「ドコ行くの?喜美恵?」
「ちょっとトイレ。」
「んー行ってらっしゃ〜い ♪ 」
夏休みの後半の束の間の息抜き…
大学進学を控えて仕方なく勉強してるのとやっぱりこのままじゃヤバイと言う気持ち半々な毎日…
元々勉強なんてそんな真面目に取り組んでる訳じゃ無かったから直ぐに飽きて他の事に気が行く…
まあ成績なんて落第しなきゃ良い位にしか思ってないから余計なのかな…
「…………」
特に最近はもっと他の事が気になってる…
気を許すといつもその事ばかり考えそうで…だからこうやって気晴らしに来た。
付き合ってる訳でも無いし…何か特別な関係でも無かった…
でも…自分はアイツにとっては少しは他の子達とは違う風に見られてて…
違う風に接してくれてると思ってた…
確かにいつも面倒くさそうで…素っ気なくて…
でもそれはテレと言うか…自分の事を気にしてる現われだと思ってた…
なのに……アイツのあんな濃厚なキスシーンなんか見せられて…
あんなの見たくなかった…知りたくなかった…
誰にもあの2人の間には入れないと思わせる様なキスだった…
ちょっとでもアイツに触ると何となく嫌がってるのはわかってた…
無表情の顔が更に無表情になった気がしたし内面がスッと冷めてるみたいな…
でもそれも…冷静になる為にワザとそうしてるんだと思ってた…
自分がアイツの事をこんなに気にする程だったなんてこの前初めて知った…
だから余計この自分の気持ちを持て余す…
「あんな薄情男の事なんて……」
「………あっ…」
「……実…」
トイレに通じる廊下の角から何やら男女の声が聞える。
微かに聞えてくる服の擦れる音…
「まったく…」
イチャイチャするなら自分達の部屋とか空いてる部屋でしなさいよね。
とか言いながら堂々と通路を入って行くのは躊躇われて…
だって思い切りあの最中じゃ流石にバツが悪い。
だから廊下からトイレに繋がる曲がり角でヒョコっと顔だけ出して覗き込んだ。
「離して!」
「奈々実!」
ひゃー何だろう?これって修羅場なのかしら?
それとも男に迫られて女の方が困ってる図?
なかなかシブトイ男は逃げようとする女の人を放すまいと頑張ってるらしい。
でも体格差から言ってそれはムリっぽかった。
結構な力で男が女の人をぎゅっと抱きしめて女の人は諦めたのか大人しくなった。
あんまりの力に抵抗するのを止めたのかそれとも男を受け入れたのか?
これからどうなるんだろう?やっぱりこの後は熱い口付け?とかなんだろうか?
頭の中でアイツのキスシーンが一瞬で蘇った。
速攻で頭を振ってそれを追い出す…自分で自分に鞭打ってどうするの!あたし!!
「喜美恵〜 ♪ あたしもトイレ行く〜〜 ♪」
「!!」
あたしは背中からいきなりそんな声を掛けられてビックリして飛び跳ねそうだった。
ハッ!と気付いて2人を見るとあっちもあたし達の方を見てた。ヤバ〜〜〜
「!!」
そんな時…力の緩んだ男を突き飛ばして女の人がこっちに歩いて来る。
「…………」
何ともバツが悪いって言うか…なんと言うか…
でもあんた達も悪いのよ…こんな簡単に見られちゃう様な所でイチャイチャ…って…え?
ちょっと俯き加減でハッキリと見たわけじゃ無いけど…
女の人の横顔に見覚えがあった…この人…三宅とキスしてた人だ…
そう…確かにこの人だ…頭の中にリプレイされる2人の顔はハッキリと覚えてる…何で?
「なに?どうしたの?喜美恵?」
「………」
あの人が出て来た廊下を見ると一緒にいた男はそのまま男子トイレに入って行った。
「なに?こんな所でヤラシイ事してたの?あの2人?」
「抱き合ってはいた…」
「ひゃあ〜〜そうなの?なんだぁ〜もっと静かに来ればその先も見れたかな?」
「…………」
これは……どう解釈したらいいんだろう?
元カレ?それとも現在進行形?三宅と付き合うからって別れ話のもつれ?
男の方が別れないぞとか言ってんの?それとも三宅と別れろとか言われてるの??
一体どの状態が当てはまるんだろう…と思いながら…三宅はこの事を知ってるんだろうか…
とも思ったりあの人は三宅の事をどう思ってるんだろうとか…
色んな考えが交差してこれって三宅に話した方が良いんだろうか?
なんて思ったりもした…
でもそれは親切からなのか…嫉みからなのか…自分でも良くわからなかった…
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