを持って座る。

「………」

「いたい。」

ぎゅう〜〜〜〜っと頬を抓ってやった。

「可愛くない!」
「男だから可愛くなくていいんじゃない?」

頬を擦ってまた可愛くない事を言う。

「性格の事言ってるの!!」
「だから何の事。」
「何でも無いわよ!」
「そう。」
「…………」
「奈々実さん。」
「…………」
「あーん。」
「…………」
「あーん。」
「………あーん…」

目の前に差し出されたアイスを一口食べた。

「 !! 」

食べた瞬間…至近距離から彼の唇が押し当てられた。

「んっ……ンン…」

今食べたばかりのアイスが自分の口の中で彼の舌でもって行かれる…

「ちょっと!」

もーーーイキナリ何すんのよーーー!!焦るじゃない!!って彼に言えるはずも無く…

「半分こ。奈々実さんから初めてもらった。」
「強引に奪ったんでしょ!!もう!残りのアイス没収!!」

そう言って彼の手からちょっと乱暴にアイスを奪う。

「ズルイ。」
「散々食べたでしょう!もう…あんたなんか嫌い!」
「嫌いなの?」
「嫌いよ!!」
「そう。」
「何笑ってんのよ!!」

チラリと見た彼の顔が微笑んでる様に見えてちょっとムッと来る。

「え?いやぁホント奈々実さんって貴重な存在で無防備で抜けてるなぁって。」
「何よ!その言い方じゃ良い所何も無いじゃない!」
「そう?」
「そうでしょ!」

私はムッとしながら残りのアイスを頬張って食べた。

彼は私のすぐ隣でクスクス肩で笑ってるし…
私にだって自分が立てた作戦があっという間に彼にバレて
逆に彼にからわかれる材料にされた事がわかる。

悔しいったら……
何で他の女の子みたいに私の事嫌がらないのよ。

もしかして……本当に私の事が好きなの?彼が?私の事??本当に?
どうせ聞いたって 『さあ』 って言われるのがオチだし…まあ聞く気も無いけど…
それに…好きって言われても……困るもの……

高校生相手に…恋なんてしない…から……

最後の一口をポンと口の中に放り込んだ。
その瞬間横から彼が近付いて顎を掴まれるとまた無理矢理アイスを奪われた。

「…………」

「最後くらい頂戴。」

そう言って彼は前を向いて私から奪った最後のアイスをモグモグ食べてる…
コーンの噛み砕かれる音がサクサクと聞えてくる…

「…………」


高校生相手に…恋なんて……しない……

しないわよ……





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