ひだりの彼氏


34




最初のお店は居酒屋の個室だった。
食事にお酒に…元々男性陣が少ないせいか女の子同士は盛り上がって
多岐川さんに色々な質問を浴びせてからかったりしてた。

私は…そんな他の人のやる事をちょっと遠巻きに見てた。
斜め前に間宮さんが座ってる…

私はワザと自分の視界から彼を追い出した。


2時間の予約した時間はあっという間に過ぎて皆いい具合に出来上がってて上機嫌だ。
私は多岐川さんには申し訳なかったけどやっと帰れると思ってホッとしてた。

「何ですって〜〜城田さぁん何言ってんのよぉ〜まだまだこれからなんだからね〜」
「そうですよぉ〜今度は歌!歌で盛り上がるんですから〜」
「え?カラオケ?」
「そうよぉ〜それに送ってもらうんだから皆一緒に帰るのよ。」
「…………」

それは勘弁して欲しいんだけどな…やっぱり電車で先に…

「ほら!行くよ城田さん!」
「え?あの…ちょっと…」

がっちりと両腕を掴まれて連れて行かれる。

「あの…」
「城田さん私のお祝いなんですから最後まで付き合って下さいよ〜」
「多岐川さん…」

あなたも相当酔ってるわね…

「も〜何で会社辞めちゃったんですか〜私淋しかったですよ〜」
「………ごめんね…まあ私にも色々あって…」
「寿退社かと思ったのに違うしさぁ〜」
「体調壊しちゃって…あの会社だと通勤するだけでもちょっとキツくてね。」
「えーそうだったんですか?」

体壊したのは事実だった…でもそれ以上に…

「今は平気なんですか?」
「え?あ…ええ…食欲もあり過ぎるくらいで…」

それは本当…彼ったら毎晩ちゃんとデザートまで必ず出すから…
それだからご飯の量を減らそうとすると怒るし…

絶対夏が終わる頃には今の着てる服が全部着れなくなるんじゃないかと心配してるくらいで…



♪ ♪ ♪ ♪ ♪

12畳程の部屋の中で大音量のリクエストされた曲が何曲も何曲も流れてる。
歌う人は上手だったり元気だったりと盛り上がってる。
私はもっぱら聞き役で…カラオケに繰り出したのは今日の主役の多岐川さんに
幹事の細川さんさんそして私が辞めた後入ったと言う女の子2人に後は男性陣が3人と私…
結構な人数だ。

「はあ……」

ここに来て既に1時間半…そろそろ帰っても良いわよね?それなりの義理は果たしたわよね?

私はトイレに行こうと席を立つと細川さんがあざとくそれを見てて声を掛けて来た。

「城田さん!ドコ行くの?」
「お手洗いですよ。」
「本当〜?」
「本当ですよ。」

目が据わってますよ…細川さん…

「じゃあね〜城田さんが帰って来るまでぇこのバッグは預かっとくからぁ〜」

そう言って私のバッグを自分の腕の中にギュッと抱え込む。

「良いですよ。」

流石に私も苦笑い。


フト思う…皆みたいに楽しめたら良かったのにな…
トイレの鏡の前でちっとも楽しそうじゃない自分の顔を眺めてそんな事を思った。

「はあ……」

やっぱり帰りも送ってもらう事になるんだろうか…そう思うと何だか余計に気分が重い…

「!!」

何とか気を取り直して廊下に出ると見覚えのある人影が数メートル先に立ってた…
と言ってもこんなカラオケの店の中で本当はそんなに遠くなかったかもしれない…
私の気持ちの現れ?

立ってたのは間宮さんだった…

「………」

一瞬…あって顔をしたかもしれないけど私は彼から視線を逸らして歩き出した。

「久しぶり…」

久しぶりに聞く間宮さんの声だった…ホントどのくらい振りだったろう…

「……ですね…」

私は視線を合わせずに彼の横を通り抜ける。

「奈々実…」
「!」

通り抜ける時…いきなり腕を掴まれた。

「心配しなくても誰も俺達の事を知ってる奴なんていないよ。」
「!!」

そう言うと反対の腕も掴まれて正面を向かされる。

「ちょっと話がしたいだけなんだ。」
「私は話す事なんて無いです。離して!」
「頼むから話だけでも聞いてくれ…奈々実!」
「!!」

抵抗する身体を彼の両腕でぎゅっと抱きしめられた。





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