ひだりの彼氏


36




「ありがとうございました〜〜 ♪ じゃあちゃんと城田さんの事送ってってくらさいね〜〜 ♪」

やっと帰れると思ったら…案の定来た時のメンバーで間宮さんの車に乗った。
しかも今度は逆コースだから私が一番最後で…しかもまた私が助手席だった。

本当なら今降りた金森さんがいなくなったら私もここで降りて電車なりタクシーなり
最悪なら歩いてでも1人で帰るつもりだったのに…

酔ってるせいか…律儀なのか…彼女は私達が乗ってる車が走り出すまでその場で立ってた。

まさかそれを気にせず車を降りるのも勇気がいる…
だってここで降りたらその理由を聞かれる…どう見回してもごく普通の住宅街で…
適当な理由も無い…それに変に勘ぐられても困るし…

「じゃあお疲れ様。」

運転席の彼がニッコリと笑って頭を軽く下げて車を走らせた。

「…………」 「…………」

お互い無言…って言うか私は話す気なんかなかったし…

「そこの角を曲がって下さい。」

私が先に沈黙を破った。
話さなければこのまましばらく2人だけで車に乗り続けなくちゃいけないから。

「なんで?」
「そこで降ります。」
「いいよ…ちゃんと最初のコンビニまで送る。もう遅いしここから帰れるわけ無いだろ?」
「平気です。駅見付けますしなんならタクシー見付けます。」
「そんなの無理だよ。いいから大人しく乗ってて。」
「嫌です。降ろして下さい。」
「ダメだね。」
「!!」

そう言うとガチャリと音がして彼はドアのカギをロックして走り続けた。

「……………」

ど…どうしよう…これってピンチ!ピンチなんじゃないの??

「奈々実。」
「!!」

名前を呼ばれただけで身体がビクリとなった。

「何もしない…話がしたいだけだ。」
「そんなの信じられないわよ。」
「…随分警戒されたもんだな。」
「………あなたの言葉はもう…何も信じないもの…」
「………奈々実…」
「…………」

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

「!!」

その時私の携帯が鳴った。
私は慌てながら自分のバッグを開けて携帯を取り出す。
今の自分にとってはまさに天の恵み?渡りに船?ちょっと違う?
とにかく携帯が鳴った事に感謝した…それにこの着信音はメールじゃない。

「はい!」

思わず声を張り上げてしまった。

『奈々実さん。』
「!!」
『今どこ?』
「…………」

彼の声を聞いた途端…今までの緊張や張り詰めた私の周りの空気が一瞬で変わる…
彼の声に一体どんな効力があるんだろう?

『いつになったら帰って来る?門限とっくに過ぎてる。』
「………門限なんて…無いでしょう…」

また変な事言い出す…

『あるよ。』
「何時よ?」
『オレが一緒じゃない時は9時。』
「何よそれ…高校生じゃないんだから。」
「奈々実?」

運転しながら彼が不思議そうな顔で私を見る。
きっとうっすらと笑ってたからかしら?

『あとどのくらい?』
「あとどのくらいで着きますか?」
「え?ああ…20分くらいかな…」
「あと20分くらいであのコンビニに着くって。」

彼に今の会話は聞こえたかしら…
男の人と一緒にいるって…わかっちゃったかな…

『………じゃあコンビニまで迎えに行く。』

「…………うん…」

いつもなら…1度は来なくて良いって言ってるはずなのに…
今日は…今は…素直に彼の申し出を受け入れた。

『今言った時間5分過ぎたら警察に通報するから。』
「大袈裟…」
『そう?一緒にいる相手にそう言って。なんならこのまま話し続ける。』
「………」
『奈々実さん?』
「大丈夫…ちゃんと帰るから…ありがとう。」
『………じゃあ20分後ね。』
「うん…後で…」

そう言って携帯を閉じた。

「………彼氏?」
「違います。」

そう…彼は彼氏ではない…そう考えると一体彼ってなんなんだろうって思うけど…
「居候」?そうね…それがピッタリかも。

「きゃっ!」


そんな事を考えてたらいきなり急ブレーキが掛かって車が急停止した。





Back  Next



  拍手お返事はblogにて…