ひだりの彼氏


30




「何度も誘ったんだけどさぁツバサ奴他に誰かと来るんだってさ。」

お祭りの行われてる神社の境内にツバサのクラスの男女が5人…

「えーー!?ツバサ君彼女いるの?」
「彼女かって聞いたら違うとは言ってたけどな。」
「えーじゃあ片想いの相手とか?」
「ツバサが片思い?あいつが?反対なら頷けるけどな〜」
「う〜ん…そうだね…」
「いいじゃない!アイツの事なんて!来ないもんは仕方ないよ。もう行こう。」
「だって気にならないの?喜美恵ちゃん…」
「気にならないわよ!あんな奴の事なんて!!」
「でもツバサが来れば3対3で丁度良かったのにな。」
「女子が多くて嬉しいでしょ!さ!行こう。」

多少苛立ち気味の喜美恵を含む男子2人女子3人のグループは
ツバサよりも先に露店が並ぶ境内の中を歩き出した。

それから遅れること15分……ツバサと奈々実が境内に着いた。

「わあ〜何だかワクワクする。久しぶりかも…」
「来て良かった?」
「そうね…良かったかな。」
「そう。」
「!!」

「奈々実さん迷子になりそうだから。」

「へ…平気よ!」

そう言って目の前に差し出された彼の手を握らなかった。

「絶対迷子になる。確実に。賭けても良い。」
「何よそれ?」
「本当の事。」
「そんな事…」
「時間の無駄を省く。迷子になって捜し歩く時間が勿体ない。」
「何で迷子決定なのよ。」
「決定でしょ。」
「…………」
「じゃあ肩組む?」
「もっとイヤよ!」

そう言って仕方なく彼の差し出された手を掴む。

「最初から素直にして。いつもいつも時間が勿体ない。」
「悪かったわね!どうせ素直じゃないですよ。」
「今更自覚?遅い。」
「うるさい!」

そんな文句を言いながら彼と手を繋いで人混みの中を歩き出した。


「わぁ〜〜〜 ♪ ♪ 」

「…………」

「見て見て!今も輪投げなんてあるのね!……ハッ!!」

舞い上がってはしゃいでたら彼がいつもの無表情の顔で見てた。

「良かったね。輪投げがあって。」
「べ…別にやらないわよ!」
「そう。金魚すくいはダメだよ。きっと持って帰ってもオレが面倒見る羽目になるんだから。」
「だからやらないわよ!何その母親目線!?」
「一般論。」
「じゃあ食べる。」
「来る気無かった人が楽しそう。」
「来たら楽しまなきゃね。そう言えば最後に花火あるんでしょ。」
「らしいね。」
「見れるかしら?」
「奈々実さんが見たいなら見て帰る。」
「うん。」
「じゃあ右端からお店制覇。」
「ええ!?」
「用の無いお店は飛ばせば良い。ほら行くよ。」
「ちょっと…」

そう言うと私と繋いでる手をグンと引っ張って歩き出した。

最初はそこそこに混んでたお祭りも途中からはぎゅうぎゅうの混み合いになって来た。

「奈々実さん。」
「う…ん…」

ちょっと立ち止まったら人の波にのまれて繋いでた手が離れそうになった。

「もう手を繋いで迷子って考えられないから。」
「だって…人が凄くて…」
「オレの背中に隠れてて。とりあえずリンゴ飴とチョコバナナ買ってちょっと抜ける。」
「本当に買うつもりだったの?」
「今日の目的それだもん。お祭り以外で買えないじゃん。」
「…………」
「行くよ。」
「はい…」

言われた通り彼の背中に掴まって彼が進む方に何も考えず歩き始めた。
途中本当にリンゴ飴とチョコバナナを買ってその後は横道に逸れて人混みの中から脱出した。

「はぁ〜どうなる事かと思った。」
「大丈夫だった?奈々実さん。」
「うん。でもこんなに混んでるのね。」

路地に入っただけでガランと人がいなくなってシンとした感じが広がる。
周りにはパラパラと人がいるけど人数は少ない。
きっと皆同じであの人の多さから逃げて来たんだろう。

「お寺の境内だけかと思ったら駅に繋がる道沿いにもお店が出てるのね。」
「街ぐるみのイベントなんじゃない。」
「そうね……知ってる人に会った?」
「さあ…人なんて見てない。」
「そう…」
「奈々実さんは?誰かに会った?」
「ううん…って言うかそれどころじゃ無かったし…」
「困るの?誰かに会うと。」
「え?」

そんなセリフに思わず顔を上げる。

「こんな高校生の子供と一緒にいる所見られるの困る?」

「…………」

「ねえ。」

そう言われて言葉に詰まってしまった…
確かに困る…かも…困るんだろうか?困る??……違う…

「私が困るんじゃなくてあなたが困るでしょ。」
「オレが?なんで?」
「こんな年上の女と付き合ってるなんて学校の友達にバレたら何言われるかわからないわよ。
あ!付き合ってないんだからそう言えばいいのか。そうよね?」
「…………」
「あ…で…でも変な噂になったら大変だから…やっぱり誰にも会わない方が無難よ。うん。」
「……奈々実さん。」
「…え?」

何だろう…ドキドキ…それに何だか変な罪悪感みたいな…重苦しい気持ちが胸の中を占める…

「花火上がるのこの先の公園だからそっちに行こう。」
「え…あ…うん…お店はもういいの?」
「欲しいモノは買ったから。」
「そう…」

今度は…手は繋がないで歩いてる…
そうよね…もう手を繋がなきゃいけないような人混みじゃないものね…

「美味しい?」
「甘い。」

彼が欲しいと言っていたリンゴ飴に口を付けながらそんな感想を言う。

「アメが付いてるんだから当たり前じゃない。」
「うん。」
「食べきれるの?」

なんせ小振りだけどりんごが丸々1個だものね。

「多分。」

カリンと外側のアメを砕いた音がした…
今度はシャリって言うりんごをかじった音……

「欲しいの?」
「え?」
「食べたそうな顔してる。」
「そ…そんな事無いから!!私はこっち食べるもの。」

そう言ってチョコバナナをパクリと噛んだ。

「なかなか…美味しいわね…」
「でしょ。」

バナナにチョコなんてどうよ?なんて思ってたけど…なかなか…
彼が食べたいと言ったのも頷ける。
そんな事を話しながら歩いてる道は他にも同じ場所に向かう人達が何人も歩いてた。



「なあ…あれってツバサか?」
「ええ??」 「うそ!?」 「どこだよ!?」

一斉にそんな声が上がる。
ツバサと奈々実の後ろ50メートル辺りにクラスメイトのグループが
同じ花火が打ち上げられる公園に向かって移動してる真っ最中だった。

「あ〜見失った!!でもぜってーあれツバサだって!アイツ目立つから直ぐわかる。」
「なに?1人だった?」
「いや…隣に誰かいたみたいだったけど…良くわかんね…」
「ひゃ〜本当に誰かと一緒に来てたんだ〜〜あのツバサ君がねぇ…」
「お!いたいた!あそこの紺色の朝顔の浴衣着てる人の隣!な?あれツバサだろ?」
「わあ〜本当だ!喜美恵ちゃん!見て!ツバサ君だよ!」
「いいよ…別に…」
「あれがツバサの相手か?」
「何だか年上っぽくね?女子高生には見えねぇよな?」
「ツバサなら年上相手もOKなんじゃね?ってか逆にそれの方がしっくりくるっつーか…」
「まあ…頷けなくもないが…」
「で…でもさ…もしかしてお姉さんかもよ。ほらツバサ君って確か年の離れたお姉さんがいるって言ってなかった?」
「ああ…俺1年の時に見た事ある。文化祭に来たんだよ…確か…超色っぽい姉貴でさ。
その場にいた野郎共が騒いだの憶えてる。」
「じゃあやっぱりお姉さんかな?ね?喜美恵ちゃん。」
「そんな事知らないわよ。それにそんな事あたしには関係無いし…ほら早く行こう。場所無くなるよ。」
「喜美恵ちゃん気にならないの?」
「別に!ほら急ごうよ!」

ふーんだ!知るかって言うの!あんな乙女心のわからない様な最低男!!


「やっぱり人が多いわね。」

もう公園の中は人で一杯だった。

「うじゃうじゃ…」
「その言い方なんだか気持ち悪いからやめて。」
「だって正直な感想。うじゃうじゃだもん。」

ワザと耳元に口を近づけて言うな!!

「だから〜〜あ!」

後ろからドンと押されてよろめいた。

「ごめんなさい。」

「いえ…あ!」

その直後腰に腕が廻されてグンと彼の方に身体が持って行かれた。

「ちょっ…」
「ホント奈々実さんは危なっかしいね。」
「ちょっと離してよ!この腰の腕!セクハラなんだから!!」
「今更でしょ。」
「今更でも離して!恥ずかしいってば…」
「誰も気にしない。」
「そんな事無い!皆あなたの事見てるんだから!」
「?」

前々から思ってたけど結構な人が彼の事を振り返ってまで見て行くのよね。いつも…

「あなた目立つのよ!」
「どこが?」

自覚ないの?

「その背の高さと顔よ!」
「顔?でも生れつきだし。」
「……そうよね。はぁ〜〜」

まったく…あなたならそう言うと思ったわよ…

「疲れた?」
「そう言うわけじゃ…」

まあ違う意味で疲れますけど…

「ここ人が多すぎ。奈々実さんあっち。」
「え?あ…」


そう言うと私の腰に腕を廻したまま彼が歩き出した。

ちょっとーー!!一体何処に連れて行くつもりなのよ!!





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